第2話 魔王の腕編 第四話『勇者対勇者、勇者とは…』
こんにちは、今週は2話連続投稿!
この2話で、魔王の腕編は完結します~。
前半戦は、VS御堂君です。彼のように傭兵らしい勇者と、相田君の勇者のどっちが正しくてどっちが強いか…決着の時です。
前回の勇者『A』は
巨大肉塊から逃げながら、BR…ブレイバーの武装を取りに行く俺だったが、御堂のBR『セイメイMk-5』と佐倉のBR『アイスコマンド』が俺を追っかけて来た。色んな武器を合成した大砲と全ての攻撃を弾く盾のせいで、俺の援護に回ってくれた重武装のBRの攻撃を弾いちまう。何とか爺さんに合流して俺のブレイバーは武装を装着完了させた。その武装で無敵だった御堂の盾を貫いてあいつのBRを倒すことに成功する。ブレイバーが持つ2つの剣…レーザーコーティングの刃を持つ剣、『レーザースレイヤー』と圧縮レーザーを発射する、『ソードランチャー』。
御堂のBRをぶっ壊した後、御堂は往生際が悪くビルへと逃げちまった。俺は御堂との決着をつけて、あの気持ち悪い腕をぶっ倒す為、俺と佐倉は再びビルへと向かった。
ビルのメインエントランス
BR戦でセイメイMk-5を完膚なきまでに破壊された後、ビルに戻ってきた御堂だったが、出迎えたのは…会社の秘書と二人の男…二人は牙をむき出しにして、帰って来た御堂を威嚇している。
「……ふう、と言う事は我々の協定もここまでと言うのか?」
「侵入者2人にBRを破壊されのこのこ帰って来た文才が、何を言う…主は復活間近だ、とすればもう用心棒も必要ない。我々の秘密を知る貴様はもはや用済みだ」
秘書の女はもう御堂に敬語を使わないものの、余裕の表情を浮かべている。
「ほう、用済みは殺されるべきか…だが、これまでの報酬を受け取っていない…」
「…ふふふ、結局は傭兵くずれか…」
「何度でも言え、これまでタダ働きで貴様らの秘密を守ってきたのなら、それこそ先祖に申し開きができん」
肩の力を下ろし、ため息交じりでそう言う御堂。
「……構わない、殺せ」
ジャッ!
秘書の隣にいた二人の男が指示と同時に御堂に襲い掛かる。口から血を吸う為の牙を突き立てる吸血鬼だ。
襲いかかる吸血鬼達を前に、御堂はかったるそうに片目を開き…
「……『無』ぅ…」
ボォンッ! ボォンッ! ボォンッ!
襲い掛かってきた二人の吸血鬼が、何も無い所で発火して炎上する。
「……ギゲ…こ、この力は…」
炎上した吸血鬼はそのままエントランスの床に落ちる。その光景を見て、秘書の口にも犬歯と同じように真ん中の歯も合わせた三本が伸びる。
「…『縛』!」
ギュッ!
「クァァッ!」
人間らしからぬ甲高い叫び声を上げる秘書。
「さて、報酬を頂こうか?…それとも私と敵対するか?」
御堂は何処からか出した巨大な筆を使って、一瞬で秘書を印で束縛する。
「構わんぞ、私はギルティ隊に協力しても……」
「……主が完全復活すれば、貴様ごとき…」
「ならば、貴様らの出来損ないの主を消してやろう、いや…先ずは貴様だ…どうする?」
筆を持ち秘書に詰め寄り、今まで余裕の表情だった秘書は表情を歪める、吸血鬼の牙をむいてもその体を束縛する印を断つ事はできない。
吸血鬼達にとって復活が近い『主』、だが今のこの御堂の力は現状の主でもまだ脅威であり、元よりこの脅威を取り除く為に雇ったような物だった。金で雇えば、脅威で無くなるという事は無い。
「解った、報酬をやろう……だが奴らの息の根を止める仕事が残っているぞ…」
ギルティ隊と雇われルーキー勇者の相手をして、主が完全復活する時間稼ぎをする…完全に復活すれば、ギルティ隊に倒された時とは比較にならない力を持つだろう…そうなれば、こんな奴も…
「無論、奴らとの決着は私が着けないと始まらん…特に、あのルーキーは私が仕留める。だが、隙あらば殺されては溜まらんから、先払いだ……」
「ギギギッ…」
御堂にとって、報酬やこの吸血鬼の一族に関係するのも、もはやどうでもいい事になりつつあった。今頭にあるのはあの男、今日一日でここまで自分をコケにしてくれたあのルーキー勇者だ。あの男だけは自身の力を総動員してでも、抹消しなければ気がすまなかった。
「ふむ、この金額は没落しそうな吸血鬼にしては頑張った方か?」
今の所は腹いせでこうして、この身の程知らずの吸血鬼達から絞るだけ絞る…血を絞り取る魑魅魍魎から、金をせびる陰陽師かと…思うが、今はこの苛立ちをあのルーキーに全て叩き込むつもりだ。
「では、吸血鬼達よ…邪魔立ては論外だ…」
「ええ、解っている…」
その頃、外では…
「また、出てきやがったぞ!あの肉塊!」
バシュ バシュ!
御堂のBRをぶっ壊して、御堂がビルに逃げた直後にまたビルの方から、さっきと同じ肉塊の増援が出てきた。
「ってか、最初に聞くべきだったが…なんだこれ!?」
「察しはついてるかと思ったけど、吸血鬼の食べ残し…元々街の人間の形だったけど、何をしたのやら、何人かが膨張して一つに纏まった姿さ。もう死んでるけど、ゾンビみたいなもんさ…」
さっきみたいに、武装が無くて逃げまわるのをやめ、ソードランチャーで撃ち抜きながら前に進む。近づいた奴は、レーザースレイヤーで真っ二つにしてやった。
「えげつねぇことしやがって…」
「吸血鬼はそういう奴って事さ…」
ビィン!!
佐倉のアイスコマンドも、御堂のBRとの戦いで弾切れになっていても…持ち前の装甲を生かして、肉塊に体当たりした後、左手の固定レーザーサーベルを展開して、真っ二つに両断した。
「よぉし、ハナコ!奴らの数数えろ!」
『はい、では検索しますねー』
「おう、同時にターゲットロックしまくれ!」
『了解です、ターゲットマルチロック完了。計8つのターゲットをロックオンしました』
「うぉっっしゃぁ!一気に行くぜ!」
上空にブーストジャンプをして、ビルの周りを取り囲む肉塊を全部捕えた。
カシャッ
腰のパーツが開いて、中には無数の筒状のミサイルが装備されている。
「武器選択!腰部S型マイクロミサイル、いけぇ!」
ドドドドドドド!!
