第2話 魔王の腕編 第一話『勇者は職業だ!』
こんばんは、なんとか週一で更新できました。
この回から、一話を何章かに分けてお送りします。
レギュラーとなる魔術師とか、相田君専用のBRというロボットも登場します。
お楽しみあれっ
場所:??? 時刻:???
ごぽ…ごぽ…
巨大な研究施設か、研究室らしき場所にあるカプセルの培養液の中で、それは脈打つように蠢いている。
『…おおぉ…血が…血が欲しい…』
その声は、何処から発せられたのか…カプセルの中にある、『それ』が発したのだろう…それはある者との戦いで一度滅ぼされて、体の殆どを失い…今や身動きすら取れず、この意識も本物なのかも解らない。
今は培養液の中で、肉体を再構成させる…肉体はバラバラにされから、修復中もそれは一つの感情で動いていた。
自分をこうした人類への『復讐』……
『奴らの血を…我に、人間の血を…』
それは吸血鬼…かつて『魔王』と呼ばれた異形だった。
…
……
………
場所:都心の公園 時間:???
そこは既に警察により公園全体に検問がしかれて全域で立ち入り禁止となり、捜査官と鑑識による現場検証が行われていた。ここで起こった事件と言えば、先日ラジオ局に現れた悪霊の事件…そう、相田亮太が最初の仕事として戦って、倒した場所だった。
警察は2013年以降多発する、『悪霊』や『妖怪』…その他の怪奇現象を専門に捜査する秘密部隊が存在して、ここを捜査している捜査官全てがその者達であった。
この公園に一台の車が止まる。車のドアを開けて一人の少年が検問をするりと通過した後、鑑識に顔を出す。ぴりぴりと周りが緊張した雰囲気の中に一番似つかわしくない、背が低めの少年と、同じく車から降りた女性…彼女はなぜかメイド服だ。警察の関係者とは思えないこの二人組みはブルーシートで覆われた現場に入る。現場検証をしている鑑識の者達に「こんにちは~」と彼は間延びした声で言うと、全員が彼に敬礼する。
「お疲れ様ぁ~…どう、その後の調査は…進んでる?」
「はい、皆頭を捻っていますよ。何せ霊的レベルでも完全に消滅したとしか言いようがありません」
少年の問いかけに、鑑識の一人が答える。
「つまり、『悪霊』は完全に消滅されたって事だねぇ。封印とか、除霊とかじゃなく」
調査員の足元にある、焦げ痕のような物…それが悪霊の痕である。彼はそれ程、驚いたそぶりを見せずに、手を合わせてにこにこと笑う。
「記録からして、ご隠居の元に依頼されていた、叙霊依頼の悪霊です」
「期間からして既にランクはAに達していた奴だね。お爺さんには成るべく無理をしないようにって、言ってたけど……」
少年はその日同じく放送が急遽休みになったアイドルのラジオ番組とこの悪霊が起していた事件の舞台となっていたラジオ局場が気がかりだった。以前から番組に妙な噂があり、彼らが長年世話になっている『ご隠居』という人物の事務所に直接依頼があったはずだ。
「あ、こんな時間だ…ごめんね。後は頼むよ」
少年は腕時計を確認して、現場を後にする…彼と一緒にいた女性もそれに続いた。
「たぶんお爺さんじゃないね。前から腰を痛めてるから…新人が欲しいって言ってたし、多分その人だと思うよ」
「…俄かには信じられません…」
女性は少年に聞くと、彼はにやっと笑って…
「気になる?そのお兄さん……」
「そう言う事じゃありませんが……」
「凄いと思うよ、…この世で霊体を完全に滅しちゃう普通の人がいるなんて…普通のルーキーじゃできない事だしね」
