第3話 VS都市伝説編 第一夜『怨霊高速戦』
おはようございます。
今週から、第3話を開始いたします。
今回の話に出てくる、木野による『怪談伝説』所謂『都市伝説の現代妖怪』に関する考察は、あくまでも作者である私個人の見解であり、この見解を基に話を進めます。ですが、世の中には空想だけじゃ語れない物も多く存在しますので、広い心で読んで下さい。
とある高速道路
夜の高速道路、青いライトに照らされた道路を、運送トラックや車、バイクが行き交う長い路…当然この連中も…このご時世になっても減る事はない。
ブーン!
「おわ、あぶねぇ!」
トラックの前すれすれを、猛スピードでバイクが割り込んできた。
「へ、ちょろい」
トラックを追い抜かした、バイクの少年はそのままスピードと騒音を立てて、高速道の彼方へと走り去って行った。
バイクの少年は、スピードには絶対の自信を持っていた。自分より早い者などBRでも存在しないんじゃないかって豪語するほどの、彼の自信には凄まじい物を感じていたのだ。そうこの世に俺より早いやつなんて……
「ん?」
ふと、少年の乗るバイクのバックミラーに一台のバイクが映る。そのバイクは今には珍しいサイドカーを持ったバイク、年代物には違いないが、かなりの早さで自分のバイクに向かってくる。
「改造車か?面白いぜ、抜きたきゃかかってきな!」
少年はそのバイクに対抗意識を燃やして、更にエンジンを吹かして更にスピードを上げる。
この早さに着いて来れまいと、鼻で笑う少年だったがバックミラーではまだあのバイクが自分の後ろを走っていた。
「何…たがだか年代物のバイクを改造した奴が…俺のスピードに着いてくる?どんな奴だ!?」
少年は少しスピードを落としながら、そのバイクと並んで、どんな奴が乗っているのか自分の目で確かめた。
その瞬間…少年は見てはいけない物を見てしまった。
そのライダーには、普通人間なら誰しもあるはずの物がなかった、いや、むしろ無い方がおかしい……と思うくらい、なかったら普通…死んでると…思う。しかし奴は動いてい、バイクを動かしてる…どうして?
………首が無いのに…
「う、うわぁぁーー!」
恐怖のあまり悲鳴を上げて、少年の乗ったバイクは路上に転倒してしまい、路肩に転げ落ちる。
「ぐぅ!」
バイクの方はスピードが有り余って傍のガードレールにぶつかり大破した。少年はバイクから落ちた衝撃で体に痛みは走る物の、打ち所がよくすぐ立ち上がろうとした…
「く、まさか…ひ!?」
さっきのは幻かと思い立ちあがって顔を上げた直後……横を何かが掠めて、少年は倒れ込んだように地面に転がった。しかしおかしい…体にまったく感覚がない…しかし目は開いている、向こうに倒れている何か…それが何か解った時、少年は……この世に解れを次げた。
そう、そこに転がっているのは自分の体で…自分はそれを遠くから見ていた……。
目線の先には先程の首のないライダーがバイクに乗っていた…ライダーの手には長く細いサーベルが持たれて血が滴り落ちている。そのサーベルの血を振り払い再びバイクを走らせ、虚空の闇に消えて行った。
残されたのは首を落された死体と大破したバイクのみだった。
……
…
次の朝、高速道路で発見された首無し死体…直ぐに警察の捜査員が動き出して、事故現場の捜査が開始されていた。
「またか、こう何度も立て続けに起きるとはな」
ここ最近、夜の高速道路でバイクによる死亡事故が多発していた。被害者は共通して首を切り落とされたようになっていた。警察ではこれを『事故』と扱っていたが、警視庁の捜査員であり、長年刑事としてやってきた彼は…
「どう見たって、殺しだろう?」
高速道路で立て続けに起こるバイク事故、首を切り落とされた被害者…共通項が多い。だが上は一貫して『事故』といい、『殺人事件』としては扱わない。
しかもだ…
「ご苦労様です…」
彼らが現れる。黒服とサングラスの、いかにも警察の人間らしからぬ若い男と…白い防護服のような物を着た者達。
「…ちっ…これまた…怪奇事件ですかな?…」
舌打ちをする刑事…殺人事件と考えた事件の数々は、この怪しい者達によって『事故』と片付けられる。彼らが何者であるか、数々の噂が飛び交っていた、警察内で創設された『怪奇事件捜査課』と言う特別な部隊が存在している。世界防衛機構や『浅倉』と言う富豪の後押しを受けて、最近多発する怪奇事件を捜査する…
「……この事故現場の調査は、我々が引き継ぎますので…」
「また、秘匿事項ですかい?んじゃ…それじゃあ、お願いしますわ…」
自分より若いだろうサングラスの奥の目を見て考え、踵を返すと警視庁の捜査員達は現場を後から現れた彼らに託す。
「ちっ……また取られちまったか、畜生!」
警視庁(上)の人間達はどうしてか彼らを容認して、その素性や部署の場所すら秘匿としていた。彼らの追っている事件その物が特殊であり、追っている星(犯人)もまた特殊な連中と聞く。それを人知れず処理する…部隊…
彼らを…『ギルティ隊』と呼ぶ…
勇者あいだ
第3話 VS都市伝説編 第一夜『怨霊高速戦』
…
……
で、2話終盤から…話は続く。
「何々?…『拝啓、相田亮太様。先日の吸血鬼事件への協力ありがとうございます。少なからずですが、報酬の方を送らせて頂きます。ですが、殆ど街の再建費用にギルティ隊が使ってしまったので、本当少ないです…ほんのお詫びのつもりですが、オークションの儲けを少しだけ渡します…ただ、これもそんなに儲けなかったので…少ないよ…』」
吸血鬼事件の後、事務所のパソコンで『ギルティ隊』からのメール…つまり佐倉からのメールを読み上げた。
あれだけ頑張って…命までかけて…疲れたって言うのに、振り回すだけ振り回しておいて…報酬が…たったこんだけか?!日雇いバイトより安いぞ!!
