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儚き望みの『サブヒーロー』  作者: 生月 太郎
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2話 「何言ってるんですか先生。ハサミは斬る為に使うんですよ」

  問◎主人公が持つ『主人公吸引力』について簡潔に述べよ。


 答☆主人公吸引力とは主人公が意図せずに引き起こす運命にも等しい力の通称。一般例で言えば、自分のクラスに謎の転校生を引き寄せたり、親が魔王であるなど。少し上級になると美少女と曲がり角でぶつかったり、美少女と同居生活をすることになったり、美少女な姉妹がいたり、美少女に囲まれたり、美少女がetc…


 (主人公検定3級練習問題より抜粋)


♦♦♦


 「よし…完璧だな」

 俺はフッと息を付き、固まった体を伸ばしてほぐす。

 最近朝早く教室に来て、勉強することが習慣になった。

 朝はあまり人がいない事に気がついたのだ。

  しかし30分も勉強していればちらほらと生徒が登校してきた。

  その中の1人に春日原(かすがはら) 我楽希(がらき)がいた。

 俺の友人で主人公、みたいなやつ。

 主に何が、と言われたら、名前が特にヒドイな。

  我楽希て、我楽希て。

 名前にどんな意味が込められてんだよって思う。

 しかし、俺がそんな事を考えているなど露知らず我楽希は自分の机に荷物を置いて俺の席まで来た。

 「おはよー透真(とうま)、毎朝思うけど何してんのソレ」

 「毎朝思っているなら何故聞いてくれなかったのか、とは今は聞かない。これは試験勉強だよ」

 「へぇーそりゃ悪かったね。何の試験?」

 「てめぇの謝罪程薄っぺらいものは無い。主人公検定のだよ、来月にあるんだ」

 「君の『主人公になれないから悪役になるぅ』よりは十分重みがあるとは思うけど。そんな検定あるんだ……」

  「貴様に俺の何が分かる。おいおい資格とか検定とかはちゃんと調べとけよ、持っといて損は無いんだから」

 「分かる…分かるさっ!私のこの魔眼の前では全てが無意味!僕はあんまり資格とか興味無いからいいや」

 「残念だったなぁ!俺のスキルは、全てのスキルを無効化する!我楽希、3年になるのなんてあっという間にだからな?後で後悔しても知らんぞ」

 「なら我の真の力を見せてやろう……平伏せッ!愚民共ぉぉぉ!君は僕のお母さんか」

  「お前達は普通に会話出来んのか」

 スパーンスパーンと軽快な音が教室に2回響いた。

 そこには佐藤先生が丸めた雑誌を持って立っていた。

 「何してるんですか佐藤先生」

  「まだHRには時間があるのに、何でいるんですか佐藤先生」

 「佐藤先生が悪口みたいに言うんじゃない」

 そう言って佐藤先生はボサボサの髪を掻く。

  ちなみに言っておくが佐藤先生は、女性だ。

 美人なのに締りのない格好で非常に残念な女性だ。

  れっきとした30手前の、独身女性だ。

  「おい田中、今絶対失礼な事考えただろ」

  「いえ全く」

  「…………まぁ早く席に着いておけ。今日は転入生がこのクラスに来る」

 「転入生?誰です?」

 「教室に来てからのお楽しみだ」

 佐藤先生はそれだけ言うと、残りの生徒を着席させる。

  いつの間にかクラス全員登校していたみたいだ。

 そして皆ソワソワしてる。

 楽しみなんだろう、新しいメンバーとの顔合わせが。

 能力の発現は確認されている中で最低が4歳、最高が19歳。

 しかし、能力は成長するに連れて発現率が低まっていく。

 国の見解では、印象的な思い出、またはイメージがその人の根底にある本質と結びついて能力が生まれ、ある状況下において発現するだのなんだの。

 つまり自分自身を理解し辛くなっていく思春期より、自分に素直で物事に純粋な幼少期の方が能力発現率は多いという訳だ。

 そのせいか、中等部や高等部になると新たな能力者が全然転入してこない。

 俺達の代はかれこれ5、6年は転入生がいないんじゃなかったか?

 1つ上や下には沢山いるのに。

 だからこそ、久しぶりの転入生に皆ソワソワするしワクワクもする。

 しかし大切なのは男子か女子か、だ。

 もし男子だった場合、俺達男子は今日という日を無かった事にしかねない。

 女子なら美少女であることを願う。

 俺達のクラスに主人公がいるのなら恐らく、主人公吸引力により、美少女が来るはずなんだ………!

  俺は後ろの我楽希をちらりと伺う。

  我楽希は顔に?を浮かべてキョトンとしている。

 頼むぞ…我楽希…お前が主人公なら、転入生は必ず女子なんだ………!

 「…よし、お前等ー静かにしろー」

 俺達のざわめきが静まる頃合いに佐藤先生がさらに静めた。

  静まり返る教室には何とも言えない緊張が。

 ……………トイレ行きたくなってきた。

  「お前等の代では久しぶりの転入生だ。仲良くしてやれよ?じゃ、入ってくれ」

 教室前方のドアに声をかける佐藤先生。

  そしてドアがゆっくり、開いていく。

 ドクン、ドクンと心臓が高鳴る。

 頼む………!来てくれ美少女!

  まるで祈るかの様なポーズで目を瞑る俺達。

  しかし女子はイケメンが来ることを願っているのだろう。

  心が1つの様に見えるけど、下心がバラバラじゃねーか。

 キュッと床とスリッパが擦れる音がして、転入生が停止したのが分かる。

 だがまだ顔は上げない。

  最後まで祈れ。

  神に縋れ。

 主人公に頼れ!