「では、今回の任務も…」
「ああ、お爺さんの所にはもう『ギルティ隊長』から連絡を入れてあるよ」
彼はこの後、これとは別件のある任務に就いていた。時間は既に捜査で探し出した『それ』の所在地に向かう時間になっていた。
「あと少しですね……」
以前、彼の所属している警察の特殊部隊は『それ』を追い詰めた…それは彼らの隊長との戦いで体の殆どを消滅させられたが、彼らの隊長も深い傷を負ってしまった。その後、どう言う訳か逃走し…とある県の市街地に潜伏しているとの情報が入った。
そこに彼は潜入捜査をするつもりだった。
「うん、もう逃がさない…必ず捕まえてやる」
………
……
…
勇者あいだ
第2話 魔王の腕編 第一話『勇者は職業だ!』
「はぁ~…」
場所:東京浅草商店街『木野何でも相談解決事務所』…現在改名改装中。
「どうしたんじゃ、亮太…ため息ついて…」
ぬりぬり…
「どうしたもこうしたもねぇよ…」
俺の名は相田亮太。まだ覚えてないなら今の自己紹介で覚えてくれていい。バイトを探してる時、この悪霊やら妖怪やらを退治して報酬をもらう仕事をしている事務所に来て、いきなり悪霊退治の仕事を請け負った。
冗談半分で信じていた本物の悪霊とガチでやって、それが現実の物と言う事と俺がこの仕事にかなり向いてるって解った。
「不満も何もありまくりだっての、まさか本物の悪霊退治をして、命はったってのに最初言ってた報酬も殆どスタジオの修理費に持っていかれるわ、それで貰ったのは10万円だけ!?しかもその10万円も爺さんが私用で使ったって、聞いたぞ!?」
で、一話のラストで手元に来たのがあの1万円だけって事だ。
「あーあれか…悪霊と亮太のおかげでスタジオはめちゃくちゃじゃからのお~仕方あるまい、この仕事はいつも同じようなもんじゃ…」
私用で使ったんだろ…なら俺の報酬とか給料はただみたいなもんだ。
「そのお陰か、住んでいたアパートも家賃払えなくて出る羽目になるし…」
「その代わり事務所の部屋を貸してやるのじゃ、食事代も合わせて安くするぞ。お前さんには本当助かる。こうして事務所の掃除や改築までやってくれたのじゃからの」
今回の依頼で得た報酬(10万の内)で買ったペンキなどを使って、来た時は化け屋敷のようだったこの事務所も綺麗にリフォームをしてやってる所だった。
来た時なんて、事務所の看板も書いている文字が見えないくらい古くなっていたが、今俺が買って来た新しい板材にペンキを塗ったくって、文字を彫って新しい看板を作ってる所だ。
「じゃが、しかし…事務所の名前を改名する事は無いじゃろう…」
「幾らなんでも、このご時勢で…この名前は無いぜ…」
この際、新しい事務署名は何時決まってもどうでもいい事だが、清掃業や大工のバイトが十分役立って、最初の頃より事務所の内部は見違えるようになっていた。
「お主には感謝しておるわい、掃除やリフォームまでやってくれるとはのぉ」
「つーか、俺がここに来るまでどうしてたんだよ…」
アパートを追い出されて、改めてこの事務所にやって来て事務所の内部まで見てみたら散らかり放題で、どっかで見た一人暮らしの年寄りのゴミ屋敷って感じだった。
今までどうやって生活してきたんだ…
「意外とまめったいのぉ」
「煽てても給料あがんねぇだろ?」
「まあ、それはお主の腕しだいじゃ…」
爺さんは手を止めて続ける。