「だぁぁーーっ!こんな仕事やめてやるぅーーーっ!!」
「嘆くでない亮太よ、これでも多い方じゃ」
「どこが!?だって、こんな一寸しかないんだぞ!?オークションの儲けいれてもこれだけかよ…」
「吸血鬼の粉ごときで不老不死が得られれば、わしはとっくに若い頃にそうしてるわい…」
のん気に茶をすすりながら爺さんは言う。まあ確かに言われてみればそうだな…佐倉はそれを知ってたかどうだか知らないが…
「佐倉君の趣味は、そう言った闇オークションじゃが逆に、闇取引現場の情報源にもなってギルティ隊はそう言った連中の摘発もやっておる」
「へぇ……あいつにゃ、景気の悪い事だな」
ギルティ隊…佐倉のいる警察の部隊は、設立して間もなくその創設には爺さんも関わっていたそうだ。ギルティと言うのは隊長の名前をそっくりそのままつけたらしく、本当は難しい長ったらしい名前であり、解りやすく『ギルティ隊』と付けられたらしい。
「まあ、そう悲観する事は無い…あの巨大な事件で大吸血鬼という大物を退治した…その功績で特別な報酬をギルティ隊から貰っておるでな。そんじょそこらじゃ手にはいらん代物じゃ」
にやっと爺さんは笑いを浮かべる。
「な、何だよ…怪しいな」
「ふむ、それを見せる前に…仕事の依頼の話じゃ」
「おう、今度はまともな依頼だろうな?」
何せ、今まで自縛霊の浄化やら、ラップ音のするマンションの調査(結果、犬の霊がはしゃいでただけ)とか…簡単にできるお払い程度だ。
この地域では何処の神社よりも爺さんが安くそして確実にやってくれると言う事で、ちょくちょくこういう依頼で食いつないでいる。
「久しぶりに、ギルティ隊から直属の依頼じゃ」
「……え~」
「乗る気じゃないのぉ、奴らが手に終えない大事かもしれんのじゃぞ」
「爺さん、だからだ!俺はあの佐倉が後ろで「けっけっけっ」と笑ってる顔が見える!」
「タワービルで佐倉君とお主に何があったんじゃ……ギルティ隊も、別件捜査で外せない場合はわし等に依頼する事が多いのじゃ」
別件って何だよ…でも、あいつ等が俺らに助っ人頼むくらいだから、それなりに戦闘もあるだろうし…報酬もそれなり…そ、それなり…ぐあ、どうしてもあいつが後ろで笑ってやがる!
「ギルティ隊の依頼と言ってもな、今回はどうもわしも腑に落ちん…」
「何だよ、爺さんも乗る気じゃねぇな…」
「うむ、まあまず依頼内容を聞くのじゃ」
そう言って依頼内容が書いてある紙を俺に見せた。
「高速道路を中心とした殺人事件が発生、全員首を切り落された残酷な殺され方をされてる…なんだ、ただの殺人事件?俺達が出る幕は?」
「無いと思うが、実はあるらしいぞ…知らんか?そこらの高速道路で語られてる、都市伝説を知っておるか?」
「いや、あまり…」
「首の無いライダーがサイドカーの付いた年代物のバイクに乗って、高速道路に出現すると言う噂じゃ」
あ、なんか知ってる。『首無しライダー』って奴だろう…その噂は俺がちっこい時、確か何かのHPで見た事ある。20世紀終盤辺りで流行った、『怪談伝説』って奴の中にある有名な話で、結構マニアの間や20世紀を生きたおっさん達なら誰でも知ってる奴だ。
この爺さんなどはそう言う話詳しいだろうな。
「首無しライダーって奴だろ?」
「言って見ればそうじゃな。20世紀が終盤に差し掛かった頃によくあった『怪談伝説』に出てくる妖怪の一種じゃな」
あ、同じ事を考えていたな、爺さん…
「んじゃあ、今回はそいつをぶっ倒して…ギルティ隊から賞金を貰うってか?なんだ、簡単じゃねぇか」
「馬鹿ちんが、もうちょっと人の話も聞かんか。正直わしゃ今回の依頼は乗る気でないのじゃ」
「何だ?何時になく悲観的じゃん」
「うむ、確かにただ悪霊を除霊したり、妖怪を退治するのは簡単じゃが。この手の、特にこのご時世に20世紀終盤の噂話でもある『怪談伝説』の『現代妖怪』は最もとっつきにくい相手じゃ。
良いか?噂話や都市伝説が生んだ妖怪と言うのは、その時代の流行、事件、経済等に影響する人の心が産み出した空想の産物が多く、実際にはその手の妖怪が居ると言う事例も無い。
噂と言うのは人伝いに広がるたびにその形態、容姿がだんだん変わっていき、同じようなものでも幾らかのバリエーションが生まれる。
20世紀後半の子供は特にそういう、『怪談』と言う話が好きでの。刺激の無い現実に何か冷っとする話を少しでも求めようとして、自分から新しい怪談を思い付いたり…前に他の誰かから聞いた『怪談』をバージョンアップさせたりとかで……今に言う、20世紀の『怪談伝説』と言うのは、短期間にここまで大きく成長…いや、増殖を果たしたのじゃ」
「もう少し、解りやすく話してくれ……」
