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とにかく隠蔽

 自由の翼ならぬ自由な足を手に入れた俺は、アルミーを背負った状態のまま森の中を突き進んだ。

 時々どうしても越えられない段差があって迂回したせいで、今どこにいて、どの方向に進んでいるのかも不明瞭だが、まあそれは最初からだ。


 あ、また段差だ。これは木の根だな。まったく、立派に育ちやがって。体がデカいからっていい気になるなよ? 俺がその気になれば、この角でお前なんか一突きなんだからな。反撃なんて怖くないぜ。


 へっ、と捨て台詞を吐いて、道を遮っていた根っこを迂回した。くそぉ、もう少しだけ足が長ければ、この程度の段差なんて……。まさか異世界に生まれ変わってまで、足の長さに憧れることになるとは。

 だけど俺の足の長さは変わらない。今の俺の体積では、アルミーを乗せているベッド部分をギリギリまで削っても、足の長さは4センチが限界だ。足だってアルミーの体重を支えられるギリギリまで細くしているのだから。


 このスキル、始めの内はテンション上がっていたけど、よくよく考えるとチートと言うには弱いよな。


 そりゃあ、変幻自在に変形できるのは便利だけども、落ち着いてくると「だからどうした」って気分になってきた。

 こんな能力じゃ、魔王を倒せないじゃないか。いや、魔王を倒す必要なんて無いし、そもそも存在するのかどうかも知らないけど、魔王を鼻で笑いながら鼻息で吹き飛ばすくらいでなければチートとは呼べないだろう。地上最強の生物だったり、パンチで地震を止めた、トレーニングが崖からの転落だったり……それぐらい突き抜けてこそのチートだ。


 せめて体積を無視できればなぁ。


 ガサリ、という草のこすれる音が俺の思考を吹き飛ばした。 何か、いる?


「ギャギャ!」


 ゴブリンだー!! この森はゴブ林だったのかー! 1匹見かけたら50匹はいると思え、ぐらいのイメージのアイツらだ!


「ギャ!」


 ……1匹だけ? はぐれか、斥候か、それとも散歩中か? なんにせよ、近くに仲間がいるということは無さそうだ。ならばコイツは獲物だ。


 じっくりと観察してみる。幼稚園児くらいの身長に肌色に黄緑を混ぜたような皮膚。顔は……うーん、デコボコしたいかつい顔だ。まるでどこぞのバーサーカーのようじゃないか。その割につぶらな青い瞳が、妙に愛らしく感じられるのは俺の気の迷いだろうか? 手には棒切れ。田舎の子供に与えれば喜んで草木をめった切りに無双しそうな、なんとなくいい感じの木の枝だ。髪の毛は、無いのか少ないのか、枕カバーみたいな帽子に隠れていてよくわからない。そして身につけている衣服だけど、腰布一枚だ。しかもかなり際どい長さというか……視点の低い俺から言わせれば、ぶっちゃけアウトである。さっきからユラユラ揺れる腰布の動きに合わせて、汚いものがブラブラしているのがチラ見しているのだ。そんな貧相な見た目のくせに、何故その一部分だけはたくましいのか。


「ギャギャギャー!」


 おおう!? ゴブリンが棒切れを振り回して飛びかかってきた。そうか、俺がゴブリンを観察していたように、ゴブリンも俺を……というよりアルミーを品定めしていたのか。出された結論はその行動から一目瞭然「おいしそう」だ。ヨダレ拭けよ。


「ギャッ--!?」


 ゾプリ、とゴブリンの首に俺のたくましい角が突き刺さった。どうだい、俺のも立派なものだろ? まあ前世もふくめてお前のモノほどじゃないけどな。ソコだけは認めてやろう。認め合えたなら、俺達はもう宿敵ともだ。まあ血拭けよ。

 角を引き抜くと噴水のように血が噴き出したので、角を傘のように変形してそれを防いだ。危うくアルミーが白ウサギから赤に変わるところだったぜ。


「み」


 あ、起こしちゃった? ゴブリンまで角を届かせるために、アルミーを運んでいた角ベッドを解除する必要があったからね。急に地面に降ろしたのが原因だろう。


「みー!」


 アルミーがゴブリンを見て嬉しそうな声を上げた。はは、驚いたか? この世界にはこんな生物がいるんだぞ。ま、俺の角にかかれば一突きだけどな!

 おいおい、そんなに近づかなくても見えるだろ? あんまり近づくと血で汚れちゃうよ。いやだから近い……近……いやああああああああああああああああ……!!!?




