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儚き望みの『サブヒーロー』  作者: 生月 太郎
8/16

8話 「誰!?ねぇ透真、この人誰!」

 問◎転校してきた少年が教室に入った時、クラスの少女が少年を見て「あー!アンタ、あの時の!」と叫んだとする。彼等の間にはどういうイベントが発生していたと推測出来るか、簡潔に述べよ。


 答☆ラッキースケべ。恐らくは未成年の美少女が「責任取りなさいよ!」と叫ぶくらい重度のモノ。しかし、ラッキースケべに遭遇した後も変わらぬ対応を取り続ける美少女達は本当に芯が強いと思います まる


 (主人公検定4級模擬試験問題より抜粋)


♦♦♦


 やはり、と言うべきか。俺はそうそうに脇役検定に飽きてしまったので、主人公検定の勉強をやっていた。

 脇役検定をやっていたらなんだか胸が苦しくなってくる。不思議だ。

 しかしまぁ主人公検定をやっていると気分がすっきりするというか何というか。

 俺は朝の勉強が習慣になっていたのではなくて、朝の主人公検定の勉強が習慣になっていたと気づく。

 「ふぅー…………」

 一通り、勉強し終えた所で背伸びする。長い時間、と言っても30分程だが、椅子に座って固まっていた体をほぐす。これも習慣みたいなものだ。

 俺はちらりと横を見る。

 そこには、やっている内容は違うが、勉強しているアニメの住民が座っていた。

 いつもなら、この時間その席には山田さんという少女が座っているのだが、今日に限っては濃いピンク色の髪を腰辺りまで伸ばした少女が座っていた。

 俺達と同じ制服を着ているため、かろうじて同じ高等部だと分かる。が、逆に制服がなければそれ以外の彼女についての情報が殆ど無い。

 しかし彼女は自分の事を山田さんと名乗っている。言われてみれば声はそっくりそのまま山田さんだし、口調や話のテンポも山田さんだ。

 しかし、このアニメの住民を普段接している山田さんと言われても無理があるだろう。

 本来の山田さんは黒髪で主張の控えめなポニーテールで眼鏡がよく似合う純日本人だったのだが、目の前の彼女は全然違う。赤髪をストレートで腰まで伸ばし、眼鏡は掛けておらず、それどころか瞳の色まで赤色ときたものだ。後、こころなしか輪郭も変わっている様な気がする。