「うむむ…つまりじゃ、『首無しライダー』を礼にして…彼奴の特徴は、高速道路…追われる…追い抜かれたら事故を起こす…と言う3つの要素を持った妖怪は他にもあってな…高速道路を100kで走るジェットババアやら、無人のバイクやスクーター、血みどろの運転手を乗せた幽霊車、はたまた人面犬まで…言うなれば『高速道路系』の怪談ノバリエーションは、登場する物は違えど同じ内容、同じ要素がおる。首無しライダーもその一つじゃ。
特に高速道路を良く利用する者…また高速道路周辺に住む人々に語られる怪談でのぉ、その人間が口伝いに広めていく内にこれほどまでバリエーションを増やすに至ったのじゃ。解ったか?」
「お、おう……ようは、首無しライダーは人間が産み出した空想の産物の一つに過ぎないってわけか?」
そう言うと、じいさんは難しい顔で考えて…
「う…うむ、そう言う事じゃ。わし等、妖怪退治屋にとってそう言う噂話程でしか語られないくらい、信憑性のかける話は…受けつけんのじゃ」
「だけど、ギルティ隊から来た依頼だろ?無視できないんじゃねぇのか?」
「そこなんじゃ、ギルティ隊は警視庁での怪奇事件を取り扱う極秘の先鋭中の先鋭…それが、こう言う事件をわし等に押し付ける意図がつかめん。もしかして、何らかの意味があるか?それとも、ただ厄介事を押し付けてるだけなのか?」
「佐倉ならやりかねない…」
やっぱり、佐倉がどっかで「どっきりー」とか言って出てきそうだ。爺さんの話に言ってみれば都市伝説系統の奴はどれが本物かわからず、空想の産物って事だ。俺にしちゃロマンが一つ減った気もするけど、爺さんが言うのも何となく説得力がある。
「でも、あいつ等がやってくれって言うなら…」
「そこなのじゃ、この依頼を見る限り…前回の報酬でもある、外の贈り物と関係するじゃろうからの…」
「は?」
…
……
3日後
ここは某県の県境を結ぶ高速道路のトンネルの入り口。トンネルの向こう側は見えないが直線道路でかなり長いトンネルだ。
「何故だ、俺は何故ここにいるんだ?」
ブゥン…ヴゥルルンッ!
トンネル前で、爺さんが何かにエンジンをかける、低いエンジン音と共に何かが中に浮かび上がる。バイクのような物だがタイヤが無い、ホバークラフトのような物が車輪の代わりにあり、それで浮かび上がらせる。
「亮太よ、エアバイクの運転はできるであろう?」
「BRの運転もできる、色んなバイトをしてたんだ当たり前だろ?でも、爺さんも乗る気じゃなかったのに…首無しライダーは空想の産物じゃねぇのか?」
「このエアバイクと、この依頼報酬を前金で200万受け取ったのじゃ、やらん事には始まらんよ…ギルティ隊は何かを掴んでおる」
「200万を前金なら、たいした大事だぜ」
「嬉しそうに言いおって…しかし、ギルティ隊は前金とエアバイク、それから首無しライダーの事件報告書と予測経路…その全てを送ってきおった…」
確かに、前金200万とエアバイク、これはたいした報酬であり俺に取っちゃ今までで一番いい依頼報酬だ。ただそれを送ってくるとなるとギルティ隊がそれ程、逼迫していると言う事だ…佐倉の厄介事の押し付けでもないって事だ。
調査書は、首無しライダーがやったとされる、殺人事件…事故をまとめた物と、首無しライダーに関する目撃証言やらをまとめた物だった。事件…高速道路上で首を切り落された殺人事件が起きたのは最初起きた首都高速から、ここまで7件…男女問わずライダーの首を鋭利な刃物で切り落した事件や、日にち時間によって、北上して行くのが書かれている。
それと平行するように、首無しライダーを見たと言う目撃証言…そこから爺さんが推理して、もし…首無しライダーが日本を北上しようと言うなら、必ずここを通る筈だという推測を出したものだ。
「ここまでの目撃談…ギルティ隊からの報告書を読む限りでも…やはり、何処か納得が行かぬな」
「なぜだ?こんなに目撃証言と、何より7人も殺されてるんだ、居なくてどうすんだ?」
「うむ…実在したとしても、高速道路で不慮の事故に遭って死んだ若者の霊がさ迷ってるだけで、他人に危害を加えるとは考えられん。実際、その姿を見たとしてその後事故にあった例があるとしたら、それはその禍々しい姿を目の当たりにした恐怖からバランスを崩して、転倒…事故に至ったというだけ……それに、何故奴は北上するのかがわからん」
「……もしかして、おびき寄せられてるのは俺らの方かもな…」
それを言うと爺さんは何かに気付いたかのように驚いた表情で俺を見て…
「……亮太、お主は天才かもしれん…」
そう言って肩に手を乗せる。
「何だよそれ…まさか、マジで俺らは罠にかかってたってのかよ…」
「奴が罠を張るとしたら、おびき寄せたのはギルティ隊の方じゃ…。そして、そのギルティ隊は首無しライダーの向こう側にいる者を突き止めたのじゃよ。それでわし等を頼りにしてきたのじゃよ」
「首無しライダーの向こう側…黒幕ってのかよ…」
「黒幕…か」
ピピピッ!
