第2話 魔王の腕編 第二話『勇者大逃亡』
どうも、こんにちは。
勇者Aの話は、基本的に相田君による一人称と、彼が居ないシーンは三人称で展開されます。
それでは、どうぞ!
前回の勇者『A』は
悪霊ストーカー退治で勇者デビューを果たした俺、相田亮太は早速次の依頼が舞い込んでくる。なんでも、吸血鬼に支配された街を取り戻してほしいとの依頼だが、相手が吸血鬼で街ひとつを救い出せって無理ありすぎねぇか?!
それで、事務所の外装より金が掛かってるBR『ブレイバー』を持って依頼先の街に潜入する事になった。そこで魔術師の佐倉と毒舌残念陰陽師の御堂と出会う事となり、3人でそこの『社長を敵から護衛』すると言う任務に就くのだが…その敵って俺のことなんだよな…ばれたら速終わりな俺…ブレイバーの武装もまだなのに、どうすりゃいいんだ!?俺様!
……
…
「うん、うん…じゃ、またね…」
プッ
警備の仕事、と言うより暇して、建物の中を行ったり来たりしてる時、トイレでケータイをかけてる佐倉を見つけた。
「ん…この建物じゃ携帯電話は禁止じゃなかったか?」
「あ、見つかっちゃった?」
悪戯っぽく、佐倉は舌を出して頭をかいた。こいつはわざとなのか素なのか解らんが、男だと言うのに可愛らしい仕草をしてくる。
ここで仕事をするに当たって色々と制限された事が色々あった。それは、建物内で携帯電話の禁止…俺達ですらその『社長』ってのは信用に掛けるからであり、外部との通信はこの任務中は極力避けてほしいとの事。おかげで、爺さんとの連絡もできねぇ…BRの武装が何時届くのかもさっぱりだ…
それから、エレベータではBRの部品や積載量が600kを超える私物を持ってきてはいけないし。
それと訳解らないのが、外で買った物…特に食べ物とかは持ち込み禁止だそうだ…まあレストランがあるしそれが美味けりゃ問題は無いってわけだから…
「御堂や重役さんには内緒だよ……」
しーっと指を口元にやって佐倉はそう言った。
「ぜってぇわざとやってんだろお前…ってか、「クラスの皆に内緒だよ」的に言うな!」
ぐりぐり
「う~ん、なにが~?」
頭をぐりぐりとしてやる。
「で、誰と話してたんだよ」
「ん?」
「ん?じゃねえよ、場合じゃほんとに御堂やらスーツのおっさんに報告しなきゃならねぇし…」
「……友達」
「友達か…」
何かそう言った佐倉の笑みが逆に不気味に思える…たまにこういう顔するから怪しいんだよな。
「そっかそっか、よし…おっさーん、ここに友達にお電話してる…」
「わー!待って待って!本当ただの友達だってば…ついで言えば僕の仕事仲間でスポンサーみたいな物だよ…定期連絡入れろって言われてるから隠れて電話してたの」
「……」
「…疑ってる目だ!その目!疑ってる目だぁ!」
「ふつーそうなるだろ…まあ、お前がやましい事してるとは思えねぇから言わないでおくよ…」
「はぁ…悪いね、疑わしい事してて」
「いいってよ…下でまた何か奢ってくれれば…」
「うん、そうするよ。んじゃ…」
嬉しそうにそう言って佐倉は去って行った。ってか…このID使えばタダだったな。
待てよ、俺…もしかしたら敵になる奴に何心許してんだよ!?
勇者あいだ
第2話 魔王の腕編 第二話『勇者大逃亡』
……
「お待ちしておりましたよ……御堂さん」
「まったく、胸糞の悪い場所に呼び出してくれたものだ…」
最上階のとある場所に呼び出された御堂…そこで待合室に現れた重役が嫌な笑みを浮かべて出迎える。
「ふん、あの二人…特にルーキーの方に勘繰られるとは…やはり一族としては落ちた方か?」
「…きっ!?」
「……やる気か?貴様程度の『吸血鬼』私の敵ではないぞ?…」
…
……
ここは…どこだ…
「……………………迷った」
夜も更けて、最上階まで行って、一通り散策したが…ありえねぇだろ、こんな所で迷うなんて…俺、方向音痴じゃないはずだったのに…
「佐倉でも連れてりゃ良かったな…」
肝心の佐倉はトイレのケータイの事以来見ていない。いきなり出てきたり居なくなったり、本当解らん奴だ。
「……か!?…まぁ!!」
「うお、びっくりした!?壁?」
何処からか怒鳴り声がしたと思ったら、壁だった。
「……は?なんだっての…」
この向こうってなんかの部屋だったか?一寸耳を付けてみよう…
「…解ったか?今貴様らを全滅させるのも容易いのだぞ、『吸血鬼』…」
「ぐるる……」
「それとも、私がこの場所の情報を売り渡しても良いのだぞ……他の討伐屋の方が『ギルティ隊』より高く売れる…だが…」
「ふ…ぐっ!…」
「……貴様らから報酬を受け取ってる手前、その分の働きは保障しよう…」
「……ふふ、あの安部清明の子孫、御堂家が金で雇える傭兵とはな…」
「貴様ら吸血鬼の体たらくに比べれば可愛い物だ、それに先祖がやっていた事も今とそんな変わらん…相手が人か『悪魔』かの違いなだけ…私は偶然にも貴様らの事情を知り…その上で貴様らは私を雇った…それだけの話だ」
「…時代は常に流れているのです…怪獣、妖怪、BR、勇者、ギルティ隊…我ら一族はそんな者たちに怯えながら隠れ住んでいた…だが、いずれ我ら一族は決起するでしょう…その力もあるのだから…」
「ほう?その時、私はお役ごめんか?それとも…貴様ら『一族』に加えられるのか?」
「どうでしょうね?」
「……なんて言ってんだ?」
話し声からして、あの重役と御堂っぽいが途切れ途切れで良くわかんねぇ…でもなんか、物騒な事話してるのは解る。野生の勘ってやつか?
