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前期魔術演武祭のメンバー選定

七夕ですね!


織姫と彦星は会えるかな〜。


ということで、15話始まりまーす!

 モモークが教室を出た瞬間、教室の中では怒号にも似た叫び声があがった。

 はっきりと何を言っているのかは分からないが、どうやら勝つぞ、的な宣言らしい。

 それを横目で見ながら、俺はマリアに向いて訊く。

「前期魔術演武祭ってなんだ?」

「あ、そっか。カーミヤくんは知らないか……」

「知らないとかあるのか? 王国全土に有名なやつだろうと思うけど」

 マリアに呟きにイグターが反応するも、マリアはそれを無視して続ける。

「前期魔術演武祭ってのは、クラス対抗で魔術の強さを測る大会をするの。どれだけ重たいものを持ち上げられるか、とか射撃とか、まぁあとは純粋に戦闘とか。色々な種類があって、それで優勝を決めるの」

 体育祭みたいなものか……。

「それで優勝するとな、そのクラスは前期の間、学食がタダで食べられるんだ」

 イグターがケラケラと笑いながらそう言う。

 賞品を出すことによって生徒のやる気を削ぐことなく、全力を見ることができる。

 なかなかしっかりしたものだ。感心していると、教室のドアが開いた。

「先生にしたら早くない?」

「あぁ、コロロ先生っていっつも遅れてくるもんな」

 嘲笑じみたものを浮かべながら言うイグターを一瞥してから、ドアの方へと顔を向ける。すると、そこにはイヌ顔の少年が立っていた。

 焦げ茶色の髪がより一層犬感を強くして、今は両手を膝につきはぁはぁ、と言っている。これがまた犬らしい。

 あれが先生……なのか?

 一瞬そう思ったが、すぐに違うと判断する。着ている服が、俺たち生徒と同じ制服だからだ。

「ロッキー!?」

 声を上げたのはマリアだ。どうやら知り合いらしい。

 舌をちろっと出し、息を荒げる顔を上げる。本当に犬みたいだな……。思わず微笑が零れる。

 それからロッキーはこちらを見ると手を上げ、歩み寄ってくる。


「どうしたの?」

「寝坊した」

 マリアの問いにロッキーは、悪びれた様子もなく答える。

「あっそ」

 呆れたように返す。これがはじめてでは無いのだろう。マリアの態度でそう判断し、俺は机に突っ伏す。

 ──前期魔術演武祭、か。俺は何に出るんだろうな……。

 そこで小さくかぶりを振る。

 それも大事だ。でも、もっと大事なものがあるだろう。俺とマリアの部屋を襲った犯人だ。一体、何の目的で俺たちの部屋を狙ったんだ?

 俺が異世界人ってのを抜きにすると、余計に分からない。

 たまたま鍵が空いてたからか?