『マスター様、ご隠居様、霊気探知計測器に反応ですぅ、計算通りにターゲットがこのトンネルにむかってるのですよ!』
「って、ハナコ!何でお前ここから喋ってやがる!」
手に持っていたPDAからハナコの声が聞こえる。
「BRの人工知能と、手持ちPDAを直結しておる…ハナコを介して様々な装置とのリンクもできているからのぉ…ブレイバーがこれで遠隔操作ができるぞ」
人工知能搭載したBRは遠隔操作が可能だ、それどころか外に設置してある周辺装置も操作できる。こいつがかなり便利だって事だ…
「トンネルの向こう側に、ブレイバーを配置して遠隔操作でソードランチャーを撃てるようにした…爺さんは…」
「ここに奴が入り次第、入り口に結界を張り、爆薬を仕掛ける」
「良くこの高速道路の管理者が通行止めにしたよな…失敗したら入り口をふっとばしてもいいなんて…」
「ギルティ隊がその辺保障してくれたのじゃろう」
「無茶抜かせ…まあ、その爆薬を使わない事を祈ろうぜ」
「亮太も、式神は1回以上は使うでないぞ、以前は何とかなったが生命力を奪われるからのぉ」
「おう…その為に逃げ道の少ないこのトンネルを選んだんだ…しっかりやるさ」
だとしても、まだ朱雀と白虎しか使ってねぇから、青龍と玄武がどんなのか想像がつかない。まあ、何時でも使えるように朱雀用のライターは買ってある。この中じゃ一番攻撃力が高く使いやすいのが朱雀だからだ…
そう言って俺はエアバイクに跨る。ホバークラフトの要領で車体を浮かせて滑らかに走る事ができる。BRの免許があれば大抵の乗り物の運転ができるのだ。
ちゃんとハナコのPDAが差し込める所があり、メットのインカムで会話が可能だ。
「ハナコ、聞こえるか?」
『マスター様、ちゃんと聞こえます。位置情報も確認済みです、何時でもどうぞ』
「おうよ、爺さんはインカム拾えてるか?」
「うむ、でかい声で言わずとも拾えてるっ、準備は完了じゃ!奴もじきに来る、早くゆけ!」
「了解!いくぜっ!」
バイクを運転するようにアクセルを入れて、エアバイクをトンネルに向けて発進させた。オレンジ色のライトに照らされた長いトンネル内を俺は猛スピードで発進した。
「うぉぉーーーっ、ふっとばされそうだ!」
振り落とされそうな程のスピードでトンネル内を突っ走る。
「大丈夫じゃろうか?」
ブーン…
見送った木野の後ろから低いエンジン音を鳴らせて、何かが近づいてくるのが分かった。
「お?来た来た…」
木野は慌てながら、霊力探知計測器を抱えて、その場から離れた隅の草むらに隠れた。
ブゥゥーーーン…
道路の向こうから…トンネルに猛スピードで入っていくサイドカー付のバイク。それをトンネルの中へと見送った木野は血相を変えながらトンネルの入り口まで戻ってくる。
「じ、実在しておったとは…おう、そんな事言っておる場合ではない。こっちも用意せんとな…」
「亮太、奴がトンネル内に入った…やはりお主を追ってきておる」
木野は驚きながらもこっちでの壁の役目を果たす為後ろに止めてあった、軽トラまで戻った。荷台に積んであった爆薬を急いで準備し、いつでも入り口を爆破できるようにして…更には霊的な効果のある札を入り口に貼り付ける。
相手の行動パターンだと、バイクに乗ったライダーを狙って走行中に首を斬る…という行動パターンだ…相田の乗るエアバイクを餌にトンネル内で決着をつけるらしい。
「亮太、入って来たぞ!!…む?インカムは入ってるはずじゃが…」
奴の出現とトンネル内に補足した事を連絡するが、先ほど使えたインカムで通信が入らない。インカムはトンネル内でも使えるものだが…
「だいぶ奥まで走って来たけど……まだ現れねぇな」
エアバイクのスピードにも、体が慣れてきたが…その首無しライダーってのは現れない。反応があったって言ってたけど連絡も来ない…インカムの故障かさっきから呼びかけても応じないし……何してんだ爺さん…
早くしないとゴール地点まで行っちまうよな……だけど、放っておく事はできないし、もしかしたらエアバイクが早すぎて追いつけないんじゃないのか?
ブゥゥーーーーーン!
低いバイクの音がする…エアバイクのホバー音とは違う、確かなエンジン音。こんな音のするバイク、かなりビンテージな物でオークションじゃ結構な値段で売れそうだ。佐倉なんか喜びそうな一品だ…
なんて言ってる暇は無い…
まさかと思い、俺はバックミラーを見てみた。バックミラーには年代物のサイドカーを持つバイクが見える、でもバイクに乗ってるライダーまでは分からない。体が一寸だけ見えるだけで首まで見えるわけじゃない。
しかし、時速は200を超えているエアバイクに旧式バイクで追いつくだけでもすごいんだ。相手がもう何かなんて分かっているだろう。
思い切って振り返って、そのライダーをちらっと見ると……
「………ねぇし」
やっぱ実際見ると、とても怖いもんだな。そのバイクに乗ってるライダーはある筈の首がない…首があった所から血が滴り落ちている。その不気味さにハンドルを取られそうになるが…踏ん張る。
「俺が怖がってどうする!?」
自分に突っ込みを入れて、俺はアクセルを吹かしてバイクを飛ばした。ゴールまであと数十秒もしない…だが…
「うぉぉーーー!」
スピードを上げてそいつを突き放すが、奴はぴったりと俺のエアバイクにスピードを合わせて、くっついてきた。300kを越す高速の中、何が奴のスピードを上げてるんだ?
その内、奴は俺の横に並んでくる。間近で見ると本気でそいつの異様さが解る…首がないのに、運転できる…どんだけなんだ。っていうか、こいつ生前に何して死んだんだ、それに目的もわからねぇ…何で人を…ライダーを殺すんだ?
考えているとそいつは俺の方に体を向け、車体の右側に取り付けてあった細身の刀を鞘から引き抜いて、片手で運転しながら俺にそれを斬りつけてきた。
「うわ!あぶねぇ、走ってるときにそんなもん振り回すんじゃねぇ!」
奴の車体を思いっきり蹴飛ばして横の距離を離すが、すぐに持ち直して追いつき再び俺に刃を振る、見えないはずなのに正確に首ばっかりねらって斬ってくる。ふつう耳とか目とか無いと相手の位置がわからないんじゃないのかよ…
「ち、このぉ!」
俺もエアバイクの右側にあった剣を引き抜いて、振られる刃を受け止める。高速で走りながら剣と剣が火花を散らした。
キィン!
