俺のデビュー戦
間が合いちゃいました。すいません。
とうとう10万字という大台が見えてきましたー笑
2年生、3年生の狙撃魔法戦が終わった。こちらは、順当にA、B、C組の順になっている。代わり映えのない試合で観戦している方も、気だるげなように見えた。
そして遂に──
「次は待ちに待った魔術戦闘です!」
期待の含まれた声でイチカが叫びにも似たそれを上げる。どっと歓声が湧く。それが少し重圧に感じなからも、マリアとイグターの顔を見て小さく微笑む。
上手く笑えただろうか。どこかぎこちないような気がした。
しかし、気にせずフィールドに向かって歩を進める。
「1回戦、第1戦はA組代表とB組代表です」
イチカの声と共にA組代表のクルクルとパーマのあたったような髪とそれに似合う華奢な体をした女子生徒が出てくる。続いてB組代表の栗色のショートヘアーの女子生徒がフィールドの中央へと向かう。
「ルールは至って簡単。相手を気絶させる、または降参させることで勝利となります。ただし、危険だと判断した場合はこちら側で止め、より多くダメージを負っていると見られたほうが敗北となります」
まくし立てるようにそう言うや、イチカは開始と続けた。
瞬間、A組女子がフィールドを蹴り、B組女子との間合いを一気に詰める。B組女子は表情を曇らせ後方へ飛ぼうと試みる。だが、それは追いつかない。
「装着 」
A組女子は、短く吐き捨て右腕に弱々しいが、しかし確かに青白い筋を入れる。──重量魔法だ。
淡く光る腕がB組女子の腹部へ直撃する。B組女子は、栗色の髪を振りまき胃から逆流してきたであろう胃液のような唾液を吐き出す。
B組女子は、大きなダメージを負ったのだろう。四つん這いになり、そこから立ち上がる様子が見られない。
その女子に対して、A組女子はさらに蹴りを加える。フィールド上をゴロゴロと何回も回転し、仰向きに倒れる。
B組女子は、そのままの状態だ弱々しく手を挙げ、
「……こ、降参」
と、告げた。
「A組圧勝です!! B組代表手も足も出ず。しかし、まだまだ始まったばかりです。第2戦は同じくA組代表ナナニス・ベールvs現在1位をひた走るC組代表カーミヤ・アイリスです!」
手に汗がびっしょりついてる。やばい……緊張してる。
名前を呼ばれたことにより、心拍数が加速する。こんな調子だと早死するぞ。
だがしかし、こんな所で立ち止まるわけにはいかない。ゆっくりだが、それでも1歩ずつ丁寧にフィールド中央へと向かっていく。
「えっ……」
対戦相手のナナニス・ベールの姿を見て思わず声を洩らしてしまった。
名前を聞いた時には、パッと出てこなかった。しかし、その姿は見間違うはずがなかった。陽光を受けてあの時より、幾分か鮮やかさを増しているも、その緋色の髪と勝気な猫目は間違えて女子トイレに入った時の彼女に違いない。
「あら、あなた……」
どうやらナナニスの方も俺のことを覚えていたようだ。
「あの時は申し訳なかった」
「もう気にしてないわよ」
ナナニスは小さくハニカミながらそう言い、俺を見る。その目はあの時のとは、全く違っていた。真剣そのものである。
まさかA組だったとはな……。その言葉をグッ、と飲み込みナナニスと同じ真剣な眼を見せる。
