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儚き望みの『サブヒーロー』  作者: 生月 太郎
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14話 「そうだったそうだった。君はそんな奴だった」

 問◎バトル系の物語にバトルが欠かせないのは当然だが、しかし都合上全ての戦闘を収録する事は不可能であり、いくらか割愛しなければならない。さて、割愛しなければならない戦闘の種類とは何か。一つ答えよ。


 答☆主人公が絡まない、モブとモブの戦闘。


 (主人公検定4級模擬試験問題より抜粋)


♦♦♦


 「お疲れ―透真」

 「凄かったですよ田中さん。とっても熱い戦いでした!」

 「おっ、おう………」

 「何その鳩が豆鉄砲喰らった見たいな顔は。腑に落ちない事でもあるの?」

 「どんな顔だよ。後、我楽希それ使いどころ間違えてんじゃないのか」

 「言ってみたかっただけだからね」

 つつがなく学年戦一回戦は終了した。

 結果は我楽希と星叶の反応から想像出来ると思うが、俺の勝利で幕を降ろした。

 ………………………………うん。なんだろうな、この感覚。

 確かに俺は先程試合を行ってきた。その事実は存在する。

 しかし、その事実を目撃されていない様な感覚が俺にはあった。

 せっかく頑張って戦ったのに、何だか割愛されてしまった様な感覚だ。自分で言ってもよくわからないのだが。

 我楽希や星叶はしっかり見ていてくれていたので、俺の思い過ごしなのかも知れないが。

 漫画とかでもよく見かけるが、メインキャラ以外の戦闘シーンって結構省かれたりしている。勝敗だけ伝えられたりしていたら、それこそ脇役ではないか。俺はなりたくなくてもならなきゃいけない素質でもあるのだろうか。

 

 ま、実際に割愛なんてされる訳ないけどな!


 俺の熱く激しい能力バトルを割愛なんかしたりする奴がいたのなら、ソイツはかなりのイカレ野郎だろうな。

 不思議な確信を得て納得する俺を見て、二人は見合わせて軽く首を傾げた。





 一回戦も中盤に差し掛かろうとしていた頃。俺はふと辺りを見回してみた。

 「上梨はどこ行ったんだ?アイツまだ試合じゃなかっただろ」

 隣の我楽希に話し掛けると、

 「さっき山田さんに引っ張られて何処かへ行っちゃたよ。ホント仲良くなったねあの二人。最初は、あんなに仲が悪かったのに」

 「山田さん、上梨の事絶対に好きだよな?」

 「分かります分かります。見てたら直ぐに分かります。なんかそういう展開のラノベを何種類か私知ってますもん」

 「僕達が勝手に山田さんの気持ちを決めるのは欲なでしょうよ」

 「十中八九間違い無いと思うんですが」

 「あんな態度とってるんだ。気にはなっているだろ」

 最近山田さんは上梨につきっきりとなっている。事あるごとに上梨と行動したがる。もろにツンデレして上梨と接する山田さんを見ていると、「あゝ、主人公とツンデレヒロインのやり取りを現場で見ているしかないモブの気持ちってこんなんなんだな」ってなる。完全な第三者視点のラノベやアニメとはまた違ったものがあるので、飽きはしないだろうが。

 それでも、毎回毎回イチャイチャイチャイチャとされると流石の俺も耐えられるものも耐えられなくなってくるよ?客観的に判断するに、上梨は山田さんの好意に全くと言っていい程に気がついていないので、悪いのは山田さんとなるのか。

 そんな取り留めの無い事を考えていると、我楽希が立ち上がった。

 「どした我楽希?」

 「どしたって………さっきの放送聞いてなかったのかい?次、僕の試合なんだけど」

 そうなのか?全く気がつかなかった。

 「そうか。適当に頑張ってきてくれ」

 「さては透真、応援する気がないね?」

 「そんな事は決してとは言えないがないぞ」

 「そうだったそうだった。君はそんな奴だった」

 「春日原さん、ファイトですよ!」

 ただ一人、星叶だけがやる気に満ち溢れていた。その応援を受け取った我楽希は苦笑する。

 「そこまで気合を入れて貰わなくてもいいんだけどね」

 「私達はここからしっかり応援していますから全力で臨んで下さいね!」

 「ああ、そうだぞ我楽希。この応援を糧に優勝まで登り詰めるんだ」

 「ま、何とかやってくるよ」

 手をひらひらと動かし、俺達に背を向けて歩いて行く我楽希。

 ハッキリ言ってしまえば、我楽希はかなり強い。その強さは学年単位ではなく、学園単位でも通用する筈だ。

 我楽希の能力《不可視の神手》(俺命名)は実際に見たとか喰らったとかで対応出来る程甘くない。誰にも見る事が出来ない手からの攻撃、つまりほぼ回避が不可能なのだから。

 使用している我楽希本人にしか視認出来ない第三の手は、模擬戦闘に於いて無敵と言っても過言ではないのだ。

 「そういえば、対戦相手の方は難波地(なにはち)………とかいう名前だったんですが。凄い珍しい名前ですね」

 「珍しいというより、多分ソイツの家系以外に存在していないぐらいの希少さだと思うんだが。この学園には、能力者の他にも特殊な名前も集める規則でもあったのか?」


♦♦♦


 すぅと息を鼻から吸って、ゆっくりと口から吐き出す。手はぶらぶらと回して、足首も念入りに伸ばす。

 手首足首の運動が終わったらその場で軽くジャンプする。ここまでが、僕のルーティーンみたいなものだ。

 先程、とても応援とは言えない応援を透真から受けてきたけど、本音はちゃんと応援してくれている筈なので敢えて何も言わずに来た。

 スタジアムの中央に歩いた僕は対戦相手を見据える。名前は…確か難波地、とか何とか。身長は僕より少し低い位だけど、服の上からでも体付きが違うのが見て取れる。おそらく体重は僕よりも重いだろう。

 この学年戦で初めて合う人だけど、勝てるかどうかとかの不安は僕には一切なかった。

 多分、というより確実に勝てる。難波地君は僕を見て、少し緊張を緩めていた。心の中では弱そうとか思っているんだろうか。準備運動も素人の僕からみてもだいぶおざなりだ。勝てる試合だと、消化試合とでも思っているのか。

 なら勝てる。僕は確実に勝てる。

 寧ろこんな奴に負けてしまう位なら、即刻生徒会を退会してから会長に“僕自身の能力”を見せてやっても構わない。そんな事はしないけど。

 もし、そういう日が来るとするならばそれはきっと━━━━


 『第一回戦十八組目の試合を、開始しますっ!』


 僕を倒すのは、きっと透真なんだろうな。


 僕はフッとそんな事を考えた。

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