そして、腰から小さいミサイルが無数に放たれる。放たれたミサイルはバラバラに散会して、夫々ターゲットロックした肉塊に命中した。
『全弾命中、全ターゲット沈黙しました』
「おし、やっぱやってみるもんだな」
「結構、慣れてきたようだねBRの操縦…どっかの部隊に所属してた?」
「いや?クレーンのバイトする為にBRのライセンスが必要だっただけさ…」
「へぇ~…じゃあ、本当に素人なんだね…それだけで、御堂のBRを倒しちゃうなんて…」
呆れたような、佐倉の声を聞きながら俺たちはビルの格納庫前まで戻ってきた。
「彼がこの事を聞いたら、もっと怒るんじゃない?けっこうお金掛けたらしいから」
「…まじかよ…」
また御堂と会って戦うとなると、不安で仕方が無い。肉塊を倒した後はビルを中心とした街中は閑散として、不気味なほど静かだ。何処かで俺たちを見てるようなそんな感じがしたが…
「さあ、いこう…中じゃ、歓迎モードで待ってると思うよ?」
「御堂がか?」
「いや…吸血鬼が…ぞろっぞろと…」
勇者あいだ
第2話 魔王の腕編 第四話『勇者対勇者、勇者とは…』
…
……
「だぁぁっ!歓迎って、こういう事かよ!?」
ザシュッ!バシュッ!
BR格納庫からビルに侵入した俺たちを突然、奴らが一斉に襲い掛かってきた。昼前までは人間であったビルのスタッフ全員が牙を剥いて襲い掛かってきた。
「どう、楽しいパーティーでしょ?」
「楽しくねぇっつーの!入って早々これか…って、あいつ等起き上がってんぞ」
剣で袈裟に切り裂いた奴がまた起き上がって、また襲い掛かってきた。
ガチガチッ
首に向けてガチガチと噛み付こうとしている。頭を押さえて、噛まれないようにする。
「それじゃ、駄目だよちゃんと心臓狙わないと!」
「心臓っ…お、おう!」
佐倉にそう言われて、剣で心臓に向けて突き立てる。
「くぁぁぁっ!!!」
ブシュゥーッ…
剣で心臓を貫いたら、刺した奴の体がまるで灰になって消えていった。
「そいや、重役の野郎もこれでぶっ倒したな、うおっ!」
「ほら、休んでる暇はないよぉっ!」
佐倉は氷の鎌で冷静に襲ってくる連中の心臓を抉って、的確に奴らを消滅させていく。
「団体さんがゾロゾロ来たよ」
んなこと、考えていたら向こうから本当、ゾロゾロと同じ吸血鬼たちが牙を剥いて現れる。
「まったく、正体がわかった途端にこれだよ…」
「落ち着いて言ってる数じゃねぇよ!」
「んじゃ、相田君?右側から攻めて、僕は左側を攻めるから」
「おい、俺のほうが多くねぇか?」
「同じようなもんだよ…んじゃ、片付いたら…レストランでコーヒーでも飲んでるよ」
「お前、警察でプロだろぉ!」
「いくよぉ!3・2・1、ごーッ!!」
佐倉の掛け声と同時に、佐倉は勝手に奴らの群れの左側に切りかかって行く。右側の連中が俺の周りをじりじりと詰め寄ってくる。
「ったく、後で覚えてろ…よっ!」
ジャッ!
……
…
佐倉と分かれた後、BR格納庫に現れた吸血鬼の一団を一掃し終える。乱戦だったからか佐倉の姿が途中で見えなくなっていたが、何とか全員全滅させる事ができた。
「ぜぇ、はぁ…なんじゃこりゃ」
そこまでで佐倉が倒しただろう、吸血鬼の連中の亡骸と思われる灰が散らばっていた。
「ここまでの連中全部…っさむ…」
流石に氷の魔術師、通路全体が氷付けにされていて、まるで冷凍庫のように寒くなっている。氷の塊がそこら辺に散らばっている…氷付けにしてぶっ壊したって事か…
氷の魔術師はえげつない事するなぁ…
「…だれも、いませんかーっと…」
そろーっと、壁の脇から1Fのエントランスホールを見るが、誰も居ない…さっきので全滅したみたいだ。
「コーヒー飲んでろ…か?」
周りを警戒しながらも、俺はエントランスからさっき飯を食ったレストランへと移動する。だけど、先に佐倉が着いているかと思ったら誰一人いなかった。
「佐倉ぁ~おーい、こっちは終わったぜ~」
大きな声で呼んでみるが、返事が無い…それにこれで吸血鬼たちが寄ってくるかと思ったら…それも無かった。まったく、何もないと逆に怖いんだが…
「こういう時は、ドリンクバーがいい感じに使えるんだよな」
一応誰も居ないことを確認してから、カウンター近くのドリンクバーでコーヒーを入れて、カウンターで一息つく。もしかしたら、毒でも入ってないかと思ったが、ここまでは徹底されていないようだ、吸血鬼も案外間抜けだ。
とはいえ、本当に片付いた…のか?倒したのはざっと数えても20人かそれくらいだったが、それで全部かどうかわかったもんじゃない。後は佐倉が全滅させたのかと思ったらあいつがどんだけな存在なんだって話だ。
誰も居ないって所を見ると、街も人っ子一人いない。外を見るとさながらゴーストタウンだ…吸血鬼に全員捕まってるのか…だとしたら、何処に居るんだろう。
「ん?あれは…」
コーヒーを飲み干すと視界に何かふわりとした何かが映る。なんか、スカートのようなのが見えた。
「!!」
剣を拾ってそれが消えた方向に向かって走る。チラッと見えたがやっぱりなんか、女の服みたいな感じの後姿だ…
「おい、待て!」
足の速い、やっぱ人間とは違う。曲がり角を曲がった所でそいつは消えたが…
ゴッ!…どさ…
曲がり角から鈍い音がして、そこに倒れるような音がした。
「おい、どうした!?」
俺がその曲がり角に差し掛かると、何かに殴られたような髪の長い青いワンピースを着た女が倒れていて、その女を調べるようにしゃがみ込んでる佐倉の姿があった。
「…おい、佐倉…その人は?」
「……この人は、この街、市長令嬢さ…可愛そうに、吸血鬼に噛まれて変わりかけだ…明日には生き血を求めたがる怪物になってた所さ……」
そう言うと、佐倉は彼女の長い髪を掻き分けて首筋を見せる…二つの小さな穴が並んでいる。
「親じゃなくて連中の下っ端に噛まれたんだろうね…変化が遅いのもそのせい…でも、今なら、まだ間に合う…冷凍して進行を抑えて、適切な処置をすれば治る」
「そっか…って、冷凍って」
「僕の魔術で、冷凍休眠状態にするのさ…」
持っていた氷の鎌を収納して、湾曲した杖の先端を寝ている彼女に向ける。
「……凍結保存…」
サラサラサラッ
粉雪が杖の湾曲している先端部から彼女に降り注いで、彼女の肌が見る見る青白く変色していく。
「おお…」
「これでよしっと…あんま動かさないでね、応急処置だし一応凍ってるから、崩れちゃうかもよ」
「げっ!な、何て事しやがる!」
「こうするしか、治療は難しいって事さ。後で僕の仲間に保護させる…全員ね…」
「お、おい…全員って?」
「こっち…」
佐倉はそう言って自分が居た曲がり角の奥の方へと俺を連れて行く。確かに突然居なくなったからどこに行ったのかと思ったら…。
