初登校で大事な告白
事件から一夜明け、学校に行きます。遂に遂に……登校です。
ここまで来るのが意外と長った笑
唐突だが、俺はいま空にいる。しかも、銀髪の美少女に引っ張られて、だ。
羨ましいか?
掴むので必死だった、という言い訳で色んなところが触り放題だ。
が、あとが怖いからそれをするのはまたの機会にしておこうと思う。
まぁ、そんなことよりも。なんでいま空にいるかというとだ。
***
翌朝、俺はマリアに叩き起されてしょぼしょぼの目で大広間に向かった。
そこには昨晩のような静かさはなく、喧騒としていた。
朝から元気なことで……。そんな風に思いながら、俺は朝食としてフフに出されたトーストを食した。
飲み物として出された紅茶は、昨日飲んだそれと同じで日本を思い起こさせた。
そして、部屋に帰った後、王立魔術学院の制服──白の半袖シャツの上に紺色のブレザーを羽織り、同色のスラックスを纏う。
「行くわよ」
そこまで準備が出来るとマリアがそう言った。
「またあの距離を歩くのか?」
「今日は魔力回復してるから、飛ぶわよ」
飛ぶのか……。呪文っていうか、詠唱忘れたんだけど……。
「いいわよ。今日は私が連れてってあげるから」
顔に出ていたのだろうか。マリアは呆れ気味にそう言い、部屋を出る。
慌てて俺もそれに続く。
マリアは俺が出たのを確認してから、取手部分に手をかざす。
「主の権限以て 封鎖する」
刹那、ガチャんっと鍵がかかったような音がした。
「これでよしっ」
マリアは満足げに呟いてから外に出るように促した。
外に出ると眩しい程の日差しが俺たちを襲った。それを浴びる白色のノースリーブシャツの上に、綿素材の紺色ブレザーを着たマリアは、美しいという言葉で表現していいのか分からないほど美しいと感じた。
そんな、マリアは小さく微笑み、少し後ろに立つ俺に向かって手招きをする。
「早くー」
昨日のことなど忘れたかのように、楽しげだ。
「おう」
短くそう返事をし、俺はゆっくりとマリアに近づく。
「世界の理よ 我が身を空気とし 流れとせん」
マリアは近づく俺を一瞥してから、ゆっくりと瞳を閉じそう言う。瞬間、マリアの体がゆっくりと上昇し始める。
やっぱり違うな……。昨日の俺のそれとは、全然違うや。
魔法が展開する速さと、上昇する速さを見て、魔法の真理すら知らない俺でも凄いと感じた。たった一度でも魔法を使ったことがあるからこそ分かる。だからこそ少し悔しい。知らなければ──使わなければ抱かなかった感情に、俺は歯を食いしばった。
「行くよ」
そんな俺の思いなど露知らず、マリアは制御の効いた遊空魔法で俺に近づく。
「いいよ、俺だってできる」
マリアより速くなんて願わない。でも、一緒くらいの速度で……。
「世界の理よ 我が身を空気とし 流れとせん」
そう願いつつ、一言一句間違わないように心がけて言い放つ。
瞬間、昨日俺を襲った体内を何かがぐるぐると回る感覚が訪れる。
それから浮遊感がくる。よしっ、発動出来た……。
だがしかし、残念なことに宙での停滞はできそうにない。上昇を続ける体に、宙で留まるイメージをしても止まりそうにないのだ。
「行こ」
だから俺はそう告げた。
「うん」
マリアはそう答え、校舎のある方へと進み始めた。
それから幾らか進んだ時だった。
あ、あれ……? 進みが悪いぞ……。
マリアの隣を飛んでいたはずなのに、いつの間にか俺はマリアの少し後ろを飛んでいる。更に、何だか宙に浮く体の安定が悪いような気がする。
「お、おい」
不安になった俺は、マリアに声をかけた。瞬間、体が完全にバランスを失い、地へと落ちていくのだ。
「あ、ああああああああああ」
まあ落ちるのかよ!
