とにかく決心
おおう、いかにもな山間民族の集落だ。もっと風景がよければ空中都市マチュピチュを連想させるのだけど、残念ながら景色はひたすら山ばかりだ。周囲を完全に山に囲まれた、いわば鍋の底のような地形になっているからな。ちらほらと木と草でできた建物もあるが、石の建物とどう使い分けているのかな?
近づくにつれ、村の様子がよく見えるようになってきた。もう日が暮れる寸前だからか、たくさんの松明に火が点され始めている。その光に照らされ、松明を持っている人達の姿も見えた。ナシャと同じ民族衣装らしい服装をした男の人がほとんどだ。女性はいないのですかっ、女性はっ!
しかしまあ、部族民族というと野蛮なイメージが強かったのだが、少なくともほとんど裸の状態で顔に絵を描いて槍とか持ってる人達じゃなくて良かった。そんな連中が肉を求めてウンババウンババ言いながら追ってくる姿を想像すると寒気がする。
あ。男達の中でも一際たくましい肉体をした、すごく強そうな男の人がオレ達に……というかナシャに気づいた。
「ナシャ! ナシャナーリャ!! おおおお、ケガは無いか! 心配をかけおって!」
「パーパ!」
お、お父様でしたか。ウサギ食べないでね?
ナシャがパパに飛びついた。あんな怖い目にあった後なのだから、喜びもひとしおだろうな。その際に抱っこしていたアルミーは地面に落っこちてしまったけど。それでも起きないのね、キミ。
「鬼の森でゴブリン共の動きが活発になっているという話をしている時に姿が見えなくなって、村の皆も心配していたのだぞ」
「ごめんなさい……アパの実が食べたくて」
「そんなもの、パパがいくらでも取ってきてやる。しばらく森に近づいてはイカンぞ」
「うん」
いいパパだね。でもオレ知ってるんだよ。……アルミーを傷つけた罠の仕掛け人がテメェだってなぁぁぁ!!
ナシャちゃんのパパじゃなかったらこの角がお前の尻に突き刺さっているトコだぜ? 安心しろ、ヒップホールは狙わねぇ。そこはオレも嫌だ。だがそのすぐ近くを狙われる恐怖に、貴様はズボンを脱ぐことができなくなるのさ。ふはははは。
「見つかったのか!?」
「良かった良かった」
「まったく、人騒がせな」
「なぁ、なぜかアルミラージが落ちてるんだが?」
ぞろぞろと人が集まってきた。その全員が松明と武器を持っていることからして、帰ってこないナシャを探しに行くために集まった捜索隊だったのかもしれない。食べ物の匂いもするから、携帯食料も持ってまさに今から森に突入するところだったみたいだ。
親切な人ばかりとか、いい村だな。だがナシャにとってのいい村が、オレ達にとってもいい村だとは限らない。そう、そこのお前だ。腹を空かせた猿のような目でアルミーを見るな。手を伸ばしてくるなっ!!
「あっ」
アルミーのピンチに気づいたナシャちゃんがパパの腕から飛び出して、飢えた猿の前に立ちはだかった。
「サリュさん、だめ」
サリュて。そこまで来たら、もう名前サルで良かったんじゃないか? たぶん生まれた瞬間からサル顔だぜ、こいつ。
ナシャちゃんに「だめ」をいただいたサリュという男は、まるでTVの実験でガラスの向こうのバナナが取れなくて困っている猿そっくりの顔をしている。見えているのに食べられない。その理由もイマイチわからない。ぐるりとガラスを回避すればいいのは分かっているのだけど、それをするときっと番組スタッフと飼い主に怒られる。そんな状況の猿の顔だ。
「ウキャ……? そいつは魔物ッキャ。危ないキャ」
お前は一体どこまで突き進む気だ? というかもうコイツ、人か猿かで言ったらむしろ猿なんじゃないか? もちろん人は猿の仲間だけど、コイツはもう仲間というより家族だ。そうか、異世界なんだから猿の獣人という設定もあるかもしれない。……尻尾が見当たらないけど。
「危なくないもん! ウサギさんがナシャを助けてくれたんだもん!!」
あまりの猿っぷりに猿のことばかり考えていたが、そういえばオレとアルミーのピンチだった。頑張れナシャちゃん! この裁判は逆転できる!
それからナシャちゃんはたどたどしく、イマイチ脈絡が繋がらないながらも一生懸命アルミーとの出会いと、颯爽と現れて救い出したヒーローぶりを語ってくれた。
罠を外したくだりでは、ナシャちゃんのお父さんの目がキラリと光った気がした。きっと後で怒られるんだろうな。ゴメンね、ナシャちゃん。キングゴブリンの家に飛び込んで救いだしたシーンでは、話すナシャちゃんも興奮気味だった。飛び込んだんじゃなくて、落ちたんだよ。君を見捨てようとした直後に。ゴメンね。
話し終え、罠を外したことは黙っておけば良かったと気づいてソロリと逃げようとしたナシャちゃんをしっかり捕まえながら、ナシャパパは「うーむ」と唸った。
「信じがたいな。魔物はよほどのことでもなければ人には懐かん。基本的に魔物と人は相容れん天敵同士。だが、ナシャがウソをつくとも思えん。ウソだけはイカンと常日頃から口酸っぱく言ってあるのだからな」
ええ、自分の罪を普通に暴露してしまうくらいには正直な子です。ただ、本人はウソをついているつもりじゃなくても、結果的にウソだったという可能性もあるんですよ。例えばウサギはぶっ殺す気まんまんだけど、武器の角がストップをかけている可能性とかも、ちゃんと考えてる?