俺が連れて行かれたのは、また地下室に通じる螺旋階段のような物だ…BR格納庫があった場所とは違う…やけに暗くて不気味だが…
「相田君、疑問に思わなかった?この街に来て以来、人の姿をみた?」
「………いいや、全員このビルのスタッフ」
「そいつ等全員、吸血鬼だったじゃない…あいつ等は元より親の下っ端」
「じゃあ、街の連中は何処行っちまったんだ」
「それじゃあ、正解発表」
カシャッ
まるでクイズの回答を言う様に、だがとても冷たい声色で佐倉がそう言うと電気が点く。といっても、薄暗いブルーライトのような物で逆に不気味だ。まるで、あの腕が保管されていたあの場所みたいだが…その場所には…
「おい、何なんだよこりゃ」
「連中の言葉を借りて言うなれば、『食料貯蔵庫』ってやつかな…」
食料?!ずらっと並んだ無数のベッドの上に寝かされているのは、病人服のような服を着せられた人間だ…それも年齢性別、老若男女問わず、広い倉庫のような場所に何百人もの人間が寝かされているのだ。
「おい、おい!」
近くに居る奴に声を掛けるも何も反応が無い。
「だめだね、この点滴で全員仮死状態にされてる…」
「…こいつら、一体」
「探していた、街の人達…ここに全部集められてる」
「ぜ、全員かよ!」
全員がここに集められて、薬で眠らせて何をされてんだ…
「このタグ見て、全員年齢も性別もばらけて置いてある様にみえるけど、血液型別に並べているんだよ」
タグを見ると、A・B・O・ABの4つの中の一つにレ点がされてる。ここはO型の所にレ点がされていた。
それですぐに、あの腕が居た部屋に居た血を管から吸われていた人の事を思い出した。
「…何か、こいつ等…あの腕の食事用の血の為にこうして並べられてるってか!?」
「そう、彼らは知らずの内に連れてこられて、この通りさ」
「……こいつ等、この後どうなるんだ?」
「…このままだと、連中の食事に使われて…外で見た肉塊みたいになる。あれ、数十人の人間の成れの果ての寄り集まりだよ」
「やっぱり…」
「吸血鬼にされずに血を吸われ続けると、何でも食べるゾンビのような感じになってしまう…悪いと、そいつらは自分らを共食いするように集まってあの肉塊ができる寸法さ」
ガッ!
「さ、佐倉?」
一見落ち着いていた感じの佐倉が拳で壁を思いっきり殴った。途轍もない腕力で叩きつけたのか、壁は歪んでいる。佐倉の表情はお茶らけた感じじゃなく、感情的に怒っているように見えた。
「もう一寸僕らが早く来ていれば、こんなに被害者が出なくてよかった」
「……だけど、こうして血も吸われる前に皆見つけ出したんだ…、この人達は俺達が救い出したんだ」
「…ん…」
それでも、何か悔しそうな顔をして居るこいつを見ていると、悪い奴じゃないって解った。
「ここで聞くのもなんだが、まだお前になんも聞いてねぇ…お前の本当の目的と、さっき言ってた俺に詫びなきゃならない事って何だよ…」
「…まず、君に詫びるべきことは、君にこの依頼をしたのは、ここの市長だってのは嘘。彼は既に吸血鬼に食われて死亡してる…」
「な、じゃあ…俺に依頼してきたのって」
「警察、その中で怪奇現象等を担当する特殊部隊…通称『ギルティ隊』さ」
その名前、御堂も何度か言ってたな…警察内にそんな特殊部隊が存在してたなんて、俺も知らなかったな。
「まだ、設立仕立ての部隊だから、プロであり一番の協力者であるお爺さんの協力で成り立ってるようなもんなんだけど…」
「爺さんはこう言う手の事件で、警察からも信頼されてるって聞いたな…その部隊がお前らって訳か」
「そう言う事さ。でも数ヶ月前、この吸血鬼の軍団の討伐任務に就いたんだけど、全戦力の殆どを消耗して、隊長も吸血鬼の親玉との対決で重症…奴を後一歩の所で取り逃がしてしまった。以来、奴らの場所を探し続けてこうして潜入する事ができたわけさ」
それこそ、吸血鬼が隠れて再生するのに必要な場所が限られて、都心部から放れた場所であり、吸血鬼に必要な血を確保できる人間の数が多い市街地に拠点を作る必要があり、吸血鬼の下っ端たちはこの街にタワービルを建設して要塞化した。そしてこの街の住人を次々誘拐して、この状態だと…
「彼らが言う『プログデック社』が実質、街を支配していってったみたい。タワービルはマンションを兼ねていたから、入居者を募った…格安で…」
佐倉は俺に一枚のビラを見せる。確かに一定の収入を持つ人間には安い物件だ…
「当然、それだけでここまでの人数を集めるのは無理…だから、ここに市庁を置いた。後は、ここに来るように色々な理由をこじつければ一度は市庁を訪れる…その際に捕まえればいい。だけど、流石に怪しいと思った人も居ただろう…ただ、その気付くタイミングも見計らって…奴らは一斉に誘拐した…音も立てずに、夜を見計らって…そして街から誰も居なくなった」
「……」
ベッドに寝かされてる人を見下ろす…さっきの市長の娘もそうだ…自分でも気付いちゃ居ないだろう、何が起きたのかすら解らないまま…ここで寝かされて、何れ吸血鬼に血を吸われて終わるなんて……
「街から一夜で人が消えたなんて…逆に事件だよ。ただ、それも奴らは巧妙に隠して数ヶ月やり過ごした…もしかしたらおかしいと思った外部の人間も奴らに捕えられたのかも」
「…全て、追っ手であるお前らの目を欺く為か?」
「うん…」
「御堂の奴は何なんだ?あいつ最初から奴らについていたけど…」
「彼の場合は、流石に怪しんだ人達に雇われたかで調査に来たんだろうね、もし御堂程の実力なら、一人でも復活以前の吸血鬼を倒せる……BRを倒したけど、彼の実力は本物だよ…血筋が持つ実力もそうだけど、勇者としての経験は高い…」
あいつも、特にどんだけーな奴って事を真顔で説明する佐倉。
「経験の高い、しかも何時でも自分等を倒せる実力者が来た事で奴らも焦ったと思う。でも奴らは逆にそれを利用しようと考えた、で…御堂もその要求に乗ったんだろうさ」
「訳がわかんねぇ…なんで自分らを殺す奴を逆に雇う必要があったんだ?」
「真意こそわかんないけど、御堂の場合は…言って見りゃ、依頼主の弱みを握る事で金を搾り出すって事かな……勇者全体に言える事だけど、傭兵って事には変わりないからさ」
「……傭兵か…」
確かに御堂と対峙した時もそんな会話をしたっけな…
「まあ、ギルティ隊もそういった人達の手を借りずには居られない部隊だから…お爺さんみたいに良識な奴も居れば、金に物を言わせれば悪魔にでも就く奴も居るって事。相田君が後者じゃなくて本当助かったよ…」
「俺を雇った理由ってそれかよ!?」
「それもあるけど、君は他には無いチート能力があるっぽいからね…」
チートって…俺そんな力を使った気は無いし、持ってる感じもしない。と言うか、主人公補正が一番俺にほしい!
