表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/41

とにかく脱出

 あああああああああああああああああああああああああ!!? あーれぇーーーーー!!


 アルミー! なんてことをーーー!! せっかく人が自分の負を認めて、人でなしな結論を出す覚悟を決めたっていうのにっ!!

 ひぃぃ! 思ったより高い! 怖い!


「みぃぃぃぃぃ!?」


 いや、お前がI can fryしたんだろ!! そりゃ驚かせたオレが一番悪いんだけども!! だけどその恐怖、よく分かるぞ! だってオレも落ちてるんだもの!!

 さすがにこの高さは野生の力でも着地は無理そうだ。角をバネ状に変形させても、そう上手く衝撃を逃がせる保証は無い。


 なら……変形! 角パラシュート!


 オモチャみたいな大きさの、柔軟性も無いパラシュートだけど、アルミーの小さく軽い体くらいなら完全ではないにしても支えられる。

 よしよし、かなり減速できたぞ。これならケガなく着地できるはずだ。


 うん? あれ? 急に風が出て来たな?

 あわわわわ、どんどん流されていく。このままだと、あのボスがいるっぽい大きな家の上に飛ばされてしまいそうだ。

 いや、待てよ? 変に地面に降りるより、屋根の上の方が見つかりにくくていいのかもしれない。もう夕暮れ時だし、少しアルミーを縛り上げて夜を待てば安全に脱出できそうだ。もし余裕があれば、女の子も連れて行ってあげればいい。その頃には女の子の方が余裕を失っているかもしれないけど……。

 ブンブン! 情にほだされるな、オレ! 欲をかくな、オレ! 見捨てると決めただろう! 身も心も救うだけの力も覚悟もオレには無いと分かってる筈だ!


「みー!」


 わっ? どうしたんだアルミー。急に足をバタつかせて。

 屋根に……穴? ああ、ウサギだもんな。穴に入りたいのか--って、ダメダメダメダメ!!? 冗談じゃないぞ、あの穴に入るってことは、ボスのお家にお邪魔するってことじゃないか!! ダメだってアルミー! 足を動かして微調整しないでぇぇぇぇ!!!


 あー! ダメだー! アルミー微調整うまい!! ピタリと穴の真上にポジショニングしちゃった!

 なんてこった。今さら角パラシュートを解除しても真っ逆さまだし、こんなボロい屋根じゃ角でしがみ付こうにも引っ掛けたトコが剥がれておしまいだ。

 いやぁぁぁぁぁ……穴に吸い込まれていくぅぅぅぅぅぅぅ…………





「ゴブルルルル?」


 お、お邪魔します。

 外観と大して変わらない内装のボロ家の中で、突然空から落ちて来た可愛くて美味しそうなウサギさんを、家の主はポカンと見つめていた。着地した場所が喰い散らかされたカスが散乱するダイニングテーブルらしき物の上なんだけど、深い意味は無いんだよ? 別に夕食に1品追加されたわけじゃないからね?


 通常のゴブリンを太らせて巨大化させたようなゴブリンと見つめ合う。ノーマルゴブリンよりもたくさんの角が生えていて、頭がイボイボで気持ち悪い。どう見ても普通のゴブリンじゃないな。


 どうやらボスゴブリンは状況をうまく呑み込めないのか、動かない。ありがたい。オレもアンタを馬鹿にできるほど頭が回っちゃいないんだ。アルミーに至っては足下の食べかすをモグり始めている。この子は頭が回ってないんじゃなくて、スッカラカンなんだ。


 とにかく脱出だ。ボスゴブが呆けている今しかチャンスは無い。出口は……あそこか。


「うさぎ、さん?」


 ……声を出さないでくれよ。せっかく意識して見ないように、気づかないようにしてたのに。

 ボスゴブの足下でうずくまっている小さな影。どうやらまだ無事だったようだけど、まさに今から無事じゃなくなる所だったようだ。涙で目を腫らしてしまっている。

 5才かそこらの子供をこんなにも怖がらせた犯人……ボスゴブの股間は案の定GINGINだ。お前らみんな死んじまえ。


 オレにコイツらを責める資格なんて無いか。こうなると分かっていて、オレは見捨てようと思っていたんだからな。

 だけど、想像の中のイメージと、現実の光景とでは違う。違い過ぎた。


 女の子の出した声に我を取り戻したのか、ボスゴブがハッとなってオレ達を睨んできた。圧倒的格上が放つ怒気と殺意。それらは意外なほど、オレの心には響かなかった。


「ゴブルルルァァァァァッ!!」



 黙れよ。



 有りもしない胸が締め付けられるようだ。心が怒りの声を上げているのが分かる。

 あんな子供を悲しませたのは誰だ。こうなると分かっていて見殺しにしようとしたのは誰だ。何が「死が恐ろしい」だ。今この身を苛んでいる「痛み」に比べれば、トラックに轢かれる程度の痛みがどれほどのものだと言うんだ。


 実際に目にした幼い子供の泣き顔が、オレの動きを縛り付けていた全ての鎖を引きちぎる。


 角ハンマー!!

 アルミーが次の食べ物に行こうと首を回した瞬間を見計らって、角をハンマー状に変形させる。長さも伸ばした角ハンマーが家の柱を殴りつける。ただ殴った程度ではさすがに壊れないだろうけど、先端を尖らせておけばどうだ。


 柱がミシミシを音を立てる。打ち込まれたわずかな穴でも、このボロ家には致命的なダメージになった。屋根に大穴が空いているだけのことはある。


「ゴブァッ!!?」


 家を壊されたことにボスゴブが怒りの声を上げるが、「ざまぁ」としか思わないね。それに家を壊したのはお前に嫌がらせをするためじゃない。


「み!?」


 崩れ始めた天井に、アルミーが驚いて食事をやめた。さあ逃げるんだアルミー! その足を輝かせる時が来た!!


