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2回戦の終結

頑張るとか何とか言っちゃって……この間です。

すいません。

今回は2回戦です。

1回戦の後すぐに、2回戦かよって思った方。その通りです。

 こ、これは……幻影魔法か?

 いるはずの無いところに、存在を見せられ俺はただ振り回されているだけなのか。

 入ってきた時と同じフィールドに見えるそれ。しかし、やはり声は届かない。

「何をしている?」

 返事が来るとは思ってもない。でも、それを口にするしかない。

 今まで俺に直接的に関わる魔法しか受けたことがない。だがそれらは、決まって俺にダメージを与えなかった。なら、間接的に関わる魔法はどうなのか?

 それを考えたことは一度もなかった。結果として、いまかなりまずい状況に陥っていることだけは確かだ。

禁書史書(アカシックレコード)について知っていることは?」

 何を言っている……?

 そう思った。だが、これを逃せば勝ち目はない。

「ある、と言ったらどうする?」

 恐怖はある。しかし、それを悟られないように不敵に吐き捨てる。

 瞬間、リーニの動きが変わった。明らかにこちらを殺しにくるような、そんな動きだ。だからこそ、狙いは心臓(ここ)だと定める事ができた。

 タイミングを図る。──今だッ!

 直感だった。でも、これは確かなもの。俺は体を左側へ回し、動く前の俺がいた場所へ手を伸ばす。そして、遠くに対峙して見えるリーニの腕を絡めとるように手を動かす。

 感触はない。だが、俺はそのまま背負い投げをするように動く。


 こういうのなんて言うんだろう。視界が遮られていたわけじゃない。でも。確実に何かを打ち払ったような感覚が俺の中を駆ける。

 見えない、感覚もない、エア背負い投げ。背中に乗せて背負いあげる。そしてそのまま地面に叩きつけるッ!

 瞬間──その場所を中心に微かな渦巻きが発生した。まるで竜巻の赤子のようなそれは、段々と勢力を強め、フィールド全体を包み込む。

 そして、直後。それは音もなく破裂した。

 刹那、景色は一変する。歓声すら聞こえないその場所は、消え去り割れんばかりの大歓声があがる場所になる。そして、少し離れた場所で対峙していたはずのリーニは、俺の真下で倒れている。

「まさか……」

 思わずそう零したところで、イチカの実況が入る。

「つ、遂に! リーニの幻惑魔法を打ち破ったー!!」

 やっぱり……。俺は惑わされていたのか。

「へへ、まさかこれを破るなんてね」

 真下から声がする。リーニだ。俺は慌てて後方へと飛び、戦闘態勢を整える。

「そう構えなくても」

 ゆるゆると立ち上がるリーニ。だが、スキはない。

 どんだけ戦い慣れてんだよ。そう思わずにはいられない佇まいである。

 瞬間、リーニが、俺の眼前へと迫る。

 モーションなんてあったか!?

 そう考えた時には、既にリーニの殴打が俺を襲う。零れでる空気。二三歩後退しながらも、口を開く。速さでは速さで対抗だ。

隔絶(かくぜつ)の空間 御業(みわざ)を以て 侵略せし」

 本当はもっと後半まで隠してたかったんだけど……、そうもいかねぇな。

 体が熱くなるのを感じる。そして、段々と世界が遅くなる。

 相対理論ってやつだろう。己が速くなれば、周りが遅くなったように感じる。

 なら、リーニの動きも見えるはず。

「なにっ!?」

「あら、あなたが幾ら速くなったところで空間を飛び越えることができる私には叶わないわ」

 空間を飛び越える……?

 全く意味が分からない間に、リーニの攻撃が俺を襲う。

 魔法が通じない上に、奴の動きすら見えない。ならどうすれば……?

 考えがまとまらないうちに、リーニの次の攻撃がくる。

 歓声は聞こえている。だから幻惑されているわけではない。

「ぐはっ」

 地に手を付き、四つん這いのまま俺は頭を回す。

 じゃあ本当に空間を飛び越えるのか? もし使えるとして、なら何故最初から使わない?

 最初から使えば、幻惑なんてけったいな魔法を使わなくても俺を圧倒できたはずだ。

「うっ……」

 最初から使えない理由があるのか? 例えば、魔力の消費が激しい……とか。それなら最初あまり魔法を使わず肉弾戦を挑んできたことにも頷ける。

 じゃあ、このまま耐え続ければ勝利することができる……?

