はじめての授業は法規
どうも、ちょっと期間が空いてしまいました。
あぁ、アニサマのチケットゲットしたかったな……。。先行も一般も全滅だった。くっそー
というわけで、第14話です
32-A。これが俺がこの学院に来て始めて受ける授業の教室だ。
マリアの文言を真似て、どうにか魔法を発動し、地上よりおよそ80メートルの所に位置する教室に辿り着いた。
教室の中は、高校生が想像する大学の教室に酷似していた。
3人掛けの長机が縦に8つあり、2人ほどが歩ける距離を開けて横に4つあり、計32にのぼる。
広さとしては、普通に教室って言えるほどだが、教卓の前に存在する黒板は俺の知ってるそれとは、3倍ほど違った。こっちのが大きかったのだ。
「なぁ、今から何の授業なんだ?」
一応時間割は確認したんだが、マリアと一緒と分かった時点で、付いて行ったらいいかと思ってしまった。
「えっとね、魔術法規ね」
「ま、魔術法規……?」
何だか嫌な気がする……。
「そう。魔術を使うに当たっての法律を学ぶの」
やっぱりなー! 転生してからの最初の授業で法律を学ぶってなんだよ……。
そう思いあからさまに大きなため息をついた時、教室の扉が開いた。
32ある机のうち、25程は埋まっている。
誰だ?
故に俺は怪訝げな目で扉を見た。
そこにいたのは、魔女のような帽子をかぶり、方眼鏡を掛けている。
わかりやすく魔術講師といった姿で、教卓の前に立つ。
端正な顔立ちはしていると思う。決して目は大きくはないが、切れ長の目が色気を醸し出している。上背があり、足も長い。
「あっぶねぇ……」
そんな時、不意に俺の耳元でそんな声が聞こえた。
「イグター、遅いわよ?」
マリアはその声の主に優しく微笑むように言う。
金髪碧眼のイグターと呼ばれた男は、男前とは言えない。しかし、不思議な雰囲気のある男で嫌いにはなれそうにない。
「お、マリアが男連れとは、世界も変わるもんだな」
イグターは長机の左端に座るマリアに、真ん中に座る俺を挟んで茶化しながら、俺の隣に腰を下ろす。
「どういうことよっ」
口先を尖らせながら、少し拗ねたような表情で言うマリアを無視してイグターは俺に言う。
「で、君は一体誰なのかな?」
「え、お、俺は、かや……じゃなくてカーミヤ」
危うく本名を言いかけるも、小さくかぶりを振って正す。やはり、まだカーミヤという名に慣れない。
「おぉ、カーミヤか! わいはイグター・ノーベスト。イグターって呼んでくれ」
差し出された手を取り、イグターと握手を交わす。
「てか、必修科目に新しいやつが来るってことは……」
「そうよ、カーミヤくんは転校生よ」
握手を解いたイグターは、視線の先をマリアに向けて会話をする。
朝からよく、ここまで話せるな……。
「こんな忙しい時期に……」
そう思った矢先、イグターはそう呟いた。俺は、それがどういう意味なのかと聞こうとした瞬間、チャイムが鳴り始めた。どうやら、授業が始まるようだ。
「えーっと、授業を始めるに当たって、まず最初に言っとくことがある」
見た目に違わぬいい声で、金色の目をした魔術法規担当の講師が言い放つ。
こっちの世界でもそんなこと言うやついるんだな、やっぱり……。
「カーミヤくん、前に出てきてくれ」
…………ん? いま……俺を呼んだのか?
