協同探索”シーリングサーチ”
第1種目の重量魔法でイグターがかなり大きなリードを広げてくれたおかげもあり、3種目を終えた時点で俺たちC組はまだ1位をキープしていた。
しかし、2位のB組とは285ポイント差、3位のA組とは321ポイント差とかなり縮められた。
そして、次の種目である協同探索”シーリングサーチ”はかなり大量のポイントが移動するらしい。
「続いての競技は、10人1組で行われる協同探索”シーリングサーチ”です! 1クラスから最大3チームまで参加可能なこの競技! 試されるのは、個の力だけでなく、国家魔術師になるためには必要不可欠なコミュニケーション能力や運さえも試されるチーム戦です」
実況担当であるイチカがそう説明する。
俺たちはこれに三チーム出している。ココロ先生の作戦の際は、1チームで被害を最小限にするというものだった。しかし、逆にここで点を稼げれば……後半も優位に動ける。
ここにクラスメイトの半分をつぎ込んだんだ。是が非でも勝って、残り2種目へと繋げたい。
「なお、迷宮内で他クラスと遭遇した際、素通りするのもよし、戦闘するのもよし、である。なお、戦闘になり、勝利を収めたクラスには、ボーナスポイントとして1人につき50ポイントが与えられます!」
ははっ……。そんなの絶対戦闘不可避じゃねぇーか。しかも、俺たちは出来損ないで、落ちこぼれのC組。相手がA組ならまだしも同じ50ポイントというならば、まず俺たちは逃げ道がねぇ。しかし、考え方には出会えば50ポイント、である。
「迷宮には参加チーム分の秘宝が眠らせてあります。それをどれほど早く見つけて、フィールドへ戻ってこれるかでポイントがつきます。そして、戻ってきた時に残っている人数によってもポイントは変動します」
イチカの説明はそこで終了する。要するに全員残って早く戻ってこればいいということだ。
だが──
「俺らにとってはキツい……だろうな」
フィールドへ向かうマリアの背中に向けてポツリとこぼす。
「だ、大丈夫よ。これに出るのは私だけじゃない。ロッキーもムムくんもいるんだし。きっと結果を残すから」
俺の声に反応を見せたマリアは、振り返り笑顔を見せる。だがそれは、あまりに不細工で作り物だとすぐにわかった。
「そうか。がんばれ」
だが、それをどうこう言うことはなく背中を押す。
「わいも応援してるで!」
俺の顔をちらりと見てから、イグターはガッツポーズを作る。それを見たマリアも、同じようにガッツポーズを作る。
フィールド上には、大きな穴が穿たれている。そこから覗き見えるのは地下へとつながる階段だけだ。どれほどそれが続いているのかは見当もつかない。
「いまから1チームごとに迷宮へと入ってもらう」
長い黒髪が良く似合うカジュアルな服でまとめた、一見して教師だとは分かりづらい見た目の女教師が言う。
どうやら1年生から順に入っていくようだ。A組は、2チームが、B組は1チームが迷宮の中へと入る。
「全部で6チームってことか」
俺たちC組の2チーム目のリーダーを務めることになった強い意志をもったようには見えない垂れた双眸を迷宮へと向けるウルルが迷宮内に消えた瞬間、蓋を閉じるように迷宮へと続く階段の上に元のフィールドが埋め立てられる。
入口が出口になる、ということが消されたのだ。そして、同時にその真上に射撃魔法の時と同じように映像が投影されている。
見えない地下の様子だ。そしてそれを見ながら、イチカは実況を続ける。
「迷宮内に潜む秘宝を巡り、6チームが一斉にスタートしました」
まず映し出されたのは、A組だ。指揮をとっているのは、勝気な猫目が特徴的でそれに負けない緋色の髪をもつ女子生徒。
「またあの子出てるよ」