「所で、君が『腕を見た』って言ったよね、確かにあれは隊長が倒し損ねた大吸血鬼の成れの果てだよ…ちゃんと生きてた?」
「ああ、こう管から腕に血を送られていた…」
あの部屋で見た事を俺は佐倉にそこの人間の体をちょっと使って説明した。
「人間の血を送り出す構造を使って、動脈から血を供給されていたって訳か…えげつない事を…まあ、腕だけだから自分から吸える状態じゃないからね…」
「…倒すなら今か?」
「うん、君が言う通りなら、肩の部分まで再生してるんだろ?予想より早い…何かをされてると考えた方がいいよ。僕らと戦った時は、二の腕の所まで消滅したから」
二の腕の状態までぶっ倒されて、まだ生き残っているなんて…どんだけなんだよそいつ。
「何者なんだよ、そいつ…お前らが必死に追い続ける吸血鬼って…」
「かつて、吸血鬼の三大勢力の一つ『魔王』として君臨していた大吸血鬼『ヴァンデッド』」
「ま、魔王!?」
「うん…魔王…」
まさか、2話の時点でいきなり魔王が相手になるなんて…魔王が出るのはRPG的にラスボスだろう…
「あー……相田君、世の中甘くないよ~…ちょっと前に幽霊倒したのに、次回にいきなり魔王が出てくるなんて…文句言ってたら、この世界の勇者やってらんないよ~」
「うっせぇ!別に文句いってないし…つ、続けてくれ」
「うん…魔王という肩書きをつけたのは『聖堂教会』。教会にとって吸血鬼は因縁深いから、それなりの肩書きが付けられて…得にヴァンデッドは、教会出身者がなっちゃったもんだから、始末に終えなくなって、吸血鬼の三大勢力に数えられ『魔王』って肩書きを与えられたのさ」
「教会出身者って厄介なのか?」
「うん、耐性がついちゃうんだよ…十字架に銀とか聖水とか、教会の力が働く武器が効かないんだ…」
ああ、さっき言ってたな…それで、心臓を貫いてようやく倒したんだっけ。
「…それで、彼が生前の名前は『ヴァンヘルシング』…」
「ばんへるしんぐ?」
「……知らない?ドラキュラ退治の…まあいいや、その人はドラキュラと戦ったまではいいけど、結局負けて吸血鬼にされてしまった…で、彼はそれまでの人生を捨てて自分の名前に『死』…『デッド』を付け足して…『ヴァンデッド』と名乗って吸血鬼として君臨した…」
「な、なるへそ…」
「まあ、この辺の過去の話は置いといて…」
「置いといて…」
特にその魔王の過去に関して興味が無いと見た佐倉はジェスチャーで置いといてとすると…
「ここで、疑問に思ったでしょ…心臓を貫いてようやく倒した吸血鬼だった…けど、ヴァンデッドは心臓どころか、頭も吹っ飛ばされてるのに…腕だけで再生してるって事…」
「あ、ああ……」
正直そこまで考えが及ばなかったなんて言えねぇ…
「これは僕の考えだけど、奴は吸血鬼としての弱点を幾つも克服してきたから…体をバラバラにされようと再生できる『何かしら』を得たって事かもね……」
「この街のタワーでなきゃできない事があったんじゃねぇか?」
「……でも、暗い部屋に保存されていたって事は、今の所…太陽の光には耐性は無さそうだね」
「じゃあ、太陽が味方になってくれるってか?」
「うん…でも彼らもそれを知ってるだろうから何かしらの行動には出ると思うよ…多分」
太陽が昇る前に…御堂とそのヴァンなんたらってのとも決着をつけなきゃならないって事か…
「恐らく、彼らも焦ってると思う…ヴァンデッドが腕の状態なら僕や相田君でも倒せるからね…厄介なのは雇われてる御堂だね…時間稼ぎされてる内に逃げられちゃ、今までの苦労が無駄になるから」
ヴァンなんたらとの因縁を佐倉はここで決着をつける気だな…
「んじゃあ、俺が御堂を相手してる内に、お前がヴァンなんたらの腕を何とかしろよ…どうせ、あいつ…俺と決着をつけると考えてるだろうからな」
「………え~」
うわ、すっごい不安そうなジト目だ…
「んだよ、俺一人で御堂を相手にするのはそんなに不安か!?これでも、お前に因縁深いそのヴァンなんたらを気ぃ使って、譲ってやってんだぞ!」
「………もう一度御堂の事について説明しよか?時間ないけど、君が納得するまで話すよ」
「物覚えが悪い残念な奴を見るような目で言うな!」
「ん~…まいっか、万が一の場合にヴァンデッドを逃がさないように単独で行動するのもありか…」
一頻り考えてから、ケータイを取り出すとタッチパネルを操作しはじめる。
「とりあえず、仲間にここの位置情報を送って…街の人達を救助してもらう…僕らは仕事をしよう…プランは相田君が御堂を相手にして、僕がその隙にヴァンデッドを追い詰め倒す…でいいね?」
「おうよ、任せておけ!」
力強く俺はそう言うと、佐倉は呆れたようなほっとした様な複雑な表情を浮かべて…
「何の根拠も無いけど、とても頼もしく見えるから不思議だよね…」
「んだよそれ…」
「君を選んでよかった…と思ってるのさ」
にこりとはにかむ佐倉、さっきまで冷たいほどの殺気立っていたのが嘘のように温かみのある笑顔に戻っている。
「嬉しいけど…男に言われる台詞じゃない!」
「う~、これでもほめてるんだけど~」
ちっこい背の佐倉の頭をぐりぐりとしながら、街の住人のいる地下室から出て俺と佐倉は1階へと戻る。
「所で、お前らの依頼なら報酬は出るんだろうな?」
「報酬は警察から出る事になってるから安心していいよ、失敗しなければだけど…」
「ああ、そん時は俺らが二人して死んだ時だ…」
1Fを歩いていると、何時しかでかいドアの前にやってくる。確かここにはエレベーターホールがあったはずなんだけど…いつ改築したんだよ…
「なぁ、おい…ここにこんなでかいドアあったか?」
「差し詰め『闘技場』…って所かな?」
佐倉の杖を持つ手が強く握られる。向こう側から俺でも解るくらいの殺気が伝わってくる。
「いるね…相当待ちくたびれて怒ってるよ…」
「……帰りたい」
「今更何言ってんだよ、君が御堂を任せろって言ったんだから…全面的に任せるよ」
そう言って佐倉はでかいドアを押して開ける。ああ、あんな事言わなきゃ良かったぜ…
ギィッ…
覚悟を決めて二人でドアを開け、その向こう側に行く。
「ようやく来たか…待ちくたびれたぞ、地ネズミ」
もうネズミでも何でもいいや…暗闇の向こうから奴の嫌な感じの毒舌が聞こえてくる。相当怒ってるのは俺でも解る。
「もうすこし早く来るかと思った…あえてもう一度言おう…『待ちくたびれたぞ…』」
ドッ…
「くっ!」
体に重圧のように圧し掛かる御堂の殺気…
「うわぁ、すっごい殺気…大事な事を2回言ったね、相当僕ら時間食ったみたいだ」
「お願い佐倉君、ぼくといっしょにたたかってください」
「頑張って」
本当弱音を吐きたい気分だ。どっちかと言えば、魔王を相手にする方が一番いいぜ…
カシャッ!