兎に角、長居はできねぇな…静かに…曲がり角を曲がって…
カチャ…
「ん?カチャ?」
ガコン
「がこん?…あぁぁぁーーっ!」
壁に手をやったら何か押しボタンのようなのを押してしまい、床が抜けて俺はそこに吸い込まれて行った。
「……ん?」
「御堂さん、どうされました?」
「いや…ネズミが一匹迷い込んだようだ」
「ご冗談を、このビルには害獣などは入り込めない作りになっているのですよ」
「………いいや、ネズミだろうな…大きなネズミだ…」
「ってぇ…なんだここ…」
さっきの壁に隠しボタンのようなのを押したのか、落とし穴ってこのタワーは忍者屋敷かよ…薄暗くてなんとも不気味な場所に出た。最上階より1階下って事か?
「んだよ、電気電気…」
薄暗い部屋の中を俺は手探りで電気のスイッチを探す。なんだろう、この部屋妙に暗くてそれに、ここの空気…何だか俺のしょうにあわねぇって言うか何ていうか…とてもきな臭い。しかも春先だってのに妙に寒い…いや、さっきと違い何故か冷房が効いてるのだ。寒いくらいに…
「冷蔵庫かよ…ここは!?さっさと出るに限るぜ…お?明かりだ…」
ようやく、明かりのようなのが見えて俺はそこに走る。
「なんじゃこりゃ…」
そこは、何か化学実験をするような場所だった。高そうな器具に機械がずらっと並び…やけに明るいと思ったら、巨大な生物を培養するようなカプセルがある…その培養液みたいのにライトを当てていて、それが明るく見えたんだが…
問題はそのカプセルの中に居る奴だ…
「う、腕か?これ…」
大よそ人の物とは思えない巨大な腕…肘から下の一本が丸々その培養液のようなのに浸かっている。何かでぶった切れたかちぎれているのか…というかこれ何の腕だ?太い指に、鋭い爪とか…動物のもんでもねぇ…
それにこの腕にはコードのようなのが何本も繋がっていて、培養液の外にある機械に接続されてる。
「なんだよこの腕…きもちわりぃ…」
ごぽごぽ
何か呼吸しているように切断面から空気が出てるし…趣味悪いな…ここの『社長』って奴の趣味か?
「な……うそだろ?」
だが、これの隣を見た途端俺は息を呑んだ…そこには、壁に貼り付けにされてる人間が居た…体中に管を突き刺されてそこから血を吸引されてる。
「待ってろ、助けてやる!…って…なんだよこれ…」
助けようにも、そいつの喉には極太のチューブがブッ刺されて抜こうものなら血がどばって噴出しそうだ…それどころか、両手首や脹脛の所…つまり動脈の辺りにチューブが通ってるわけだ…吸引じゃなく、心臓のポンプから押し出された血が直にあの腕に行くようになってる……
「えげつねぇことを!!」
考えるまでも無く、この腕が『吸血鬼』って奴である事を悟って俺は剣を引き抜く。
「ほう、見ろ…巨大なネズミがいたぞ…」
「!!」
後ろから突然声がして、振り返ろうとした瞬間…
ギュッ!!