 それならトイレに行っているだけ、とかですぐに戻ってくる可能性を考えるだろう。そう考えるとあそこまで部屋を荒らすだろうか。


「ねぇ、疲れちゃった?」

 そこまで思考したところで、マリアが声をかけてきた。机に突っ伏している俺を心配してくれたのだ。

「……っあぁ、別にそんなんじゃないんだ」

 体を起こしながら俺はマリアにそう言う。するとマリアは、安心したような表情でそう、と零す。直後、学院中に轟くチャイムが鳴った。

「な、時間通り来なかっただろ?」

 イグターは教室のドアを見ながら楽しそうに言う。まじで時間守らない奴なんだ……。

「んなことよりも、ロッキー。フフさんに何も言われなかったのか?」

「それ聞くか?」

 イヌ顔の男はげんなりした表情で嘆息気味に返す。

「聞くぜー。だって、面白そうだし」

「アンタもやったことあるんだからわかるでしょ」

 伏し目がちでマリアは零す。

「わかるよ。だからこそ聞きたいんだよ」

 いたずらっぽく笑うイグターに、ロッキーはため息をこぼす。

「あの人は鬼だよ。寮母ってあんな強くていいわけ?」

 ワンワンと吠えるようにロッキーは言う。

「それは分からなくもないな」

 そこて俺は初対面でいきなり爆発させる魔法を使ってきた、あの時を思い返し、無意識的に言葉を洩らしていた。

「え、カーミヤくんだっけ? もう何かやらかしたのか?」

「あ、そう言えば。昨日、やられてたわね」

 顔を上げたマリアが俺の方を見て続ける。

「──初等爆裂魔法(エルメル・スゥイスト)"秋桜(コスモス)"」

 少しの間を置いてからそう言う。瞬間、イグターとロッキーは目を丸くする。

「いやいやいや、流石におかしいだろ! いくら初等だったとは言え、フフさんの爆裂魔法くらって怪我一つしてないなんて……」

 イグターは一息でまくし立てると、俺の全身をゆっくりと見詰める。

「気持ちわりぃ」

「い、いや……でも」

 イグターは虚ろな返事で俺の全身から目を外すことはない。

 直後、音もなく真ん中に『心』と書かれた真っ赤なTシャツを着た女性が教室へと入ってきた。──いや、正確には音はあった。しかし、それはあまりに小さく聞こえなかったのだ。

「あぁ、もう! 何なのよ!」

 女性は声を荒らげながら教卓の前に立ち、俺たちの方を見る。

「ロッキーくん、早く座って!」

 そして立ったままであったロッキーを一蹴する。ロッキーはすんません、と小さくこぼしてから俺たちの座る机の一つ前の机に腰を下ろす。

 ロッキーが座るのを確認してから、女性は深いため息をついてから口を開く。

「先ほど、アホのモモーク先生から宣戦布告されましたッ! 私は負けるつもりは毛頭ありません。いえ、勝ちます。いや、勝て!」

 ドンッ、と教卓を叩いて叫ぶように言う。

「ココロ先生……気合入ってるな」

 イグターは、柔らかな笑顔を浮かべながらそう零す。

「そりゃあ、あのモモーク先生から宣戦布告されればね……」

「どういうことだ?」

 宣戦布告される相手によって、やる気が変わったりするものなのだろうか。疑問に思い、俺はマリアに訊く。

「モモーク先生……あっ、さっきの魔術法規の先生の事なんだけど。あの人が担任しているクラスはAクラスって言われてるの」

「Aクラス?」

 赤い服を纏った女性──もといココロ先生は宣戦布告されたことに対する怒りなのか。叫び声に近いそれで何かを言っている。

「そう。入学試験の成績優秀が集められた言わばエリートクラスなの」

 エリート、ね……。嫌いな響きだ。結局同じ人間だろ。

「そうか。んじゃ、俺らのクラスは?」

「C」

 イグターが口を挟む。

「ふん、おもしれ」

 俺は笑っていた。自分でも驚いた。正直言って、勝つ見込みは少ないだろう。Cクラスということは平凡なのだ。だが、言い換えて見れば天才にもなれる可能性を秘めいているという事だ。

「で、私は言ってやったわ! 本当の逸材が誰だか教えてやるわ、って。だからみんな、頑張ってね。勝ったら、ご飯奢ってあげるから、ね?」

 瞬間、ココロ先生の話を聞いていた生徒は怒号にも似た声を上げた。完全にやる気スイッチが入ったのだろう。

「じゃあ、出場競技を決めていくわね」

 それを感じたのだろうか、ココロ先生は嬉しそうな表情を浮かべる。……作戦、だったのか?

 あまりに上手な乗せ方だ。

「まず、重量魔術(バイズリク)の選手ね」

「先生、そのバイズリクってなんだ?」

 競技の名前だということは理解できた。だが、その内容は見当もつかない。マリアに聞くこともできたが、どんどんと競技の名前を言われていけばついていけなくなる。そう考え俺は、小さく手を挙げてそうココロ先生に訊いた。

「そうね。カーミヤくんは分からないわよね」

 そこまで言うとココロ先生は言葉を切り、教卓の下を漁り始めた。恐らくあそこに引き出しか何かがあるのだろう。

 しばらくするとココロ先生は、羽根ペンのようなものを取り出した。

 だが、その先に芯のようなものは見当たらない。

 壊れた羽根ペン……? んなもん、どうやって使うんだよ。

 そう思った瞬間──

 ココロ先生はそれを宙で遊ばせた。

 ペン先に仄かな光を灯らせ、宙を走ったその軌跡を描くように光が残る。

「んだよ……あれ……」

 思わず言葉が洩れてしまう。魔法自体はシンプルなものだろう。しかし、それが日常に溶け込んでいるのを見るとやはり圧巻の一言だ。

 そう言っているうちに宙には光の線で絵が描かれた。それは幾らかの人だった。

「これは何人かで競うものです。それで──」

 そこまで言うとココロ先生は、また芯のない羽根ペンを走らせる。

 宙に新たに大きな直方体のようなものが描かれ、その中に120キロと加えられる。

「このように普通の学生ならば決して持ち上げることの出来ない重さの重りを魔術を使って持ち上げる。それで誰が一番重たいものを持てるか、というのを競います。分かりましたか?」