「お、おいアレ!」
突然男達が騒ぎ始めた。え? 森?
うげぇ!? ゴブリン共、こんなトコまで追いかけて来やがったのか!! だがしかし! 既にオレ達に人間の保護下にあるのだよ! なんだかんだ言って人間ってのは強い。それはフィクション、ノンフィクション問わず共通のはずだ。
例えばナシャパパさん。そのムキムキの肉体で弱いだなんてことは有り得ないでしょ。ちょっと覗かせてもらいますよー。鑑定!
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バンカラ・バラン(29歳) LV21
種族 人間(チュラ族)
体力 1816
魔力 128
攻撃 2180
防御 1012
速度 908
知能 1481
スキル
槍術 体術 弓術 剛腕 剛体 迎撃軌道 隠密 索敵 罠設置
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ん? んん?
なんだろう。思ったほどじゃない? レベルも29歳なのに21しかないぞ?
他の人達も鑑定してみたけど、もっと弱かった。ここに集まっている中で一番強いのがナシャパパで、その次に強い人ですらレベルは17しか無い。
え? ひょっとしてゴブリンって結構強い部類なの? それともこの村の人が特別弱いの? でもこの筋肉で弱いってありえないだろ。
違うな。比較対象が間違っているんだ。キングゴブリンと比べればカスだけど、ノーマルゴブリンよりは遥かに強い。スキルを見て想像する分にも相当戦ってきていそうな感じなのは分かる。それでもなお、このレベルか。基本的に生活のために動物だけを狩っていて、魔物とは極力避けているのだとしても、29年生きて21しかレベルが上がらないなんて。
オレのレベルは、今は16。この森にウサギの角として生を受けてからわずか6日。罪のない森の仲間達はなるべく狙わず、魔物を集中砲火しているとはいえ、これは驚異的な早さだと思う。最近はめっきり上がりにくくなってきているとはいえ、ゴブリンの集落で大暴れしただけで3レベルアップした。
もしかしてオレとアルミーはレベルが上がりやすい?
ああ、そうか! 分かったかもしんない。
レベルが上がるにつれてレベルアップが難しくなるのはどういう法則か。そういえば以前経験値について考察した時にも似たようなことを考えていたっけ。
レベルが上がると、必要な経験値が増える。あるいは手に入る経験値が減る。いろいろ考えたなぁ。そしてオレは今、ついに気づいたのだよ。レベルが上がるほどに必要な経験値が溜まりにくくなるのは、自分が強くなったせいなんだ。弱い敵と戦って、なにが「経験」かと。1+1を延々と解き続けても算数の成績は上がらないのだから。
そしてアルミーは、弱い! レベルアップしてもなお、ステータス上ではノーマルゴブリンにも劣るほどに弱いのだ! そんな弱者がチートという裏技を使って強者を次々と倒して、レベルが上がらないわけがない。
雄たけびを上げて男たちがゴブリンに突っ込んでいく。
ゴブリンの数は10匹。鑑定で見た情報から、人間がゴブリンよりも強いことは分かっているから心配はしていない。だけど強いからこそ、レベルが上がりにくく、一定以上の猛者がいない。
駄目だ。この村にキングゴブリンをどうにかする力は無い。
「み」
「あ、ウサギさん起きた」
ゴブリンと戦うパパと戦士たちを遠巻きに応援していたナシャちゃんの腕の中でアルミーが目を覚ました。気分はどうだい? 痛いところは? ……無さそうだね。元気にナシャちゃんから逃れようと暴れている。どうやら今回は逃げる気分のようだ。
あまりの暴れっぷりにナシャちゃんの拘束が緩む。その隙を鋭く突いてアルミーが地面に下り立った。そしてダッシュッ!! あー……さよならナシャちゃん。あんまりな別れ方でゴメンね。でもこの子アホだから許してね。
さすがアルミー、あっという間に森の前だ。そう、男達とゴブリンが戦っていた場所。そうしてそこに突っ込むかなぁ? あ、一眠りしてお腹がすいてるのか。もう完全にゴブリンは食料として認識されてるな。
さっき大暴れしたからだろう。ゴブリン達はアルミーが突っ込んでくる姿を見るや、慌てて逃走を始めた。だがアルミーからは逃げられない。
ゴブリンがウサギから逃げる姿に呆然としている男達を抜き去り、森の中へと追走していく。
はい、1匹! 次ぃ! ほい、もう1匹ぃ!!
どうせ逃がしてキングゴブリンの元にナシャちゃんの村の情報を持ち帰らせるわけにはいかないんだ。ぶっ殺ぶっ殺。
そうして全部のゴブリンを倒した時には、オレもアルミーも更に1レベルアップを果たしていた。ゴブリン村である程度溜まっていたんだろうけど、やっぱりレベルが上がりやすい。
追いかけ続けるだろうキングゴブリン。撃退する力の無いナシャの村。そして成長の早いアルミー……もう答えは出ている。
キングゴブリンは、オレ達が倒す。