「お主が自分を『勇者』と名乗ったのも、的を得ている。同じように悪霊や、妖怪という脅威と戦い報酬を得る人間全てを最近では『勇者』と総称するようになった。それこそ、個人や団体、様々な職種に関わらずじゃが…奴らは強力な力を持ち傭兵のような活動をしておるのじゃが、一つの報酬で貰える額は様々で…平均はこんなもんじゃて」
「マジかよ…俺や爺さんみたいのが、他にもいるってか?」
「まさか、お主…知らんで名乗ったのか?…」
正直、俺が考えてる『勇者』って奴はファンタジーの世界で、王様に会って魔王を倒す奴や…一寸昔のアニメでは、パトカーや新幹線が変形して合体するロボットアニメだったりとかを想像していた。
「なんか想像と違うな…」
「世の中そんなもんじゃ、じゃがそれでもお主は『勇者』を名乗ったのじゃ。それにお主は他の者には無い物をもっておると、わしは信じておる」
「他の奴に無くて俺にあるもの?」
「そうじゃ…他の者は、実力や経験もあるがお主にはそれすらも関係ない『資質』がある」
爺さんの言葉には漠然とするが、勇者の資質ってよく解らない。この仕事にあってる事しか解らないんだが。
「さて、まだまだ仕事は残っておるぞ…」
爺さんはそう言い、事務所の片づけを進めた。
「って…これも給料でねぇだろ!」
「この仕事を終わらせたら、ちゃんと給料のいい依頼が待っておる」
「マジかよ!」
…
……
その後、急ぎで片づけを終えて、見違えるようにリフォームされた、事務所の待合室のソファーに腰掛けて、次の仕事の依頼を爺さんから聞くことにする。
「亮太、次の依頼というのは、ある街を支配している『妖怪』を退治し、街を奪還して欲しいという依頼じゃ…」
さっきまでのおふざけ気分な爺さんではなく、まじめな探偵みたいに話す爺さんに、少々の緊張感を持ちながら俺は聞き入った。
「悪霊と違い、『妖怪』とは肉体を持ち、人間のような物から獣のような物、野性的な感情を持ち、しかも霊的な特殊な能力をも操れる奴等じゃ。古来より自然から生まれ出て、古来より人に仇名す存在として恐れられていた」
「鬼やら天狗やら…そんな連中が今度の相手か?」
「いや、今度の相手は妖怪ではあるが…それとはまた別格。『吸血鬼』と呼ばれる存在じゃ」
「ドラキュラのような?」
「うむ、まあ、奴らは妖怪とは別物と扱うが、本質は同じ。人の生き血を吸う怪物として古来より恐れられた奴らじゃ。大吸血鬼ともなれば、他とは桁違いの能力を持つ」
真面目に俺に吸血鬼の事を解説している。っておい、ちょっと待て…
「街の奪還だ!?しかも一つの街の!?」
「そうじゃ、その吸血鬼に街ごと乗っ取られた、わし等に届いたのがその街に巣食う吸血鬼を成敗する事じゃ」
「この前、悪霊一匹にあれだけ手こずって、えらく難易度が上がるだな…」
「確かに、大吸血鬼ともなると街の人間全てを飲み込む『街呑み』を行う可能性があり、そうなれば街全員が吸血鬼の配下にされてる可能性もある」
「だとしたら絶望的じゃねぇか」
「いいや、そうでもない…吸血鬼化を治す治療法の発見により、吸血鬼自体は3つの勢力を残し衰退しつつあるのじゃ…親を退治すれば、支配は解ける」
つまり、大元を倒せば何とかなるってわけか。
「(悪霊を斬って倒してしまうお主ならば…あ奴を倒せるじゃろうが…)」
「ともあれ、真向勝負で倒せるほど甘い相手でもない事は解るじゃろう…生身がある分、その能力は侮れんからの」
「だよなぁ…俺、生きて帰れるかな」
「不安になるな、策も講じているし、街一つ相手を想定した備えも万全じゃ」
不安要素だらけだが、爺さんの『策』と言う物を聞いてやる。