「がぐっ!!」
全身がまるで鎖でがんじがらめにされたような束縛感を感じる。
「私は佐倉を疑っていたが、まさかルーキーのお前が侵入者とはな…相田亮太」
「み、御堂か!?」
体を横にして振り返ると、自分の身の丈よりでかい極太の筆を持った御堂と、重役が先ほど会った時と同じ井出達で立っていた。
「いけませんねぇ、相田さん…我等が『社長』と出会うのは、護衛任務をしている間は禁止のはず、これは契約違反でございますよ」
「な、何!?それじゃあ…この腕が!?」
「そう、その腕こそが我らの依頼主だ…」
やっぱり、こいつが俺が狙う吸血鬼って奴か…
「我等が社長は、それはそれは名の知れた、吸血鬼の『魔王』とも呼べるお方でした。ですが、もう高齢からか…その力も弱くなり、それを見計らった追っ手達との戦いで今や、このようなお姿へと、成り下がってしまった。これではもう戦う事はできませんし…追手を跳ね除ける事はできない……ですが、こうして身を隠しながら…復活の時を待っているのです。人間から奪ったこの街とこの城と言うべき…『サイコタワー』でね…」
重役の言ってる事はよく解らねぇが、やっぱ爺さんの言ってたことは正しかったな、こいつ等…街を人の手から奪いやがった…それで街の人達をご主人様の餌にしてるってか…
「あなたが、『ギルティ隊』に雇われた追っ手と解れば、もう用はありません…御堂さん」
「……ふん、偉そうに口上並べるなら自分でやれ…面倒くさい」
そう言って重役の言うとおり、巨大な筆をまるで大砲でも構えるかのように構える。
「おい、御堂…てめぇ人間なんだろ…だったらなぜ、こんな奴等に…」
「そうだ、そして私もお前と同じ同業者だ…それが一番の理由だ」
「わけわかんねぇし…どういう理屈だ!?」
「我々は結局、金で雇われる『傭兵』と言う事だ……奴らは私を雇った…お前達より先にな……ただ、それだけの話だ」
「んだと?」
「ルーキーならこの仕事について知っておくべきだったな…『勇者』と言う仕事は例え相手がどんな悪であれ、報酬を詰まれればその依頼に答える必要がある…そういう仕事だ…」
「ふっざけんじゃねぇよ…俺は…」
「……おっと、口上が過ぎたな…私らしくも無い…」
突然口が利けなくなる…奴の力か!?
「……知りすぎたな、ルーキー…ここで死ね」
巨大な筆を振り、何故か空気中に文字を書く御堂…。まず陰陽の形を描き…何も無い空中に文字を描き始める。
「陰陽筆洗術……」
「こんにゃろぉ…!」
力の限り踏ん張って見るが全然この金縛りが解けそうに無い。それどころか息も苦しくなってきた。冗談じゃねぇ…こんな奴に…やられるなんて…
俺はこんな奴とは違う!金を積まれれば悪魔にでも着くような奴とは…
『金に対する欲望は人それぞれじゃ…悪に走る者もいるが、お主は善のまま欲する…それならば、この仕事に最適じゃ…』
爺さんに言われた事を思い出す…俺は、血まみれの金なんて受け取ってまで仕事はしたかねぇんだよ!!
「てめぇと…いっしょに…すんじゃぁ、ねぇぇーーーっ!!」
バァンッ!
「なにっ!?私の筆洗術の束縛を!?」
「うおりゃぁ!」
ドゴッ!
「がはぁっ…」
力ずくに御堂の金縛りを引きちぎって、懐に飛び込んで一発顔面を殴り飛ばしていた。金縛りを自力で破った事で一瞬隙ができ、その隙を突いたのだ。
「はぁ、はぁ…いってぇ…なんて石頭だ…」
殴り倒された御堂の後ろから放って置かれていた重役のおっさんが、先ほどとはまったく別人の形相で襲い掛かってくる。
「こんがきが!一滴残らず吸い取ってやらぁ!」
「本性現しやがったか…でりゃぁ!」
ジャシュッ!!
床に落としていた剣を拾って肩口から一気に袈裟に重役をぶった切る。
「なぁぁ……」
「そお~いっ!」
一気に袈裟に切り落とした後…そのまま引き抜いて心臓に向かって一突き。
ドシュッ
「グギャァァァァーーーーッ!!」
「吸血鬼は心臓ブッ刺せば何とかなるってな…」
「…は、は…ヴァァン…デェェーーッド…さ…ま」
じゅぅぅぅぅ…
吸血鬼の重役は一瞬で燃え尽きるように灰になり床に落ちた。
「御堂ものびてるし、今のうちにあの腕をばらすか…」
それで誰にも会わずにBRで脱出…それで俺の仕事も終わりだ。悪いな御堂、俺もこれが仕事なんでな…
「ってぇ、かっこ良くしめようとしたのに、起きて来たし!!」
御堂がむくりと頭を押さえながら青筋立てて立ち上がる。
「ああ…貴様か、個人的にここまで怒らせた男は……始めてだよ相田亮太…良いだろう…貴様は私が直々に殺してやろう」
「…すっげぇ怒ってるね…うん…」
目がマジで殺意と殺気を放っている…うん、ぼくがさっき怒ってた時より怒ってるね…ここは一先ず…
「ごめんさーーい!」
御堂達が入ってきた場所から一目散に外に出る、ここは最上階から一階下だったのか?
「逃さんぞ…陰陽筆洗術…『念』!」
バッ!シュッ!シュッ!
「はぁぁ…『怨』…『穏』…『遠』!!」
直線廊下を俺は一目散に走る、その背に向けて巨大な筆で、空気中に文字を書いている。あの筆どうなってんだ…三つの「おん」と言う文字を三角形になるように配置する。
「破っ!!」
ビュゥッ!!ビュッ!ビュッ!
