とにかく一心
「ナシャナーリャ!? なぜここに!?」
ナシャパパさんの驚く声にも気づかず、ナシャちゃんはまっすぐにアルミーを目指して走ってきていた。今もゴーレムのお尻でぶら下がっているアルミーを迎えに来てくれたというのか。危険だとわかっている場所に、父親の命令を無視してまで。
だけど、その行動はあまりにも愚かだ。地龍グラには、でかいトカゲには子供だからと遠慮する思慮などあるはずもないのだから。
「ゴガアアアアアアアアアアアアアア!!」
地龍グラは自身の攻撃範囲内にありながら未だ逃げ延びている……あまつさえ攻撃をかいくぐって一撃を加えてみせたオレ達を集中して狙うつもりのようだ。おそらくだが女神の存在を感じている様子も見えていたし、優先順位は間違いなくぶっちぎりの1位になっているに違いない。
そんなオレ達に向かって駆け寄ればどうなるか、周囲の誰もが瞬時に理解し、声を荒らげる。
「アルミー! おいで、一緒に逃げよ!」
だけどナシャちゃんは止まらない。アルミーしか見えていない。
そして反対側からは、起き上がった地龍グラが向かってきている。このままオレが逃げればナシャちゃんがどうなるかなんて、シュミレーションするまでもないことだ。
だからといって、オレにどうしろと言うんだ。いくら改良しても、ゴーレムの速度ではナシャちゃんをつれて回避する時間は無い。さりとて超高層ビルが突っ込んでくるような圧倒的質量を、受け止めることなんてできるはずもない。
できるはずも、なかったのに……。
ゴシャアッという鈍い音を立てて突き出したゴーレムの腕がひしゃげ、砕けた。その犠牲はなんら成果を残すことは無く、まるで衰えた様子の無い速度で、巨体がゴーレムを、オレ達を宙へと吹き飛ばした。
合体していたゴーレムの破損によって、体を引き裂かれるような激痛が襲う。だが、所詮砕かれたのは仮初の体だ。ゴーレムは木端微塵に砕かれたものの、その体重の軽さからすっぽ抜けるように吹っ飛んだアルミーの体には大した傷も無い。
とはいえ衝撃だけでもすさまじく、アルミーもまた激痛に苛まれていることだろう。
こうなることは分かっていた。だけど、だけどどうしても逃げることだけはできなかったんだ。
--ずっと独りぼっち。ろくな人間関係もなかったアンタの価値観なんて、マンガや小説、ドラマなんかからの借りものに過ぎないわ。だからゴブリン共からナシャちゃんを助けたんでしょ? 物語の主人公なら、そうするはずだもの。でも、今は違う理由のはずよ--
舞い上がった空中から、地上を見下ろす。地龍グラの勢いはゴーレムを粉砕してもなお衰えず、間もなくナシャちゃんをも押しつぶしてしまうだろう。
その光景に心がざわつく。煮えたぎる思いが湧き上がる。このまま逃げることも可能だというのに、心は迷いなく地龍グラへの怒りに燃えている。逃げるなんて選択肢は、頭には存在しても心には存在しない。そんな感じだ。
ナシャちゃんが大切に思っているのは、アルミーだ。まさか角に意志が宿っているとは夢にも思わないだろうし、その親愛がたかがカルシウムの塊に向くはずもない。だけどオレにとっては、ナシャちゃんは初めて人との触れ合いを感じさせてくれた子だ。物心がついた頃から既に親に抱かれた記憶すらないオレにとって、初めての温もりであり、初めての友達なんだ。寄り添い、共に時間を過ごした家族よりも家族のような存在になったんだ。
こんなことを女神に言われるまで気づかないようじゃ、前世の孤独はまさしく自業自得だったのかもな。
だけど気づいた。理解した。ならばあとはシンプルだ。
今にも地龍グラの下敷きにされそうなナシャちゃんの姿を視界に捉え、ようやくアルミーの足が地面に付いた。と同時に他の追随を許さない速度を生み出す脚力が大地を蹴り飛ばす。
「みー!」
音をも置き去りにしそうな勢いで、アルミーが駆ける。だけど、その速度をもってしてもナシャちゃんの下に駆けつけるには届かない。あと少し、あとほんの少しだけ地龍グラの勢いが落ちていれば間に合うというのに、その一瞬が絶望的なまでに足りない。
その時、閃光が地龍グラを覆った。
人間の軍隊から雨のように飛んでくる無数の光。なんてことだ、異世界に転生して初めて見る魔法だというのに、多すぎてまるでありがたみが無い。チュラ族のみんなは魔法が使えないのか弓で攻撃している。そしてナシャパパさんは娘の危機に槍を掲げて突撃していた。さすがに無謀すぎるだろ。
