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とにかく遭遇

「ウサギさん?」


 草むらからひょっこり顔を出してこっちを見ているのは、6、7才くらいの女の子だった。

 金属の装飾品で茶色の髪を両サイドで束ねている。民族衣装のような服を着ていることからして、この森か、その近くで暮らす原住民の女の子のようだ。文明の低そうな服装だけど、その顔立ちは最先端を突っ走る勢いだかわいらしい。きっと将来は大勢の男を惑せることになることだろう。俺も10年後も生きていられたら惑わされたい。


 とにかく猟師じゃなくて良かった。いやビビッてねーよ。マジで全然ビビッてねーから。ちょー余裕だから。なんだったら出てきた瞬間にワンパンかましてやろうとしてたの、慌てて止めたくらいだから。


 あ、待て待て、この子が罠を仕掛けた可能性もあるじゃないか! だってみるからに原始的な暮らししてそうだし、女の子でもガンガン獣を捕えて、首切って血抜きとかして、あまつさえ内臓とか食べるのかもしれない!

 あわわわわ! ゆ、許してください。


「つかまっちゃったの? かわいそう……」


 お、おう。いい子だった。ならばオレは声を大にして言おう。


 助けてください!!


「みみっ」


 アルミーも女の子の登場に驚いたのか、再びガチャガチャと音をたてて暴れ出した。よすんだ、アルミー。暴れるよりもむしろ、悲しそうに大人しくしているべきだ! 潤んだ瞳でジッと見つめて、そっとか細い声で鳴くのだ! それで助かる!! 絶対助けてもらえる!!


 オレの高度な心理作戦は当たり前のように届かず、アルミーは暴れるのをやめない。ああああ、傷がひどくなってしまう!

 見かねたのはオレだけではなかったらしい。女の子が慌てて駆け寄り、アルミーの足に噛みつく鋼鉄の悪魔に手をかけた。


「ここをこうして。それからこっちを……できたぁ!」


 カチンという音と共に鋼鉄の悪魔がパックリとその口を開いてアルミーを解放した。こんな子供の力でトラバサミが開くとは思えないし、きっと簡単に開けるギミックがあったんだろうな。それを知っているということは、この罠を仕掛けたのはこの子の関係者なのかな?

 すると女の子は見事な救出劇を見せたにも関わらず、思い出したように落ち込んでしまった。


「……またパーパに怒られちゃう」


 罠の主はアナタのお父さまでしたかっ。おのれお父さん。ありがとう娘さん。しかし家族を養うための仕事を、その家族に妨害されるとは業の深い話だ。おかげで助かったけど。大丈夫ですよお父さん。娘さんは純粋な心に育った優しい子です。

 ほら、アルミーもこんなに喜んで飛び跳ねている。ああ、足の傷も大したことが無いようで本当に良かった。こんな森の中じゃ、些細な怪我でも命に関わる危険があるからな。この女の子はオレ達の命の恩人だよ。


「まあいっかぁ。良かったね、ウサギさん!」


 撫でようと手を伸ばす女の子の、今はまだ薄い胸に飛び込むようにアルミーがジャンプした。アルミーもちゃんと恩を感じて……違う! コイツは獲物を狙う目だっ!!!


 ぽふんっと女の子に飛びつき、女の子も嬉しそうにアルミーを受け止め、抱っこする。


 あ、あぶねえええええええええええ!!

 咄嗟に角を曲げて刺さらないようにしていなかったら、今頃女の子の胸から滝のように血が噴き出してるトコだったぞ!? ゴブリン相手に鍛えた恐ろしいまでの精度で心臓を狙ってやがった!!

 今だってアルミーは顔をスリスリ擦りつけているんじゃない。何度も角を突き刺そうと頭を動かしているだけだ。もちろん角は刺さらないように、羊の角と同じ形にクルンと丸めてあるから大丈夫だけど。


「あははっ。あったかーい」


 オレは肝が冷えたよ。まさか命の恩人をなんの躊躇も無く殺しにかかるとは、殺人鬼もビックリな凶悪さだ。しかしそうか、女の子が現れた時から妙に暴れると思ったら、逃げようとしてたんじゃなくて攻撃しようとしていたのか。

 油断するとコンマ1秒で忘れそうになるけど、アルミーは魔獣だ。怖えー、魔獣ちょー怖えーー。漫画とか小説で人類の天敵みたいな書かれ方をしているのが多いけど、まさしく天敵だよ。確かにこれは駆除の対象になるよ。森の仲間はバリバリ食うし、こんな可愛い女の子を見敵必殺だし、恐ろしすぎる生物だよ。


「みぃ……」


 ひとしきり暴れた後で角が刺さらないと理解したのか、残念そうに鳴いて大人しくなった。ああ、しょんぼりーニョしてるアルミーも可愛い。凶悪で殺意剥き出しだけど……可愛いからいいよね!