その三つの文字に当てるように筆を振ると、その三つの文字が波動となって俺に向かって飛んでくる。
「うお、あぶねぇ!」
真っ直ぐ飛んできた波動を倒れこんで避けると、その波動は壁にぶち当たり…焼け焦げて…砕けてる。まるで砲弾じゃねぇか…当たったら死ぬぞ…
「ち、運のいい…あいにく、獲物をいたぶって遊ぶほどの快楽主義者ではないのでな…次は霊力を込めて貴様を追尾する」
同じように三つ…いや、5つの文字を描いている。追尾する?ホーミング弾みたいなもんにする気で、更に数まで増やすのかよ!
「ち、冗談じゃねぇよ!!」
札の入ってるホルダーから5枚の札を取り出す。
「札か…私の力に比べたらただの紙切れに過ぎん!」
「やってみなきゃわかんねぇだろ!」
ジャジャジャ!!
先ほどと同じように放たれた5つの波動が俺に向かって来る。それに向かい5枚の札を投げつけた。
この札について少し回想…
俺が業者さんのトラックにBRを乗せて、乗り込もうとした矢先、爺さんに呼び止められた。
「おお、亮太…忘れそうじゃったんだが、ほれ…持ってけ」
ベルトにある札のホルダーに、なにやらごそごそと何枚かの札を詰め込んだ。一枚だけ取り出してみると…
「なんだ?この札…『刃』って書いてあるぜ」
俺が前に使った朱雀の札と見た目と柄は同じだ…
「そいつは、一風紙じゃが、相手に投げつけるとナイフのような鋭さとカミソリのような切れ味を生み出す、『刃札』じゃ。ろくな説明もしていなかったが、お主が使った朱雀…『四聖獣の札』じゃな、お主はあの時やけっぱちに使ったが…」
「ああ、あれ…朱雀ってんだ」
「お主はどこまで……でじゃ、見ての通り朱雀を含め四種類入っておるじゃろ、朱雀以外にも夫々強力な四聖獣を発動させる事が可能じゃが、どれもお主の精神力を消費するから、できる限り、一日に一回を限度として使うのじゃぞ」
「お、おう…」
「で、この刃札はそんな精神力もそんなに通す事もなく、何枚も何回でも使う事ができる汎用性が高い札じゃ…威力は四聖獣よりは格段に劣るがの」
「へぇ…」
スタンッ
何気なく一枚落としてみると、見事に爺さんの足の親指と人差し指の間の地面に、その刃札はダーツのようにピーンッと紙じゃないような鋭さで突き刺さる。
そして暫くして紙のようにぺらぺらに戻った。
「おお、こりゃ使いやすそうだ!」
「あ、あ、危ない使い方をするでない!」
回想終了
ボンッ!ボンッボンッ!
「何!?」
俺が投げた刃札は御堂の放った5つの追尾してくる、波動に命中して相殺し一枚は御堂の横を通り過ぎて壁に突き刺さる。
「よっしゃ、何とか成功したぜ!」
「私の、筆洗術の波動を紙切れで相殺して…尚私に攻撃してくるとは、頭にくる奴だな…」
「お互い様だっての…同業者」
「ちっ!」
頭にくるのもお互い様さ…でも、今ここにいるのは正直、分が悪すぎる…
「じゃ、そういうこって」
ここは戦略的撤退だ!御堂をぶっ飛ばしたい気持ちはあるが、佐倉や吸血鬼達が押し寄せてきたらそれこそ負け確定だ。
この煙に乗じて、御堂の目を盗んで俺は急いで廊下を走りエレベーターに飛び乗った。
「待て!貴様っ!……ちぃっ!」
……
…
ドォォンッ!ドォォッン!!
「む?!何だ…何事だ…」
異変に気付いた御堂は、エレベーターホールから大きな音がした場所へ向かう。
「何だ……これは…」
そこは、先ほど戦闘が行われ重役が灰化された場所…この場所が最上階の一階下であり、隠し部屋である、あの『腕』がある保管室の壁が途轍もない力で破壊されたように穴が開いている。
「御堂さん、何事ですか!?…これは窓が破れている…」
そこに、重役と一緒にいた秘書の女が駆け寄ってくる。丁度壁の向こう側の窓から何かが飛び出したように大穴が開いていた。
「…秘書か!?あれは何だ…」
「……あれは、わが主の血肉とされた者の集合体…主は侵入者を逃そうはしないようです」
「ち…気持ちの悪い能力を……反吐が出る…」
それが『魔王』と呼ばれた吸血鬼の能力…血を吸った抜け殻の死体を操る…
「お急ぎください……主の情報が漏れれば…」
「そんなに大事かね、あの死に損ないが…」
「あそこまで復活されていれば、既に死に損ないではありませんわ…」
ふふふと含み笑いを浮かべる女性秘書に気持ち悪さを感じる御堂だったが、これも仕事だ…何より自分をここまでコケにしたあの男を許す気は御堂には毛頭ない…。
奴には思い知らせる、この仕事…『勇者』と言う仕事が綺麗ごとだけで済まない事を…死を持って……。
「ご健闘をお祈りしております」
「ほざいてろ、吸血鬼め…」
「佐倉、侵入者が現れた…ああ、大きなネズミだ…お前が近いから足止めしていろ。いいか、止めは私が刺す……殺しても良いが、生かしておけ」
……
…
「やべぇ!マジでやばい!」
エレベーターを落とされないかとひやひやしたが何とかそれも無く、1Fに辿り着いて佐倉と一緒に行ったルートを辿って、地下格納庫まで走り降りる。
その時まで、建物全体に警報が鳴り響き…俺は急いで地下の格納庫まで辿り着く…ここまで追っ手も何も来てない。諦めたのか?…
「よし、ブレイバーは無事だ…」
手も付けられてる様子はないし、さっさと起動して逃げる!
