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双竜は藤瑠璃の夢を見るか  作者: 結城星乃
第一幕 天昇
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第10話 幕間 ―黄昏遊戯―



 薄くたなびく雲は、西の陽に染められて、見事な色彩を放っていた。 明るい夕空の紺青を仰げば、寝床へと急ぐ鳥の姿がある。

 青年はそれを高い木の上で、楽しそうに眺めていた。

 西へ視線をやれば、黄金に輝く陽の光に、目を細める。 やがてそれは、山稜へと隠れると、紺青の空は徐々に漆黒へと染まっていった。

 夜が、来る。

 自分達にとって、陽から陰へと変わるこの逢魔の瞬間が、何よりの馳走だった。陽に抑え付けられていた『力』が溢れ出し、本能のままに振る舞うことの出来る夜こそが至高。

 陰の気を感じ、悦に浸る青年の傍に、いつの間にかもうひとつの気配があった。

 くつりと青年が笑う。



「……首尾は上々か」  



 短く是と答える声があった。



「仰せの通り、愚者の森へ放ちました」

「相分かった。引き続き監視に当たれ」



 再び短い応答と共に、その気配は遠ざかる。

 変わりに現れたのは、二か所からこちらを伺う『目』だ。

 青年は腕を組み、まるで牽制するかのように睨み付ける。

 やがてひとつはその気配を消したが、もうひとつは消したように見せかけて、気配を悟らせないように、こちらを見ていた。



(……あちらは静観。問題は『(ひいらぎ)』か)



 向こうはまさかこちらが気付いているとは思っていないだろう。

 好都合だと、青年は喉の奥で笑う。

 どちらかと言えば『柊』の方が、その動きが予測しにくいこともあり、その『目』の気配は青年にとってありがたかった。

 青年は何かを探るかのように目を閉じる。

 とても強い光の気配が、愚者の森で育ちつつあった。気配を辿るだけで身体を灼かれそうな、光の力。あれだけの力があれば、周りの魔妖は触発されて、我が身に取り込もうと躍起になるだろう。



(……何せ、天に棲む天妖も惹かれるくらいだ)



 天妖といえども、自身の眼下にある、懐かしくも毅い光に心が疼いたのか。


 まさに好都合。


 『柊』もまたその気配に気付いたのか、『目』をそちらへと向ける。



(……さあ、呼ぶがいい)



 呼んで、呼び寄せるがいい。


 くつくつ、くつくつと青年は面白そうに笑った。

 あの強い光が呼ぶ、その先にある存在を想像し、青年は無意識の内に舌舐りをする。

 大いなる護りから出た今こそが、まさに絶好の機会だ。

 

 遊戯はまだ、始まったばかりなのだから。

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