操り少女・紅葉 前
楓の葉が風に揺られて水たまりに落ちた。
澄んだ朝。霞の向こうに見える日本家屋は静まり返っていた。
と、そのとき。
木製の古い門がゆっくりと開き、中から少女が1人顔を出すと、辺りを見回した。
「よし、今だ」
そう呟いて出て来たのはツインテールが印象的な茶髪の少女。目は大きくアイドルのような可愛さがある。若く、小学生くらいに見える。
「それにしても…澪ったら、昨日は早く起きるって言ってたくせに…」
唇を尖らせ拗ねる少女の背中には大きな黒い布で覆われた籠があった。
「よいっしょ…」
少女は籠を背負い直すと霞の向こうへ消えて言った。
「そろそろ着いてもいい頃なんだけど…」
片手に地図を持ち住宅街をあっちへこっちへ歩き回る。
「んー…どっかで間違えたのかなぁ…?」
顎に手を当て悩むけど、何度見てもって言うか、見れば見るほど分からない。
「なぁーそれ地図古くねえか?」
背後から聞こえた声に私のお腹からふつふつと湧き上がってくるものを感じ後ろを向く。
「あんたねぇ…起きてるならさっさと言いなさいよ!!!!!」
そう言って籠を床に叩きつける。と同時に籠から聞こえる悲鳴にざまぁみろと内心呟く。
「なにすんだよ!!!!」
籠の中から出て来たのは澪。私よりやや小さいからくり人形の男の子で、私の前世の兄の魂が入った特別なもの。
「全く…起きてるならさっさと道案内でもしてよね!」
「わーったよ!ほら、地図かして見ろ!」
そう言って、ぶつけた頭をさすりながらもう一方の手を差し出す。大人しく渡すと、穴があきそうなほど見つめ、周りを見た後「よし、何となくわかった。」と言って再び籠の中に入った。
「次の角を右。」
「ここ?」
「ばか!もっと向こうだ、こんなとこどう見たって道じゃないだろ」
確かに、言われてみれば家と家の隙間だ…
「あ、あはは…」
気を取り直して言われた角を曲がるとそこには立派な家があった。
表札には《松畑》と書いてある。
「ここだ…!」
急いでインターホンを鳴らすと若い男の声が中から聞こえて来た。
「…おや?これは、とても可愛らしいお客様ですね、どうしたんですか?」
真っ黒な髪に黒縁メガネ、薄汚れたワイシャツを来た男が出て来た。
声の割には老けて見える…
「あ、えっと、私朱瀬院家から来ました、朱瀬院 紅葉と申します!…失礼ですが、依頼者の松畑 一様でしょうか?」
「貴方が…!…はい、僕が一です。…立ち話もなんですから、どうぞ」
「はい、失礼します!」