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とにかく突撃

 厳しい特訓の成果を発表したいと思う。


 今、俺の目(?)にはかわいらしい真っ白モコモコフワッフワのウサギさんの姿を映っている。マジでかわいいわー。なでなでしたい。角には無理か。むしろ触られる側だし。


 特訓でなにが変わったのかって? いや全然違うだろ。この変化がわからないかなー?

 俺は俺の本体であるところのウサギさんを、水鏡ごしにしか見れなかったんだぞ? それが、なんということでしょう。匠の遊び心で角になってしまった私の視界は、自分が角なんだと理解したことで常識を破壊できたのか、角のどの部分にでも目が生やせるようなイメージで視野を確保することに成功したのです。

 まあ要するに、今までは角の先端から前しか見れなかったけど、別に本当にそこに目があるわけじゃないんだと気付いたことで、視界の位置を移動させられるようになったのだ。もちろん角の範囲内だけだけど。


 その結果、かなり視野は広がった。見えないのはウサギさんの体によって隠された真後ろ……おしりの辺りだけだ。そこはきっと見る必要の無い、むしろ見るべきではない光景だけが約束されているからこのままでいいのだ。世の中には見えない方がいいものもある。


「みっ」


 み? 実? 身? と思ったらウサギさんの鳴き声だった。お目覚めでしたか相棒。

 唐突に起きたかと思うと、体に力を入れてプルプルと震え始めた。なんだ? まるで何か脅威を感じて怯えているかのような震え方じゃないか!




 ウンコでした。


 クルリと反転。ついさっき見なくていいと思っていた物体が目の前に突き出された。しかし妙にやわらかそうな物だ。ウサギの糞って、もっと粒状のコロコロしたものだったような気がするんだけど。病気とかじゃないよな?

 あれ? なんかどんどん近づいていくんだけど? おい、まさか……やめろ、やめてくれ!


 ただいまお食事中です。少々お待ちください。お食事中の視聴者様、不適切な食事シーンが流れてしまったことを深くお詫び申し上げます。

 っていうかマジか。ウサギって自分のウンコ食うのか。そしてそれが血となり肉となり角となるのか。なるほど、心も角も砕けてしまいそうな気分だ。


 俺が心に深刻なダメージを受けて呆然となっている間もウサギさんの行動は続いた。ずっとウサギのターンだ。っていうか俺のターンなんて一生回ってこない。

 ぴょんぴょん跳ねて近くに生えている木のもとへ。そしてそこに転がっていたドングリのような木の実を両手で掴むと、カリカリと小気味よい音を立てておいしそうに食べ始めた。出したら食う。食ったら出す。野生だ。


 あーあ、つまんねーなー。角じゃ食べ物も食べられないし、寝る必要もない。前世でも無用の長物だったけど、性欲も無くなってる。この状態で性欲があっても困るけどさ。

 生きるのに必要と言われた衣食住も必要なく、三大欲求も存在しない。なんてつまらない角生なんだ。この先、他の獣に殺されるより先に心が死んでしまいそうな不安が襲ってくるよ。


 ずしんっ……。


 なんの音だ? ウサギさんも耳をピクピクさせて周囲をうかがっている。


 次の瞬間、壁のように並んでいた木々を轟音と共に突き破って、イノシシに似た生物が飛び出してきた。

 や、やばい! あれは獲物を狙う目だ。異世界のイノシシは肉食なのか!? このままでは心が死ぬ前に獣に殺される! 逃げるぞウサギさん、あんな人間2、3人分はある太さの木をへし折るような怪物、相手にしてられるか!


「みみっ!」


 やだ、勇ましいっ! じゃねーよ!! なんで戦う気満々なんだ! よく見てみろ、自分と相手を比較するんだ。

 かたや頭に15cmばかりの角が生えた小動物。かたや凶悪な牙をむき出しにして鼻息荒くこちらを睨む2m近くある巨大な猛獣。なにをどうすれば「戦う」という選択肢が出てくるんだ。


 さあ逃げろ! なんのためにウサギに生まれた? 逃げるためだ(意味不明)!! なぜウサギは足が速いのかを思い出すんだ!!