瞬間、空気が変わった。聞こえていた歓声がピタリと止み、緊張が辺りを支配する。
背中に一筋の汗が流れるのを感じた。それは汗のはずだが、やけに冷たい。
「開始!」
次の瞬間。俺は地面を蹴った。ほとんど反射的であった。しかし、それよりも早くにナナニスは動き出していた。時間にしたら1秒未満であろう。しかし、戦闘においてそれはとても大きな時間差である。
振りかぶられる拳。やばい、あたる。直感的にそう判断し、俺は体の重心を左側へ寄せてかわそうと試みる。
拳は予測した通りの軌道を描き、俺に迫る。だが──
「ぐはっ」
確かたる痛みが襲い、肺にある空気が逆流する。息がッ……。
腹部に手を当て、蹲る俺にナナニスは油断することなく、詰め寄ってくる。
そして俯く顔に蹴りが迫ってくる。
しかし体を横へ倒し、それをギリギリで避ける。だが、体勢は完全に崩れてしまった。
「くっそ、強すぎだろ……」
「女の子に向かって強いは失礼じゃない?」
ナナニスはにたっと笑いながらそう返すと、手のひらを俺に向ける。
「でも、いまはありがとう、と言っておくわ」
口端を釣り上げてから、ナナニスは雰囲気を変える。普段の様子とはかけ離れ、まるで戦士のような雰囲気である。
「秋雨の燐火よ 咲き誇れ!」
「嘘でしょ!?」
瞬間、俺の耳にフィールドの外かナナニスとの戦闘を見守るマリアの声が届いた。
相当やばい魔法ってことかよ……。
額には冷や汗をびっしょりとかいており、そこへ蒼穹の前髪が張り付く。
同時に、俺の胸部に1輪の花が咲いた。──コスモスだ。
まさかッ。
両目を見開く。すると、ナナニスは不敵に笑い口を開く。
「そのまさかよ。初等爆裂魔法"秋桜"」
言い終える否やナナニスは、指を鳴らす。同時に、俺の胸部に咲いた秋桜の花弁の1枚が小爆発を起こす。
「これは決まったかー!?」
聞こえてなかったはずのイチカの実況が不意に耳に入る。
そうか。普通ならこれで気を失ったりするのか。
視界を遮る煙幕に紛れる俺は、そう考えながら胸部に残る花弁に目を落とす。
「あと7枚……か」
そう呟いてから煙幕の中を縫うようにして、ナナニスとの距離を詰める。
そして──
「悪く思うなよ」
そう吐き捨ててから、俺はナナニスの腹部へ回し蹴りを決める。
「うっ……」
数歩後ずさるナナニスは、小さくうめき声を洩らす。女の子を苦しめるのは、気が引ける。しかし攻撃をやめては、勝ち目が無くなる。俺はその数歩分を詰め、腹部へ掌打をうつ。連続攻撃に耐えかねたのか、ナナニスは右膝をフィールドへ付ける。
「場外とかあってほしいな」
魔法をまともに使えない俺には相手を気絶させるのは、かなり難しいと言えるだろう。しかし、ナナニスに降参と言わせるのはそれと同等に難しそうだ。
瞬間、ナナニスが苦しそうな表情のまま指を鳴らした。
「何ッ!?」
花弁の1枚がドンッ、と爆発する。薄くなった煙幕がまた濃くなる。しかし、今度はそれだけではない。再度花弁の1枚が爆発する。
完全に俺を気絶させにきている。だが、着ている王立魔術学院イグノールの体操服にダメージはあるも、俺自身にはダメージがない。
威力が弱いのか?