「ばいばーい! もう捕まっちゃダメだよー!」


 大人しくなったアルミーを満足するまで撫でた女の子は、アルミーを地面に降ろして来た道を戻っていった。多分あっちの方にあの子の集落なりがあるんだろうな。機会があれば是非行ってみたいけど、その選択権がオレには無い。無念だ。


 おっとダメだぜアルミー。後ろから追撃をかけるのは無しだ。

 

「みぃ」


 角を地面に突き刺して動きを封じる。もう、凶暴なんだからっ。女の子が完全にいなくなったのを確認して、地面から角を抜いてあげた。


 しかしいい子だったな。お父さんに怒られるのに助けてくれて、こんな凶暴な生物を可愛がって。いやまあ、アルミーの凶暴さはオレのナイスな仕事によって未然に防がれたから気づいていないだろけど。むしろ気づいた時は死んでいる時かもしれないけど。

 あんな子供にまで襲いかかるようじゃ、アルミーと一緒に人里に下りるなんて夢のまた夢だな。やっぱり元人間としては人間の暮らす場所に行きたいし、叶うなら定住したいのだけど、さっきの子のような子供ならまだしも、大人はアルミー……というかアルミラージの凶暴さは知っていると思うし、難しいな。むしろ狩人やら冒険者やら(この世界にいるかどうか知らないけど)に狙われやすそうな事を考えると、森の奥で生活した方がお互いの為だ。なんて言っても、やっぱりそれを決める権利はオレには無いのだけどね。


 とにかく、人がいると分かったのは大きい。たとえ敵対するモンスターのポジションだったとしても、一生関わることができなかったとしても、世界に「人間がいる」というだけで妙な安心感が得られた。元だろうとなんだろうと、人間の心を持つのが自分だけじゃないと分かったからな。


 服装やら装飾やらを見る限りでは、かなり原始的な暮らしをしているように見受けられたけど、あのトラバサミはギミックが付いていたりと高性能だった。見た目と道具が釣り合ってないよな。だけどマサイの戦士も今では観光客のおかげで儲かってスマホしてるって話だ。あの女の子の集落が独自文化を守っているだけで、世界全体では高度な文明が発展している可能性もある。


 ああー気になるなぁ。こんなことなら人間がいるって知らない方が幸せだったかもしれない。なんたって異世界だ。しかもステータスが見れて、微妙ながらもチートスキルだって貰ってる。これで世界中を冒険しないなって、何かが致命的に間違ってるだろ!

 チクショウ、女神め! なんで角なんだよ!? せめてウサギでも、自分の意志で動けるのなら世界のどこにだって行ってみせるのに!


「み」


 ち、違うよアルミー!! 君に不満がある訳じゃないんだ。そりゃ、もう少し落ち着きがあればとか、森の仲間のグロイ食べ方とか、行きたい所に行けないとか、イノシシより猪突猛進だとか、アホだとか、ウンコ食うなとか、多少は思う所もあるけど、そんなことは人と人……もとい兎と角が共存していく上で折り合いをつけていかないといけない事だもんな!


「みー!」


 はい分かってました。君とオレとの間ですら会話なんて成立しないよね。だってオレ、心の中で言ってるだけだもん。

 さて、今度は何を見つけて鳴いているんだい? また森の仲間ごはんかな?


「ギャギャ」


 ガサガサと草を掻き分けて現れたのは……またゴブリンか。最近本当に増えてるなぁ。さっきの奴らは兎狩りなんて惨いことをするし、八つ当たりかもしれないけど手加減しないぜ!

 さあ来い! ゴブリンの1匹や2匹や3匹4匹……あの? どんどん増えてるんですけど?


 お、追いつかれた!!? こいつらさっきの兎狩りだ!!

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