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儚き望みの『サブヒーロー』  作者: 生月 太郎
6/16

6話 「フッ………………気にするな、毎度の事だ」

  問◎主人公が初対面のヒロインと遭遇し、尚且つラッキースケべも拝める場所と内容を答えよ。


  答☆曲がり角。主にスカートの中を見る事が出来る。しかしながら遭遇するのが美少女でない場合、こちらは相応のダメージを覚悟しなければならない。


 (主人公検定4級練習問題より抜粋)


♦♦♦


  早いもので星叶(ほしがなえ)が転入して来て半月。

  最初は戸惑いも多かった星叶だが、友達もでき、ここの学園生活にも慣れてきた頃だろう。

  そんな星叶が関わった、転入初日の模擬戦は時が経った今でも根強く話の種にされている。

  しかし同じくらい関わった俺の話は全くと言っていい程出回っていなかった。

 いや別に、転入初日の能力初心者に負けたって広めて欲しい訳じゃないけど、もうちょい俺にも興味を持って欲しいものだ。

  我楽希(がらき)の話題はちょくちょくと耳に挟むが、アイツは元から注目を集めていた。

  1年生にして生徒会に所属している事は珍しく、相当の実力者である証拠だ。

  しかし親友と言っても過言ではない俺の話は全くと言っていい程出回っていなかった。

  いや別に、比較されて馬鹿にされたい訳じゃないけど、もうちょい俺にも興味を持って欲しいものだ。

  ここまで俺の話題が広まらないとなると、原因の模索をしてみたくなるのは当然といえる。

 考えられる原因としてはやはり、主人公級に輝きを放つあの2人に霞んでいるせいなのだが、俺の影が薄いというのも悪い気がしてきた。

  その影の薄さも中途半端なもので、目を凝らさなきゃ見つけられないとか、気を抜いたらもういないとかそんなレベルでは全然なく、ただ「あっ、いたの?」レベルだ。

 それはそれで傷つくが、そんな反応をするのはそもそも俺とあまり関わりのない奴なので構わんとする。

 と、気が付けば自分が今どこにいるのか分からなくなった。

 目的地もなくトボトボと歩いて過ごす放課後の筈だったのだが、考える事に集中してしまい、いつの間にやら迷子になってしまった様だ。

  周りには小中高の生徒達が賑わいを見せ、建物の前でキャッキャッとはしゃいでいた。

 本当に気が付かない間に俗に言う商業エリアの方まで足を伸ばしていたみたいだ。

 幾ら迷子になろうが、所詮はだだっ広い月陰学園の中。

 学園側も俺の様な生徒の為にか、辺りを見渡せばチラホラと学園案内図が設置されている。

 こういう時に焦ってはいけない。

  よくよく考えたらここのエリアに来たのはあまりなかったので、せっかくならウインドショッピングでもして帰ろうか。

 案内図に向かっていた体を方向転換。

 真っ先に目についた店に入る。

 「うっ………」

 そこにあったものは、蜘蛛の死骸や干からびたイモリ(の様なもの)、更には『カッパの皿』とラベルがはられたホルマリン漬けにされている円盤。

  なんだこの店。

  店の外に一度出て、看板を確認する。

 「呪いの……館?」

 こんな店、学園にあって大丈夫なのか。

  しかも堂々と出店してるし。

  あまり店の空気に耐えられず、そのまま店を離れる。

 もっとマシな店はないのかと視線を巡らせて見れば、『おかしや』と看板が出た店を発見する。

  お菓子か……そういえば最近食べてないな。

 と言っても、俺が普段食べるお菓子といえばスナック菓子ばかりだ。

  目の前の『おかしや』は瓦や『おかしや』と記載された暖簾を見るに和菓子を取り扱っている様に見える。

 まぁ、お菓子には好き嫌いのない俺だ。

  最中でも買って食べてみよう。

  そう思い、店の入り口まで移動すると、

  「オラッ!返せねぇなら臓器売るなりなんなりしてポイン卜作れやぁ!」

 ドゴッと鈍い音が響いて店内から1人の男が飛んできた。

 その後を追う様にして、サングラスを掛けたガラの悪そうな男が包丁を持って来る。

  なんだこの光景。

  「明日までにポイント返さなかったら……分かるよな?」

 ヒュッと後から飛び出して来た男が包丁を地面に投げつける。

 それはメシャッと音がして刃から潰れた。

  ………………アルミか?