 ココロ先生はバッチリと俺に視線を合わせて言う。俺は小さく頷く。

「それではこの競技は……、ススとムム、それからカントに出場して頂きます」

 生徒の意見など無視して、ココロ先生は決めつける。それに、何だか嫌な気がした。

「では次は、射撃魔術(ソーコイト)の選手ですっていきたいところだけど……」

 ココロ先生はため息をついてから、先ほど宙に描かいたものに息を吹きかける。

 瞬間、それは消え去り何も無い宙に戻る。それを一瞥するやココロ先生は再度羽根ペンを構えて宙で遊ばせる。

「これも何人かで同時に行われます。それぞれ出場者が最初にくじを引き、配置場所を決めます。例えば、この校舎の屋上、または学生寮の屋根の上とか、ね。それで──」

 ココロ先生はまず大きな円を描く。そしてその縁に沿うように建物を描き、その上に人を描く。それから中心に競技場を描く。

「配置された場所から射撃魔術を駆使して、競技場にある的を射る。その的に書かれたスコアが一番多い人が勝ち。分かった?」

「はい」

「じゃあ、これもススとムム、それからカントね」

 ココロ先生は決定事項を述べるように、淡々と進めていき、前期魔術演武祭の全10競技プラスクラス対抗で行う大隊魔術戦の代表選手が決まったのだが──

「わいら出番ないな……」

 イグターは少し顔を俯かせながら、ポツリと零した。しかし、俺も含めイグターに出番が一度もない訳ではない。ならその出番とは何なのか。それはクラス全員が参加する大隊魔術戦。つまり、事実上個人種目の出番はなしと言うことだ。

「先生」

 俺は俯くイグター、それから同じく大隊魔術戦以外に出番がないことを気にしてない振りをするマリアを一瞥してから立ち上がる。

「何ですか、カーミヤくん」

「こんな決め方でいいのか?」

「こんな決め方……とは?」

 何かおかしなことがあるのか。そう言わんばかりに、ココロ先生は首を傾げる。

「先生。アンタが勝手に同じヤツばっかり選ぶやり方だよ」

 少し語気を荒げる。意識をしたつもりは無いが、自然とそうなっていた。

「勝つためにはこれしか無いでしょ? ただでさえうちのクラスは、能力が劣るの。それなら能力のある人で戦うしか無いでしょ」

「ふざけんよッ!」

 机を強く叩く。隣にいたマリアが、体をビクリと震わせる。しかし俺は構わず続ける。

「仮にも教師だろ? それが能力があるだとか無いだとか、決めつけてどうする! このクラスに来たばっかりで、正直このクラスのレベルがどれ位なのか、なんてことは分からねぇ。でもよ、それでも……生徒の得意分野を伸ばして、強くしてやるのが教師だろ?」

「綺麗事よ」

 ココロ先生は、嘆息気味に告げる。

 そうだ、綺麗事だ。それは俺自身でも分かってる。だが、それでも──

「全員で勝ってこその勝利だろ」

 悔しかった。俺のいた世界では、それが常識だった。どんなに足を引っ張る奴がいても、誰がそれをフォローして、一丸となる。そうして勝つからこそ、嬉しいんだ。

「出来ないわ」

「なぜ断言できる?」

「それはあなたたちがよ──」

 ココロ先生は目を見開き、ハッとする。恐らく、俺たちが弱いと言いたかったのだろう。

「前期と言うくらいだ。後期もあるだろ?」

 俺は視線を落とし、隣にいるマリアに合わせる。マリアはその視線に気が付き、小さく頷く。

「なら、今回は俺たちに任せろよ。んで、優勝してやる」

 自信なんてものは無い。でも、できる気がした。

「────わかったわ」

 ココロ先生は、たっぷりと思案したあとそう告げた。

「なら今から決めなさい、誰がどの競技にでるかをね」

 そしてそう加えた。

お楽しみ頂けたでしょうか?


結局、振り出しです。でも、よくよく考えると運動会とかも運動神経のいい人だけを選んで出した方が強いよね。笑

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