「やあ」
「うわぁ!さ、佐倉…」
また、気配も無く俺の横に現れる。格納庫のエレベーターの進路を塞ぐように俺の前に来る。
「どしたの?そんなに慌ててさ…」
さっきと同じようににっこりとフレンドリーな笑みを浮かべている。だが、俺を絶対にブレイバーに近づけさせないように前を塞いでる。
そうだ、こいつは御堂と違って本当にここで護衛をやってるだけの勇者なんだった、丁度いい、こいつもここから逃がさないと…。利用されてて、もしかしたらあの血を抜かれてる奴と同じようになるかもしれない。
いい奴だし、御堂のように話しの解らない奴じゃないはずだ。
「ああ、いい所にいた…実は…」
「う~ん、全部知ってるよ。ぜーんぶ」
「え…」
ブォンッ!ガキィンッ!
一瞬佐倉の表情が冷たくなったと思ったら、俺に向かって何かを振り下ろしてきた。
「か、鎌!?」
「…ありゃりゃ?外した…すばしっこいね、相田君」
佐倉の手には片手で持っているが、俺の剣と同じくらいの長さの杖…魔法使いが持ってそうな杖だ…木かなんかでできた柄に…先端には湾曲した薙刀か槍のような刃がついている。更にその湾曲した刃からは青く透き通った刃が生えて、死神の鎌のような形を形成していた。
「あっぶねぇな!」
「あぶないよ、だって刃物だし、それを切り付けたんだ。当たり前の事だよ」
「そんな理屈話してる場合じゃねぇんだよ!」
「だって、相田君…『敵』から送り込まれたんでしょ?僕はそいつを捕まえるようにって言われて…ここにいるんだけど?」
ぽんぽんと、軽々と鎌を手で弾ませる…その目は本当に冷めている…氷のように冷たい視線だ。
「僕らの仕事って、敵から社長さんを守る事だよね?それで、敵が相田君…わかりやすい理屈でしょ?」
「…だからな、お前はだまされてんだって」
ジャッ!
剣を引き抜いて佐倉と対峙する…こいつ、強い…。強い以前に、こいつは御堂の時と違ってやりにくい。
「御堂から君を「殺しても良いが、生かしておけ」だって…訳解んないよね…」
「なんつう指示だ…いいか、よく聞けよ…」
「聞くけど…で?僕を騙すの?」
「何でそうなる、お前を騙してるのはここの連中と御堂であってだな…」
「…そう言って騙す人間は、ごまんといる…わっかりやすすぎるよ…見苦しい」
「あー、分からず屋はどっちだっての!」
「……話ても進まないし、このままだまーって掴まれば、御堂にも酷い事しないように僕から言うからさ…」
ため息をついてから、佐倉は杖の鎌を収納して俺に手を差し伸べてくれた。だが…それは大人しく掴まるか、戦って掴まるかだ…どっちかと言えば、この手を引っ張って連れ出す方を選ぶ。
「ありがてぇがな、あいつ等を信用できねぇ…ここの実態と、何をしてるのか見ちまった、あいつらは俺を生かさないだろうし御堂も絶対俺を許しちゃ置けないだろう」
「ここの実態?何を見たの?」
「聞いて驚くかもしれねぇが、これを聞いたらお前も利用されてるってわかるはずだ」
「……利用、僕らは利用されてお金を貰ってる仕事だよ…ルーキーだから解らないか?」
この言葉に俺の頭でなにかカチンとスイッチが入る。こんの分からず屋め!
「馬鹿やろう!お前、自分の依頼人の正体がまだ人間だって信じてんのか!?」
「何…それ…笑えない」
ゾグッ
その時俺の体は冷たい蛇に巻きつかれたように固まった。いや、佐倉に睨まれているだけだがその目は蛇のようで異常な寒気が俺の全身を襲った。こいつ…本当に人間かよ…
「…大人しく掴まっていれば、助けられたのに…」
ジャッ!
杖に氷の鎌を出現させ、俺の首筋にその冷たい刃を当てる。
「どっしよっかなぁ…生かしとけとだけ言われてるし、手足を切り落とすとか…氷の刃だから傷みは一瞬で引くよ……あ、でもあえて、傷口を凍らせないのもいいかな…」
そうだ、こいつも同業者だった…俺より全然経験を積んでいる奴だ。こういう殺しもチビの時からやってる…ああ、忘れる所だった。
確かに御堂の言う通りかもしれない…この仕事はそんな世知辛い物だってな…こいつに八つ裂きにされる…それも、当然の世界。
それでも、何か魅入ってしまう…冷たくも美しいこいつの視線に…
「僕達さ…いい友達になれると思ったのにね…」
だけどなっ!!!
