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とにかく人参

 ぞろぞろと姿を現すゴブリン達。おいおいおいおい、これはひょっとしてマズイんじゃないか? 逃げるにしても戦うにしても、まずは情報だな。昔の偉い人も「敵を知り、自分を知れば、だいじょうV」的なことを言っていたと誰かが言っていた。


 鑑定!

 ゴブリン共のレベルはほとんどが4か5。リーダーらしき羽飾りをつけたゴブリンでもレベル7だ。ふっ、雑魚め。オレのレベルは12だぞ! そしてアルミーは9だから、合わせて21だ! いえー、最強! ゴブリンなんて何匹いたってなぎ倒してやるぜー!

 ところでコイツら実際のところ何匹いるんだろ? ひの、ふの……18匹か、うん無理!


「グギャギャー!!」

「ギャゴー!!!」

「ガーッ」


 18匹ものゴブリンが敵意を露わにアルミーを睨み、手に持った棍棒で地面を叩いて威嚇してくる。なんだよ! 怖いからやめろよ!!


 しかしなんだって突然? って、よく見れば奴らの手には何羽ものアルミラージの死骸が握られているじゃないか!?

 キッサマらああああ! ウサギ狩りかああああああああ!! なんて、なんて非道な真似を!! どんな神経をしていれば、そんな愛くるしい生物を殺せるというんだ!! そして誰だ! 今「お前が言うな」と言ったは!! オレのは正当防衛の不可抗力だ!!


 あ、やばい。囲まれる。じわじわと円陣を組むような陣形を取って、アルミーの退路を塞ごうとしている。

 くっ、どうしたって急にウサギ狩りなんてっ! 他のアルミラージが戦争でも仕掛けたのか? 少なくともオレ達にはゴブリンに狙われるような真似をした覚えなんて無い、ぞ……ん?


 ふと脳裏によぎる、地面に描かれたアルミーアート。

 オレに殺され、アルミーに食されたゴブリンが地面に残したダイイングメッセージ……を真似てアルミーが描いた自画像。とてもウサギとは判別できないだろうと放置したアレ。


 うおおおおおおおおおお!!? オレ達のせいかああああああああ!!? っていうかアレを解読したのかぁぁぁぁぁっ!!

 ゴ、ゴブリンめ、侮れない。どうやらオレが詰めを誤ったのが原因のようだ。ごめん、とばっちりを喰らったアルミラージの皆さん。仇はきっと取る。というか取らさせられる。なぜならアルミーはどんな強敵にも立ち向かう、無謀なウサギさんだからだ。


 突撃するんだろうなー。勝てるかなー。無理じゃないかなーさすがに。だけど突撃しちゃうんだよ、アルミーは。

 そして包囲網が完成す--


「みーーーっ!」


 速度B-の性能を遺憾なく発揮し、アルミーが駆ける。その姿はまさしく「脱兎の如く」。

 そう、脱兎だ。逃げた。それはもう、わき目も振らずに逃げ出した。包囲網が閉じる直前に、わずかな間隙を突くように包囲を突破。ゴブリン達が「しまった」って顔をするより早く走り去った。





 そこからのアルミーの走りっぷりは、ウサイン・ボルトが感動のあまりウサギン・ボルトに改名したほどだ。ウソだ。だけど凄かったのは本当だ。

 だけど教えて欲しい、アルミー。君の逃げるかどうかの判断基準はどこになるんだい? いや、確かにピンチだったよ? でもブレイクボアの時だって結構なピンチじゃなかったかな? 数の暴力が怖いの? でも前に虫の集団には突撃したよね? その時の光景はオレのトラウマ上位にノミネートされてるんだよ?

 

「みー……」


 ふぅ、ここまで来れば。というような鳴き声を出してアルミーが足を止めた。かなり走ったな。さすがに疲れたのか、アルミーの息も荒い。喉も乾いているし、お腹も空いていることだろう。お腹が空くのはもうちょっとゆっくりになって欲しい。


 疲れたー、と体を地面に投げ出すアルミー。お疲れ様。どんな風の吹き回しだか知らないけど、逃げてくれて助かったよ。あの数に囲まれると、いくら「変形合体TU☆NO」でも対処しきれなかった可能性が高い。角を18本に分裂する感じで変形させることは可能だけど、それを操るオレは1人なのだから。

 まずはゆっくりお休み。それからご飯を探しに行こう。角によりをかけて仕留めてあげるから。


「み?」


 だけどアルミーは休むどころか立ち上がってキョロキョロし始めた。鼻もピスピスさせている。なんだ? まさか追いつかれたのか!?

 慌ててオレも角を高く伸ばして周囲を索敵するが、何も無くね?


「みー!!」


 アルミーの口から出たのは、警戒や恐怖といった感情のものじゃなかった。むしろ……嬉しそう? なんだろうと思ってアルミーの視線の先を探してみると、その原因はすぐに分かった。絶対にアレだ。断言できる。


 ニンジンだ。

 地面にニンジンが落ちている。生えているのではなく、落ちている。


 ……いや、おかしいだろ。

 しかもあのニンジン、土が付いていない。森の中に畑で採れるようなキレイなニンジンがあることもおかしいが、それ以上に土が付いていないのがおかしい。

 無理矢理に理解するなら、この近くに人が住んでいて森の中に畑を作っており、収穫されたニンジンをその場でピカピカに洗い、持って帰る途中で落としたと考えられなくもない、のか? こんな魔物がいるような森に畑なんか作るかなぁ?


「み! みぃ!」


 ニンジンなんて食べたこと無いだろうに本能的に好物だとわかったのか、アルミーが嬉しそうにニンジンへと近づいていく。ウサギはニンジンが好きだと遺伝子レベルで刻み付けされているのかと考えてしまうな。

 ピョンピョンと、ちょっと駆け足ぎみに走っていく。人間だったらスキップしてる感じかな?



 あ、ダメだ! ストップだアルミー、止まれ!!

 ニンジンが落ちている地面から覗く金属の輝き。よく見るんだアルミー! どこからどう見ても罠じゃないか!! 無理だ、ウサギに理解できるわけがない!! なによりニンジンに魅力に囚われてしまっている。おのれ本能ーー!!


「みぃーーーーっ!!?」


 アルミィィィィィーーーーー!! ちくしょぉーーーーーー!!

 なんてことだ! アルミーのかわいい足にトラバサミが!! そこまでバネの力が強くないのか血は出ていないけど、すごく痛そうだ。オレのアルミーをこんな目に合わせやがって!! どこのどいつだ! 猟師だろうが山賊だろうが、現れた瞬間にぶっ殺してやるっ!!

 待てよ? でもこの世界の文明はどうなってるんだろう。もし猟銃とか持ってたら、魔法とか使えたら、俺の角が届かない所からトドメを刺されてしまってはどうしようもない! ど、どどど、どうしよう!?


「みぃ……」


 しばらく暴れた後、逃げられないことを察したのかアルミーは大人しくなって弱々しく鳴いた。

 ああ、アルミー……。オレのせいだ。変形して止めればよかったのに、動揺して判断が鈍っていた。オレが、たとえこの身が砕けようともオレが必ずアルミーを守るんだ。

 銃弾だろうと魔法だろうと、なんでも来い! この角ですべて受け止めてやる!


 ガサガサ……。


 ぎゃああああ!! すいませんでした勘弁してください許してくださいもうしません助けて女神様あああああ!!!

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