とにかく転生
ストックが無くなるまで毎日更新。それ以降は、まあ3日に一回は絶対更新します。
どこまでも広がる真っ白な空間。はるか奥の方に見える建物は、かの有名なパルテノン神殿によく似ていた。
この風景、この展開、間違いない。何百作と読んできたんだ、間違いようがない。転生だ。異世界転生だ。そういえばここに来る直前にトラックに轢かれたから、それが死因だろう。むしろここまで条件が一致して、異世界転生じゃない方が間違ってる。
案の定、どこからか澄んだ鐘の音が響き渡り、天空から純白の衣を身に纏った美しい女性が舞い降りてきた。
女神様キターーー!!
すっげぇ美人だ。最新のCGで作ったんじゃないかってくらい整った顔はもうむしろ不自然で、人形だと言われた方がまだ納得できる。肌も髪も全てが白い、現実離れした容姿の女性だ。スタイルも抜群。ゴクリ……ッ。
--うっさいわねー。女神であるこの私が美しいなんて、そんな当たり前のことで騒いでんじゃないわよ--
あれ? 見た目に釣り合った予想以上にキレイな鈴の音のような声で、予想もしてなかった事を言われた。
あー、萎えたわー。心は見た目ほど美しくないってか? 自分のこと美人だと思ってる美人とか、台無しだから。二次元美少女の謙虚さをを見習えよな。
--は? ナニあんた最悪なんですけどー。未成年なのに事故って死んだの、ちょっとカワイソーだなーって思ってわざわざ来てあげたのに。やだやだ。テンションさがったわ。転生させるのやーめた!--
え、うそ? 聞こえてた? そういえばさっきも……わーーーー!!? うそうそ、嘘です! 冗談、小粋なジョーク!! いやぁ、地上じゃバカウケだったんだけどなぁ! おかしいなぁ!? ははは! いやはや下賤な人間の冗談を、頭の先からつま先までお美しい女神様に言うなんて、俺は大馬鹿者でございますです、はい!!
--あんたマジ最悪だわ。ってゆーかやっぱ見た目しか褒めてないし--
心が美しいなんて、わざわざ言うまでも無いじゃないですかー、やだー。
--もーいいわよ、取り繕わなくて。転生させないの、決定事項だから--
ふっざけんなよ、このクソババア! どうせ何千年も生きてんだろうが、みみっちいこと気にしてないで転生させろよ!! もちろんチートも忘れずにな!
--お、こ、と、わ、り。もともと小石につまづいてトラックに頭突きで挑んだバカの姿が面白かったから、暇つぶしで来たんだもん。テンションガタ落ちにさせられたら帰るでしょ、普通--
だったらせめて、ぬか喜びさせた責任は取れよ!!
--調子に乗んなっつーの。なんでたかだかちょっと賢いだけの猿に女神の私が責任感じなきゃいけないのよ。何? 自分が特別だとでも思ってたの? ヤダ、恥ずかしー。ぷぷぷ--
悪かったよ! 土下座でもなんでもするから、とにかく転生させてくれ! 頼む!!
--……あーもー、これ以上その顔を見てるのもダルいし、うるさいし、望み通り転生させてやるわよ。そう、望み通りに、ね--
世界が光に包まれる。なんだこれ、まさに天に昇るような心地だ。これが転生……と思わせて実は浄化されたとかじゃないだろうな。なんか光の向こうで女神様が極悪な笑みを浮かべているのが見えたんだが。お前それ女神の顔じゃないよ。悪の組織のボスとか黒幕とかの顔だよ。
Δ
どうやら俺の心配は杞憂だったようだ。少なくとも転生は成功したらしい。目の前に広がっている森がその証拠だ。
さて、どんな感じに転生したのかな? 見た目は、まあ生前のままだろう。特になにも要望しなかったし。そこは別にこだわらないからいいや。それより能力だ。望み通りに、って言っていたからチート能力もくれたに違いない。
うーん、そうなると悪い事言っちゃったな。上げてから落とされたショックがあったとはいえ、一応は救う義理も無い俺を転生させるために来てくれてたんだもんな。うん、俺が悪い。この新しい人生をまっとうして、もう一度死んだ時に改めて謝罪と感謝をしよう。
おっと、それよりまずは情報収集情報収集。ここがどんな世界なのか、俺にどんな能力があるのか、しっかり把握しないとな。危険な世界なら早く把握しておかないと、またすぐ死んでしまうかもしれない。
ところでさっきから全く身動きできないんだが、どうなっているんだろう?
自分の体がどんな状態なのか見てみようにも、首を回すことさえできない。おいおい、もしかして誰かに捕まってる状態からスタートなのか? いきなりピンチなのか?
と、その時。今までまるで動かなかった視界が動いた。ぴょん、とまるでジャンプするかのような動きだ。なんだ、誰かが俺を運んでるのか? 一体どこに連れて行くつもりだ?
すると何度かぴょんぴょんする内に湖が見えてきた。なるほど、あそこが目的地か。きっとあそこで休憩するつもりなんだろう。だとすれば俺のことも一度降ろすはずだ。その時になんとか解放してもらえるようお願いするしかない。
口をふさがれているのか声もまったく出せないのだが、目と目が合えば人は通じ合える、かも。あ、言葉通じなかったらどうしよう。ジェスチャーでなんとかするしかないか。
っておいおいおいおい! どんどん湖に近づいてくぞ!? 近づきすぎじゃありません!?
もう水面が目の前--がぼがぼぁっ!? うおおおお!? こ、殺される!?
……って、あれ? 顔を水中に突っ込まれてるっていうのに苦しくない?
ばちゃ、と水中から引き揚げられた。無意味だと気づいたか。
しかし俺は本当にどうなってしまったんだろう。動けない体。出せない声。水中でも息が苦しくならない。だんだん不安になってきた。大丈夫だよね、女神様。俺の望み通りにしてくれたんだよね? 俺、今では本当に心から感謝してるんですよ?
水面の波紋がゆるやかになり、やがてそこに俺の姿を映し出された。
白いモコモコの毛皮。真っ赤な目。3段アイスのように重なってお尻に乗っかる2つの丸い尻尾。そして額には鋭い角。いかにもファンタジー世界で生息していそうな生命体。
う、うさぎ!? 角の生えたウサギ!!? 俺はウサギに転生したのか!?
いや待て。待てよ。それなら自分で動けるし、鳴き声くらいは出せるし、水中に突っ込んだら苦しいだろ。ま、まさか……。
女神様! 俺の望み通りに転生させてくれたんじゃなかったんですか!? 俺の望み通りに--
『土下座でもなんでもするから、とにかく転生させてくれ!』
『とにかく転生させてくれ!』
『兎に角、転生させてくれ!』
あんのアマァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!