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儚き望みの『サブヒーロー』  作者: 生月 太郎
13/16

13話 「気合は十分かてめぇらあああああああああ!」

 問◎観戦者も多くなると、大概の勝負には解説役が配置される事がある。その理由を簡潔に述べよ。


 答☆解説役は大概放送委員であり、放送委員は大概目立ちたがりである為。しかし、美少女ならなんでも許されるので、特に文句はありません。(あくまで田中透真の個人的な解釈なので、放送委員が大概目立ちたがり等という事実は存在しません)


 (脇役検定準2級練習問題集〜知っておいて損は無い!むしろ知らなければ損しか無い!〜より抜粋)


♦♦♦


 遂に、というべきか。

 とうとう、というべきか。

 何にせよ、この時が来たのだ。


 『それではっ!只今より、月陰学園高等部一年による学年トーナメント式模擬戦、学年戦を開催します!気合は十分かてめぇらあああああああああ!』

 「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」」」


 スタジアム中に響く開会宣言に呼応するように雄叫びを上げる、学年戦参加者達。無論雄叫びを上げた一人に俺こと、田中透真もいたのだが、隣にいる春日原我楽希はしらっーとした顔をしていた。

 俺達、高等部一年の学年戦参加者は、校舎からかなり離れた所にある闘技エリアの一角の一つであるスタジアムに各クラス毎に整列していた。

 そもそもこの学園には、闘技エリアの他にも商業エリアや寮エリア等、他にも様々なエリアが存在しているが今回はその事は割愛。闘技エリアについての説明だけさせてもらう。

 規模としては、俺達が普段過ごす学校エリアの次に大きい。東京ドーム何個分、なんて例えは実際に俺が東京ドームの大きさを理解していないので使用する事が出来ない。まぁ、一般的な野球場とスタジアムの大きさは大体同一と考えてもらって構わない。そのレベルの建築物が一定の距離を間に空けて、十数個並ぶ様子は壮観としか俺には表現出来ない。

 学年戦は中等部から実施されているので、中等部で三つ、高等部で三つと最低でも六つ用意していなければならないのだ。

 たまに初等部も実施する時もあるが、それはかなり安全性を高めており、監視役の先生を数人と高等部や中等部の生徒会から何人か派遣された上での開催となる。勿論、中等部と高等部の学年戦とは開催時期をずらされている。

 では使用していないスタジアムは何の為に存在するのか。

 その答えは、誰も知らない。


 『さぁーさぁー時間も押しております。ちゃっちゃと始めちゃいましょう!』


 スタジアムに熱の入った放送が響く。

 なんか学年戦の度にこの人の声を聞いているような気もしないではないが、実際どこの誰とか興味ないので放置している。

 我楽希曰く、放送委員であるらしいのだが、俺はそんな委員会が存在している事自体知らなかった。他にも美化委員だら文化委員だらなんたら存在するらしい。この学園は少し特殊で生徒会や委員会に所属する生徒は例外なく、生徒会・委員会側からの推薦により役職を与えられている。

 要するに委員会の人達の目に止まるような“何か”を持っていればお声が掛かるという訳だが、俺に掛かってないという事は、特に何もないという証明なんですかね。はい。

 しかし、“何か”を認められただけの事は有る、今放送してくれている人物の声にはしっかりと心がこもっていて、俺達の心をストレートに打ち抜いてくる。

 声からして女子生徒なのだが、放送委員は大体女子と相場でも決まっているのだろうか。

 そんな事を考えていたが、思考を切り替える。

 俺は今から俺の生命を賭けた戦いに挑まなければならないのだ。

 『それでは第一回戦一組の発表です!』

 盛り上がっていたスタジアム内に静寂が訪れる。

 全員が全員、放送へと耳を澄ます。

 隣の奴の心音でも聞こえてきそうな程の静まりで、誰かの唾を飲み込む音が聞こえた。

 『まずは、この方!1―Cクラスの加藤(かとう)浩介(こうすけ)君!』

 おお〜と歓声にも似た声がCクラスの列から上がる。

 トップバッターって何気にきついので絶対になりたくはない。皆の心境は大体似たりよったりなので、静かに放送を聞いているのだ。

 学年戦では、同クラス同士の対戦は一回戦ではまず起きる事はない。Cクラスから上がった声は、取り敢えず一組目に組み込まれていなかった安堵によるものが大きいのだろう。

 しっかしいきなりトップバッターに任命された加藤だかなんだか知んない奴はご愁傷様だ。自分の心情を理解せずに、「ああ良かった」「私じゃなかった」と安堵するだけしておいて、こちらを全く気遣おうともしない同じクラスの連中を恨みつつ、一回戦に臨む事だろう。

 模擬戦を普段から行う事はあっても、大勢の前でそれを行う機会なんて学年戦位なものだろう。一対一なら特に気にもしなかっただろうが、大勢の人の目があると、どうしても気にしてしまう、気になってしまう事が有る。それは自分の能力の事だ。他と被っていない、その人物独自の能力なら特に問題はないのだが、大抵の能力は他にも同じ種類の能力を扱える能力者がいる事を忘れてはならない。

