死女神様の転生乱入
死女神様の転生乱入
「やったぜ」
上下左右すべてが真っ白な空間にいることを自覚した瞬間、俺はそうつぶやいていた。
目の前には、神様だか天使だかは知らないが、いかにもな爺さんまでいんだぜ?
これはもう、あれだろ。
異世界転生キターってやつだろ!
「察しが良くて助かるわい」
「よし!」
俺の心の中を読んだうえで会話してくるとか、もう完全に間違いない。これは俺の人生最大の幸運ってやつだ。
思えば不登校だったとか、就職に失敗したとか、そんな辛い目にはあったことはないが、かといって劇的な幸運や、仕事に生きがいを感じていたわけでもない。オタク文化全般を趣味に、ただ漠然と生きているだけで、可もなく不可もなく生きてきた二十九年と七か月。遂に俺は当たりを引いたのだ!
「それで神様、俺が行くのはどんな世界だ?」
「本当に察しがいいのう……わし、まだ何も言っておらんが」
「いやいや、ここまで条件整ってたら誰だってわかるって! 特にネット小説かじったことあるやつなら百パーな!」
「うむ……まあ……こちらとしてはそれを参考にしているところもあるからなんも言えんが……うむ」
爺さんはそこで一度咳払いをすると、少し畏まった調子で語り始めた。
最初のうちは、ほぼテンプレな内容だったから省く。しいて言うなら、俺の死因が寝ゲロで窒息死って程度だ。世界で初めてトラックに轢かれて転生した偉人(誰かは知らない)に比べれば、インパクトもクソもない。別に切なくなんかない。ないったらない。
で、重要なのは後半だ。
俺が行く世界は、テンプレな世界らしい。いわゆる剣と魔法の中世風ファンタジーRPG世界ってやつだ。RPG、ってところからわかってもらえると思うが、ステータス制スキル制完備な。
けど、目的は特にない。魔王を倒すわけでも、ダンジョンを経営するわけでも、NAISEIに精を出すわけでもない。もちろんそれをしてもいいけど、基本は俺の自由に、というよりは好き勝手にやっていいらしい。至れり尽くせりかよ、最高だな。
ちなみに転生は転生でも、死ぬ前の身体をちょっといじった状態での転生。厳密に言うと転生って言うより、転移のほうが正しいかもしれないな。
ここまで来ると、もらえるチートがどんなものか気になってくるのは当然だ。テンションもうなぎのぼりだぜ!
「チートは目録を作っておいたからな、この中から選ぶがええ。生前の行動に応じる形でポイントを用意したから、その範囲の中で選ぶんじゃぞ」
「あざーっす!」
ポイントからの選択制! これまた当たりだ!
超常的な存在から、厳選されたチートをもらうってのももちろんいいんだけどさ。そこはほら、やっぱ自分で自分のことは選んでいきたいじゃん?
それに俺、こういうキャラメイク系が大好きなんだわ。
さて目録は、っと……おっほ、充実してるじゃないの!
定番のアイテムボックス系や経験値取得値アップ、強奪系スキルはもちろん、魅了や生産系スキルといったメジャーどころは完備してるぜ!
作品……ぅおっほん、世界によって扱いが結構変わるテイムとか情報検索もしっかり含まれてるな。
……ROM専として十年近い年月を過ごしてきた俺ですら、ほとんど見たことのないチートまで含まれてるのは素直にすごいと思う。この爺さんどれだけ予習してきたの?
まあそういうのは当然、軒並みポイントが高いんだけどさ。
「まあゆっくり選ぶとええ。時間はたっぷりあるからの」
「ウィッス」
一応返事はしたものの、ぶっちゃけもはや爺さんの言葉なんてほとんど耳に入ってない。今の俺はチート選びに真剣なのだ!
そうしてチートを厳選して、さてどれくらい経っただろう。
俺は与えられたポイントをきっかり使い切り、かつ理想に限りなく近いラインナップを取りそろえることに成功した。その達成感たるや、並大抵のことじゃ味わえないだろうな。
念のため、最後にその内容を確認して、と……うむ、何度見ても完璧な出来栄え!
「よし! 爺さん整ったぜ、これで頼む!」
「ははは……いやはや随分かけたの。さすがにこれほど待たされるとは思っておらんかったが」
顔を向けると、爺さんは苦笑していた。
気持ちは分からなくないけど、それを気にしているほどの余裕はあいにくとない。
はよ! チート転生はよ!
