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ゴールに向けて

 三つ巴の戦いが始まってからおよそ3分。戦場に光は耐えることなく、次から次へと強制離脱させられている。

 だが、それは均等に行われてるものじゃない。蹂躙(じゅうりん)とでも言うべきだろうか。A組とB組からのリンチを受けているのだ。それも現在1位と言えど、落ちこぼれと言われ続けてきたC組。上位2クラスに同時に狙われて勝てるはずがない。

 10人いるはずのチームはもう残りを4人となっている。

 ロッキーにウルル、それからクローリア、ミノマだ。

 対してB組はまだ7人、A組に関しては10人まるまる残っている。

 疲労の色を隠せずにいるロッキーたちに対し、A組は余裕の表情で言い捨てる。

「諦めるってのはどうだ?」

 負けるはずがない、と言いたげにルーズベッシは言い捨てる。ロッキーは今にも駆け出して、この男を離脱させたいという衝動に襲われる。しかし、筋骨隆々の体つきに五厘刈りといういかにもヤバそうな雰囲気を醸し出すルーズベッシを見てそれを抑える。

 勝てる勝てないの次元じゃない。ロッキー自身が動けるかどうか、だ。

 魔法を使われてるわけではない。しかし、ロッキーは金縛りにあったように体が動かない。

「クソが」

 わずかに唇を震わせ、鋭い視線を浴びせる。それを鼻で笑い、ルーズベッシはぎゅっと拳を握る。

「雑魚は帰った方がいい。この場所に、この学院に不釣り合いだ」

 この学院に誇りを感じているのだろう。わずかに怒りを滲ませた声音でルーズベッシはそう吐くと、拳を振り上げる。

 ──負けるのか……。

 そう思った瞬間、ロッキーの視線の端で強烈な閃光が瞬いた。

 何が起きたのか分からない。それが間違いないロッキーの心情である。そして、それと同時に動かなった体が動いた。

 ロッキーはその場から飛び退く。その横を人影が通る。

「あとは……任せて」

 小柄な体のそれは、確かたる熱量を帯びた声でそう告げると閃光瞬く中、両手を前に突き出す。

 何かを唱えたのか否かは分からないが、ただでさえ強烈な閃光の中に、更に強烈な紅の光を走らせる。

 同時に伸びる手の向こう側で、小規模の爆発が起こり、煙幕があがる。

 小柄なそれは、動きを止めることなく一層強い力で地面を蹴りつけ加速すると、恐らくB組の集団がいた方へと動く。

 数秒後、また小規模の爆発が起こる。

 すると、儚い光が辺りを包む。

「開宴の幕」

 幼いという程の声音ではないが、それでも少し舌足らずな印象を受ける声で告げられる。瞬間、辺りに蔓延る光や煙幕は消え去り、少し前の迷宮(ダンジョン)らしい暗闇が戻る。

 それにより、声の主がウルルだったということに気づく。

「一体……」

 どうなってるんだ、というロッキーの疑問は周辺を見渡すだけで解決した。

「1人でやったのか?」

 ミノマが低い声で問う。

 抉れた地面に、焦げ臭い空気。そして多くの人を失ったA組とB組の連中。それを見れば、到底小柄な女子生徒がやったようには思えない。しかし──

「そうだよなー! お前はそういうヤツだよ! 人を殺めることに何も思わない、イカれたアマなんだからよ!」

 高笑いをあげながら、頬に傷を負ったウルルの兄であるウルメロは叫ぶ。

 異常者のように叫ぶ彼に妹は蔑むような視線を浴びせる。

「お兄ちゃん……。はやく殺られてくれない?」

「おいおい、それが妹の言う台詞か?」

 ウルルの言葉にウルメロは鼻で笑い返す。それに対し、ウルルは腹立たしげにウルメロを見る。一瞬の視線の交錯。次の瞬間、2人は動き出した。A組すらもおいてけぼりにし、2人は衝突する。

 ウルルの動きはC組のそれでは無い。それはウルメロも然りだ。

 2人の交錯は刹那で、ロッキーたちには音でしか感じることが出来ない。

 ウルメロの右拳による突き。ウルルはそれを絡み取り、投げへ転じる。ウルメロは背中の上で回転し、それを防御。そして着地と共に蹴りあげ。予測していたのか、ウルルは半歩下がった場所で立っており、蹴りは前髪をかすめるだけ。

 2人の戦いは次元を超えている。そう判断したのだろう。ルーズベッシはそれを視界から外しロッキーへと向き直る。

「まだまだやれるんだろ?」

 試すようにそう告げ、左脚を振り上げた。


***


 迷宮ダンジョンの入り口付近。戦力にならないと自負している気弱な男があたりの壁を触れている。すでに結構の間それをしているのだろう。手のひらは、迷宮入り口付近にはびこる赤茶色の土に犯されている。白い体操服にもそれがこびりついているようだが、気にした様子はない。それほど真剣なのだろう。