隣に立つイグターがそれを見てこぼす。もちろん、俺だって覚えている。なんてたって、拳と拳を交えた仲だ。
「ナナニス……か。まぁ、出場回数に制限とかなかったもんな」
今更ながらに、担任であるココロ先生が出場のほとんどをC組の中では優秀な3人に任せようとしていたことを思い出す。
画面に映し出されるのがC組の1チーム目になる。指揮をとるのは、ムム。それに準ずるのがマリアである。
***
ムムはどこかふてぶてしい表情を浮かべながら、複雑に入り組む迷宮内で、指示を出す。
「嘘でしょ。こんなに分かれ道あったら……」
指でこめかみを抑えながらムムは言う。
「こういう時のチームでしょ」
マリアがそんなムムの肩に手を置く。
「そ、そうだな……。みんなどっちに進めばいいと思う?」
眼前にあるのは、ゴツゴツとした岩肌が続く四つの穴。どの穴にも道は続いているのが目視できる範囲で分かる。
「1番左の道は……危ない」
灯りの少ない迷宮内だと誰が発言したかは、分かりづらい。しかし、気弱そうな声が確かにそう告げた。
「何故わかる?」
前髪があまりに長く、顔が隠れてしまっている男子生徒がムムの質問にオドオドと答える。
「え、えっと……。ボクには……超感覚があるから」
「なに!? 本当か?」
ムムは目を見開いて驚く。しかし、それもそのはずだ。超感覚は、イグノアール王国全土を探しても保持しているのは1割と言われている貴重な能力だからだ。
全容は未だに明らかになっていない、未知の力を有する能力だ。男子生徒は、小さく首を縦に振る。
「まじ……か。こんな逸材がC組にいるなんて」
感心するようにムムが零すと、男子生徒は小さく頭を振る。
「ボクは……、超感覚という特殊能力は持っているけど魔術適正がかなり低いんだ……」
男子生徒は表情を隠したまま、しかし声色だけは悲しげに告げる。
「じゃあ──」
話を切り替えようと、マリアは1度パンっと、手を叩き超感覚を持つ男子生徒を見る。
「ホーリアです」
「ご、ごめんね……。ホーリアくんはどの道へ進めばいいと思う?」
咄嗟に名前が出てこなかったことを、詫びマリアは訊く。
「ボクは……右から2つ目のここが安全だと思います」
ホーリアはおそるおそるという表現がぴったり合う感じで、顔を上げ4つある穴のうち右から2つ目の穴を指さす。
「じゃあ、そこを行こう」
ムムはチーム全体を見渡しながらそう言う。マリアをはじめ、チームメイトはこくん、と首肯した。
***
「C組1チーム目はこの分かれ道、右から2つ目を選びました! 先ほどここを通ったA組は1番左を選びました! これがどう探索に影響が出るのでしょうか」
各々のチームの行く末を楽しみながらイチカは実況を続ける。
次に映ったのはB組だった。B組は先ほどムムとマリアたち率いるチームが通った道とは違う所にいるようだ。フィールド上から映像を通して競技の行く末を見守る人たちには、中の会話は聞こえない。故に、俺は中でどんなやり取りがあって右から2つ目を選んだのかは分からない。でも、俺はムムとマリアの判断に託している。
そして、いま映し出されるB組も何やら会話をしているようだ。みんなそれぞれに口がパクパクしている。
眼前に分かれ道があるわけでもない。ただ単に楽しんでいるのだろうか。そう思っていた瞬間──。
映るB組の後ろに見覚えのある姿が映し出された。
金色に近い茶毛がふわふわと動く、紺色の体操ズボンを穿く華奢な女子。
それに続くは、焦げ茶の髪をもつ人懐っこいイヌのような顔をした男子。
──ウルルとロッキーだ。
「や、やべぇぞ」
B組との遭遇回避は、もう不可能と言っても過言ではない。しかし、魔術戦闘で優勝を飾ったのはB組だと言う自信が生まれたいま遭遇=戦いになることは間違いないだろう。
次の瞬間──
彼らは出会ってしまった。