「ほいほいわかったわい。それじゃあ」
行くぞ。
爺さんがそう言った瞬間だ。
突然白一色だった空間が裂けて、そこから何者かが乱入してきた!
と同時に手にしていたクッソ長い剣を振るって、爺さんの首をはねる!
…………。
……………………。
……ファッ!?
「ええええええ!?」
あっという間もないその一瞬の出来事に、俺は悲鳴を上げる。
「な、な、な。なああ……!?」
そのまましりもちをついて、呆然と闖入者を見上げる形になる。
それは、女の子だった。絶世の美少女……だと思う。髪の毛は、昔のホラー映画を思い起こす長い長い黒。とはいえ手入れはしっかりされてるみたいで、それが怖さを引き立たせているということはない。
服装は和風。けど、動きやすいようにかなり改造が加えられてる。和風ファンタジーとでも言えばわかりやすいか?
そんな女の子が、憤怒の表情で爺さんの死体? を、細切れに切り裂きまくっている。何が彼女をそうさせるの!?
そうこうしているうちに、爺さんの身体は光の粒子になって、景色に消えてしまった。その粒子は、色とりどりに輝きながら周りに漂う。
……と思ったら、少し離れたところに竜っぽい何かがにゅっと現れる。今度はなんだよ!?
「やれやれ……いきなり攻撃してくるとは、随分手荒なことをしてくれるのだな」
その竜が口を開く。その目はぎらついていて、機嫌がいいとはとても思えない。
一方の少女はと言うと、こちらもそのかわいい顔は相変わらずプッツンしててる。
そして俺はというと、チートの目録を半ば無意識に胸に抱いた状態で、二人の様子をぼんやりと眺めているんだが……。
何が起きてんの、マジで!?
「手荒な……? 寝言は寝てから言いなさいな……」
少女が言う。静かで、決して大きな声じゃないけど、あれは単に怒りを無理やり抑えてるからこそなんだろう。抑揚まったくないし。
「誰の許可もなく妾の世界の人間を殺して、その魂を強奪した輩にそんなことを言う資格なんてないわ……!」
「クックック……なんだ、お見通しか。さすが、と言っておこうか?」
竜が少女を、まるであざ笑うように言う。……いや、マジであざ笑ってるのかもな。半沢なんとかさんのワンシーンを思い出すな。
「弁解するでもしらばっくれるでもなく、開き直ると来たか……ますます許せない……ッ!」
「ならばどうすると言うのだ? ククク……まさかその古臭い神器ごときで、我に敵うとでも思っているのか? ただの一地方の死神ごときが、世界の主神であるこの我に?」
竜が、少女の剣を顎でしゃくる。
しゃくって……次の瞬間、その顎が空中を舞っていた。
「「……は?」」
それは、俺と竜、二人同時の声だった。
「ただの低級世界の主神ごときが……!
妾に勝てるとでも思っているの……!?
無限に束ねられた世界線に立つ妾に……!
この、イザナミノミコトにッッ!!」
なんかとんでもない名前出てきたー!?
いいいいイザナミノってあれだろ、イザナギと並ぶ国産みの女神だろ!? 一回死んで冥府に行って死神になるけど!
……ああいや、死神なのはなんか納得か。泣く大人も裸足で逃げ出すような顔で剣ぶん回してるもんな……。
……っていうか、あんだけ啖呵切っておきながら竜があっけなく細切れになっていくんだけど、これはなんなんだ……一体全体どういうことなんだ……。
竜が弱いのか、イザナミが強いのか……それとも両方なのか……。
「ば……ッ、莫迦な……ッ!? な、なぜだ……なぜなんだ!? なぜここに持ってきていない我の本体にまでダメージがッ!?」
口がほとんど残ってないのに、しっかり声を出しながら竜が身じろぐ。反撃でもしたいんだろうけど、全部まるっと完封されてる。かわいそうに。
っていうか、その状態で喋れてることのほうが俺にしちゃなぜだだよ。
「説明する義理はないッ!!」
ごもっともで。
なんて妙に俺が納得しているうちに、遂に竜は完全に消滅してしまった。その死体? のあったところからは、あらゆる色の光の球が噴き出して周辺に漂い始める。
なんていうか、幻想的ではある。これでもう少しこう、神殿とか? 宙に浮いた城とか? そういうのがあれば、もっとしっくりくるんだけどな。
しばらくそんな様子を眺めていたけど、痛いくらいに周りは静かだ。イザナミも何も言わないで、周囲に気を配ってるだけだ。
……え? 終わり?