「まじで闘技場のようだぜ…」
ライトがついて場内が明るくなると、本当に闘技場のような空間が1Fエレベーターホールに出来上がっていた。
「ちょっと見ないうちに改築したようだね」
「ああ…私が座ってる内に連中が勝手に改装したのだ……まったく五月蝿くてかなわなかったがな…」
御堂はでっかい筆を肩に担いでかつかつとつま先を鳴らしていた。ようやく来た獲物を見つけた獣の目をしてやがる。
「…御堂、一応聞くけど…君は自分の依頼主が大吸血鬼ヴァンデッドだって知って協力してるの?」
「一応だが、連中とは一連の報酬を得たのでな…最後の仕事をしてから契約を切っているつもりだが…」
「あ、そうなの?」
「って、何のん気に納得してんだお前!てめぇ、自分が何に協力してっか解ってんのか!?」
「貴様か……バカは物覚えが悪いからこまる…何度も言うが、我らは依頼主からの依頼を請け負う『傭兵』のような物…相手が歴史的な吸血鬼だろうが赤ん坊だろうが関係ない」
「てっめぇ…バカっつったか?!」
「怒る所変だよ…」
「それで、その最後の仕事が…貴様らの息の根を止めるという仕事だ…」
ブォンッ!!ドォォーーーンッ!!
肩に担いでいた筆を一瞬縦に振り下ろした瞬間に発生した衝撃波が横に居た佐倉を襲う。
「あぶねぇっ!!」
「うわっ!」
とっさに佐倉を横に押してそれを回避させる。向こう側に飛ばされた衝撃波が壁を破壊する。
「……あっぶな!いきなり攻撃は反則じゃない!?」
「…先手必勝という言葉をしってるだろう……当たっていれば、痛みも無く死んでいたものを…」
「そんな洒落にもならない事を…!!」
攻撃された佐倉は身を起こしながら御堂を睨みつける。
「むっ……ふん、無駄だっ!」
バチィッ!
「わわ!『凍て付く視線』を払いのけちゃったよ」
「その程度の魔術で私を止めようとも無駄だ…今の私は…」
「だぁぁっ!」
パシッ!
隙を突いて俺が御堂の顔に一発入れようと殴りかかるが、その拳を受け止めやがった。
「まったく最後まで言わせろ…馬鹿は突っ込むしか能が無いのか」
「いっ!」
拳を握りつぶさんくらいの力でぎりぎりと万力のように握られる。何てバカ力だ…
「こんな奴に私はBRを1機くれてやったと思ったら……余計に腹が立つ」
「そ、そうかよ!」
ザッ!
「んぐっっ!」
剣で峰で御堂の体を叩きつけるが、俺の手を離そうとしない。
「…え、マジかよ…」
「…そう、この程度の奴にな!」
「必殺…フリーズっ!」
キィンッ!バァンッ!
「ちっ!」
「うわっ!」
横で青い閃光が走って何かが御堂に向けて放たれる。御堂はそれを避ける為に俺を投げ出して回避する。
バキバキバキッ…
それが命中した壁はガチガチに凍り付いている。当たったら凍って砕けるぞ…
「ほう、氷の魔弾か…」
佐倉が離れた場所から杖を御堂に向けている、あそこからさっきの氷の弾丸をはなったのか…
「…相田君、これは貸しだよ!今度はちゃんと戦ってよ!」
「…悪い、今度なんか奢ってやる!」
剣を右手に持ち変えて、俺は御堂と対峙する。
「……俺がこの程度だって?安心しろよ…こっから巻き返してやる!」
「ふ、威勢だけで終わらなけりゃいいがな!」
御堂もでかい筆を持ちにぃっと笑みを浮かべる…本当、威勢だけで終わっちまいそうで怖いけどな…
「…御堂は相田君を殺す気だ、まあ彼に任せて僕は先に急ぐか…」
チーンッ…
「ん?」
エレベーターホールに1Fに到着するエレベーターがあった。丁度いいと思ったが、佐倉は先を急ごうとしたが、扉が開いた瞬間…それはゾロゾロと沸いてきた。
「…これは…」
『あ……あお……おぅ…』
『うぉ…ぶぉ…』
エレベーターの扉が開き、出てきたのは人の成れの果てだった。吸血鬼の餌として血を吸われた者達の成れの果てであるが、まともな死体ではなく…複数の人間が寄り集まったような手足が何本もある人間や、頭が変な所から出ている奴…顔のパーツがそのままでかくなったような奇形になった者、手足ではなく別の部分で歩行をする者等、よもや元々人と呼ぶべき存在になってしまった、街の住民が次々と現れる。
BRで戦ったあの肉塊と同じ存在だ…吸血鬼に吸われるだけ吸われ、残りカスにされた果てに奴の支配で、結合され奇形の化け物にされたのだ。
「こ、こいつ等!?」
佐倉もそれが街の住民だって事が解り…
「悪魔め…」
まさに悪魔の所業に怒りを抑えられなかった。だが、彼らは佐倉の周りを取り囲んで包囲する。
「…ごめん!」
ジャッ!
杖を氷の鎌にして一体を斬り付ける。それでも周りを包囲する住民達を相手にするのには抵抗がある。
『……お…おお…』
ガシッ!