「まずは、奴らを油断させる為に、奴等の用心棒として雇われる」
「え!?敵側につけってか?」
「まあ、焦るでない。今回のターゲットたる者は、自らの身を外部からくる敵…まあ、わし等じゃな…そいつらから守る為に、用心棒たる3人雇ったのじゃ」
「その一人が俺ってか?」
「いんや、全くの別人じゃが…まあ、大丈夫じゃ最後の一人はお主になっておる」
なんかあからさまに怪しいんですけど…
「その用心棒とも戦わなきゃならないのか?」
「できれば用心棒もわし等のような、雇われ人間じゃからのぉ、無駄な戦闘は避けるべきで、進入したら奴等の眼を盗んでターゲットを狙って行って後は、逃げるのみじゃ」
それって、なんかヤバイ感じがするけど大丈夫なのかな…
「ターゲットさえ潰せば、他の部下である奴等も死ぬからのぉ、何とか大丈夫じゃ」
「簡単に言ってくれるが、それって大丈夫なんだろうな?」
「よし、着いて来るが良い…」
爺さんに連れられて、事務所の地下格納庫へと向かう扉を開いて階段を下りた。リフォームの時はまったく気付いていなかったけど…
地下格納庫の事務所の外層の作りとは全く違い、だだっ広い…上とは偉い違いだ、結構裕福なんじゃないのかと疑ってしまった。
「まっくらじゃねえか」
「おお、そうじゃ電気をつけんとな」
爺さんの声が隣から聞こえた後、カチっと言う音と共に、暗い部屋に明かりがついた。
「こ、こいつは…」
明かりが点いた、格納庫内に…ひときわ目立つ赤い外装を持つ、9mぐらいの巨大なロボットが佇んでいた。
「こいつ、BRじゃねぇか?!しかも、最新型」
目の前に現れた機体は、元は車の会社が今はBRも取り扱ってる会社の最新モデル『ラビッツ』と呼ばれる機体だ。BRの説明は前にしたと思うが、BRは防衛軍が開発し現在の世界に広く浸透しているロボット兵器だ。
数年前、一般企業も競うようにBRの開発して、『第二次BRブーム』なんてのが起きるくらいになり、現代社会にBRありと言わしめたのだ。
この『ラビッツ』は、車の会社がBRブーム初期に提供された、基礎骨組み…つまりフレームを6箇所に分解(頭部・椀部・胸部・脚部・背面部)して、夫々個別のパーツとして安価に販売できるようにしたのが最大の売り。さらに、安定した性能と機動性で防衛軍もお墨付きをくれるほどの汎用性が話題の奴だ。
「で、こいつ…今年の15年モデル!防衛軍からの発注もある最新型。パーツ全部揃えても何百万かする奴だぞ!」
目の前にあるのは、今年…2015年に発表された最新型のモデルだ。最近じゃ、宇宙活動とかにBRを役立てようという声で、作られたモデルだ。
「よく知ってるではないか、そうじゃ、こいつをパーツ全て揃えわしなりの塗装と改良を加えたのじゃ」
「そうか、その資金とかで、前の報酬も一部使っちまったわけか」
そう言うと、爺さんは「うっ」と図星を付かれて変な声をあげる。
「でもこれ、武装ないじゃん…やっぱ軍用兵器は一般の俺らが使うには無理あるってわけか?」
BRの最大の目玉である武装換装システム。最近じゃ背面パーツのスロットに多種多様な武装を装備できる機構があり、自分好みのBRに仕上げる事が可能なんだが…このBRにはそんな武装は一切ついてない。
「それもそうじゃが…許可申請はちゃんと、取ってあるぞい」
法的に軍用兵器を装備するのは、パーツを買った店と制作会社を通して防衛軍の許可を得る必要がある。さらに軍用兵器自体は、防衛軍から直接取り寄せが必要で信用が無いと絶対に売り出す事は無い。