っていうか、え? 俺のチート転生は? このままお預けとか俺、マジで切れちゃうよ?
「……ふう」
俺が困惑していると、出てきたときと同じくらい突然に、イザナミがため息をついた。
そして剣を鞘に戻しながら、ゆっくりと俺のほうに振り返ってくる。
「ごめんね、突然乱入なんかして。びっくりしたでしょ?」
「あんた誰だ!?」
さっきまでとはまるで正反対の、穏やかな正統派美少女がいるんですけど!?
「妾? 妾はイザナミノミコト、日本地域を担当してる死神だよ。呼びづらかったら、イザナミでいいから」
「いやそういうことじゃなくて……あー、いや、もういいや……」
さっきまでの対応といくらなんでも違いすぎるんじゃないですかねえ……。
「……で、えーっと、さ……」
「うん、ごめんね。でも、妾もちょっと怒ってたから……」
……ちょっと?
どこからどう見ても激おこぷんぷん丸でしたよね……?
「えっと、改めて説明するね。あなた、彼奴の説明で手違いで死んだって言われてたでしょ? あれ、真っ赤なウソなの」
「……ん? そーなの?」
割愛したところにあった説明だな。だって、神様の手違いで死んで転生とか、テンプレもテンプレだったし。
「そう。そもそも地球という空間は、神々が直接介入することがルールとして認められてない世界なの。生命の死ぬ瞬間を操作するなんてことは、死神の妾にだってできることじゃないんだよ」
「うん……うん? ってことは……」
「うん、あなたは異世界のあの神に殺されたの。その上で、その魂を本来あるべき輪廻の流れに戻すこともなく、ここまで無理やり引っ張ってきてたの。これは重大なルール違反なの!」
イザナミの口調がちょっと熱を帯びてきた。
俺としちゃ、異世界にチート転生できるなら別に殺されてたとしてもそこまで気にしないんだけどな……。苦しんで死んだわけじゃないし、何よりそれほど楽しい人生だったわけじゃないからな。……魔法使い目前だったし。
なんてことを言ったら、
「うん、あなたはね! でもね、あの地球神の一柱として、生と死を司る妾にしてみればメンツ丸つぶれなの! ましてやあなたは日本人なんだから!」
「お、おう……そ、そうか……うん……よくわかったよ……」
そうだね、理屈だけで済む話じゃないね、うん……。
でもなー、そうだとするとなー、俺としてはなー、困るわけですよ?
とっくに俺は異世界行く気満々だったわけで? それが不意にされると? こう、ね?
……なんて、言える雰囲気じゃないなー……。なんか再燃したのか、またすごい顔になってるし……。
いつの間にか状況説明から外れて、神様の愚痴が始まって。どうすればいいだろうと俺が困り果ててると、またしてもどこからともなく竜がにゅっと現れた。
その瞬間、イザナミは凍てつく視線をそちらに向ける。一歩どころか数歩遅れて、俺(生ぬるい視線だけどね!)がそれに続く。
「取り込み中、失礼します……」
出てきた竜は、どうやらさっきの態度のでかいやつとは別のやつっぽい。
言葉遣いはもちろんだけど、見た目も全然違うのだ。さっきのはどっちかっていうとプラチナっぽい感じだったんだけど、今度のは金色だ。あと、体格もこいつのほうがちょいと小さいか?
「何?」
その竜に、イザナミが冷たく問いかける。……こええ。俺への態度とはまるで違うぜ……。
「このたびは、私たちの主が迷惑をかけまして、申し訳ありませんでした」
「そうね、大迷惑よ」
「……恐れ多くも地球世界で、最強の一角を担うイザナミノミコト様に愚かな態度を取ったこと、亡くなった主に代わり謝罪させていただきます」
そう言うと、竜は頭を下げる。
……さっきの竜、マジで死んだのか。イザナミってば容赦ないのな……。そりゃ夫も逃げるわ……。
「いらないわ」
「ぅ、ガッ!?」
「ファッ!?」
こえー! イザナミやっぱこええよ!