「っ!こんのぉ!」
キィぃーーーンッ!!
「うっ!」
一瞬…意識を奪われそうになったが、その視線を振り払うように俺は剣で佐倉の鎌を切払う。
「ああ、そうだな…出会い方が悪すぎるな、ダチだと思った奴が敵だってのは!?」
キィンッ!
「あ、…あははははっ!おっもしろいね、相田君!」
とち狂ったような笑い声をあげて、鎌を振り下ろしてきて、俺は正面から受ける。
「来いよ、ヤンデレ野郎!捻じ曲がった根性ごとぶった切ってやんよ!」
遠慮もしねぇし、助けもしねぇ、ここから脱出するのを邪魔すんなら相手になってやる。トチ狂った奴の鎌をよけて一刀でぶった切る…これでいく。
「あ、あはは…ははははっ…ごーかく、十分すぎる程、合格点だね」
ぱんぱんぱんっ
何か爆笑しながら拍手をし始める…な、何だ…
「てってれー、ドッキリ大成功!」
「は?はぁ!?」
なんか、どっから出したのか懐かしいバラエティ番組のような看板を俺に向ける。ゆ、油断させて撃ってくるのか?
「あ…信用してないね…」
何か突然いつもの佐倉に戻ったようだが…あのとち狂った所からこの変わりよう…
「…何が何やらわかんねぇ…何かやらかしてきそうで正直怖い」
「ははっ、さすが木野のお爺さんが見込んだ人だよ…僕の『凍て付く視線』を払いのけちゃうなんて…でも、根性捻じ曲がったヤンデレってのはさすがに傷ついたよ…ひっどいよ~」
最初会った時と同じようにケタケタと無邪気に笑う。ちょっとまった、爺さんって言ったか?
「爺さんって…あの、木野の爺さんを知ってんのか?」
「よーっく、知ってるよ、僕らの『部隊』でもお世話になってる人だしねぇ~」
隊って…こいつ何者なんだ本当に…
「ってことは、味方…って考えて良いのか?」
「ここの人から言えば『敵』と呼んで良い方かな?話は後だよ…早く逃げた方がいいよ…君が追われてるのは、ドッキリじゃないからね」
「マジか、逃がしてくれるのか?」
「…今のとこ僕は相田君にぶっ飛ばされてのびて逃がしたって事にするから、ちょっとしたらまた敵側についちゃう…」
「んだよそれ…ならお前も…」
「僕にはやる事がある…御堂もそうだけど、僕らの依頼主は相当お怒りで何か出してきたし…それを潰さないとだから…」
「あ、ああ…」
何か狐につままれたような気分だ…
「来た様だよ、さあさっさとBRに乗って」
数名の人間の足音が聞こえる。
「解った、話は後で聞かせてもらうぜ!」
「お爺さんから合流ポイントを受け取ってる、それを辿ればあるよ、君のBR武装!」
佐倉の横を通って俺はエレベーターに乗るとそのまま下におりて、ブレイバーに飛び乗る。
「解った!感謝するぜ!佐倉!」
コックピットのハッチを開けて俺はブレイバーの内部に乗り込む。後ろ手で俺に手を振ってくれたような気がした。
本当、敵だの味方だのわかんねぇやつだ…まあ、今は心強いぜ。
ヴゥゥーン
BRの起動スイッチを押すとディスプレイにハナコが出てくる。なんかパジャマと、よく見るトンガリ帽子のキャップをかぶって、眠そうに目を擦ってる。
『こんばんは、マスター大王様…そろそろ夜ですよぉ~』
「だれが、『大王様』だ!…んな事言ってる場合じゃねぇ、ハナコ、こっから逃げっぞ!」
単刀直入に、ハナコに言うとハナコは「はぁ?」と言いたげな表情を浮かべて…
『すいませんマスター…何が起きたか把握できない限りでは、BRを動かす事は…』
「とにかく仕事失敗したから一時撤退すんだよ!」
『ぷっ…』
「笑うなぁ!ぶっ壊すぞ!」
『わ、解りましたよぉ!メインシステム作動、エンジン起動…内部フレーム直結オールグリーン!BR『ブレイバー』起動』
「よっしゃ、歩け!」
早くこの場所から出ないとな…御堂がBR動かしたら絶対やばいし…。
ブレイバーの操縦桿を握り前に押すと、ブレイバーが歩き始める。検定試験のシュミレーション以来だし…上手く行った。
「って…どう出るよ?!」
カタパルトハッチのような物が見えない。爺さんの事務所のようなカタパルトハッチがあれば急いで出る事ができるのに…
『施設の地上への連絡ルートに、BR専用の射出口があります、それを使いましょう!』
「そんなもんまで…どんだけだよ、このタワー…」
『おそらく、自衛の為にBRを購入するつもりだったのでしょう、こんなしっかりした施設そうそうありませんから』
「そんだけやばいとこから金と血をせびって立てたんだろうよ、このタワー!」
吸血鬼を守る為の要塞とその自衛の為のBR…何れそれも使って攻勢に出てくる。
『あーんだめですぅ、射出口は開きましたが射出カタパルトが使えないようにブロックされてますよぉ!』
ブレイバーをカタパルトに固定しようと、ハナコが外部アクセスしていたが接続すらしてくれないらしい。
「何とかしろポンコツ人工知能!」
『ぽ、ポンコツといいましたか!?こうなったら一か八かで、ブースターのオーバーロードで強行突破です!』
「な、何!?オーバーロードだ!?」
『やけっぱちです、全エネルギーブースター直結、オーバーロード!』
ブオオ!ドォォーーーーンッ!