 脱兎。誰が生み出した言葉だか知らないが、ウサギは逃げてこそウサギである。テーブルの上の食べかすを吹き飛ばし、猛烈な勢いでアルミーが駆けだした。

 だがその速度は、ボスゴブの横をすり抜けた時に減速することになる。


「ひゃあ!?」


 角を変形させて、女の子をキャッチする。もちろん小さな子供の体重とはいえ、アルミーのもっと小さな体には大荷物だ。それでも……すまないアルミー! オレはこの子を救うと決めたんだ!


「みぃーっ!!」


 オレの想いが伝わったのか、それとも荷物が増えたことに気づいていないのか、アルミーは女の子を乗せたまま走ってくれた。かなり辛そうな鳴き声が出たけど、あとでお腹いっぱい獲物を獲ってあげるから頑張ってくれ。


「ゴブルルアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーッ!!!!」


 ひぃぃぃ! めちゃくちゃ怒ってるぅぅーー!

 家を壊されて、獲物まで掻っ攫われたんだから当たり前か。憤怒の声を上げて、ボスゴブが追いかけてきた。家の破片がかなり当たった筈だけど、まったくダメージにはなっていなさそうだ。


「ギャア?」

「ギャギャァ!」

「ギャ」


 ボスゴブの声に呼び寄せられたのか、周囲の家から次々とゴブリン達が姿を現し始めた。1匹2匹……ああ、もういいや。数える気にもならない。一杯だ、いーっぱい。


「ギャギャギャー」


 アルミーを捕まえようと囲い込んでくるゴブリン。普段のアルミーなら小さな体とスピードを生かしてスルスルとすり抜けるように逃げられるんだけど、今日は大きな荷物がある。女の子の体はわずかなウサギサイズの隙間を通れないし、なにより子供1人分の重さはアルミーのスピードとスタミナを確実に削いでいた。


 あ! 女の子に向かってゴブリンの手が! させるか、角ランス!!


「ひ--」


 目の前でゴブリンが脳天串刺しになった光景は刺激が強すぎたのか、女の子が小さく悲鳴を上げる。だけど悲鳴を上げたいのはオレの方だ。ウゴゴゴゴッ、子供の体重を支えるのも必死だったのに、攻撃に角の質量を割いたもんだから負担が……っ! お、折れるかと思った。

 ええい、泣き言を言ってる場合じゃない。ゴブリンは次から次へとやってくるし、ボスゴブも確実に距離を詰めてきている。


 角ブレード! 角ハンマー! 角スピアー! ……スピアとランスって何が違うんだろ?

 ダメだ! いくら敵を倒しても減ってる気がしない。そうこうしてる間にもボスゴブはどんどん近づいてきている。このままじゃ、いつか捕まる!


「みっ!」


 な、なんだ!? 更に1匹ゴブリンを倒した瞬間、急にアルミーが加速した。そうか! レベルアップしたのか!!

 そうだよ。こんなにたくさんゴブリンがいるんだ。アルミーが逃げるのをサポートするより、ガンガン倒してレベルを上げてしまえばいいんだ。レベルさえ上がれば、女の子を乗せていようと逃げ切れるだけのスピードが手に入る!


 そうと決まれば……うおおおおお! 角ランス乱れ撃ちーー!!! ツノツノツノツノツノツノツノツノツノツノツノツノツノツノツノツノーーー!!!


 夕食の支度をしていたのか、もう眠っていたのか、ゴブリンは次々と集まりはするものの、一気に大勢では現れてこない。それが幸運だった。逃げ回るアルミーを捕まえようと近づいてくる奴らを順番に仕留め、経験値に変えていく。

 

 そしてゴブリン達が恐れ、尻込みを始めた。うかつに近づけず、こっちの様子を見ている。余裕ができたから、アルミーのレベルを確認しておこう。


-----

アルミラージ(0歳) LV8⇒11

 種族 魔物


 体力  253⇒ 337

 魔力  117⇒ 156

 攻撃  331⇒ 441

 防御  155⇒ 206

 速度 1400⇒1863(-1000)

 知能   50⇒51


スキル

 逃走⇒脱兎(ランクUP) ニードルスピア スタンピング 大食い 雑食

-----


 よし、女の子を背負っているマイナス補正がある上で、ゴブリンの速度を越えられた。ボスの命令に素早く対応したが為にオレに狩られたゴブリン達は、側近とも言える優秀な奴らだったのかな。思っていたよりすぐにレベルが上がってくれた。


「み!」


 アルミーもゴブリン達がついて来れないと察したのか、チョコマカ動くのはやめて一直線に集落の外に向かって走りだした。アルミー賢い! さすが知能が1上がっただけのことはあるね! ……ホントやっと上がったよ。1だけど。


「ゴブルルゥ……」


 ゴブリン達を掻き分け、ボスゴブが姿を現した。残念だったな、オレ達の勝ちだ。今回は……な。

 ヤツの怒りに満ちた目が語っている。絶対に許さない。絶対に逃がさないと。


-----

 キング・ゴブリン(5歳) LV24

 種族 魔物


 体力 10981

 魔力  5865

 攻撃  8320

 防御  6654

 速度   438

 知能   779 


 スキル

   悪食 剛腕 器用 統率 威圧 王者

-----


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