何したって、謝罪に来て頭も下げた相手に、遠慮会釈なく剣で切りつけたんだぜ!? いくらなんでもやりすぎじゃねーの!?
しかもそのまま竜を地面? に剣で固定すると、プッツンした顔をぐいと近づけて、盛大にメンチを切ってるんだぜ? おまけに空いた手は首を絞めてるんだぜ?
なんなんだよ……こんな物騒なのが神様やってていいのかよ……日本の神様みんなこんなじゃないだろうな……。
「な、何、を……ッ、わ、私は謝罪に……ッ」
「的外れの謝罪なんて、許す許さない以前の話なのよ。むしろ腹立たしいだけ! あなたたちはまるでわかってない! 妾のことなんてどうだっていいのよ!」
断言しながら、イザナミが竜の腹に見事な膝蹴りをかます。
それを食らった竜は、悲鳴を上げながら血反吐をはいた。……神様? も血って出るんだ……?
「ガハッ、ぐ、ぐっぅ……!」
「あなたたちは、妾の管理する世界から妾たちの子供をさらった! それも、何の罪もない人を殺して! あなたたちがやったことは、殺しと誘拐なの! そんなことをされて……許されるわけがないでしょうがあぁぁッ!」
「ギャアァァァ!?」
叫びとともに放たれたのは、イザナミの高速連続膝蹴り。全部いい場所にクリーンヒットしてる! しかも寸分の狂いなく同じ場所! 容赦どころの騒ぎじゃない!!
しばらくこの場所に、蹴りの音と悲鳴だけが続く。俺はもうなんていうか、生きてたら確実に漏らしてるよ!
結局イザナミが攻撃を止めたのは、竜が無残な状態になってから。さすがに疲れたのかもしれない。
ていうかもう勘弁してやれよ……やりすぎだぞ、マジで。
ほら、涙流してなんかこひゅーこひゅー言ってるし! このままだとマジでやばいって!
「な、……なぜ……家畜風情に……そこまで……」
あっ竜さんそれ今までの流れ的に絶対禁句だと思うよ!?
「……殺すわ」
ほらああああ!!?
「ギィアアアア!!?」
固定に使ってた剣使い始めちゃったー!
しかも斬ってない! 急所突き刺してぐりぐりえぐってる! 拷問の末殺すつもり満々だ! 見せられないよ!!
「家畜? 言うに事欠いて、ひとさまの子供を家畜? なんなのあなたたち、莫迦なの?
あなたたちには取るに足らない存在かもしれないけど……ッ!
日本人はみんなお兄様と妾の大切な子供たちなのよッ!
あなたたちにわかるッ!? 子供を殺されたり! 子供をさらわれたりした親の気持ちがッ!」
病んでるッ!!
「あなたたちには死さえも生ぬるいッ!! 永遠に死に続ける無限の果てで、お兄様に謝り続けろッッ!!」
渾身の一撃が脳天に決まったアアァァ――!!
竜の身体が、最初の爺さんみたいに光の粒子になって消えていく。それと同時に、色んな色の光が周りにあふれていく。
もはやこの場所は、たくさんの色に輝く光でいっぱいだ。目は楽しめるけど、その中心に血みどろの女神様がいるからまるで楽しくない!
「ふー……ごめんね、話の腰折っちゃったね」
アイドル顔負けの笑顔が血染めで台無し!!
「えっと、どこまで話したっけ? えーと……確か、あなたが殺されてここまで連れてこられたってところまでだったね」
いやいやいやいや、異世界の神様三人も殺しといてさも何もなかったみたいに話続けるってどうなの!?
「ネット小説のお約束だと、こういう時元の身体は死んでるから戻れないーとかそういうのがあるけど、別にそんなことはないの。あなたがあの腐れ神たちに殺されたことは、妾だけじゃなくってお兄様やうちの娘も気にしてて、ちゃんと身体のほうは確保してるんだ。だから、あなたは戻ろうと思えば戻れるの」
スルー!!