  手に取って見るとすぐに分かる。

  が、遠目から見たら本物にしか見えなかった。

  なんでそんなもんを作ってんだ………

 俺は、おそらくの原因であろう飛ばされて倒れたままの男に視線を向ける。

 掛ける言葉が見つからないので取り敢えず男の身を案じてみる。

  「あの……大丈夫ですか?」

 当然といえば当然なのだが、この学園内は大人より生徒の総数の方が多い。

 学園内にいる大人といえば先生と店の店員くらいなものである。

  男の格好は俺と同一の制服で、つまり高等部の生徒であると分かった。

  その男の表情には何故か、笑みが浮かんでいた。

 「フッ………………気にするな、毎度の事だ。アイツもああは言っちゃいるが実際にはポイントを返すまでちゃんと待ってくれるのさ」

  今俺の目の前で起こった事がこの男にとっては日常茶飯事らしい。

 「いや、ちょっと待て。ここは『お菓子屋』なんですよね?」

 「ああそうだ、『お貸し屋』だ」

  違う、俺の思い描くお菓子とコイツのお貸しが全然違う。

 この男が特に説明を求めていないのにベラベラと喋り出す。

 どうやらこの『おかしや』とは、ポイントを貸してくれる店らしい。

 この男は何ヶ月も借金ならぬ借ポイントを踏み倒しているとか。

 商業エリアに堂々と出店して、学園側が取り締まってない辺り、危険性とかはないのだろうが、今のを見るととてもそうには見えない。

 ここの商業エリアにはこんなのしかないのだろうか。

 何だか学園の闇を見た様な気がした。




 しばらく歩き回って見ると、いつの間にか日が傾き、夕暮れになっていた。

  なんやかんやで楽しかった。

 もちろんここの商業エリアにもちゃんとした店もあったので、そこで幾らかお菓子を買った。

 そろそろ帰ろうとして案内図を見てみると、俺の寝泊まりする学生寮が意外と近い事が分かった。

 いつか暇があったら我楽希でも連れてこよう。

  そうして俺は帰路に着いた。

 ここから寮まで殆ど一本道らしく、初めて歩く道を迷う事なく進んで行く。

 もう少し歩くと、俺が普段帰る道と交わる十字路に辿り着く筈だ。

 そこまで来ればいつも通りの道のりになる。

 この方向から行くとすれば…………十字路を右に曲がればいいのか。

 十字路に入り、普段の風景が見えて少し落ち着いた気分になる。

 「今日はもう休むか………………」

 そう独り言を呟いて、曲がり角を曲がる。

 その時、誰かとぶつかった。

  俺の側面に来る、不意のダメージ。

 完全に気を抜いていた為、俺への衝撃が大きいものに感じる。

  ぶつかった時にグフッと肺から空気が逃げており、ろくに声も出せずに地面に倒れ込む。

 俺にぶつかった誰かも同様に倒れ込み、尻もちを着く。

 ここで俺はある1つの可能性に思い当たる。

 もしかしたらコレは、ヒロインとの出会いなのでは………!