「大丈夫!?」
地上よりおよそ4メートルほど上空を飛んでいた。そこから自由落下を始める俺にマリアはそう声をかけ、今まで飛んでいたスピードとは桁違いのスピードで俺に近寄ってくる。
だが、落下スピードには適わず、俺はどんどんと地上との距離を縮めていく。2メートル、1メートル……、そして50センチを切ろうとしたその時。ようやく俺に追いついたマリアが、ブレザーの襟部をがっしり掴み急上昇する。
「間一髪だったわ……」
マリアは険しい表情でそう告げ、それから
「装着 豪傑の怪力よ」
と、文言を続ける。
瞬間、俺の襟部を掴む手に仄かな輝きが宿り、マリアの表情から険しさが消える。
こうして、冒頭に戻るわけだが……。
「何したんだよ」
ハゲ頭も似たようなこと言ってたような……。
俺を掴んだまま校舎を目指し始めたマリアに訊く。
「自分の力を増幅させたの」
マリアは前方を見たまま答える。
「へぇ」
短く応え、辺りを見る。一体に広がるのは緑だ。昨日歩き続けたから分かってはいたが、実際に空から見直すと、その広さは異常だろう。
そして隣、少し後ろ、はたまた少し前には多くの生徒の姿が見えた。俺やマリアと同じ制服に身を包んだ生徒たちだ。
彼らは皆、空を飛んで登校している。
「本当にビックリな世界だ」
そう独りごちると、マリアが小さく笑ったような気がした。
それからしばらく、二人は無言でいた。すると、視界の端に天をも穿つ建物が飛び込んできた。──校舎だ。
ということは、もう学校に着く、という事だ。
一つ言いたいことがある。でもそれは、マリアには言うべきことではないかもしれない。でも確実に、マリアに関係すること。
俺にとって言い難いそれを、口にするにはそれなりに勇気が必要だ。段々と近づいてくる校舎に目をやりながら、口を開いては閉じを繰り返す。
「────なぁ」
校舎の全容が見え、到着までしばらくとかからないだろうと思われる所で、ようやく覚悟を決める。
「なに?」
マリアは優しい声音で言う。それがまた胸に刺さり俺は引き締めた表情を歪ませる。
「昨日の……やっぱり俺のせいだ」
「そんなことないよ」
空中を行き交う風の音と共に、マリアの声が届く。
「転生とか……転校生とか……そんなの関係なくても……俺のせいだ」
自分のものとは思えないほど掠れた声でそう言うと、マリアは怪訝げな声で返す。
「どういうこと?」
「俺さ──」
言葉を紡ごうとした瞬間、マリアが下降体勢に入る。校舎に到着したのだ。
俺は口を閉じ、黙ってマリアが着地するのを待つ。そして、完全に着地し、襟部を離された所で再度口を開く。
「俺、昨日部屋を出る時、鍵を締めなかったんだ」
俯き、マリアの顔を見ないようにした。怖かったんだ。たとえ1日の付き合いだったとしても、罵られ、蔑まれるのが嫌だった。
マリアは、しかし一言も発さなかった。それは逆に俺を不安にさせる。
俺の言ったこと、伝わったのかな?
「──で?」
不安のあまり少し顔を上げた所で、マリアは短くそう放った。
それは俺の予想していた言葉とは大きくかけ離れていて、どう言葉を紡ぐべきか分からなくなった。
「…………え、えっと。でって、どういう……」
「そのままの意味よ。鍵を掛けてなかった? それがどうしたの?」
へ? 俺、結構勇気出して言ったんだけど……。
「それにね、私思ったの。これはたまたまなんてものじゃない、必然だったんだって」
「必然……?」
言ってる意味が分からなかった。襲われることが必然なんて、そんなことあるわけない。
「まぁ、だから。カーミヤ君のせいじゃないってことだよ」
マリアは俺に向かって暖かさのある優しさのこもった笑顔を浮かべた。そして、1歩、2歩と校舎の方へ近づいてから振り返る。
「早く行くよ」
そして小さく手招きをしてそう言ってきた。
恨んでもいいと思う。俺は、それだけのことになる原因を作った。もしあそこで、俺が鍵を締めていたなら。あるいは、部屋を出たあとすぐに寮母であるフフに、鍵をかけてもらうなり、鍵のかけ方を教えてもらうなりしていたなら、こんなことにはならなかったかもしれない。
考えれば考えるほど、自分の浅はかな行動に腹が立つ。
「あー、くっそ」
頭を掻きながらそう吐き捨て、俺は少し前で手招きをするマリアの元へと歩を進めた。
──犯人が誰であろうと、絶対捕まえてやる。
昨日から何度目かになる決意を胸中で零して、校舎へと入って行くのだった。
ようやく微妙に、進展しつつあるのですが……。
もう少しすれば更なる展開をするはずです!
出来る限り面白いものにしていこうと思ってるんで、よろしくお願いします!