このままじゃ押し返されて、事故るかもしれねぇ、引き離さねぇと…
「しつこいってんだよ!」
げし!
俺は思いっきり、首無しライダーのバイクに蹴りを入れて、バイクを遠くへと突き放す。突き放されたバイクはトンネルの壁にサイドカーを激突させ、サイドカーが火花を散らしていた。
乗ってる首無しライダーは突然不意をつかれたと思ったか、サーベルをしまってバイクを元に戻そうとするが。
バキィ!
ついに隣にくっついていたサイドカーがバイクから外れて、その衝撃でバイクも右に横転した。
ガシャァァァーーーーン!!
大音響と共に、地面に転がる首無しライダーのバイク。俺はエアバイクを反転させて、急停車させた。
「やったのか?」
横転したバイクの横に、首の無い死体が転がるように奴は、倒れていた。これだけ見ても不気味なのにそれが起きるとなると…
「やべぇだろ…まじで…」
『亮太、りょ…ジジッ…大丈夫か!?ジジッ…』
インカムからノイズだらけだが爺さんからの連絡が入る。
「おう、なんか電波が悪いみてぇだな…今、首無しライダーをバイクから引き摺り下ろしてやった所だ。これから止めをさすぜ…」
『亮太、早くそこから出るのじゃ!トンネルの……ジジジッ!ジジジジジッ!!ピーーー』
「わっ、痛て…通信装置故障してんのか?」
爺さんが最後に何か言おうとしていたが、ノイズ音と最後の甲高い音で掻き消えてしまっていた。
「しっかたねぇな、出口近いし、ブレイバーの方にかけるか…ハナコぉ~そっち聞こえ…」
ハナコの方に連絡を入れようとチャンネルを変えようとして、急な殺気を感じ取って体をわざと仰向けに倒れさせて、迫ってきた刃を間一髪でかわす。
キィンッ!
横に薙ぎ払われた剣が俺の鼻のすれすれを掠める。あぶねぇ…
「ちくしょう、何時の間に…」
倒れこんで避けたからか、地面に倒れて受身を取り…起き上がり距離を取ると、サイドカーを失って今にも爆発しそうなバイクに乗った首無しライダーがいた。
「野郎、やってくれんじゃねぇの…」
エアバイクと俺の丁度間を割って入るようにして、俺をバイクに乗せないようにしていやがる。
「これで、タイマンってか?…」
隙を見せたら一瞬で間合いを詰められて、首を斬られる…。速さはあいつの方が上だろうな…
「どう出る」
ブルルゥンッ!ブルルゥンッ!
エンジンを吹かしてこっちに今にもバイクを発進させてきそうだ。
「……ん?」
剣を振り上げてくると思ったら、全然来ない…そう思ったら何かを探すような仕草をして居る。首がないが、あったらきょろきょろと周りを見渡しているような動きをしはじめる。
「なんだかわかんねぇが、隙ありだぜ!」
奴の隙を着いて、剣を斬りつけようと思ったら…そいつが俺と首無しライダーの前に割って入るように現れた。
カシャッ!
「うおぉ!?」
ウィーンッ…カチャカチャ…
それは、丁度大型犬程の大きさの四つの足を持つ、蜘蛛のような不気味なロボットだった。BRじゃ…無いよな…こんなロボット見たことねぇぞ…
「……」
つん…
ガチャガチャガチャッ!
剣で突っつくと、ガチャガチャという音を立てながら後ろに、後退する。きもい…
「なんだこいつ…」
じー…
「んだよ…俺をじっと見やがって…」
モノアイ?亀の甲羅のような所に1個だけついてる目で、じーっと俺を見ている。ずっと見てると可愛く見えるな…爺さんがよこした支援メカ?いや、こんなの見たことねぇし…第一持って来て無かったよな。
『……ぴぽぴぽ…』
カチャ…
「ん?なんか出て来た…」
モノアイの上辺りの甲羅の部分がかぱって開いて、その中には銃のような物が…って…
ビュッ!!
「げっ!撃ってきやがった!」
謎のロボットが頭のビーム砲のような物を撃ってきて俺は距離を取らされる。
「何なんだ、敵かよ!?」
訳がわかんねぇ…クモロボットはまるで首無しライダーを援護するようにビームを撃って来る。首無しライダーと何の関係があるんだよ…
『ぴぴぽ……ぴぽぴぽ…』
がちゃがちゃ…じー…
俺との距離を取って、今度は首無しライダーの方をじっと見る…まるで俺と見比べて品定めしているようだ。
『ぴぽぽ…ぴぽぽ…ぴー…ぴぽぴぽ』
『……』
首無しライダーの方は、そのロボットと見つめあうように動かないで居る…見えてるのかが妖しいが…
『ぴーーーー…』
シュバッ!
一際甲高い鳴き声のような物をあげて、トンネルの天上に向けてジャンプをすると首無しライダーの真上まで来て、そして落下する。
ガシッ!
『!!』
クモが纏わりつくように首無しライダーの背中にくっつくと…
『ぴぽぴぽ…ぴぴぴっ!ぴぴっ!』
ぐにゃり…
金属の固そうなロボットが首無しライダーの背中で突然溶け始める。銀色のどろっとした感じの液体になって首無しライダーの体や…下のバイクまで包み込んでしまう。
「おいおい、何の冗談だ?」
ロボットが液状化して、首無しライダーを取り込み『融合』しようとしているってのか?妖怪とロボットがくっ付くって何になるんだよ…
「あの吸血鬼の時と同じじゃねぇか!?なんだってんだ…」
前の吸血鬼も街中の肉塊を取り込んででかくなった…こいつも、そんな感じか?