 彼女は昨日まで普通の山田さんだったらしいのだが、どうしても今日に合わせてイメチェンしなければならない気がしたそうな。

 全くもって理解出来ない。なんだ今日に合わせてイメチェンって。

 彼女をここまで変わらせた原因を気にしながらも、俺は再び主人公検定の問題に目を落とした。




 しばらくすると、教室の中も生徒達で埋められていく。

 おはよーとクラスメイト達と交わす、何気の無い挨拶。その挨拶は星叶に掛けられ、俺にも掛けられる。

 そして山田さんにも。


 「ちょっ!どうした山田!」

 「気分か!?気分が悪いのか!?」

 「皆止めなよ………………山田さんにも色々あるんだよきっと……………」

 「李伊奈(りいな)!早く元のアンタに戻りな!」


 クラスメイト達からの挨拶に顔を赤らめて俯く山田さん。ぷるぷると拳をつくっている両手が震えている所を見ると相当恥ずかしいらしい。

 山田さんの名前って李伊奈って言うのかー、などどうでもいい事を思いつつ山田さんに声を掛ける。

 「そんな恥ずかしいなら、何でその格好してきたんだよ」

 「知らないわよ………!昨日の私に聞いて……!」

 そういうのは無理難題という。

 さて、大幅なイメチェンを遂げた山田さんだが、特に違反という訳ではない。

 月陰学園には1番重要なルールとして、模擬戦以外での無許可な能力使用は禁止、というものがある。

 しかしそれ以外はあまり細やかなルールも存在せず、常識の範疇なら大方自由にしても構わない。

 この学園は、能力者の能力制御の為の学園でもある。その為、生徒(のうりょくしゃ)達が能力を使用する際にモチベーションが上がる格好をしても良いという事になっている。

 明らかな制服改造などは流石に指導されるが、髪の毛を弄るぶんには特に注意は受けない。金髪にしようが脱色しようが切ろうが伸ばそうが固めようが特に問題は無い。

 しかし、それでも女子がいきなり頭を丸めたりなどしたら流石にイジメの線などが考えられたりするので教師達も全く放ったらかしという訳ではない。

 山田さんのイメチェンも、あくまで髪の毛や目が主で、制服は弄っていないので注意は受けないだろう。

 山田さんはふぅーと息を吐いて、体を起こす。

 「なんかもう、どうでも良くなってきた………………」

 「待て待て、まるで生きる事すら諦めた様な顔をするな」

 「だってそうでしょう?訳も分からずこんな格好になって、ただでさえ登校する時もジロジロ見られたのに、クラスの皆から色々言われて耐えられる訳ないじゃない!」

 うわぁぁん!と机に泣きつく山田さん。

 昨日の内にイメチェンした、と言ってけどそれは恐らく夜のハイテンションが原因だろう。なんか夜更かしすれば妙に気分が高揚してくるアレだ。

 しかし朝起きて冷静に考えてみると、とんでもない事をしでかしたと気がつく筈だ。

 それでも、イメチェンした時のまま登校してきたからにはそれなりに思い入れがあったのか。

 「まぁまぁ、今日はなんか重大ニュースがあるらしいぞ。佐藤先生が言ってた。もしかしたら元気が出るヤツかもしれない」

 「グスッ………………ホント……?」

 ああ、と力強く頷く。元気が出るかどうかは知らないが。

 取り敢えず泣き止んだ山田さんはまだ薄っすらと赤い目を袖で擦る。

 その時後ろでもぞもぞと音がした。

 「……………ふぁぁ、よく寝た……ってええええ!誰!?ねぇ透真、この人誰!」

 「もう無理ぃぃぃぃぃ!」

 我楽希が起きたそばからそんな事をほざいたので、山田さんが再び泣き始めた。




 「おい、お前ら席に着けー今日は大事な話が………………って、おお。どうした山田、一瞬誰かと思ったぞ」

 山田さんを泣きやませてしばらく経った頃、佐藤先生が教室に入ってきた。

 佐藤先生も驚きはしたようだが、直ぐに山田さんだと分かった辺りがやはり教師だと実感させられる。

 山田さんは開き直ったのか、もう泣かない。

 ………………よく見てみると、血色の良かった肌や鮮やかだった髪もクリッとして透き通った瞳も、何もかもから色が失われていた。

 半開きの口からは時折「は、はは、はははは…………」と乾いた笑いが漏れている。相当重傷だこれは。

 山田さんの状態を見て、これ以上追求しない方が良いと思ったのだろう。佐藤先生は特に何も言わずに教卓まで歩いて行った。

 「えー…ゴホン。さっきも言いかけたが、今日はお前らに重大ニュースがある」

 佐藤先生の言葉に教室がざわつく。いたる所から「まさか…」「いや、そんな筈は…」と聞こえる。

 佐藤先生に限って“ソレ”はないだろうが、もしもの可能性は捨てきれない。俺は皆の代表として立ち上がった。

 「重大ニュースって何ですか?もしかして、結婚でもするんですか?」