……いや、うん、もうなんていうか、あれだ。気にしたら負けなんだろうな……。
「……いや、あー……と……神様たちには悪いんだけど、俺は」
「……あー、やっぱり。あなたはそう言うと思ってた」
とりあえず、と言った感じで口を開いた俺に、イザナミは仕方ないなあこいつぅみたいな感じの笑みを浮かべると、頬をかいた。
仕草がいちいちかわいいけど、あんたあれだぞ。まだ血のりそのままだからな?
「彼奴らとのやり取りは見てたよ。異世界にチートもって転生したいんだよね?」
「えーと。まあ……はい」
「ふふ、素直だね。いいよ、転生させてあげる。妾は生と死を司る死神、転生に関する権能は妾も持ってるから」
「え……いいの? だって」
「いいんだ。あなたはお兄様と妾の子供。子供の夢を尊重するのは、親の義務だもの。それにその後押しも、ね」
そう言うと、イザナミはにっこりと笑った。相変わらず血が絵面を悪くしてるが、その笑顔は母性を感じさせる穏やかなものだ。少しあっけにとられた俺である。
その間に、彼女はどこからともなく仮想ウィンドウをいくつか出現させた。その前にはどう見てもパソコンのキーボード(これも仮想)が表示されていて、彼女はその操作を始める。
……何気にハイテクですね?
「転生先も選びなおせるけど、それは大丈夫? 異世界なんて無限にあるし、妾は立場的に超上位神だから、結構無茶も通せるけど」
「え、あー……いや、いいや。最初の予定通りで」
「そう? じゃああの腐れ神たちの世界に転生させることになっちゃうよ? それでもいい?」
「まあ。俺自身はあの人たちにそこまで悪感情ないんで」
「そう……わかったわ」
何か言いたそうではあったけど、それ以上は言ってこなかった。これも「子供の夢は尊重するもの」の一環なんだろうか?
「……えーと、さっき選んでたチート目録渡してくれる?」
「あ、はい」
言われるまま、俺はずっと抱えていた目録をイザナミに差し出す。
……なんだかんだで、あれだけのことがありながらこれは手放さなかったんだな、俺。どんだけ強い欲だよって感じだ。
まあそれだけ嬉しかったし望んでたってことなんだろうけどさ。
イザナミは受け取った目録を確認しつつ、何やら作業してる。転生の手続きとかそういうのだろうか。神様世界にもそういうのあるんだねえ。
その作業はしばらく続くみたいで、俺は手持無沙汰になった。かといって、この場所でできることなんて特にないし、どうしたもんかね?
と思ってたら、イザナミが声をかけてきた。
「あ、そうそう。あなたがポイント内で選択したチートにプラスして、妾からもいくつかチートつけてあげるね。異世界に旅立つ息子へのプレゼントだと思って、受け取ってほしいな」
「え、あ、はい……」
半透明の仮想ディスプレイ越しに、イザナミが笑う。ホント、笑顔だけはかわいいんだけどなあ。
……しかしイザナミからのチートか。
「……ちなみに、どんなのが?」
「ん? えっとね、天気を操作する能力とか、地形を操作する能力とか、魂を操作する能力とか……その他諸々?」
「……とんでもなくね!?」
「あはは、そうでもないよー。あの腐れ神の管理してた世界……あなたの転生先だけどさ。あの世界は結構人間には厳しい環境だから、これくらいはあったほうがいいよ。あなた、そういう直接戦うためのチートはあんまりとってなかったでしょ? だからその代わりだよ」
「は……はあ……」
直接戦闘に関係しているものをほぼスルーしてたのは、その通りだ。もちろんゼロではないけど、ただ戦うためだけの能力よりも重要なものはいっぱいあったからな。
確かにそう言う意味では、戦うためのスキル系チートを追加でもらえるのは、ありがたい。
まあ、旅立ちの軍資金というか、手向けというか、そういうつもりで与えるもんじゃないのは間違いないが、そういう意図ならもらっとくとするかな。彼女の厚意を無碍にするのもなんだし。
……地形を変えるとか天気を変えるとか、戦闘用っていうより開拓用って感じもするけどな……。
「……これでよし、っと。うん、転生準備完了。ごめんね、待たせちゃったね」
「いや、大丈夫」
本当は結構待ったけどな。
それでもその待ち時間が、色々と俺に折り合いをつけさせてくれた。
うん……色々と、な……。
そんな風に自分で自分に言い聞かせながら、俺は爺さんとか竜が死んだ場所をちらっと横目に見る。既にそこには、誰もいない。
「それじゃあ、今から転生させるよ。心の準備はいい?」
「ああ」
「わかった。それじゃ……転生開始! あなたの新しい人生が、幸多からんことを!」
イザナミはそう言いながら、仮想キーボードのエンターキーを勢いよく叩いた。
するとその瞬間から俺の身体が透けはじめ、同時に意識も静かに遠ざかっていく。なるほど、こうやって転生するんだな……。
俺の耳には、最後の最後までイザナミの優しげな声が残り続ける。
かくして俺は、地球から異世界へと転生することになったのだった。
最初にちらっと触れたけど、正確に言うと俺は転生と言うより転移だ。元の身体のままで、赤ん坊になったわけじゃないからな。
ただ、この後俺はすぐにマジの転生にしといてもらったほうがよかったかもしれないと思うようになる。
なんでかって?
