とにかく確認
やっていいことと悪いことがある。これは悪いことだ。そんなことも判らないのか、あのインケン女神は!? 断じて聞き間違えや勘違いなんかじゃない。あの別れ際のラスボスのような笑みはこういうことだったんだ。
っていうかマジかよ、ウソだろ。誰でもいい、この際ウサギでもいいから嘘だと言ってくれ。あっいや、やっぱウサギは言うな。怖い。
そんな俺の苦悩なんて知るはずもなく、ウサギさんは満足するまで水を飲んで草のベッドで眠っているらしい。ウサギって地面に穴掘って住んでると思っていたけど、そうでもないんだな。それとも巣穴は別にあるのか?
そんなことどうでもいいか。それよりも現状をどうするか、だ。
まず……俺はウサギの「角」だ。人間どころかウサギですらなく、その頭に生えた灰色の角。それは認めよう。というか認めないことには話が始まらない。
ではその角であるところの俺は、これから先どうやって生きていけばいいのか。……っていうかコレ生きてるって言えるのか? 意志が宿っているだけで、角には心臓も脳も無いんだから生きているとは言えないだろ。
じゃあ俺にとって『死』とは何だろう? 角が折れたりした場合、折れた角としてそのまま存在していられるんだろうか。だとすればこのウサギが狩られて、その角(俺)からハンティングゲームのごとく武器を作ったとしたら、俺=武器に変化する可能性がある。
本当にそうか? 角ってことは、骨だろ。ウサギの骨。ウサギの生命活動の結果、成長したりする体の一部だ。ウサギが死んだ瞬間から代謝が無くなり、ただ風化していくのを待つだけの物体。
だ、だめだ。そんな怖い賭けができるか。しかも命を賭けるわりに、大して待遇が改善されていないし。
ということは、俺の新しい命(?)はウサギと共にあるということか。ウサギと一蓮托生。ウサギの寿命って何年だっけ? 覚えてないけど、10年以上は生きなかった気がする。武器にジョブチェンジするならその後として、まずは天寿を全うするまでウサギと共生するしかない。
俺はこのウサギの角だ。俺はこのウサギの武器だ。このウサギの命運は、俺にかかっていると言っても過言ではない、と思う。
って言っても角だよ、角。自分じゃ身動き1つできない尖った骨風情に何ができるっていうんだ。せいぜいウサギが角で攻撃する時に、心の中で気合の限りを込めて熱血バトル漫画のごとく叫ぶくらいなものだ。なんか意味あんのかそれ。
ハッ、そうだ!
あまりのことに気が動転していて忘れていたけど、俺には女神様から授かったチートがあるじゃないか! ……あるよね? あるといいなー。 いや、ある! 望み通りにしたって言っておきながら、こんな揚げ足をとるような真似してゲラゲラ笑うだけで終わりなんて、さすがに女神として許されない行為だ。
テンプレなら転生者はステータスとか見れるはず! そう無意識に思っていた俺の『望み』の中には、きっとその能力も組み込まれているに違いない。
さあ、いでよステータス!!!
……テンプレ舐めてたわ。あと女神、やっぱ意外といい人かもしれない。
出たよ。出ましたよ、ステータス。死んで女神に会ったら一発刺さってやろうと思っていたけど、ナシだ。本当にちゃんと望み通りにしてくれてたわ。あ、いかん、考え方が早くも角になってきてた。
さて、それじゃあ早速ステータスを拝ませていただこう。といっても大した情報量じゃないから、一瞬で見終わりそうだけど。
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ツノ LV1
鋭さ 500
固さ 200
美しさ 80
優しさ 5
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角に優しさって必要か? 上2つはわかるよ。美しさも、角は工芸品とかに使われたりするから理解できる。まあ自分のことを材料扱いされてるみたいで気分は良くないけど。でもさ、優しさは関係ないだろ。
しかし美しさと優しさはとにかく、この鋭さお固さの数値はひょっとして凄いんじゃないだろうか? だって500だぞ、500。あと200。さっき水面に見えた角は、綺麗とは言い難いが特別汚くもなかった。良くも悪くも、いかにもな感じの角だ。それで80なら、500っていうのは高い気がする。
そして優しさは低すぎる気がする。
俺、なんかしたか? したな。
面白半分とはいえ転生させてやろうとした俺に噛みつかれたのがムカついたから、優しさが最低クラスだと、どうしても刻み付けたかったんだろう。それで心が美しいなんて言わせようとする方が間違ってると思うね。
だがそんな女神様の嫌がらせも、チートさえあればささやかなジョークとして笑い飛ばすことができる。角のスペックは、まあ可愛いウサギさんの頭に乗っかってるものに相応しい程度のものだったから、チートはきっとスキルの方だ。
そして俺には2つ、最初から備わっているスキルがあった。
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スキル
鑑定
変形合体TU☆NO
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……ひょっとして俺はおちょくられているんだろうか? いや、断言できる。あの女神は、俺を、馬鹿にしている!
なんだ! 変形合体って! このふかふかのウサギさんのどこにロボの要素がある!? あれか、ウサギが5匹集まって、ウサギンガーになるのか? んなわけあるかボケェ!! ☆もウゼェ!!!!
ふぅ……落ち着け。これが約束のチート、それは間違いない。名前からして明らかに世界のルールを無視していそうだしな。鑑定をチートとして扱う作品もあるのが怖いところだけど、動けもしなければ話せもしない角が鑑定できたところでチートとは呼べまい。俺が認めないんだから、これは望み通りはと言えない。だからこの、なんだ……変形合体もにょもにょが俺のチートなのだ。
信じるんだ、あの性悪女神を。信じるんだ、俺の妄想力を。特撮はそんなに興味無かったはずなんだけどなぁ。
とにかく、鑑定! 変形合体TU☆NOの謎を解き明かせ!!
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変形合体TU☆NO
変形できる
合体できる
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んなことは名前見た時点でわかってんだよ!! マジで? マジで説明これだけ!? ……これだけだった。「変形できる」の文を鑑定しても何も出てこない。自分で探っていくしかないのか。
だとすると、スキルってどうやって使うんだろう? 恥ずかしいけど、やっぱり基本はスキル名を叫んだりする感じだよな。よし!
……俺しゃべれねーじゃん!! 角しゃべれねーよ!!
なら念じるしかない! どうせ誰も聞いてないんだ、恥ずかしがるな。行くぞ、変形合体TU☆NO!!!!!
新しい世界は一体どれだけ俺に試練を課せば気が済むのだろうか。心の中で魂の叫びが虚しくコダマした、ような気がした。
っていうかこれ詰んでね? しゃべれない俺が念じてもダメだった場合、他にどうすればいいというのか。いや、まだだ。偉大な先人の言葉を思い出せ「考えるな、感じるんだ」
スキルがあるということは、方法が間違っているだけで間違いなく存在しているんだ。信じろ俺、俺の中に眠るTU☆NOを!!
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!! 目覚めろ! 俺のシックスセンス! 迸れ! イン、スピレーーーーーションッ!!!