とにかく成長
ゴブリンとの死闘から5日。快進撃が始まっていた。
森の生物達が恐怖に震えあがり、巣穴の中で声を殺す。望みはただ、恐怖の大王が自分に気付かずに立ち去ることのみ……って感じかな。
まあ簡単に表現すると、アルミーが森の仲間達に次々とケンカを売っていったということだ。なんてケンカっぱやい子。ガキ大将でもここまでじゃないだろうって暴君ぶりだ。
だけどアルミーを暴君たらしめている元凶は間違いなくオレだろうね。もしアルミーが凡庸で平凡で先端が丸くて輝きも微妙な普通の角しか持っていなければ、きっと最初にケンカを売った時点で返り討ちにあっていたに違いない。
「ギシャー!」
そしてまた哀れなゴブリン君が新たな犠牲となった。やったのはオレだけど。
『変形合体TU☆NO』
恐ろしく強いぜ。この森にはいたる所にアルミーの同族アルミラージが生息している。オレ達が何度も遭遇しているように、他の動物達もまたアルミラージと遭遇し、だから知っているのだ……彼らの角は変形なんてしないということを。そして油断し、まんまとオレの餌食のなり、そのまま流れるようにアルミーの餌食にもなるのだ。
え? 遭遇した他のアルミラージ? 今はアルミーと1つになっているよ。それはもう美味しそうに。
それにしてもアルミーはよく食べるなぁ。オレと同じタイミングで生まれたのだとすれば生後6日だし、よく食べてよく眠るのはいいことだとは思うけど、いくらなんでも食べすぎじゃないだろうか。これまでたくさんの魔物や動物を倒してきたけど、お腹が一杯で食べられないなんてことは一度も無かった。あきらかに自分の体積より大きい相手をペロリと平らげ、その直後におかわりもペロリだ。
「み?」
もしかしてアルミーはとんでもない怪物なのではないか、と体を震わせたことでアルミーが首を傾げた。角が勝手に動けば当然か。アルミーは突進する時に目を閉じているから、オレの活躍を全然見てくれてないし。
「み」
気のせいだと判断したのか、アルミーは食事に戻った。
よく子供に「よく噛んでゆっくり食べなさい」と言うけど、オレはアルミーに言いたい。グロいから一口で丸呑みにしてください。小さなお口でゆっくりと食べられていく人型モンスターの姿を、最前列で強制的に見せられるオレの身にもなってくれ。
だけどかわいいアルミーの健康と成長のために、ぐっとこらえる。い、いいんだ。ゆっくり……お食べ。
それにしても食べているわりには体は一向に大きくならないな。魔物だし、普通の生物とは違うのかもしれない。かわいさも悪魔的だし、きっと一生変化しない生物なのだろう。ちなみに口元についた血も非常に悪魔的というか、猟奇的である。アルミー超コワイイ。無いね、そんな言葉も存在も。ただただ怖いわ。
とはいえステータスの方は順調に伸びている。
-----
アルミラージ(0歳) LV2⇒8
種族 魔物
体力 143⇒253
魔力 66⇒117
攻撃 187⇒331
防御 88⇒155
速度 792⇒1400
知能 50
スキル
逃走 ニードルスピア スタンピング 大食い(NEW) 雑食(NEW)
-----
すごくね? いや、低いよ? 数字が大きいから強く見えるけど、ぶっちゃけこの辺りによく出て来るゴブリンは同じレベルでも平均的に500以上はあるからね。アルミーは知能が足を引っ張って400にも届いていない。
だけど見てくれ、この速度を。ちょー速いよ。疾風怒濤だよ。風と共に去るよ、並走するよ。オレってば角だから、ジェットコースターで言えば最前列を飛び越えて先端だよ。怖いなんてもんじゃない!
さすがはウサギ。だけどそれ以外のステータスは所詮ウサギ。これだけレベルを上げたというのに、景気よく上がっていくのは元々の数値が高い「速度」だけ。他は未だにこの森の中でも最弱クラスだ。ウサギより弱くて小さい動物なんてほとんどいない森なのだ。
こんな調子じゃ、イノシシ先輩の所へお礼参りに行けるのは一体いつになることやら。スピードだけなら圧勝なんだけどなぁ。
ともあれ、ここまででレベル1につき一割アップの法則はほぼ確定と言っていいだろう。しかし新たな謎が生まれた。
な ぜ 知 能 が 上 が ら な い
アルミーの脳ミソではこれが限界だとでもいうのか。いや、お絵かきをしたりと好奇心はあるんだ。好奇心とは勉学の源。だというのに……増えない!