「あったか?」

 そこへ頬にまで土をつけているドロスが訊く。低く渋い声は迷宮内によく木霊し、周りで作業していた者たちも手を止める。そしてみな、黄土色の髪にあどけなさの残る顔立ちの男に視線が集まる。男はごくり、と唾を飲む。なぜなら、彼自身がお宝は入り口付近にあると言い放ったのだ。これで無かったりしたら、このチームは多くの時間を無為に使い、他チームに大幅の遅れをとることになるのだ。だが、ここで大ほらを吐けるほど彼の度胸は据わってはいない。彼は、少し俯き加減になり、小さくかぶりを振る。ため息の類は聞こえてこない。だが、明らかにみなの士気は落ちている。

 ――こういうとき、彼なら……。カーミヤ・マクベスならば。

 彼は、自分の自身を失墜させた男のことを思う。彼ならば、この窮地を救ってくれるのではないか。そう思ってしまっている。

「しっかりしろ!」

 その瞬間、男の背中に大きな衝撃がはしった。細身の体の男だ。そして、黒い髪の毛先だけは赤色。見間違えようも無い、ドロスだ。おもむろに顔を上げ、彼はドロスを見る。

「誰だったらとか、今は関係ない! 今は、この瞬間だけは、お前がリーダーなんだよ、シシンタ!」

「――っ!」

 手が、足が、心が、震えるのを覚える。今だけは代わりがいない。その言葉はいまのシシンタにはあまりにも重たい言葉だ。しかし、同時にカーミヤ・マクベスの思いが伝わったような気がした。お前ならやれる、そう言われたような気がしたのだ。

「絶対にあるはずだ! 探せ!」

 おぉー、と怒号にも似た声が上がった。


***


 ようやく気がついたか。口角を釣り上げ微笑む。今の状況は決していいものではない。マリアのチームは順調そうに見えるが、なんだか不安がぬぐえない。ロッキーのチームなんて論外だ。まさか、戦闘に巻き込まれるなんて予想すらしてなかった。いや、実際ここまで1位をキープできていることすら想像の埒外であるのだが。それはまぁいいとしてもだ、A組とB組がここまで暴力的に強いとは。

「ウルルってあんなに怖いんだな」

 隣に立つ重量魔法でダントツの1位をとって見せた男――イグターがけらけらと笑いながら告げる。

「ほんと、のんきだな」

「まぁーな。それに今からじたばたしたって意味ねぇーだろ」

「そうだけどよ」

「参謀長サマがそんなにおどおどしてたら勝てるもんもかてねーぞ」

 イグターはわざとらしくおどけてみせる。イグターのくせに。

「わかってるよ」

 そっけなく言う。しかし、イグターとはそれなりの付き合いになってきた。だからこそ俺の本心は伝わっただろう。俺の感謝の気持ちは、ちゃんと伝わったはずだ。

「おおおお!!!! これは、一体どうしたということでしょう!!」

 そのとき、段違いに大きな声が実況のイチカから上がる。

 な、なんだ……。そう思いながら、フィールド上にある画面に目を向ける。

「おいおい、嘘だろ。こ、こんなの……ありかよ」

 喘ぐようにそうこぼす。それと同時に光が現れ、ロッキーが姿を現す。どうやらA組の五厘刈りの男に負けたのだろう。しかし、いまはそれを追求しているところではない。

 画面に映るのは、マリアとムムが率いるチームだ。正直一番勝ちに近いチームだと思ってた。しかし、それは絶望になった。

 画面に映るマリアたちのチームと対峙するのは、まさしく(ドラゴン)だ。

「相手が人間ってのがどれだけ良いって話だよな」

 全身に痛みが残っているのだろうか。身体を(いた)わるようにこちらへ歩いてきたロッキーは、画面上の焦りを隠せない表情を見て呟く。

「人間に勝てなかったやつが言うと、重みが違うねー」

「おいおい、それ俺もなんだけど」

 イグターのロッキーへの皮肉は奇しくも、魔術戦闘(オーグニクス)で負けた俺にもあてはまる。

「そうだったねー」

 イグターはそれすらも面白そうに言うと、映像を見るように促す。

 促されるままに、俺は視線を向けると人の体の10倍近くはある巨躯の龍はその頭を大きく後ろへ逸らす。

 まるで頭突きでもしそうな勢いである。

「くるよ」

 何を感じとったのか、イグターはまれに見る真剣な声音でそう呟いた。瞬間──龍は顎を大きく開きその鋭い眼光でマリアたちを見下ろした。

 マリアとムムは必死の形相で何かを訴えようとしているしかし、その訴えが取り立てられる間もなく開かれた顎から真紅の閃光が放たれた。

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