ぐにゅり…ぐにゅ…
首無しライダーを取り込んで…銀色のそれは不気味に形を変えようとしている。
「やばくなる前に、倒すっきゃないか!」
俺はそう言ってホルダーから赤い朱雀の札を取り出す、ライターの火をつけてそれを火種に、赤い札に炎が宿る。
ジャッ!バシッ!
「うわっ!あぶねぇ!」
ものすごいスピードで何かが横切り、赤い札の燃えた部分が切られてしまう。
それは融合中の首無しライダーの手…剣とも融合して細長く伸縮自在に伸びて俺の手の札を切った…
「…まじかよ…」
ギュララララッーーーーーッ!!!
凄まじい爆音とチェーンソーのようなタイヤが地面を抉る音が響き、何かが桁外れのスピードで俺に突進してきた。
「ぐ…うあぁ!」
ガキィィンッ!
剣で受けとめるが、凄まじい衝撃にまた吹き飛ばされる。
「うわぁ!」
弾き飛ばされた俺は、トンネルの壁に激突する。剣だけでこれだけの威力が…俺は目の前の首無しライダーを見上げる。
「な…」
あのロボットと融合したらしい首無しライダーは、バイクと共に驚くくらいの変貌を遂げていた。進化って言うのか、これ…?
無くなっていたはずの首には、新しい銀のドクロが装着されて白から黒いライダースーツを着て、サーベルは刃が長く…伸びる様になっている。バイクの方も、年代物から近代的な感じになって、ホイールはノコギリのようにぎざぎざが着き、ライトとなっていた部分にさっきのロボットのモノアイがついている。
やっぱ、あの変なロボットと首無しライダーが融合したんだな。ってかありえねぇだろ普通に考えて…
『ぴぴぴ…ぴぽぴぽ…』
ロボットと同じ、機械音をその首無しライダーは立てて、銀色のガイコツの目で俺を睨み付けると…再びバイクのエンジンをふかす。
ギュルルルッ!
「エンジンまで変わってやがる…あのノコギリホイールで轢かれたら体がバラバラになるぜ!」
ホイールがアスファルトを削り底の地面を露出させる程の威力だしかも、エンジンは聞いた事ない音だし。
ギューーーーンッ!
まるでロケットでも発進するくらいの途轍もない勢いでバイクを発進させてくる、受けるか避けるか決めるとしたら避けるしかない。
「うぉぉっ!!」
なんとか、その一撃を避けるがすぐに俺の首元に迫る銀色の刃を切り払う。
キィィンッ!
「げっ!!」
速さと発進の勢いをつけた一撃を受け止めた事で、腕に衝撃が走り剣を手放してしまう。
ひゅんひゅんっ!ざくッ…
クルクルと回転しながら、俺の剣はトンネルの天上に突き刺さってしまった。
「…くっそぉ…」
ジャンプすれば届きそうだが、そうなったら奴のいい的だ。首無しライダーはまた反転してから、今度はシルバーのドクロの目から、さっきのロボットが放ったのと同じビームを撃つ。
「あのビームか!?」
俺はしゃがんでそのビームを避ける。あのロボットの武器まで使えるなんて…ビームを立て続けに連射して俺は追い込まれる。
どうする、剣は天井だ…それにまた朱雀を使おうとしても、一瞬で間合いを詰められる。だからと言っても、他の式神は火種が無いと使えないし。
「だったら、こいつで!?」
俺は刃札をホルダーから抜いて構える。でも威力が小さいかもしれない…決定打を与えるにはやっぱ、すれ違い様に剣で斬らなくちゃ、意味が無い。
だったら、どうする?…考えは……浮かばない!
「破れかぶれだ!」
俺は刃札を3枚構えて奴に対峙する。決定打にならなくても弱点をつけば…それに剣を取れば…
「…まじぃ…」
よくよく気付くと、俺が立っているのは道路のど真ん中…ビームで追い込まれて奴が突進しやすい直線の位置まで来ちまった。
「こうなったら…いちかばちか…すれ違い様だ、きやがれ!ばけもん!」
『ぴぽぽ…ぽぽ…ぴぽぴ…』
ギュルルーーーーガァァァーーーッ
地面を削りながら俺に突進してくる。俺は刃札に集中し、3枚がピンと刃になる…
「うぉぉぉーーーーーりゃっ!」
地面を転がるように突進してきた首無しライダーを避け、すれ違い様に刃札を投げつける。
ザシュッ!
「あぐっ!」
刃札を持っていた手が切りつけられて、2枚の軌道が反れて別々の方に飛んでいってしまったが、1枚は確実に弱点を突いた…
『ぴぴーーーっ…ぴぽ…ぴ…ぴ』
ボンッ!