「しまった!」
手足の何本も生えている住民に後ろから羽交い絞めにされる。
「や、やめてくれ!…ぐが…」
両腕も両足も拘束され体も何本もの冷たい手足で巻きつけられて、身動きが取れなくなる。その間にも別の者たちが口を開けて迫ってくる。
「つめたい…そうだ…もう、死んでるんだよね……」
彼らは人だったときの意識も何もなくして、ただ食欲だけに人の肉を欲してさ迷う存在に成り果てた彼ら…
「…なら…迷うな!」
キィィッンッ!!ジャラララララッ!!
手に持っていた杖の先端が切り離し、柄の部分から氷でできた鎖が伸び、氷の鎖鎌のように伸びる。氷の鎖鎌は、蛇のように意思を持つかのようにうねり佐倉の後ろを拘束していた住民の手足を全て切り落とした。
ザンザンザンッ!
「…苦しむ事は無い、一瞬で終わらせるから……」
ブォンッ!
氷の鎖鎌を振りかぶって柄を上に向けて、ぐるぐると回転させる。
「……冷気…解放……広域放射」
回転させた鎖から、冷たい冷気が住民達に向けて降り注ぐ。それは雪のように、降り注ぐ。冷気が付着した体の部分は液体窒素でもかけられたように凍結していく。吹雪のように降り注ぐ冷気に全ての住民が凍結して行った。
「……『桜吹雪』…絶対零度!」
そして氷の鎖鎌を引き戻して、杖を地面を軽く突きつける。
カッ
動かなくなった住民達は、その少しの衝撃で全てが粉々に崩れ落ちて行く。死体も残さず細分化してしまった。
「……ふぅ、ごめん…僕には君達をこうするしかなかった…君達の無念は必ず晴らすから」
化け物にされた住民達の無念を晴らすべく、佐倉は先を急ぐことにした。
「急に寒くなったけど…何がおこ…てぇーーっ!!」
ブォンッ!
巨大な筆を薙刀のように振り回して俺に攻撃してくる御堂、あのでかさの筆でかなり機敏に動いて更に大振りしてくるから当たったら鈍器にでもぶち当たったかのようにへし折られちまいそうだ。
「やはり、威勢だけで避けてばかりか…」
やっとこさ、剣で対抗するけど固すぎる筆の柄は刃を通さない。
「この程度ならば、あえて筆洗術を使わずとも、頭を砕けば終わるな…」
「冗談じゃねぇ、俺の血をその筆の墨にするつもりはねぇよ!」
「なら、一撃でゴキブリのように潰れてろ!」
今度は筆を横薙ぎに振るう。
「ネズミの次は、ゴキブリかよ!」
たっ!
「なにっ!」
「でりゃっぁ!」
横薙ぎに振られた筆の柄に足を乗せて、そのままジャンプして飛び上がる。
「食らいやがれ!」
ホルダーから刃札を出して、上空から御堂に向かって投げつける。
「芸が無いな…その手は二度と通じぬ!」
筆を振るって、刃札を叩き落すともう一度横薙ぎに振るうように構える。
「なにっ」
「だが念には『念』を入れて……」
ばしぃぃっ!!
地面に着地しようとした所を、大振りに振られた筆が俺の腹を直撃して、まるでバッターがホームランを打つように吹っ飛ばされて、壁に叩きつけられた。
「があぁっ!」
胃液が逆流する感じがして、俺はそれを吐き出す。
「かはっ!」
つえぇ…佐倉の言ったとおり、実力は本物ってのはマジだ…こりゃ死ぬぞ…
「BRでは勝ったが、これが私と貴様の格の違いと言う物だ……」
確かに学生から色んな奴と喧嘩してきた、ちょっと前に幽霊のストーカーもぶっ飛ばしたし…こんな奴相手にする事があるなんて思っても無かったが…あ、そうだ…まだ使ってない事があったな。
「ほう、まだ死んでいなかったか…生命力はゴキブリ並みか」
諦めたて死んだら、これじゃあいつの言ってる事を認めちまう。俺は絶対に悪にも味方はしねぇってなぁ…
「今のうちに余裕ぶっこいてやがれ…ゴキブリの生命力なめてんじゃねぇぞ…生臭坊主」
札のホルダーから一枚の札…赤い札を取り出す。幽霊ストーカーに使った朱雀の札だ、これ使うのに精神力を大幅に消費するって言ってたな。
「刃になる札とは違う札か…どんな効果を引き出すか…」
「笑っていられるのも、今のうちだぜ…これ食らって火傷して泣くんじゃねぇぞ!」
朱雀の札を思いっきり御堂に向けて投げつけた。
ぴら…
「………あれ?」
「………」
ひらひら…
「なんで、なんで…鳥にならねぇ…」
札はひらひらと、紙特有の動きで浮遊して床に落ちる。何の反応も無い、炎も出なけりゃ鳥にもならない…
「…………ふ…ふ、ふふふふふ……」
あ、詰んだ…これ…詰んだぞ。御堂の顔がもう何と表現したら言いかわからないくらいに怒ってるな…。青筋立てて目が据わっていて…ごめんなさい、生臭なんて言ってごめんなさい……
「殺す………ここまで、舐められたのは、歴史上私の代が始めてだ……殺す……私が考えうる最も残酷な方法で……殺す……骨格や細胞を残さず……殺す」
だめだ、おれ…死んだ…
「ふうぅ…私も、心を乱すようでは…まだまだだな、だが貴様のそれは何かが足りなかったようだ…私が本物と言う物をみせてやる」
そう言って、御堂はどこらからか俺の使うような札を取り出すと、小さな筆を取り出して何かを書き始める。
「『陰陽筆洗術』元よりこう言った札に霊気を込めて、印を書き込んで札に霊的効果を与える術…私が得意とする本物の陰陽術だ…」
何かを書いた札を手にして、俺の前に見せると…
「筆洗術…『召』…印を書いた札に魂を吹き込む。魂を得た札に体を与えよう…」
その札を折り紙のように折って、形を作る。
「……折り紙と言う遊びは、かつて人や動物の姿を折る事で、『人型』として札に体を与える陰陽道に通じる物だ……切り紙よりも折り紙の方がより強靭な人型を作れる」
札を複雑に折りたたんでから、それを地面に置く。人の形になってからそれが二足歩行で立つと…
むくむくむく…
その紙の人形が、どんどん大きくなって数メートルもある巨人のようになった。
「明王を人型に召還した…紙でできてると思って、油断はするな…だが、これで貴様の骨格をバラバラにしてやろう」
「……いて…」
立ち上がろうとするが、足に妙な痛みが走る。そいやさっき、御堂の筆に乗った時に左足をやったか…これじゃあ、あの紙の巨人を避けきれねぇ…
「行けっ!」
俺に向かって突進してくる紙の巨人。
キィンッ!