「……ごほっ」

 いま……ちょっと見えた……。

 フィールドに倒れ込む俺の腹部が思い切り蹴られる。しかし、その瞬間俺はリーニの姿を見た。

 世界はまだ俺の速度に追いつけない。なら、この可能性に賭けるしかない。

 フィールドを抉るように思い切り蹴る。これは本当に大博打だ。負ければ、俺が一方的に体力と魔力を削がれるだけ。しかし、いまはこれしかない。

 加速した今だからこそ、リーニの姿が見えたのだとすれば。攻撃をするのは、空間を飛び越えた状態で出来ないのだとすれば。そして、空間から出てきた時は通常の速度だとするならば。

 全部仮定でしかない。でも、やるしかない。

 フィールド内を縦横無尽に駆け回り、幾つかの瞬間で回し蹴りをする。何も無い、誰もいない場所でただただ蹴りを繰り返す。加速しないで、通常速度でやっていたならば、頭のおかしい人だ。

 でもいまは、これしかない。

 当たれば儲けもん。そのくらいの気持ちだ。


 どれほどそれを続けただろうか。自分では分からない。だが、一つだけ分かっていることがある。俺だけが分かっていること。

 ──体力の限界だ。

 周りの景色が通常のそれと遜色ないように感じる。

 ……やべぇ。

 そして、体がこう告げた。

 ──次がラストだ。

 当てなきゃならねぇ。当てなきゃ。

 より一層大地を強く踏みしめ、蹴る。速度は加速した時とは比べ物にならないほど落ちているだろう。だが、先ほどよりは速い。

 フィールドの右側の角へと移動した俺は、ぴたっと止まり脚を振りあげる。瞬間、視界の端で空間がぐにゃっと歪んだのを感じた。

 迷いなく、俺はその方向へと脚を回した。

「きゃっ」

 ビンゴだ……。

 空間から飛び出したリーニを綺麗に捉えたのだ。

 フィールドに体を打ち付け、ゴロゴロと転がるリーニに俺は加速魔法を解除して近寄る。

 息は完全に上がっており、正直ここから肉弾戦を再開されると勝つ自信はない。

「俺の勝ちだ」

 でも、俺はそう言った。すると、リーニは小さく鼻で笑う。

「上も気にするはずだわ」

 何を言っているかは理解が出来ない。しかし、そう言ったリーニの表情には戦闘の意思は感じられなかった。

「降参よ。私の負けだわ」


「カーミヤ……。Aクラスを2人連続で撃破! これは前代未聞。この魔術演武祭は荒れる予感がします」

 イチカの実況はいつもに増して興奮しているように取れる。

 立つのすらままならない。それほどまでに体力を消耗した。それでもフィールドから出なければ次の試合が始められない。俺より少し先に動き出したリーニを追って、俺は頼りのない足取りでフィールドから出る。


「アンタ、一体何者なんだ?」

 固有魔法(ユニークマギス)があるというのは授業の中で聞いた。事実、かつて存在したとされる伝説であり、禁忌の象徴でもある魔術師イグノアールの使える魔法の9割はそれだったとされている。

 先ほどこの女リーニが使ったあの空間を飛び越える魔法。あんな魔法があるとは聴いたことがない。ならば考えられるのは固有魔法だ。しかし、いち学生がそれを使えるものなのか?

「さぁね」

「さぁねって……。俺はちゃんと聞いてんだ!」

「熱くならないで貰えるかな?」

 何者なんだ、という気持ちのあまりに強く訊く俺に対し、リーニはあまりに冷めた態度で答える。

「それよりも──正直あんたがいると動きにくいのよ」

「何が?」

 何の話をしているか分からない。でも、リーニからは確かに怒りが感じられる。

 何でだ。俺は、こいつを知っている……のか?

「そんなはずはない。あんたはなんなんだよ!」

「何1人で言ってるわけ?」

「べ、別に……」

 フィールド内では戦闘が始まったようだ。イチカの実況が耳を撫でる。

「まあ、いいや。どうせ知ることになるだろうし。私はあなたが知りたいことを知ってる人よ。いまはそれしか言えないわ」

「どういう……」

「知るときは必ずくるわ。それじゃ」

 リーニは、灰色に近い黒いパーマのあたった髪を靡かせながら空に浮く。恐らく遊空魔法だ。

 詠唱無しでやるのかよ。

 口角を釣り上げ不敵に笑ってから、俺は頭の中でリーニの言葉を再生する。

『知るときは必ずくるわ』

 なら、待ってやるよ。アンタが自分で自分の正体を言う日をな。


 それから俺は、順当に勝ち上がり、遂に準決勝までコマを進めた。

 相手は全身黒という、表現がぴったりの3年B組モモイだ。どの試合も開始20秒以内で決着をつけた化け物だ。

「無茶はしないでね?」

 心配そうに目を潤ませるマリア。まるで俺が死にに行くみたいじゃねぇーかよ。

「大丈夫だ。俺は……勝って帰ってくる」

「言うねぇー」

 イヌ顔のロッキーが楽しげに言う。

「たりめぇだ。ここまで来たら優勝しかねぇーだろうが!」

「そうだよな。でも、気をつけろよ。なんか普通じゃねぇー感じがするから」

「やめてよ。こういう時のイグターの勘あたるんだから!」

「ははは」

 俺も何だか嫌な予感はあった。でも、笑った。笑えば何とかなる。そんなふうに思えるか、と訊かれればイエスとは言えないだろう。でも、相手を不安にさせる顔をしても何とかならない。なら──笑っとけ。余裕を見せろ。

「俺に任せとけ!」

 大胆不敵にそう吐き捨て、俺は準決勝が待つフィールドへと赴いた。

いかがだったでしょうか?

リーニの言っていたあの話。どういう意味でしょうね。

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