「とりあえず、わし等のスポンサーに発注した装備を取り寄せ中じゃ」
「スポンサー?」
「少々遅れているのぉ、じゃが…現場で直接受け渡しがされるから安心せい」
まあ、この事務所が法的にやばい事をせずにBRを持ってるって事を知って安心したぜ。所で、スポンサーが気になるな。
「まだ搭乗実験はしておらんのぉ。で、お主BRの免許もっとると言ってたのぉ」
「ああ、ちゃんと防衛軍のシュミレート試験もしたんだぜ。まあ実際乗る事になるとは思わなかったけど…重機を使うバイトには役立ったよ」
実を言うと、BRの操縦は結構得意な方なんだよな…免許取得ではオールA取ったし。そのお陰か工事現場バイトで重機をすぐに触らせてくれたし…この免許何かと便利だ。
「よし、それならば今回の依頼主の街のある程度損壊も、賠償は請求しないと言っておるからBR戦では、気にする必要なないぞい」
「あ、ああ…で?こいつが活躍する場面があるのか?」
「もし、潜入作戦が失敗した場合の脱出方法と、敵側にいる残り二人の用心棒も戦闘BRを所有してる可能性もある」
「う、やる前から不安要素をつくんじゃねぇよ!怖いじゃねぇか!」
当然ながら、資格試験のシュミレーションでは実戦シュミレーションは無く、BR戦は俺は無い。ただ剣を振ってるだけじゃ、駄目だってわけか…
「大丈夫じゃ、このBRの性能はそんじょそこらじゃ図りしれんからのぉ」
爺さんの相当の自信作のBRで戦闘するのは、不安はある。最新型と言っても装備は無い。けど、やるっきゃないか…
「…よっしゃ、なら早速行ってくるぜ…いつ、どこに行きゃいいんだ?」
「BRの郵送業者さんと一緒に行くが良い、場所は…」
爺さんの言った場所は、東京からそれ程離れていない県にある市街地。大きなタワーマンションが最近になって立ったって有名な街だ。
で、俺が行く場所は、市庁にもなってるその大きなタワーマンションだ。
「敵の潜伏先はおそらくはそこ、用心棒のお主らには吸血鬼と言う事は伏せて、護衛任務を任せるじゃろう…」
「まあ、俺は吸血鬼と解ったら絶対断るけどな…」
仕事を請け負ってる内に、背後から噛まれて血を吸われちゃたまったもんじゃねぇしな。一回目は悪霊を倒すので手一杯だったのが、今度はその街を占領した吸血鬼の一団でBR持ちの用心棒つきときたら…荷が重すぎのように思えるが…
「かー、もう破れかぶれだ!もう何だって来い!」
「よし元気があってよろしいぞい」
剣を振り上げて半ばやけっぱちに声を上げる。これで報酬が殆ど入らなかったら本当に泣いてこんな仕事やめてやる!
…
……
「って、成り行きと勢いでやることになったけど…これ、どうやって運び出すんだ?」
『…』と『……』で時間が過ぎて、次の場面に行ってると思ったらまだ事務所のBR格納庫の中に居る。ガレージのような大きな扉は見えない…けど、BRの目の前にはリニアレールのような物が敷かれている。
「第一、こんなもんどうやって中に入れたんだよ…」
仮にも東京の浅草の下町商店街、更に店と店の路地裏にある化け物屋敷に9mの巨大ロボットを運ぶのは流石に無理難題だ。
「ほっほっほ…亮太よ…事務所の外装に手が回らなかった分、この格納庫には十分金をかけておるのじゃ…まあ、待て…」
そう自信満々に爺さんは格納庫の奥にある内線電話のような物に行くと…
「内線、わしじゃ!今から地下格納庫を展開する!繰り返す、今から地下格納庫を展開する為備えよ!」
「な、何言ってんだ?…爺さん」
ビー!ビー!