  少々お待ちください。




 と、とてつもない衝撃に襲われた。それはもう、10tトラックだって跳ね飛ばしそうな衝撃だ。かわいいかわいいアルミーたんが、まがりなりにも人型の生物をモグモ……ぐふっ!? 雑食にもほどがある。なんでウサギの食事が今のところ二回に一回は生肉なんだ。生肉っていうか、生々しすぎる肉だな。骨までボリボリいってカルシウムもバッチリだ。ちなみに残り二回は草とウンコである。何かが致命的に間違っているぞ、アルミー!


 凄惨な光景が繰り広げられた跡地を見る。

 まさかあんな惨たらしい結末になるとは、わりとマジですまんかったゴブリ……ん? んん? ゴブリンの死体があった地面に、なにか模様のようなものがある。ひょっとして……ダイイングメッセージ!!? やるなゴブリン、さすが狡賢いモンスターランキング1たぶん

 さて何が書いてあるのかな? ゴブリン語とかかな? どれどれ。うん、かわいいウサギさんのイラストだ。すげぇなおい、そっくりだよ。なんだこの才能。持って帰って部屋に飾りたいぐらいだよ。部屋どころか家すら無いけど。


 ぱぱっと証拠隠滅。ゴブリンには宝の持ち腐れな才能を発揮した素晴らしい芸術ではあったけど、仲間のゴブリン達が復讐のために周辺のアルミラージを狩り尽くしてしまいそうだからね。もったいないけど角をホウキの形に変えてサササッ。


「み!」


 消した芸術を再現するように、アルミーがおれを使って地面をひっかいた。気に入ってたの!?

 わかっているのかアルミー。この地面が真っ赤に染まった、君が真っ赤に染めた現場にウサギさんの絵なんて描いたら容疑者が絞られてしまうんだぞ?

 そんな俺の思いは当然のごとく伝わらず、アルミーは一生懸命に絵を描いた。なにかゴブリン画伯の作品に感じ入るものがあったのか。破損した作品を修復させるべく角を動かし、ついにアルミーの納得いく出来栄えになったらしく頭を上げた。


 どうする? 俺のアルミーが一生懸命描いた、おそらく兎生初めてのお絵かきを……消すのか?


「み」


 満足気に鳴くアルミー。消せばこの声は悲痛なものに変わってしまうのだろう。消すのか? 本当に消すしかないのか? アルミーの、そして周辺のアルミラージ達がとばっちりを受けないために、消すと決めるなら断固として消すべきだ。たとえアルミーが悲しみに耐えながら何度も描いたとしても、何度だって消さなければならない。

 できるのか、そんなことが?





「み!」


 アルミーはぴょんぴょん跳ねていく。行く当てなんて無い、気まぐれと勘だ。おなかが一杯のはずだし、安全そうな場所を探して一休みするつもりだろう。今の今まで休んでいたのに、と思わないでもないが、まあ野生動物なんてそんなもんだ。あ、野生の魔物か。


 最後にチラッと背後に視線を移動する。

 地面にはアルミー画伯の処女作がしっかりと刻まれている。ああそうさ、消さなかった。


 だって、全然似てねーもん。


 ウサギかどうか以前に、動物なのか前衛アートなのかすら判別不可能だ。ウサギを描こうとしたと知っている俺ですら微妙な所だ。強いて言うなら、月のクレーターが明確にウサギに見えるなら感性をお持ちなら判別可能かもしれない。

 ま、これで犯人がウサギだと判るってヤツはさすがにいないと思う。だったら残してあげたいじゃないか。ましてや、こんなにも角の部分だけ入念に描きこんでくれているんだからね。気分は我が子に似顔絵を描いてもらった父親だ。本人は自画像のつもりで描いたのだとしても。





     Δ


「ギャギャ(仲間の血の匂いだぞ)」

「ギャ……(ひでぇ……)」

「ギャ! ギャギャ!!(おい! 地面を見てみろ!!)」

「ギャギャア(もしかして、犯人を教えようと?)」

「ギャア?(けど、なんだこれ?)」

「ギャ? ギャアギャ(え? 角ウサギだろ)」

「ギャ?(え?)」

「ギャギャン?(どこがだよ?)」

「ギャアギャ。ギャギャギャ(どう見てもそうだよ。ここが角で、ここが、耳だろ)」

「……ギャアア、ギャッ(……そう言われると、そんな気も)」

「ギャア! ギャギャ!!(見えた! ホントにウサギだ!!)」

「ギャ!(だろ!)」



「……ギャギャァ(……全然わからん)」

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