転生先の世界に人間がいなかったからだよ!!
転生先の世界で中心になってる知的生命体が、リザードマンだったの!!
そのほかオークとか! 粘性生物とか! そういうのばっかだったの!!
おかげでめちゃくちゃ化け物扱いされたわ! 俺からしたらお前らのが化け物って言いたかったけどな!!
とはいえ、最終的には好き勝手やって暮らせるようにはなった。
なんつっても、俺はチートもらいまくってたからな。それもただのチートじゃないぜ?
権能、っつー神様の能力を持って、だ。
何が何だかわからない、って? おう、俺も最初何が何だかわかんなかったぜ。
これは後になってわかったことなんだが、どうもイザナミが俺に追加でつけたチートってのは、要するに彼女が殺した三人の神様が持ってた能力なんだと。それがほぼ全部、まるっと俺にくっついてた。
しかも、あの二匹の竜がこの世界の主神と副神、最初の爺さんがこの世界の死神だったらしい。
つまり、俺一人でこの世界の主だった神としての特権を余すことなく行使できる、という状況でな……。
チートだろ? もうなんっつーか、やばすぎるレベルのチートだぜ……。
もちろん使いこなせるようになるにはそれなりの時間がかかったわけだが、そうじゃない最初の頃でも十分すぎたんだよなあ。
うん、お世話になりまくったよ。
人間いなかったから、俺のチートで俺に好意持ってくれた女の子(当然だが見た目は化け物だった)を人間に変えてハーレム作ってやったからな!
あと、それだけだと足りないしってことで、もうめんどくなって最後は人間って種族創っちゃったよ。土着の生物と生存競争も起きたけど、最終的にはなんとか互いに利益のあるよう決着させることもできた。俺のチート転生人生は、非常に満ち足りたものになったのだ。
んで、そんな風に好き勝手してたら、俺、いつの間にか神様になってたわ。それも主神。まあある意味当然っちゃ当然かもしれない。
何せ俺、能力的にはガチで神様だし。それを人前でポンポン使ってたら、そりゃ信仰も集めますわ。まるで当然のように不老だったし。
異世界にチート転生して好き勝手やってたらいつの間にか世界の主神になってたとか……いやー、我ながらびっくりだぜ。
でもまあ、俺を転生させてくれた異世界の神様には感謝してるんだ。やっぱこう、自分の思い通りに生きていけるって楽しいからな!
だから、な?
主神の簒奪者って不名誉な称号は返上するから! 主神の座もなんなら譲るから!
頼むから神様連中総動員で俺に戦争吹っかけてくるのだけは勘弁してください!!!
あれは俺のしたことじゃないから!! イザナミのやったことだから!!
マジで俺!!! 無関係だから!!!!
おしまい。
読んでいただきありがとうございます。
現在進行形の他作品の息抜きにと思って、テンプレな異世界転生物を書き始めたのですが、なんかイザナミ様が乱入してきてとんでもないことになってしまったので、短編として投稿してみることにしました。
異世界行っても漫画家目指すもそれなりにテンプレだと思ってますが、神様と邂逅するシーンは描写してないので、それを書こうと思ってたはずなんですがねえ……?
テンプレに沿う形のネタストックはまだいくつかあるので、正直書きたいです。
現在進行形の作品を完結させるのが先だとも思うのですが、やっぱこう、どうしても多少他に目移りしてしまいますよね。
どなたか質量をもった分身をするための道具をください(死