俺は剣を突き立てて、それを杖にして紙の巨人を避けると壁に衝突して壁に巨大な穴があく。紙のくせになんて破壊力だよ、まったく…あんなのを食らったら潰れちまうよまったく。
「ほう、その足でよく避けたな…だが折れてる事には変わりなかろう…運と言う物は長続きし無い物だぞ…」
「言ってやがれ、生臭…」
紙の巨人が壁から抜け出して、俺の方に顔を向ける。やばい札がなんか知らないけどつかえねぇし、足もこんなだし…いずれ、あの紙巨人に骨まで粉々にされる。
「いて…何だ?」
何か無いかと、札のホルダーを漁っていると電気に触れたような痛みを軽く感じて、それを引っ張り出す。
「白い札…何だこれ、びりっと来てる…」
バチバチバチ…
引き抜いた白い札から、電気が雷のように走ってる。これ幽霊ストーカーの時の朱雀の反応と同じだ…札の裏に説明書きが…
「なになに、『これはオリジナルの札を台紙にコピーした物である、用途は自身の霊気とその札に合わせた属性の火種を合わせて撃て…白の札は電気である』…ってこれ台紙にコピったのかよ!?」
ていうか、爺さんそんな説明してたか?…あ、俺が聞いてなかった!えっと…俺の霊気に属性の『電気』か?
「でもなんで、電気が…」
紙巨人の向こう側の壁の穴にある電気配線が切れて火花を上げている。あれだ…あれに反応してるんだ…
ど!どっ!どっ!!
紙巨人が速度を上げて向かってくる。やってみるか…手の札に集中するように手に力を入れると…
バリバリバリバリバリッッ!!
白い札に電撃が激しく走る。思った通りだ…電気のある所で意識を集中すればこいつは発動する。きっと他のもそうだ…こいつなら!
「なんだ、あの札は!?」
「食らっとけ、紙!!白虎!」
その紙巨人に向かって電撃を纏った白い札を投げつけると、白い電撃を纏って咆哮をあげた虎となって襲い掛かった。
ガォォォォーーーーーーン!!
まるで雷鳴のような巨大なして、紙巨人に命中すると激しい電撃を受けて雷に撃たれたかのように燃え上がる。
「うがぁぁっ!…ち、霊力を送りすぎて私にもダメージが…あいつ、何をした…」
「え?何故に御堂にもダメージが…まあいい、これで使い方が解ったぜ!」
青い札は水、茶色の札は土の上、そして赤い札は火だ!
「今度はこっちからだ!」
剣をもう一度構えて、御堂ともう一度対峙する。
「使い方が解ったとして、これで私に勝ったわけじゃないぞ」
「こんのぉ…おらっ!」
ゴキッ
変に曲がっていた骨を何とか治して、俺は何とか立ち上がる。
「何て奴だ、力ずくで骨折を治しやがった…」
「色んなバイトは、やってみるもんだ…舐めんなよ」
ちなみに、どんなバイトかは言わないでおくか、御堂に剣の切っ先を向ける。
「ふん、悪あがきをしなければ、苦しまずに死ねた物を…筆洗術!『波』ぁ!」
ビュゥゥーーッ!!
筆をまた振り下ろして、衝撃波のような縦の波動を俺に繰り出してくる。俺は剣を両手で持って集中し…
「うおりゃっ!」
バシィッ!
思いっきり剣を振り下ろして、その波動を切り払う。
ドォォンッ!
二つに割れた波動は、地面と空中に分裂して爆発する。
「な、何!?私の筆洗術を打ち破っただと!?」
「目に見えりゃ、ぶっ飛ばせんだろ?…」
「おのれ…野ネズミかゴキブリの分際で…」
「…もう一度はっきり言ってやんぜ、俺は…『勇者』だ!」
バッ!ビュンビュンビュンッ!
剣を振りかぶってブーメランのように投げつける。回転しながら御堂に向かって飛ぶ。
カッ!
筆を盾にして飛んできた剣を受け止める御堂だったが、視界が筆で遮られちゃ…
「!!」
目の前まで俺が接近しても気付かないわな…
「男の殴り合いっての、やったことあっか?」
バシッ!
「ぐおっ!」
顔面を一発殴りつけた後、でかい筆を左手で押さえつけもう一発、下あごを狙って殴りつける。
「あがっ…」
下あごを殴りつけて脳震盪を起こしてよろめいた所で、腹部を殴りつけて体が曲がった所をアッパーでたたき上げる。
「ぐ、おおっ…き…さ!!ぐぁっ!」
「覚えておけ、これが男のけん…か、ぐぁ!」
拳をまた振り上げた所で、御堂が応急処置で治した足を蹴り払われて、足がもつれた所をチョップで首筋を叩きつける。
「はっ、学生時代を思い出す……貴様のようなチンピラは何人も居た…体術でなら敵うと思ったか!?」
「面白くなってきたじゃねぇか!?」
バシィッ!!
筆の柄を使って、また遠くまで距離をとられる。
「そうか?私は少し帰りたくなってきた……」
「決着つけるんじゃなかったのか?」
「なら、さっさと死んでおけ……筆洗術『撃』!」
一瞬で書き上げて重たい波動が俺に向かって放たれる。
ドゴォォーーーーーーーーーン!!!
「何、今の音……」
何かが激しくぶつかり合う衝撃音を佐倉は感じていた…今彼が居るのはエレベーターシャフト内のワイヤーを伝って、上に向かって登っていた。先ほど住民が降りてきた際に壊れていたらしい。
「…無事…だよね、任せて大丈夫だったよね」
今更ながら、御堂を相田に任せたことを疑問に思うが、彼が善戦して辛うじて死なない事を祈りたかったが…
ドォォーーンッ!!
「まただ、よほど派手のやってるようだ…」
下の様子が気になった…だが今は、上に早急に向かわなきゃならない。ここまで追い詰められて、夜が明ける前にヴァンデッドは逃走を図るに違いない。
逃げられる前に捕まえなければ…
「……はぁ、はぁ…ぜえぇ……」
俺は膝と両手を地面につける…体力の限界だ、体もボロボロ…あいつ、殴りあいも強いなんて聞いてないぜ、どんな学生時代を送ってきたんだ。
「ふぅ、ふぅ…貴様…しぶといのにも、限度があるだろ!」
御堂は筆を杖にして、息を荒くしている。周りは俺たちの戦いで酷い有様になるくらい激しい戦いだった。殴り合いから剣と筆の武器を使って、離れたら奴が波動をばんばん撃ってきやがる、こっちは式神を一日1回しか撃てない分、さっきの白虎でもう…へとへとだ。
「…お、お前には勝つ…ぜってぇ…勝つ!」
何とか力を振り絞って、剣を構えて立ち上がる。
「ま、まだ立つか…起き上がり人形よろしく、倒しても倒しても起きおってからに…いい加減死んでろ」
「い・や・だ・ね!俺は、お前に勝つまで、何度でも立ち上がってやる!」
「……私怨でもなければ、私への勝利が…あくまで目的か…頭が足りない奴は解らん」
「言ってろよ、どーせ馬鹿だ…」
もう、何を言われてもこいつの毒舌は気にならないようになってきた。
「……私も……貴様如き馬鹿に倒されたら、先祖に申し訳がたたない…!」
「そんな風に思うならよ、吸血鬼のような奴らに加担してんじゃねぇよ!」
「…悪に加担しない正義の味方となるか…だが、理想論だぞ…この仕事は、いずれ自分達の手を血で汚さないといけない…仕事だ…」
「正義の味方じゃねぇ、俺は…『勇者』だ!お前は、『傭兵』…『陰陽師』…それで、いいだろう…」
「……成る程な、正義なんて、立場が変われば何とでも言えるか…」
ブォンッ!