 イノシシが「さあ突進するぜ」とばかりに足で地面をガツガツ叩く。負けじとウサギさんも足で地面をパンパン叩いた。無理だよウサギさん、もう負けてるよ。

 ……しかしこの強気な反応。もしかしてこのウサギさん、強い?


 鑑定!


-----

 アルミラージ(0歳) LV1

 種族 魔物


 体力 130

 魔力  60

 攻撃 170

 防御  80

 速度 720

 知能  50


 スキル

 逃走 

逃走時に速度補正

 ニードルスピア

  頭の角を突き出して突進

 スタンピング

  後ろ足で地面を叩く。恐れるものなど何もない

-----


 ……よく考えたら比較対象がおれだけだからよく分からない。ふと目の前を横切った小さな小さなトカゲが目に留まった。よし、鑑定。


-----

 モリトカゲ(0歳) LV3

 種族 獣


 体力 34 

 攻撃 21

 防御 28

 速度 53

 知能 27

-----


 よし、ダメだ! 弱い!! たった5cm程度のトカゲと4倍くらいしかステータスが変わらないなんて!

 やめておこうウサギさん、いやアルミラージさん。君にも見せてあげたいよ、このステータスを。ほら、この貧弱なステータスの中、速度だけはぶっちぎりじゃないか。君はやっぱり、逃げている時が一番輝く生き物なんだよ。

 そのスキルだったらしい足踏みもやめよう。恐れるものなど何もない、って多分そのスキルを怖がる奴がいないって意味だから。


 なにより問題なのは低い戦闘能力でも微妙なスキルでもない。そしてそれは、アルミラージさんがイノシシさんに挑む理由でもある。

 知能50。なんと5cmのトカゲのたった2倍。この小動物は……アホなのだっ!!


 弱くてアホ。生き残るビジョンが見えない。それで逃げるならまだしも、アホだから逃げないのだ。終わった……。 


 ちなみにイノシシ先輩のステータスはこうだ。


-----

 ブレイクボア(2歳) LV14

 種族 獣


 体力 680

 攻撃 869

 防御 475

 速度 680

 知能  59

-----


 こいつもアホだ。アホだが……ステータスの半分が二桁のアルミラージさんよりは遥かに強い。レベルだって比べものにならない。けどあれだな、スキルが無いんだな。よく見れば種族が獣で、ステータスに魔力の項目が無い。そういえばモリトカゲにも無かった。なるほど、魔力があってスキルを使えるのが魔物なんだな。

 魔物より獣の方が強いとか……。


「ブフォアッ!!!」


 あ、まずい。イノシシさんが痺れを切らした。いや待ってたわけじゃないだろうけど。

 どうする。アホな相棒は逃げる気配が無い。せっかく速度だけは上回っているのにだ。このままでは必殺のニードルスピアとやらで正面衝突する未来がやってくるに違いない。

 冗談じゃないぞ。そのニードルなスピアって完全に俺のことじゃないか。あんなのにゴツイのに突っ込んだら折れるに決まってる。


 どうする! 俺には変形合体TU☆NOしかない! そして意味が分からない!!

 とにかく、一番意味不明な合体の部分はひとまず置いておこう。変形なら、スライムに転生した系の主人公達のように使える気がしないでもない。

 けどなー。仮に変形できたとしても、どう変形すればいいんだ? 角を鋭くしたり太くしたりしても、そもそも固さが低いから耐えられない。でも正面衝突は回避不可能。


 イノシシさんが突っ込んできた。タイミングを合わせるようにアルミラージさんも突っ込んだ、無謀だ!

 くっ、正面衝突でショックを和らげるなら、コレだ!! 頼む俺の体、変形してくれーーー!!!




 ばいぃぃーーーーーん! とアルミラージが大空へと吹っ飛んだ。肉体にダメージは無く、角(俺)も無事だ。ちょっと先端が欠けてしまったけど、まぁ直るだろ。


 上手くいった。俺は変形に成功し、そしてバネ状に変形したことでイノシシの突進を吸収することにも成功した。

 それでも完全には防ぎきれず、なかなかの衝撃に襲われたが体に異常が出るほどじゃない。むしろ問題はその殺しきれなかった突進の衝撃と、バネの反発によって舞い上がったこの上空からどうやって着地するかだな。

 あーれー……

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