「キミだよ、カーミヤ・マクベスくん」
きょとんとした俺を見かねてか、講師はフルネームで呼ぶ。そこでようやく自分のことを言われていると自覚した俺は、その場で立ち上がり、マリアの後ろを抜けて教卓の方へと進む。
およそ40人ほどいる生徒のほとんどがザワザワとしている。そんなに俺が珍しいのだろうか。
転生してきたってこと知ってるんだろうか。
様々な疑問を浮かべながら教卓の前まで移動すると、講師が俺の肩に手を置く。
「えーっと、今日から君たちの必修科目の授業に参加することになったカーミヤ・マクベスくんだ」
金色の眼差しを俺に向けて、自己紹介を促す講師。めんどくさいな、と思いながらも俺は口を開く。
「俺は、カーミヤ・マクベスだ。よろしく」
頭は下げない。下げる必要がないからだ。よろしくとは言ったが、よろしくするつもりは無い。よろしくしたい奴はそっちから来い。これが俺流だ。
「味気ないやつだな」
講師は苦笑しながらそう言うと、まぁいいや、と零し俺の背中を押す。
「戻っていいぞ」
そしてそう加える。俺はちらりとそちらを見てから、大きくため息をつき、ゆっくりとマリアとイグターの間の席に戻り始める。
「ってことだ。よし、授業始めるぞー。今日は、教科書34ページからだ」
カーキ色の髪を描き上げてそう言うと、講師はあっ、と声を洩らす。ちょうど俺が席に座ろうとしたタイミングだ。
「カーミヤくん。悪いがもう1回前に来てくれ」
「はぁ!?」
「いや、教科書渡すの忘れてた」
「……ざけんなよ」
小さく呟きながらも俺は下ろしたばかりの腰を上げ、再度講師の元へと行く。
黄色の表紙に、緑色の文字で魔術法規と書かれたそれは広辞苑のような分厚さの教科書が手渡される。想像以上の重さに目を見開くも、両手で抱えるように持ち、席へと戻る。
「よしっ、今度こそ始めるぞ。教科書34ページだ」
マリアとイグターの間に腰を下ろしたのを確認すると、講師は告げた。
「モークク先生はこういう所あるのよね」
マリアは小さくため息をついた俺に向けてそう言った。どうやらあのカーキ色の髪に金色の目を持つ講師の名はモーククと言うらしい。
「まぁ、だるいとは思うがこの講義はしっかり聞いといた方がいいぞ。テストあるらしいし」
イグターが微笑を浮かべて言う。
こっちの世界でもテストがあんのかよ……。めんどくせぇ……。
「えっとー。まず、魔術法規には第一原則があるってのは前回の授業で伝えたと思うが覚えているか?」
そんなことを考えていると、モモークが授業を始めていた。
「じゃあ、イグターくん。答えてみろ」
「うげっ」
名指しされたイグターは、わかりやすく表情を崩し慌て出す。
「え、えっと……」
ペラペラと広辞苑の如く分厚い教科書を捲り始める。
「ちゃんと聞いてないからだぞー。じゃあ、シシンタくん。答えてくれ」
いたずらっぽい、講師とは思えないほどあどけない笑顔を見せつつ、モモークは教室の端の方に座る1人の男子生徒を指名した。
「はい。人を殺めるような魔術、魔法は研究、使用、保存してはならない。それから、自分や他者の日常生活に支障をきたす大型魔術、魔法は王国憲法第5条に記載される条件下以外での使用を禁止する。です」
モモークは満足げな表情で拍手をしてから、口を開く。
「素晴らしい。流石はこのクラス一番の秀才だ」
「そんなことないですよ」
子供っぽさの残るアルトボイスがそう答える。シシンタのものだ。
「ってか、王国憲法第5条ってなんだよ」
俺がそうボヤくのが聞こえたのか、モモークは第5条についてのは説明はマリアさんにしてもらおう、と言った。
「第5条についてって……」
少し戸惑うような顔を作り、マリアは普段より少し小さな声で答える。
「重要事件やテロ行為に巻き込まれた時が主……だと思います」
「そうだ。それから大きな自然災害が起きた時もその例外に含まれる」
わかりやすく頷きながらモモークは言い、そこでようやく広辞苑のような分厚さの教科書に目を落とす。
「えっと、ここからは王国憲法の魔術、魔法に関わる所を一つずつ丁寧にやっていくぞ。で、今日は王国憲法7節からだ。7節は魔術、魔法について一番多く記されている──」
こうして魔術法規の授業が始まった。
一コマが1時間半なのだが、訳の分からんことばかり言われ、面白くない、そう感じてしまうとその体感時間は2倍にも3倍にもなる。
要約するに、憲法7節には魔術は犯罪に利用することなく、便利に正しく使いましょう、ということだ。
それをこんなに長々と……。
げんなりとしていると、そこでようやくチャイムが鳴った。
「んじゃ、今日はここまで」
ふぅー、と小さく息を吐き捨ててからモモークは分厚い教科書を持ち上げ教室から去ろうとする。
俺も含め、生徒たちの顔には疲労感が見て取れる。と、そこでモモークは足を止める。そして振り返り言葉を放つ。
「2限は全員このままこの教室に居てくれ。二週間後に控えた前期魔術演武祭の説明と出場競技を決めるらしいからな」
それから口端を小さく釣り上げ不敵に笑う。
「まぁ、私のクラスは最強の布陣であなたたちを迎え撃ちますけどね」
「うっせぇな……」
他の生徒たちは闘士を燃やしているが、俺はその前期魔術演武祭とやらを知らない。ゆえにそうボヤく。
だが、モモークの表情は癇に障るもので、何だか分からねぇーが勝ってやろう、そう思った。
いかがでしたか?
楽しんで貰えたでしょうか……?
次から前期魔術演武祭とやらについてお話を進めていきたいと思います。
もちろん、あの部屋荒らしの件も……続いていきます。