小さな爆発が奴の乗ってるバイクで起きる。刃札の一枚は確実にバイクの一つ目を破壊していた。
「手が落ちてねぇ…よかったぁ、でもいてぇ」
斬られた部分から出血してるが、傷自体は浅そうだし手が落ちてないだけ良かった。
「どうだ、そっちの攻撃はこの程度だ!」
『ぴーっ!ぴーっ!…』
そして、あいつにとってあの目玉は本当に弱点だったらしく、バイクを操る首無しライダー自身も新しく出来た頭を抱えてもがいている。
「それみろ…舐めんなよ!俺は、どんな噂話も一発で解決する男、勇者あい……だ…」
何時もの名台詞を言い切る前に…ロボットバイクはライダーの操作と関係無く、俺に背を向けて逃げるようにバイクを走らせてトンネルの向こうへと走る。
「おぼえと…けよ…ってぇぇぇ!逃げんのか!?」
何かを急ぐように、ゴールへと向かうようにバイクを走らせる。
「やべぇ、外に出るつもりだ」
俺は急いでその後を走って追おうとしたら、そこに俺の剣が地面に落ちてくる。
「え!?なんで…」
上を見上げたら、軌道を外れた2枚の刃札が剣の刺さっていたところに突き刺さっていた。俺は剣を拾って追おうとエアバイクに行くが、起動してる内に逃げられる…だめだ、奴の早さが上で追いつけねぇ。
「そうだ、ハナコ!」
通信機で外のブレイバーで待機しているハナコに連絡する。さっきので電波が悪くて使えなかったが今度は出口が近いし、繋がるか?いや…かけるしかねぇ…
「おい!ハナコ、きこえっか!?」
『はぁ~い、マスター様やっと連絡がつきましたぁ~、通信機が壊れたようで木野様が気に掛けられてました』
「それはどうでもいい!奴がそっちに向かってる!見えてるか!?」
『え!?あ、はい…レーダーに猛スピードでトンネルをこちらに向けて走ってくる物が一つあります、あと30秒後にトンネルを突っ切ると思います』
「だったらやべぇ、ハナコ!ロックオンしろ、合図と同時にソードランチャーを発射だ、あいつを外から出させんな!」
『了解!レーザーが来たら、伏せてくださいね、巻き込まれますよ』
「わかってらぁ、俺もアシストするぜ!」
俺はホルダーから別の札を用意する、こいつはまだ使ったこと無いが…土や大地に反応して、もう土を被っている…
茶色の札…間に合えよ!
「行けよっ!玄武っ!!」
バッ!
奴のバイクのホイールの跡で露出した地面に向かって札を投げつけると、地面に向かって一直線に落ちて、その場の石とか土とかが土石流のように速い流れでトンネルを進む首無しライダーに向かう。
ドドドドドドドドッ!!
その土石流の中に、亀のような生き物が見える。
ドォッンッ!
土石流が首無しライダーのロボットバイクの下まで行くと、バイクを押し上げるように地面が突如隆起する。
その隆起した地面に押し上げられたバイクは宙に浮く…今だ!
『索敵OK!ソードランチャー撃ちます!』
「ソードランチャー!GOォ!」
俺は倒れ込みながら伏せて、叫んだ。
バシュゥゥゥーーーーー!!
威力を圧縮させたレーザーが銃口から放たれ、バイクが浮いてタンデムしてる首無しライダーに向かう。光が見えた、だがそれはトンネルの出口の光じゃない…ブレイバーから放たれた圧縮されたレーザーだった。
ズゥゥーーーーン!!
サーベルを振り上げるが、レーザーはサーベルを糸も簡単に粉砕してロボットバイクごと首無しライダーを飲み込んで、光の中で粉々に分解されて、消滅した。
「…来た!」
ビューーーーーーーーン
俺の真上をレーザーが、通りすぎ…俺は頭を抱えてレーザーが過ぎるのを待った。
…
……
「…亮太は無事か…通信機が故障して連絡がつかん…首無しライダーと一騎討ちしてるはずじゃが、こっからじゃ何も解らん」
木野がそう思っていると、赤い光がこっちに向かってくるのが見えた。
「何じゃ!?…まさか、あの馬鹿!ブレイバーのソードランチャーを…いかん!」
木野はそう言って慌てながら、もしも戻ってきた時のバリケードとして使おうとした、手製の爆弾を全て抱え上げ急いで逃げる。
なんとか爆弾を撤収して逃げると同じに後ろで、ブレイバーから放たれたレーザーがトンネルの出口を出て空の彼方へと赤い一筋の線となって消えた。
「ま、まったく無茶苦茶な奴じゃ…じゃがそうでもせんと、勝てなかったかもしれんのぉ」
ビービー
「…!?動き出したようじゃな…」
手持ちのレーダーに反応が出て、確認する。レーダーには赤い点がトンネルの天井で反応を示していた。先ほど、首無しライダーの出現地点にそれの反応が現れたが、今度はその数は…数百と大幅に上っていた。
木野はそれを知っていた…『それ』の正体も目的も不明、近年突如として世界中に現れたそれを…こう呼ぶ…
「『サイコバグ』…ギルティ隊はこれを追っていたのか…」
……
…
「……な、なにこれ…夢かな…痛い、夢じゃない…」
今しがた首無しライダーをレーザーで倒して、起き上がったが…目の前のことを現実と受けとめられずに俺は頬をつねる…痛い、少なくとも夢じゃねぇってことは確かだった。
「しっかし、どっから沸いて出るんだ?こんな数…」
『…ぴぽぴぽ…』
『ぴぴぽ……ぴぽ』
トンネルの天井や地面の至る所の隙間と言う隙間から這い出したと思われる、さっき首無しライダーと合体した変な虫型ロボットがうじゃうじゃと…前と言わず後ろにもうじゃうじゃ出てきて、そのロボットの群は俺を取り囲んでじーっと俺を見ている。
100…200…と言った生易しい数じゃない。5桁くらい行ってんじゃねぇのか?