「ま、まて!まだ心の準備…がぁぁぁーーーーーっ!」
まるでジェットコースターに乗ってるような気分になり一気に上に猛スピードで上昇していく。射出口から勢い良く上空へと飛び出す。
『どーです!見ましたか、私の実力!』
「やけっぱち過ぎだぞ!」
何かやけになってるけど勝ち誇ってドヤ顔をしているハナコ。ともかくこれで外には出れた、後は佐倉から貰った爺さんとの合流ポイントって所に行けば…
ぷっしゅう…
「……おい、なんかいやーな音がしたぞ」
『あ…まずい』
ビービーと機体に警報が鳴り響き、コックピット内を赤いランプが回る。そして…
ひゅぅぅ~~~…がしゃぁぁんっ!
ブースターが止まり、その重みで落下してしまう。
「いってぇ…」
最新版だから落下の衝撃がコックピットにそんな来ないって構造だけど、正直痛すぎるぞ。
「ハナコさんや…これはどーいうことかな…」
操縦桿を握っても何してもブレイバーが起きてくれない。
『ううう…ブースターエンジンが先ほどのオーバーロードで、オーバーヒートを起こしちゃってるんですぅ…更にメインエンジンがエンスト起こしてしまってますよぉ』
「はぁ!?こんな所でエンストかよ!教習じゃそこまで酷くなかったぞ!」
『はうぅ、幸いエンジンのラジエターのお陰で、エンストはすぐに復旧しますよ。ただ、ブースターエンジンの冷却に3分弱必要としますぅ』
「その間、徒歩で歩けってか!?トラックのある町外れはけっこうすんだぞ!」
『そうするしかありませんよぉ!』
後ろには御堂が追ってきてるってのに…のん気に歩いていたら格好の的だぜ。
「お?!」
その内、コックピット内の警報が止まって、ブレイバーがまたエンジンを吹き返した。
『メインエンジン回復、運動機能再起動しました!』
「しかたねぇ、回復までの時間を表示しろ…ともかく徒歩だ!」
ガッション!ガッション!
街の道路をブレイバーが徒歩で走る。中型二脚はこうして操縦桿を深く倒すことで走る事ができるが音がうるさい、けっこうコックピットに揺れが来て…
「…普通に歩いた方がいいっぽいが…うえ」
『乗り物酔いの薬がシートにありますよ』
ここまでバカやってるんだが、今の所追っ手が来る様子は無い、まさか本当に諦めた?佐倉が上手くやったのか?
御堂のBRが来てもおかしくない筈だが……
『それより、マスター様…あれは何ですか?』
「は?」
『進路道路上になにかあります』
確かに道路のど真ん中にどーんと何かの塊が道を塞いでいた。まさか落石?
『…せ、生態反応!?なんですかあれ!?』
「は?んなわけ……」
それを見た瞬間血の気が引いた…。三流ホラーじゃよく、ありえない描写や演出があって俺は少しそういうのを見ても、怖くなかったが…
んじゅる…ぐぎゅる…
それは、肉だった…リアルに肉だ…元々なんかの生物だっただろうが、それは生物の形じゃない、軟体動物のように手足が無く肉のスライムって言った方がいい。なんか、血のような液体まで流れてる…
それ以上に驚いたのが…
「…マジかよ…あれ、人間じゃねぇか…」
『ええ、あれ人なんですか!?』
「見間違いじゃねぇ…ありゃ、人の成れの果てだ」
肉の塊は所々だが肌色の皮膚のようなのが見え隠れして逆にそれがリアルに、それが『人間』だった物だって事を妙に納得させた。
「ぐっ!」
さっき、『腕』のあった部屋にいた血を吸われていた奴を思い出す。もし、あの腕が吸った人間の成れの果てがああなってるんだとすれば…
「野郎…人を何だと思ってやがる」
『マスター?…はっ、同反応多数!ブレイバーの周りを取り囲んでいます』
「何!?」
ぐぎゅる…バァァッ!
「まじぃっ!」
目の前の肉塊がまるで口を開けたように穴が開くと、何か液体が吐き出される。ブレイバーでその液を避けると避けた先の建物の壁がじゅーっという、音を立てて溶けてる。
「胃液かよ…」
そしてドロドロになって溶けた。
『胃液の主成分は塩酸ですぅ、BRの装甲は胃液程度の酸じゃ…』
「ばか!建物溶かしてる時点で胃液じゃねぇ!」
がしょん!がしょん!