爺さんの内線連絡の後、格納庫内に赤いランプが回り警報音が鳴り響く。
「お、おおお!?何だ!?何が始まるんだ?!」
「ほっほっほ…見ておれば解る、そこ危ないぞ」
爺さんはレールの上に居た俺の手を引いて退かす。
グィーンッ…
立ち上がっていたBRがレールに沿って前に移動して行きながら、仰向けにゆっくりと倒れる。背面も台座になっていたのか…
「おおっ!」
ウィーン……
「扉が開いた!すげぇ…」
仰向けになったBRがそのままレールに沿ってゆっくりと移動し、前方の壁が開く。ロボットアニメの戦艦の射出口みたいな感じになってるようで、格納庫から地上に上昇していく。
「事務所名物、カタパルトデッキじゃ」
横開きに地上の扉が開いて、上昇したBRが地上へと出る。それを追って俺と爺さんも地上に出る。
「驚くのはこれからじゃよ」
「すげぇな、こんなもん作るのに金かけてたのかよ…」
「そうじゃ、だから外の事務所にはそれほど金がかけられなかったんじゃ…中古物件だったし…」
「だろうな…」
しみじみ言う爺さん…これ作るのにどれだけの金がかさんで、外の事務所のリフォームができなったのだろう。
「……あれ?」
後ろには俺たちの事務所の建物が見えて、前を見ると下町の道路…通行人の視線が突然現れたBRに驚いているようで、立ち止まる。…道路に止まるBR運送業の大型トラック…おかしい、ここには確か2軒ほど下町の商店街の店があったはず。右側が中華料理店…左側が靴屋だった気がする…
「………ひらいてる…えええええっ!?」
下町の商店街の店がカタパルトデッキの展開に合わせて、店自体が左右に展開していたのだ。
「なんじゃこりゃぁ!」
下町に俺の雄たけびが上がる…BRを見ていた浅草の通行人がくすくすと笑ってるのが見える。ありえねぇよ…BR出すのに店が開いて道ができるなんて…
「それじゃあ、この場所に頼む」
「あいよ、運送料は報酬から引かせてもらいますね。よっし!BRを荷台に乗せろ!」
『ういーっ!』
「いいか、外装に傷一つつけんじゃねぇぞ!安全と安心!それが俺たち運び屋のモットー」
運送業の兄ちゃん達が手際よくカタパルトから出てきたBRをトラックの荷台へと載せる作業に入った。
「おお、亮太…どうじゃ!凄いじゃろ」
「あああ…店が…」
「わしの事務所の前にある2軒の店を入れた、土地一帯はわしのもんじゃからな…業務連絡で一旦店を閉めて貰って、カタパルトの展開に合わせて左右に寄るように建物事態を改造したのじゃ」
「ってか、そこまで金掛けるなら、事務所を改築しろよ…」
驚いたと同時にどっと疲れた…
「キノさーん!さっさとそこ閉めてもらわなきゃ仕込みができないあるよ!」
「木野さーん、まだ戻らないんですかー?」
左右の中華料理店と靴屋の店主らしき人たちが左右から爺さんに文句を言って来ている。結構迷惑かかってんじゃねぇか…
「難点なのは、これが最近の下町の名物と化してきていることかのぉ…」
「じゃあやんなよ!!」
……
…
なんやかんやで、BR輸送行のトラックに乗って現地へと向かう事になった俺。
「もしかして、維持費で相当掛かってるとかで給料も出ないんじゃないか…」
こんだけ高額な、BRや地下格納庫…店2軒を含めた土地代を考えるとそう思ってしまう。
「何だ?どうした兄ちゃん、これから行く場所が不安かい?」
「まあ、ね…こう見えて新入りなもんでね」
「そぉかい、木野のご隠居さんの所で若い衆が見つかったって喜んでたけどな」
で、当の爺さんはBRの発注した装備の到着を、事務所で待つとの事で、少々送れてこっちに到着するのだと言う。
「まあ、がんばんなよ!」
「お、おう…」
「で、そろそろ着くから、自分のBRの点検でもしときな。そこの扉から荷台に下りられるから気をつけていきな…」
「おお、んじゃ見てくるわ」