1人の子供を救うための、人間達の必死の攻撃。だけどそれを鼻で笑うかのように、地龍グラの巨体はナシャちゃんに向かって進み続ける。その速度はまるで変わっていない……ように見えるだろう。人間な感覚ではな。だけど通常時でさえ時速500kmを越える速度の世界にいるオレ達の感覚は、確かに感じだ。
ほんのわずか、ほんの一瞬だが、魔法の勢いに気圧されたのか地龍グラの勢いが落ちた。
アルミーに手を伸ばすナシャちゃん。そしてナシャちゃんに向かって走るアルミー。
今更そんな誤解は生まれる余地も無いだろうが、もちろんアルミーはナシャちゃんに向かっているのではなく、ナシャちゃんのいる方向に向かっているのだ。その向こう側にいる地龍グラに、自慢の角を突き刺すために。
いつもなら、身の程をわきまえろと思うところだ。ウサギなんだから逃げろよ、と。だけど今は、アルミーの行動に否は無い。
みんなが地龍グラに立ち向かう。勝てもしないのに、歯向かって行く。ついさっきまで、オレはそれを馬鹿だと思っていた。そして自分だけでも逃げようとしていた。だって彼らの行動が理解できなかったから。
だけど、今はわかるよ。みんな、守るものがあるんだ。
ナワバリを守る為に、怖くて仕方ない格上に挑むアルミー。友達を迎えに危険な場所に飛び込んで来たナシャちゃん。ナシャちゃんを助けるために無謀な突撃をするナシャパパさんに、領民を守るためにやってきた軍隊と領主さん。
価値観が合わないのは当たり前だ。オレは自分の命の心配しかしていなかったのだから。だから、どうして死ぬと分かっているのに向かって行くのかが理解できなかったのだ。誰もが「守りたい」という想うを抱いて戦っているのに、オレだけが死にたくないと願って動いていたのだから。
馬鹿は、オレだ。ぼっちに相応しい男なのだ、オレは。なんという恥ずかしさだろう。穴があったら入りたい。いや、ウサギの本能とは関係なく。
「アルミー!」
背後に死が迫っているというのに、本当にアルミーしか目に入っていないらしい。なんて嬉しそうに手を伸ばすのだろう。その抱きしめようと伸ばされた腕をスルーして、ナシャちゃんと地龍グラの間にアルミーが体を割り込ませる。
「み!」
クイーンゴブリンとの戦いを思い出す。絶対に勝てないと思った相手。結果的に地龍グラに救われた形になったけど、オレ達は思いを1つにして、一度はクイーンを殺してみせた。そして今もオレ達の思いは1つの筈だ。
地龍グラを、殺す。
--頭では理解できていても動けない、それが大多数の人間よ。だけどアンタは動いてみせた。ゴブリンから少女を守ってみせた。そして今また少女のために、神のごとき龍に挑む。その勇気に、祝福を--
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アルミラージ(0歳) LV26 種族 魔物
体力 1408+6150795
魔力 653+84815
攻撃 1842+419719
防御 864+714280
速度 7786+1060
知能 61
スキル
脱兎・速……逃走時に速度補正(大)
ニードルスピア……頭の角を突き出して突進
スタンピング……後ろ足で地面を叩く。恐れるものなど何もない
大物喰らい(ジャイアントキリング)……格上との戦闘時に敵のステータスの50%付与
雑食……たくさん食べれる
ステップ……なんでも食べれる
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ツノ LV33
鋭さ 10560+100000
固さ 4224+100000
美しさ 1704
優しさ 6
スキル
鑑定……あらゆる詳細を知ることができる
変形合体TU☆NO……変形できる・合体できる
小さな勇気……守る戦いにおいてステータス補正
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すごい、けど地龍グラには到底届かない。いや、当然か。このスキルは弱者が強者に牙を剥く、その足掛かりに過ぎない。圧倒的格上を相手に奇跡を起こすからこその大物喰らい(ジャイアントキリング)であり、勝てない敵から守ろうとするからこその勇気なのだから。
その無謀な願いを叶えるための、これはスキルからの精一杯の手助け。ここから先は、オレ達が死ぬ物狂いで掴み取らなければならない物なのだ。
目前に迫った地龍グラは、圧倒的だとしか表現のしようがない。これだけの補正を受けてもなお、まるで勝てる気がしない。それでも決めたのだ。守ると。
--信じなさい。アンタの信じた「最強」を--
変形……合体っ!!