いや、信じるんだアルミーを。生まれたばかりで脳が成長しないとか、そういう理由なのかもしれない
人間にもそういうトコあるって聞いたことあるし。
気を取り直してオレのステータスだ。
-----
ツノ LV3⇒12
鋭さ 605⇒1427
固さ 242⇒571
美しさ 97⇒229
優しさ 4⇒1
-----
ふっふっふ、どーよ。どーよコレ。レベルは9も上がり、鋭さはアルミーの速度と同じくB-だ。固さも増し、美しさも二段階アップしたオレに死角は無い、はずだった。
……何故だ。何故優しさだけは下がっていくんだ。レベルアップとは関係ないタイミングでじわじわ減らしやがって!! あの女神、絶対に俺達のこと見てやがんな。暇つぶしに来たとか言ってたし。
しかし、確かに森の仲間達には厳しい行動を取った自覚はあるけど、所詮この世は弱肉強食。死体は後でアルミーが美味しく頂いてるんだから、そんなに蔑まれる理由なんて……嫌がらせ以外の何があるっていうんだ。
そしてアルミーもマジで残さず完食するもんだから、いつのまにか新しいスキルが手に入っていた。
「大食い」は胃袋が拡張されるスキルだ。フードファイター以外にこのスキルが必要になる状況がわからない。「雑食」はなんでも食べられるようになるスキルだ。そんなスキルが無くてもアルミーはなんでも食べようとするから、お腹を壊す心配が無くなるのはうれしい。
これらスキルを手に入れてからというもの、アルミーは獲物の骨から毛にいたるまで食べ尽くすようになった。アルミーたんったら本当にプレデターさんなんだからっ。テンプレ的に、その内「暴食」のスキルを手に入れて魔王になってしまいそうだ。
そんなことはさせない! アルミーはオレが守る! ……一体ナニから守ればいいんだ?
「み」
お、アルミーが獲物を見つけた。こんにちは、死ね⇒もぐもぐ。もはやルーチンワークだ。
レベルは、上がらなかったか。
前回のレベルアップからもう5、6匹はモグモグしているはずなのに、なかなかレベルが上がらない。今の獲物はレベル8のワンさん(ワンちゃんと呼ぶには可愛くない犬)だった。今までなら1匹でもレベルアップできた相手だ。
これは、レベル差が広がると経験値が少なくなるパターンか? 鑑定じゃ取得できる経験値まではわからないからなぁ。
経験値のシステムはゲームによって色々なパターンがある。手に入る経験値は変わらずにレベルアップまでに必要な経験値の量が増えるパターンや、逆にレベルアップまでに必要な量が固定なパターン。どっちも変わるパターン。他にも……まあ、色々だ。
この世界のルールはどれなのか。今まで様々なモンスターを鑑定しつつ戦った傾向としては、おそらくレベル差で手に入る経験値が変動するパターンで間違いないと思う。それに加えて必要経験値の量も多くなっている。
そろそろこの森の生物ではレベルが上がりにくくなってきてるな。生まれたての貧弱なウサギが暮らしているくらいだから、そんなに危険な森ではないのだろう。
確かこの森で最初に出会ったブレイクボアというイノシシがレベル14だった。そして年齢は2歳。つまりあの好戦的な獣ですら、この森でレベル14になるのに2年かかっているということだ。きっとここからオレ達の快進撃にも急ブレーキがかかるに違いない。
どうやら決断する時が来たようだ。この森で乱獲を続けるか、この森を出るのかを。
「みー!」
モグり終えたアルミーが風に揺れる木の葉を追いかけて走り出した。そうなんだよねー、オレに選択権なんて無いんだよねー。レベルアップの旅にアルミーが自主的に出る可能性……無いね、わかってた!
結局、現状維持だ。『変形合体TU☆NO』でアルミーを乗せて歩くにしても、体積の問題で足が短いものだから、アルミーが寝ている間だけじゃとても遠くまでは行けない。アルミーは今の住処(草むら)が気に入っているのか、寝ている間に俺がどこに連れて行っても、最終的には住処に戻ってきてしまうのだ。
やれやれ。次のレベルアップまで、あと何回モグモグすればいいのやら。更にその次となると、もう予想もできない。
こうなれば種を根絶やしにする勢いで乱獲するか、もっとレベルの高い相手に挑むしかない。例えばあの日のブレイクボアにリベンジとか。けどあんまり危険な真似はなぁ。レベルを上げたいのは自分とアルミーの安全のためなんだから、命を危険にさらしては本末転倒だ。
真面目にコツコツやるしかないか。
どうせ森から出られないんだ。それなら森の中での最強以上の力は必要無い。森で最強になれば当面の命の危機は無くなるんだからな。井の中の蛙? オッケーオッケーそれでいいよ、命があるなら。
「グギャーーー!!」
あ? なんだ、あのゴブリン。やけに興奮してオレ達のことを指差してるみたいだけど。
あーあ、不用意に姿を現すからアルミーがプレデターモードになってしまったじゃないか。スキルがあるとはいえ、あんまり食べるのは体が心配なのに。
「ギャ!」
「グギャギャ!!」
「ギャー!」
あ、あれ? なんか増えてませんか? 1匹、2匹、3……おおおおお、増える。増えていく。そしてなぜか全員ひどく興奮している。アルミーがカワイイからか? それともアルミーが美味しそうだからか? どっちも否定しないが、ちょっと興奮しすぎだし集まりすぎじゃありませんかね?