 曲がり角で出会いが起こるなんてベタ過ぎる展開だ。

 俺だってそんな経験した事はなかったし、実際に見た事もない。

  だが、そういうのは嫌いじゃない。

 できればぶつかったのは美少女が良い、ツンデレ系の。

 俺は思わず閉じてしまっていた瞼を開き、現実を見てみる。


 「いっつつ……スマン、前見てなかった。怪我、とかないか?」


  再び瞼を下ろして、妄想を見る。

  違う、断じて違う。

  俺が見たのは男なんかじゃない。

  ぶつかったのは男なんかじゃない。

 「おい、アンタ大丈夫か?」

  俺に掛けられる無駄に良い声。

  それを聞いた俺は無言で立ち上がり、この場をん離れる。

 「いやちょっと待てよ、ぶつかったのはこっちも悪いけど謝罪もなしか」

 ガシッと腕を掴まれる。

  分かってた、分かってたさ。

  俺に主人公吸引力も無ければフラグ建設力も無いと。

  そもそも、俺の学生寮は完全男子寮で、その方向から走って来た人物はほぼ男子以外にありえない。

 もしこの場面でぶつかっていたのが女子だったのなら、ソイツは既に誰かの手によってフラグを建設されている。

  やはり俺にはラブコメみたいなイベントは起きないのだと認識しつつ、このまま男を無視する訳にも行かないので一言謝る事にした。

 「悪い、本当に悪い。気分が優れないから俺はこれで、じゃあな」

 「お、おう……お大事にな」

 男はキョトンとしながら、俺を見送ってくれた。

 「………………いや、ちょっと待て」

 「何だよまだあんのか」

 男が俺の腕をガシッと掴む。

  「俺、明日からこの学園に転入するんだ。全然知り合いとかいないからさ、良ければ明日学園を案内してくれないか。今日ぶつかったのも何かの縁だろ」

  「断る、他を当たれ。じゃあな」

  男に優しくする理由が何処にあろうか。

  そう思っていたのだが、

 「…そうか。悪いな初対面でこんな事頼んで。お互い名前も知らないのにな」

 そう言って男ははにかんだ。

 それを見て、俺は頭をガシガシと掻く。

  しつこく頼みこんで来るならそのまま突っぱねていたが、そういう態度を取られるとなんだか罪悪感が湧いてしまう。

 ま、美少女でなかったとはいえこれも出会いか。

 「………………やっぱり、引き受けてやるよ」

  「ホントか?ありがとな!」

  ため息混じりの俺の答えに今度は爽やかな笑みを浮かべる男。

 その表情は大人が相手のご機嫌を取る様なものではなく、幼さの残る少年の純粋な笑みだった。

  「俺は、上梨(かみなし)。上梨 西夜(せいや)だ」

  「宜しくな上梨。俺は田中 透真」

  何気なく差し出された手を掴んで握手する。

 そこで俺は上梨の格好を見てみる。

 背丈は俺と同じくらい、おそらく高等部に転入するんだろう。

  黒、というより茶色に見える髪はさっぱりとしており、爽やかさが強調されている。

  そんな上梨が身を包んでいるのは黒の学ラン。

  明日から転入という事でまだ制服が届いていないのかもしれない。

  能力が発現してから、月陰学園に転入するまでは本当にあっという間である。

  俺も能力発現の2日後には元いた学校を去った。

  ごっこ遊びをしていた友達と喧嘩していたので、あの時は嫌な顔を見る事もなくなって清々したとか思っていたのだが、今アイツ等何してんのかな………

  何とも言えない寂しさが込み上げて来る。

 「おーい、どうしたー」

  「…………あっ、悪い」

 遠慮がちに聞いてくる上梨の声で、だいぶ内容が脱線していた事に気が付く。

 「それにしても上梨。どうしてお前は学生寮の方から走って来たんだ?」

  「ん?ああ、俺あの学生寮に住む事になったからさ、今日の内から住めないか掛け合って見たけど、やっぱり明日からじゃないと駄目らしい」

  「意外とそこら辺厳しいのな」

 明日転入するのなら今日からでも入寮しても構わないだろうに。

 そこで上梨があっと何かを思い出したかの様に声を上げる。

  「そうだった、待ち合わせしてたんだ。それで走ってたんだよ」

 「なんだ、引き止めて悪かったな。急いだ方がいいんじゃないか」

  「引き止めたのはこっちだ、気にすんな」

 そう笑った上梨に「そりゃそうだ」とこちらも笑う。

 「じゃ、明日宜しくな、田中」

 「おう、さっさと行ってこい」

  走り去って行く上梨の背中を見送ってはたと気付く。

 そういえば、アイツがどの学年に転入するとか聞いてなかったな。

 もしかしたら明日一度も校舎で顔を合わせないかも知れない。

 でもまぁ同じ学生寮だし、一度帰ってからでも学園案内してやるか。

 そう思って再び帰路に着く。




 しかし、この時の俺にはある可能性がポッカリと抜けていた。

 能力の発現率は年齢を重ねるにつれて減少していく。

 月陰学園が国で唯一の能力者育成機関だとしても、高等部に上がって転入生は減少していった。

 俺達の代には5,6年は転入生がいなかったのだが、半月程前に数あるクラスの中で俺達のクラスに星叶 美夜が転入してきた。

 だからかも知れない。

 しばらくは俺達のクラスには、転入生は来ないだろうと思っていたのは。

  しかしそれでも、上梨 西夜が俺達のクラスに転入するかも知れない。

 その可能性を、俺は無意識のうちに消去していた。

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