そう思いつつも、俺はより一層濃さを増した煙幕内をコソコソと動く。
残る花弁は4枚。ということは、4回の爆発はあるということだ。
気を引き締めてから、微かに捉えたナナニスの姿へと近寄り掌打を繰り出す。
「なんッ……で」
ぐはっ、と体をくの字に曲げなからナナニスは俺を見る。その目はまるで、存在してはいけないものを見ているようだ。
「何でって言われても……」
小さく頬を掻きながらそう答え、ナナニスの右腕に手刀を振り下ろす。
「きゃっ」
小さく声を洩らしながら、俺に隠れて作っていた右手の拳を解く。
「なぁ、降参してくれないか?」
煙幕はまだ蔓延っている。故に俺とナナニスの様子は外からでは見えてない。
「なんで?」
ナナニスは冷たい目で俺を見る。
「俺は、君をこれ以上傷つけたくない」
男が女をいたぶるなんてことは、人としてどうなのだろうか、と思う。
「なら、カーミヤ君が降参すれば?」
ナナニスは俯いたまま、脚を振りあげる。
「だめか」
後方へ大きく飛び、脚の攻撃範囲からは逃れる。
「解除」
しかし、ナナニスはそれを攻撃に使うことはなく下ろしてからそう言う。すると、俺の胸部に咲いていた秋桜は消え去る。
「たまたま爆発系に強いからって調子に乗らないで」
「調子に乗ったつもりはないんだけど……」
苦笑気味に答えると、ナナニスは視線を鋭くする。
「負けないわ」
「俺だって」
同時に床を蹴る。互いが互いの攻撃範囲に入った瞬間、ナナニスが拳を振るう。それを俺は叩き落とし、逆の手でパンチを繰り出す。ナナニスはそれを持ち上げた腕で防御し、蹴りを入れる。蹴りは弁慶の泣き所とも言われるスネにヒットする。
痛いッ。表情を歪めると、ナナニスはそれを機と見たのか軽く跳ぶとそのまま回し蹴りを入れる。
後方へ下がろうとする。しかし、先ほどのスネへの1発が効いたようで、動きが鈍り、蹴りがみぞおちへとヒットする。
空気が体の中を逆流し、思わず咳き込んでしまう。
くっ、くっそ……。
膝を付き、蹲る。
「もう終わりかしら?」
ナナニスは、勝気な猫目を俺に向けて訊く。
「……はっ。んなはずねぇーだろ」
俺たちは勝つ。みんながここまで繋げてくれたもんを、潰すわけにはいかねぇ。
立ち上がりながらそう言う俺に、ナナニスは不敵に笑う。
「そうこなくっちゃ」
「さぁて、戦闘開始からもうすでに5分が経過しようとしています。どちらも1歩も引きません!」
イチカの興奮気味の実況が飛ぶ。
試合を眺める生徒たちも怒号に似た歓声を上げる。
右手で腹部を抑えながらゆっくりと立ち上がり、右頬にまだ新しいかすり傷をつけたナナニスを見る。
「もう動けないんじゃないの?」
「んなことねぇーよ、クソが」
青く腫れる右のスネから意識を外し、俺はフィールドを蹴った。切る風は、試合開始時より遥かに遅い。しかし──
ナナニスもダメージを負っているため、それを避けることは出来ず左腕を持ち上げることしかできない。持ち上げられた左腕に俺の拳がささる。鈍い音とともに、ナナニスは数歩後退する。
追い打ちだッ。さらに左足を持ち上げて蹴りを狙う。
ダメだ、外れる……。
しかし、数歩分だが後退されたせいで狙いが外れた。咄嗟に大地に手を付き、逆立ちの体勢を取る。そしてそのまま脚をねじり、ナナニスを近づけさせないようにする。
はぁ……。はぁ……。はぁ……。くっそ、しんどい……。
「A組代表ナナニス、ここで魔法攻撃か!?」
イチカの声が飛ぶ。ここまでナナニスは、ほとんど魔法攻撃をせずに肉弾戦での戦闘を強いてきた。しかし、ここで魔法攻撃に転じるらしい。
恐らく俺の怪我具合と体力の消耗具合からしてよけられない、そう踏んだのだろう。
「空間を切り裂く雷鳴よ」
瞬間、煌めく一閃が俺へと向かってきた。
よしっ! これはススとのデュエルで効かないことは、分かってんだ!
一気に地面を蹴り、一閃へと向かう。閃光は眩く、ハッキリと前を見ることはできない。だが、俺はそんなことお構い無しにナナニスへと向かう。
全身に走る閃光。その中を駆ける。顔に触れて、腕をすり抜け、それから脚を抜ける。
次の瞬間、俺の視界から閃光が無くなる。
「嘘っ!?」
閃光の中から現れた俺を見たナナニスは、喘ぐように零す。
「終わりだ」
そう吐き捨て、吸い寄せられるようにナナニスの腹部へ入り込み連続で掌打を決める。
ゴホッ、と咳き込みながらナナニスは膝をつく。そして、そのままバタッ、と倒れ込んだ。
いかがだったでしょうか?
これはカーミヤくんが勝った……のかな?