再びブレイバーを走らせて、逃げるがそこら中に同じような肉塊がブレイバーを取り囲んでいた。
「やべぇ…あんな酸を、一斉に吐かれたら…それこそドロドロに溶かされる!」
『ど、どうしましょう!』
「ハナコ、本当に何にもねぇのかよ!」
ブレイバーは武装も何も無い状態だから、どうしようもない…ただ固定装備ぐらいあっても良いだろう。
『えーっと…あ!ありました!』
「BR専用ハンドガンに左腕部固定式レーザーサーベル…んだよ、ちゃんとしたの装備してんじゃねぇか!」
『ハンドガンにレーザーサーベルは購入時に軍許可を所得するので同時購入が可能なのですよ』
「十分だ!出せ!」
『はいです、専用ハンドガン装備!』
ガチャッ!パシッ!
右足の脹脛の部分が展開してハンドガンが飛び出るとそれを右手でキャッチする。
『装弾数12、接近戦に移ったらレーザーサーベルも自動起動…』
兎に角、ハンドガンの銃口を上げて…モニターに移るターゲットスコープを操作する。弾の数は少ないがやるっきゃねぇ…
「わりぃな、そんな姿になっちまって…楽にしてやるよ…てか、溶かされるのは勘弁だ!」
とりあえず、肉塊になった人間に同情しつつ俺はブレイバーのハンドガンを向ける。
『マスターちゃん様!上っ!!』
「なっ…」
タワー内地下格納庫
「おい、…おい!…起きろ佐倉」
「あーー…やーらーれーたー」
「何言ってる…やられたならそこで死んでろ」
「死んでたじゃん、ちゃんと…」
御堂が格納庫のエレベーター前に仰向けにたおれて「やーらーれーたー」を繰り返していた佐倉雪菜の頬を叩いて起こす。
別の意味でこの男は御堂にとって苦手分野だ。実力はあれど、こんなにも掴み所が無い。
「貴様らしくないな、あんなネズミ如きに逃げられるとは」
「お互い様だよ…けっこー、強かったしね」
何処まで本気か?ケタケタと笑う少年の真意を測りかねていた。それとも…こいつも侵入者?だとしても可笑しくないと考えるが、この男とも敵対するのは今は得策ではない。
「外、何か騒がしいけど…何かあったの?」
「ん…」
この男は、ただこの会社の社長護衛の任務の勇者…だった。全容は知ってはいないだろう。
「奴が暴れてるのだろう…だが、あの男の威勢のよさも、もはやこれまでだ…私達も出るぞ、佐倉」
「いい人だと思ったのになぁ…ま、仕方ないか…」
「新型と言え、所詮武装の少ないBR…我がセイメイmk-5の敵ではない、無論…あの男自身がどんな力を持ってるとしてもだ…」
セイメイmk-5…ラビッツと同じく、BRブーム時に発売された他企業製のBRを軍用装備で固め独自の改造を積んだ、改造5機目の機体だというが…
「名前も趣味悪いね…もっちっと、装備といい何とかならなかったの?」
「貴様のごてごてしてるBRに言われたくない…」
「それひどくない!?…で、傘はともかく…そこの大砲は一緒に射出できないよ」
「ふんっ…貴様も足元をすくわれるなよ…」
佐倉雪菜もまた自身のBR、アイスコマンドに乗り込む。
「…さって、アイスコマンド起動っと…」
『アイスコマンド、起動しました…』
アイスコマンドも例によって、人工知能が搭載されているBRであった。ハナコと同じくディフォルメ状のメガネの長い髪のメイドが深々とお辞儀をする。
「ナビ子、君の気になってた人…期待通りの働きをしてくれたよ」
『相田亮太様ですか…ですから…私はそういう気は…』
「照れないの……まあ、失敗も期待通りしてくれたから、今から援護行くよ…」
『………ですから、この作戦は無理があると仰いました』
「でも可能性はあるよ……御堂は敵側だから…」
それでも分が悪いことには変わりが無い…外で何が起こってるのか、大体の見当がついていた。
「今は、相田君の可能性を信じよう…」
『はぁ…私はあなたの人工知能、従いましょう…』
「よろしく頼むよナビコ……」
この人工知能はもっと柔らかく考える事はできないのかと、佐倉は思ってしまう。長年BRの人工知能として相棒をやってきた…最近の人工知能はコミュニケーション主観でより人間の思考と意識に近づけたが、彼女は一向に硬派だ…。
まあ、そんな事もどうでもいい…今は現状をどう打開するかだ、相田亮太がBR武装を取ったとしても逆転と勝機があるかはわからない。自分らの隊長と相打ちとなった『魔王』が相手で、敵側には御堂もいる。
「……さて…どうしようかな?」
自分も何時までもおふざけモードではいられなくなった佐倉雪菜だった。
……
…
「ぎゃぁぁーーっ、ふざけんじゃねぇ、さっさとたすけろぉ!」
続く…
佐倉雪菜君は前の話の冒頭で出てきて、その後の話にも関わるレギュラー化です。うざ可愛い男の子って、皆さんどうでしょうか?
それでは、また来週!