 他の人と比べて自分は不出来ではないか?小規模ではないか?と、ついついそんな事を考えてしまって無駄に緊張してしまうの無理もないだろう。

 身近な例で言えば、山田さんの発火能力なんて能力の代名詞とばかりに使用者は大勢いるし、星叶の大天使も大きな枠に当てはめれば召喚能力になる筈だ。まぁ彼女達に限ってそう考えるとは思えないのだが。

 有りもしない嘲笑や罵倒が聞こえたような気がして、本来の実力を発揮出来ず敗退する、なんてのは珍しくない。その緊張感だけは、何度学年戦を経験しても慣れないものだ。

 学年戦も準決勝や決勝まで進めば、言わずとも実力は伝えられ、自信を持って堂々と戦う事も出来るのだが、トップバッターとなれば話は別だ。

 殆どの視線は好奇のものとなる。それに耐える所から一回戦は始まっているのだから。

 しかし加藤とやらも災難なクラスに所属してしまったものだ。我らがAクラスならば、一回戦一組目にクラスメイトが組み込まれてしまったら、その人物を労って応援の一つでも投げかけてやる程だというのに。

 Cクラスの方をチラッと見て、フッと鼻で笑った時にスタジアム上部に設置されたスピーカーから対戦相手の放送が入る。


 『対する相手はこの方!1―Aクラス、田中透真君ですッ!!』


 ブフッと口から息が吐き出されるのと同時に、我らがAクラスから歓声にも似た雄叫びが上がった。

 ふざけんなこの野郎。


♦♦♦


 「田中さん頑張って下さい!ファイトですFIGHT!諦めたらそこで模擬戦終了ですよ!」

 「分かった分かったお前の熱意は伝わったよ星叶。取り敢えず試合始まるからギャラリー席に行きなさい」

 初めての学年戦でテンションが上がっているのか知らないが、やけに熱い星叶を無理矢理我楽希に押し付けてギャラリー席にまで運ばせた。

 我楽希からも「頑張ってね。僕への返済の為に」と応援まがいの事を言われたが、まぁ応援として処理する。上梨からも何か言われた様な気もしたのだが、何か応える間にさっさと山田さんから引っ張られて行った。ここ数日で上梨と山田の仲が急発展していたのだが、それは別のお話。

 俺は屈伸をしつつ、呼吸を整える。

 緊張してはいるのだろうが、悪い方ではないようだ。いきなりの一組目指名だったが、今回は上手くやれそうな自信がある。

 視線を前に向けてみると、対戦相手である加藤━━━━でいいよな?━━━━が目を閉じて胸に手を当てていた。女子なら多少絵になっただろうが、なにしろ身長が明らかに俺より上でガタイもしっかりしている男子がそれをやった所で誰得だよって話なのだが。見た目に反して緊張に呑まれやすいタイプなのかも知れないが。

 スタジアム内部の実際に戦闘を行うエリアには、もう俺達二人しかいなかった。先程まで整列していたあの大人数はさっさとギャラリー席に移動して行ったらしい。

 試合開始時刻まで後五分といった所か。本当なら貸出されている武器やら能力の調子を確認しておくべきなのだが、俺は加藤へと歩みを進めた。

 俺達の距離はもともと数メートルしか離れていなかったので、ものの数秒で加藤の前に辿り着く。

 そこでやっと加藤は、俺に視線を向けた。今気がついたと言わんばかりの表情だ。

 「なんか用なのか……?何もなかったら悪いけど離れてくれ。集中を途切れさせたくない」

 「用って程でもないけどな。時間は取らせん」

 そう言って俺は右手を差し出す。

 加藤は一瞬何の事かわからないようだったが、直ぐに答えが分かったのか、確認をするかのように俺をもう一度見る。

 「どういう事だよ、コレは」

 「どういう事もこういう事もねぇだろ。俺の地域では、右手を差し出されたら握手をしろって教わったんだが。お前は違うのか?」

 「………………………………」

 フンッともう一度右手を突き出してみると、加藤はフッと口元を緩めた。

 「俺は知らない奴の手は簡単に握るなって教わったよ」

 「そうかい」

 ガシッと握手する。

 「手加減はしねぇ。お互い全力でな」

 「ああ、宜しく頼むよ」

 試合開始時刻も迫ってきたので、俺は加藤に背を向けて歩き出す。

 悪いが俺には負けられない理由があるのだ。

 ここで負けたら2000ポイントしか入らない。

 もしそうなった場合、二週間は毎食キュウリを覚悟しなければならないだろう。

 そんな未来を想像して、いや実際にはそんな経験をしてしまった過去を思い出して冷や汗が流れる。

 俺はそう簡単に負ける程弱くはないが、圧倒的という程強くもない。俺にあるのは最弱ではない自信と最強ではない自信。

 そんな自分の頬を張る。パンッと小気味良い音が聞こえた。

 ネガティブ思考になるな………………!今は楽しい事だけ考えろ!

 俺が優勝して大金ならぬ大ポイントを手にした時を思い描いてみる。

 「………………………………」

 全く想像出来なかった。もっと頑張ってくれ俺の想像力。

 仕方ないので、一ヶ月を取り敢えず満足に食べて生活していける事を想像する事に落ち着いた。

 我楽希に言わせれば、これが俺らしいと言うことなのか。

 そんな俺の思考は、


 『それでは、第一回戦一組目の試合を…………開始します!!』


 放送と共にスタジアム中に響くブザーの音により、一瞬にして目の前に敵へと切り替えられた。

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