何かを解ったように少し笑みを浮かべると、筆を振り上げて俺に向ける。
「良かろう、…ねずみだのゴキブリだのと言ったのを訂正しよう『勇者』よ!」
「らしくねぇぞ、毒を吐いてる方がてめぇらしい…」
「それもそうだな…ならば、最後の一撃で貴様を叩き潰してやろう!」
気合を入れた御堂が筆に力を込めて空中に再び印を書こうとしている。ありゃ本気だ…あんまり煽るんじゃなかったな。
「よっしゃ!ならこっちも一日1回から…もう1回サービスしてやろうじゃねぇか!」
丁度あの紙巨人が白虎で燃え上がって炎が上がって、赤い札が反応して火を上げている。
「こっちも、疲れてんだ…こいつに力を込めて撃ってやる!…もっと、もっと燃え上がれ!」
ボォォォッ!!
意識を集中するとそれに答えるように札が赤く燃え上がる。
「互いに最後の一撃としようか…陰陽筆洗術…奥儀…『発』」
青い人魂のような物を発生させ、底から星の形を一筆書きで書いていく。すげぇエネルギーの塊がここからでもわかるくらいに感じる。
「もっと、もっと燃え上がれ!!」
朱雀が今にも札から飛び出て暴れまわりたいぐらいの勢いで燃え上がってる。
ピィィーーーーッ!!ビィィッっ!!
「もっと、もっとだ!」
「……(肉体のダメージで、印が上手に書けん…奴の炎も大した物だな…甘い理想ばかり言う奴に…この私が負ける?…)!!」
ドォォーーンッ!
「冗談ではないっ!!」
御堂の星の形の印から極大の力が放出されようとしていた。ただでさえ、この朱雀に手が焼き尽くされそうになってんだ…いいぜ、お前をぶっ放す!
「思い切り暴れてやれ!行って来ぉぉーーい!」
野球のボールを投げるように朱雀を振りかぶって、そして思いっきり投げつけた。
「食らうがいい!これが私の、全力だぁ!!」
「朱雀!」
御堂の描いた星からレーザー砲のような極大の波動が放たれて、炎の塊となった朱雀がその波動とぶつかり合う。
ビィィィーーーーッ!!
「いっけぇぇーーーっ!!」
「おぉぉぉーーーーっ!!」
ドォォォーーーーーッン!!
二人の技が正面から衝突して、巨大な大爆発となって俺に衝撃波が向かってきた。
「やっべぇ!うわぁ!」
その衝撃波を避けきれずに俺はそれに飲み込まれてしまった。
二つの技の衝突の衝撃は凄まじく、ぶつかり合った場所の中心にはクレーターのような窪みが出来上がっていた。御堂は筆で防護壁を張って難を逃れたが目の前に先ほどまで戦っていた者の姿はいなかった。
「そ、相殺したか…はぁ…く、防護壁を張らんとはな…おかげで衝撃波で粉みじんになったか…」
「わりぃなぁ!期待を裏切るようでよ!」
「な!?」
御堂が上を向く…あの衝撃波で高く吹っ飛ばされた俺は御堂に向けて自由落下していた。
「と、飛べるのか!?貴様!!」
「落ちてんだよ!」
俺は剣を振り上げる、高いところから全体重をかけて御堂に向けて振り下ろした。
「俺は、勝ぁぁーーーっつ!」
バッシィッ!
それを御堂は受け止めようとして筆を構えるが、筆が真っ二つに折れてしまう。
「な!私の陰陽筆が!」
「おかげで、無事着地だ!せぇぇーーーやぁぁ!!」
剣を峰打ちで大きく振りかぶって御堂の腹を思いっきり叩き付けた。
「グハァァッ!」
「胴をとったぜ、見たか…陰陽師!」
「あ…ぐ…」
そして、御堂はぐったりとうつ伏せになって動かなくなった…
「はぁぁ…よっしゃぁぁ!!かっ…た」
「ふう、何なんだ貴様は…」
「うおぉぉ!!」
ぐったりしたと思ったら、起き上がってきやがった。俺は拳を振り上げて止めを刺そうとするが…奴は慌てて両手を広げて。
「ま、まてまてまて!…もう流石に戦う気も失せた…まったく何なんだ、貴様は…倒しても起きる、衝撃波を使って飛ぶ、武器を壊しても、命を奪わない…とんだ『とんでも甘ちゃん』だ」
「色んな呼称で呼んでくれるじゃねぇか…俺は人間は殺さないんだよ…吸血鬼じゃねぇんでな!」
「だが、この仕事をやっていると何れそういう人間とも対峙する事になる。何時までその理想論で戦い続けるつもりだ…」
「今のように喧嘩でぶっ飛ばす…死ぬまで…いや、死んでもだ!」
理想論じゃなくて、これが俺…相田亮太の『勇者』だ。誰がなんと言っても、どんな奴が相手だろうと…変えるつもりはねぇ…
「馬鹿は死んでもなんとやらだ……だが、今はその理想論にあやかって置こう…」
「お、おい!」
どさっ
改めて御堂は倒れこんで、今度こそ気絶する。俺もまた仰向けに倒れこんで大きく伸びをする。
「はぁぁ…つっかれたー。やったぞこん畜生!」
ウォォーーーーーーーンッ…
「なんだ、上か?…」
妙な叫び声のような物が上からしたような気がする。
「まじかよ…のんびり寝てる場合じゃなさそうだな……」
続く
皆さん、BR持ってるならビルごと攻撃すりゃと考えたらいけません。(笑
それはそうですが、この御堂君はリメイクする前はもっと角がありましたが、佐倉君のキャラ付けに合わせて、丸くなってしまいました。
お陰で、僕の中じゃ一番好きなキャラです。でも、セミレギュラー…今後の出番は未定です。
それでは次は、VS吸血鬼の親玉編です。