  ふぅーと転入生が軽く息を吐いて、


 「はじめまして!星叶(ほしがなえ) 美夜(みや)です!」

 「「「「「「「きたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」」」」」」」


 転入生の挨拶と共に慟哭する俺達男子。

  その状況にビクッとした転入生、星叶だったがすぐに笑顔になる。

 「私、知り合いとかに能力者が居なくてこの学園のことなんにも知りませんがこれからよろしくお願いします!」

 神はいたのだ。

 星叶はまごうことなき美少女だった。

 少し青みがかった黒髪は腰辺りまで伸ばしており、アホ毛が上でぴょんぴょん跳ねている。

 瞳は髪より明るい青色で思わず見惚れてしまいそうだ。

 整った顔立ち、ちょうど良い身長、激しくはないが確かな凹凸のある身体、どこをとっても美少女だった。

 「鼻の下伸ばすな男子ー特に田中ー」

 「濡れ衣も良い所ですよ佐藤先生」

一瞬で表情を切り替える。

 「お前のそういう所は誇るべきだと私は思うがね。それはさておき、星叶」

 「はいっ!先生なんでしょう!」

 「この学園は広い、馬鹿にならん位にな。昼休みや放課後に全て見ることは不可能だ。だから今から学園見学でもして来い。どうせ注文した教科書などまだ届いてはいないだろう?お供はちゃんと付けるから安心しろ」

  佐藤先生がそう言うと星叶はパァッと表情を明るくさせる。

 「ありがたき幸せです!しっかり見てきます!」

  なんというか、笑顔がとても可愛らしい。

  こんな子と2人で学園を歩けたらどんなに素晴らしいことだろう。

 「それじゃあ……お供は……」

  あれ?この流れはもしかして。

 ビシッと俺を指差す佐藤先生。

 俺の胸の高まりが最高潮に、

 「春日原、頼んだ」

  ならずに沈んだ。

 「何で僕なんですか…」

 「お前は授業を1日授業をサボっただけじゃ成績は落ちんだろう。それに生徒会だし、面倒見もいいし」

  「…まぁ構いませんけど」

 「よろしくお願いします!」

  我楽希がやれやれといった風に席を立ち、星叶を連れて教室から出ていった。

 主人公吸引力はしっかりとイベント回収して行きやがった。

 下手したら今日だけで星叶のフラグを建築されかねない。

 「先生、具合が悪いので保健室に行きます。止めないで下さい」

 「おいこら田中、具合が悪いなら悪そうにしていろ。間違ってもドアを開けてスタートダッシュの構えでそのセリフを言うもんじゃない」

 「あっ!UFO!」

 「それは私のラジコンだ」

 佐藤先生から捕縛される。

 「待て待て!教師が学園内でラジコンを飛ばして良いんですか!」

 「良いか田中………このクラスでは私が全てだ。私が良いと言ったなら良いんだよ」

 「くそっ!こんな理不尽許されてたまるか!俺はこんな所に居られない!さっさと行かせてもらおう!」

 「あの手この手で逃げようとするんじゃない。それにだ田中、私は別に駄目とは言ってないぞ?」

 その言葉と共に捕縛は解け、自由の身になる。

  「大方、あの2人の尾行でもするんだろう?なら私も付いていく」

 「アンタ教師でしょう………それで大丈夫なんですか?」

  何を言う、と佐藤先生はニヤリと笑みをつくる。

 正直その表情は見惚れてしまうものだったが佐藤先生なので特にドキドキしなかった。

 「教師はいつだって生徒の事を一番に考えているんだぞ?」

 そう言って教室を飛び出す佐藤先生を追うように俺は飛び出した。


♦♦♦


  「ホントに良かったんですか?生徒達放ったらかしにして」

 「生憎、生活指導員である私に教えられるのは学校でやって良い事と悪い事の違い位なものだよ」

 「そういう事じゃないんですけど。後、今のアンタが悪い事の良い例だと思うんですけど」

 「シッ!来たぞ………やはりこのルートで案内していたか」

  俺達は廊下から中庭へと通じる扉の陰で身を潜めて、向こうから歩いて来ている我楽希と星叶の様子を伺っていた。

 2人は談笑しながら段々とこちらへと近づいて来る。

  「………………………………」

 「一応聞いておくが、そのハサミは何に使うんだ?」

 「何言ってるんですか先生。ハサミは斬る為に使うんですよ」

 例えば我楽希の首とかな。

  そんな俺を見て、佐藤先生が溜息を漏らす。

 「…………なんですか先生。見苦しいとでも言うんですか」

 「いや、ただ私は田中が色恋沙汰に興味があるとは思っていなかったのでね」

 俺はブスッした顔で応える。

  「俺はどっかのラノベ主人公みたいに鈍感で恋愛感情が分からない訳じゃないんで。俺にはしっかり恋愛感情がありますし、彼女欲しいですし、カップル見たら呪います」

  「呪うのはどうかしていると思うが…おっ、急に立ち止まったな」

 佐藤先生が顎で示すと確かに、数メートル先で向かい合う様にして2人は立ち止まっていた。

  そして星叶が異様に顔を赤らめ、両手を胸の前で合わせてモジモジしている。

  ………………………………え?これってまさか…

  佐藤先生もどうやら同じ考えらしく、ゴクリと喉を鳴らす。

  我楽希はまたまた顔に?を浮かべている。

 そして、星叶は意を決した様に口を開く。



 「━━━━付き合って下さい」 

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