 少し、皮肉めいた口調で言う。これで佐藤先生が「そんなんじゃない」とでも言いながら俺に注意して皆が笑ってくれればいつもの光景になる。

 しかし佐藤先生は俺から僅かに顔をそらして赤らめた。

 「お前にとって私の結婚は重大ニュースなのか…………少し照れるな」

 「クソッ!好意的に受け取られた!」

 それじゃまるで俺が佐藤先生に気があるみたいじゃないか。

 確かに佐藤先生は美人だが、俺のストライクゾーンには少し離れ過ぎている。

 だから、お前らもそんな顔でみんじゃねーよ。お前らの聞きたい事聞いてやったのになんだその「お前、まさか…」みたいな顔は。

 クラスメイト達の視線に耐えきれなくなったので、ため息を吐いて席に着く。ついでにムシャクシャしていたので我楽希の頭を叩く。

 「………………僕が叩かれる理由があったかな」

 「そこにお前がいるからだ」

 我楽希の言ってきた事を適当に流して、佐藤先生に向き直る。

 当然と言えば当然で、先程の佐藤先生の表情は演技だったようで、もういつもの表情に切り替えられていた。

 佐藤先生は本当にノリが良い。主に悪ノリの方に、だが。

 教室が静かになったのを確認して、佐藤先生が口を開いた。


 「喜べお前ら、今日からこのクラスに転入生が来るぞ」


 ニヤリと笑った佐藤先生の言葉の意味を理解するのに数秒。

 そして俺達は━━━━

 「「「「「「マジでかぁぁぁぁぁ!?」」」」」」

 揃いも揃って驚愕の声を上げた。

 「また、ですか」

 「そうだが、嫌なのか?春日原」

 いや、山田さんを除けば1人だけ声を上げていなかった。ソイツは、春日原 我楽希は納得いかないとでも言いたそうな顔をしていた。

 「嫌じゃないですけど……………」

 そんな我楽希の肩を今度は軽めに叩く。

 「気にすんなよ。転入生が来たからって俺達に害がある訳でもないし」

 「…………ま、そうか。こんな顔してたら歓迎してる様に見えないしね」

 そう言うと我楽希はケロッといつもの顔になる。

 コイツが何を考えていたかなんて分からないが、取り敢えず良い顔にはなったな。

 「それで、先生…………『あの事』なんですが……………」

 1人の女子がおずおずと手を上げる。『あの事』といえば俺達には1つしか考えが浮かばない。

 それは佐藤先生も例外ではなく、フッと笑った。

 ゴクッと誰かが唾を飲む。俺かもしれないし、他の誰かかもしれない。

 「今回も、それは転入生が入ってからのお楽しみだ」

 気がつけば俺は両手を祈る様に合わせていた。そして皆も。

 クラスに妙な連帯感が生まれる。しかし、我楽希と星叶は何の事やら、とでも言いたそうな顔をしている。山田さんについては述べるまでもない。

 俺達にとって1番重大な『あの事』、それは性別だ。

 俺達男子は無論女子が良いし、女子は男子が良い。けれど俺達が求めているのは性別のその先、外見的スペック。要するに可愛いか可愛くないかだ。

 男子か女子か、なんて第一関門に過ぎない。

 半月程前に転入してきた星叶は文句無しの美少女だったが、俺達は最低でも星叶スペックと同等の女子を望む。

 そんな女子滅多にいない事くらいは分かっているが。

 「それじゃあ、入ってくれ」

 佐藤先生が扉の向こうにいるであろう、まだ見ぬ転入生に告げる。

 自然と頭を下げる俺達。

 ドクンッと心音が聞こえてきそうなほどの静寂を破る、扉の開閉音。

 転入生が一歩、また一歩と進んでいく。

 そしてキュッと、床とスリッパが擦れ合う音がして、転入生の動きが止まる。

 来い、来い。女子来い、出来れば美少女………………

 俺達男子は皆、こんな感じに思っているのだろうが、女子は恐らくイケメン来い来いとでも思っている筈だ。

 下心がバラバラだな。

 転入生がふぅーと息を吸う。

 男子か、女子か………。

 その、答えは━━━━


 「初めまし「あーーーーーーーーーーッ!!!」て……」


 転入生の挨拶に絶叫が被せられる。そして俺の気のせいじゃなければその絶叫は、俺の隣から聞こえた筈なんだが。

 顔を上げて隣を、山田さんの方を見てみると、先程までの彼女は何処かへ消えており、立ち上がった彼女は転入生がいるであろう方向に指をさして口を開けていた。

 彼女が示した転入生を見てみると、そこに居たのは男子。

 「………………ん?」

 なんか見覚えがあると思ったら、昨日出会った上梨(かみなし) 西夜(せいや)とかいう奴だった。

 アイツこのクラスに転入してきたのか、と思ったのも束の間。山田さんが再び叫ぶ。


 「アンタッ!今朝の変態!」


 いつか、何かの漫画かアニメかはたまたラノベで見た事がある様な光景だった。

 しかしそれを脇役目線で見る事になるなど思いもよらなかったのだが。

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