「……なんだよ」
じー…
さっきと同じように、俺のことをじーっと見ている…今度は集団であのビームをぶっ放されたら確実に死ねる。
「ああ、もう煮るなり焼くなり好きにしやがれ!」
『ぴぽぽ…ぽぴぴ…』
『ぴぽ…ぽぽぴぴ…ぴぽ…ぽぴ』
ぴぽぴぽと、不気味な機械音を上げるロボット達は何か相談するように集団でぴぽぴぽ合唱を始める…そして、ビームで攻撃してくるかとおもったら…
ゾロゾロゾロ
ロボット達は何故か俺を避けて、トンネルの出口に向けて大行進を始めた。
「な、何だってんだ…襲わないのかよ…」
それどころか、俺を無視して外に向かってる。訳がわかんねぇ…
取り合えず流れに飲まれないように、俺は奴等が何処に行こうとするのかを追った。俺のペースに合わせるように、ロボット達は俺を避けながら段々ペースを速めていく。
「ゴール…外出ちまったぞ…どうなってんだ」
トンネルの出口に到達すると、ロボット達は全部停止して…
『ぴぽぴぽ…ぴっぽぽ…』
カシャ…カシャカシャカシャ
トンネルの外に出たロボット達は、ぴぽぴぽ合唱した後、背中から虫の羽らしき物を出して、4本の足を丸めるとその羽を使って空へと飛びあがった。
ブーーンッ…
虫みたいにそのロボット達は空へと上がって行く…月を見るとそのロボットの軍団が黒い帯になって飛んでいる。黒い一本の線…なんかの番組で見た「蝙蝠の大量発生」みたいだ。って、あんな黒い線になってるなら、一体どんだけの数が居るってんだよ。
「わけわかんねぇ…俺を攻撃したり首無しライダーに取り付いて合体するわ、挙句に俺を無視して飛んでいくわ…」
首無しライダー以上にあのロボットが解らなくなって来た…それに、何処に向かおうってんだ…
「どうしよう、ブレイバーで追おうか?って、ブレイバーがねぇ」
確かここで配置されていたハナコが自動操縦していたはずのブレイバーがいねぇ。
「あああああ!」
ロボットの群れが完全に居なくなったと思ったら、仰向けに倒れているブレイバーが出てきた。
「ブレイバーが…お、おいハナコぉ!」
PDAを取って、ブレイバーを操縦している、ハナコに声を掛けると情けない返事が帰ってきた。
『まぁーすたぁさまー…ぐず…何が起こったんですか?急にモニターが真っ暗になったと思ったら…倒れちゃって』
「はぁ?」
どうやら、群が出口にいたブレイバーを避けずに群がって押し倒したって所か?
「……お前って奴は…」
『すいませぇん、倒れた衝撃で電源がショートしちゃって動けないんですぅ~』
「んじゃあ、追えねえじゃねぇかよ!」
空に見ると、ロボット軍と思われる黒い帯の尻尾の部分が月にかかっていた。
「……見ろ、完璧逃したぜ」
『すみませぇん…ぐず…でも急なことで怖かったんですよぉ』」
「はいぶりっこぽんこつこんぴゅーたーが情けない事、言ってんじゃねぇよ」
『Hybrid・Navigation・Connectorですぅ!それじゃあ、本当にポンコツコンピューターじゃないですかぁ!?』
「うっせぇ!…あーあ、でも…これで一応、一件落着ってか?」
首無しライダーは倒したが、何だこの消化不良な感じは…あのロボットのせいだ、首無しライダーの目的もはっきりしねぇし…
「あ、そいえば…エアバイク!あれ、前金で受け取って…忘れてた!」
トンネルの奥に乗り捨ててあったエアバイクは何とか修理できるレベルだったが、これは首無しライダーの報酬から引かれるようだ…
で、何とか爺さんの所に戻ると…
「奴は倒したようじゃな」
「ああ、ソードランチャーでやったけど、大丈夫だったか?」
「無茶をしおるのぉ…急いで爆弾を撤去したぞい」
「…通信機が故障してたから、状況はわかってたか?」
それを聞くと、爺さんは顔をしかめて…
「その事じゃが、帰ったらわしはちょい行く場所がある…1週間ほど事務所を離れなきゃならん」
「は?あのロボットの事か?首無しライダーの事か?」
「両方じゃ…その間はギルティ隊から直接依頼が来るように言って置いたわい…事はわし等の想像以上に大事になりそうじゃからな…首無しライダーは氷山の一角かもしれん」
なんかきな臭く、不気味な感じがしてきた。
この事件が爺さんの言ったとおり、これから起きる事件への序章に過ぎない事だったって事を思い知らされる。
事はもう闇の中で始まっていた…
何処か別の場所
「ふん……やはり勝ったか、『スサノオ』の後継者か…」
丸い鏡の中を見る一人の奇妙な頭の老人…首無しライダーを作り上げた者達の黒幕的存在。予測通りに自分の存在を突き止めたギルティ隊は、首無しライダーに『スサノオ』の後継者たる、『勇者』を差し向けて来た。
「ワシの予想に反した正体不明の輩も出てきたが…良き暇つぶしになったわい」
首無しライダーで、『勇者』の力量を測るつもりだった。ルーキーではある物のあの、大吸血鬼の一角を倒したと言う事を聞き、その男があの『スサノオ』の意思を受け継ぐ者だと言う事も知った彼らが差向けた物だったが…『サイコバグ』という彼らにとっても正体不明な存在の介入もあり混乱を招いたが、結果は良し…それでも勇者の力量を測るには、かなり成果があった。
「さぁて、今度はどうしてくれよう…ひょっ、ひょっ」
いずれ、糸を引き寄せたギルティ隊の者達が因縁深い『スサノオ』を頼る頃であろう…勇者を囮である首無しライダーに差し向けたのもその為だ…
だが、現在の所ギルティ隊が今の事件のカラクリまでは解っていない、彼が放った者達はもう行動を開始している…。後は彼ら『現代妖怪』がどこまでやるか…老人の不気味な笑みが、暗闇に響き渡った。
次回に続く…
どうもです、謎の存在をいっぱい出してすみません。
この小説では色んな敵が同時に襲ってくる事もあります。サイコバグは妖怪とか吸血鬼とかとは別のオリジナルの敵でシリーズ全体を通して謎多き存在として描きます。
でも、今回の相手は、悪まで現代妖怪にスポットを当てています。
次回から話は動いてきますのでご期待ください。
それでは!