そう言えば、BRのコックピットに入ってもいないからな、一度だけ見てかないと俺がこれから一緒に戦う為の相棒になるんだからな。赤い機体…塗装したのは爺さんだが、赤いのが趣味なのか…悪くは無いけど…
トラックの後ろのドアからBRの格納されている荷台に入って見る。前屈みでないと狭いし動きづらい。それに道路を移動しているから、どっかに掴まってないと落とされそうだ。
「…ここかな…」
赤いBRの胴体部、コックピットは決まってこの場所に収まっている。爺さんから教えてもらったパスコードを入力して、胸の上部が展開してそこから入ることができた。
「おお…これが、新型の回転式のコックピットか…」
新型だけあって、内装も凝った作りになっている。シートも座りやすい…入り口を閉じると同時に内部の電気がつく。
「オートか…よし、次はっと…」
教習所で習った手順通りに、操縦席の前にあるディスプレイを開く。
「コンピューター起動っと…」
ピッ…ウィィンッ…
BRは基本、コンピューターの電源を入れると機体全体も起動する。機体が動き出す音がする…ここまでは順調っと…ディスプレイの画面が表示され、何やら英語の横文字がずらずらと並んでる…。
「な、何々?へいぶ…なんだ?」
“Hybrid
Navigation
Connector”
と英語がまったく読めない俺には解らない横文字がこんな風に表示された後…
『こんにちは、この度は本機『ラビッツ・モデル215』のお買い上げありがとうございます』
ディスプレイには、三頭身くらいにディフォルメされた、女の子のキャラクターが表示される。
「み、巫女?」
何故か巫女服のような服装をしている。三頭身だからか、大きな頭が凄く重そうだがその頭で深々と頭を下げる。これってラビッツの制作会社のイメージキャラだっけ…
『私は、お客様をサポートさせていただきます。人工知能OS『Hybrid・Navigation・Connector』…と申し上げます。どうぞ末永くよろしくお願いします』
「ハイブリット・ナビゲーション・コネクター」
『ナビゲート複合型の人工知能の新型と申しましょう…近年のBRのコンピューターには私達と同型の人工知能OSが導入されています。私は、本機購入特典として着いて来ました』
「わりぃ、難しい事は良くわかんねぇんだ…」
とりあえず、このハイブリットなんたらとか言う人工知能が最近のBRの主流と言う事になるんだな。
「まあ、宜しく頼むぜ…こう見えて実戦経験はそんなに無いから」
『解りましたぁ、でしたら私が役に立つと思われます。機体の状態やレーダー官制、果ては自動操縦、支持があれば離れた場所からの遠隔操作も可能ですぅ』
「自動操縦や遠隔操作もか…すげぇなお前」
『えっへん、新型ですのでっ!』
爺さんより頼もしく思えてきたぜ、このゆるキャラ巫女モドキ…
『それでは、簡単に初期設定からやっていきますぅ…ユーザー名をキーボードにて入力してください』
にゅー
操縦席のディスプレイの前から、キーボードがせり出してくる。
「おう、相田亮太っと」
『相田亮太さまで…よろしいですね?』
「お前の呼びやすい言い方でいいぜ、フルネームだと」
『はいっ、それではマスター様と呼ばせていただきますっ』
「…マスター様…様はいいけど、まあいっか…先に進めてくれ」
『はい音声認証…入力完了です。次は操縦桿を握ってください、指紋認証を行います』
「これでいいのか?」
そう言われて操縦桿を握る。
『音声、指紋、外見の三つの認証データ所得、これであなた以外の人間には動かなくなりました』
「便利だな…」
『新型ですので…』
頼もしい以上に、むかつくな…
ともあれ、この『自称新型』に俺のデータがインプットされ、次のステップに行った。
『パスワードは、本体パスコードと兼用でよろしいですか』
「ああ…それで頼むわ」
『了解です、それでは…本機体の名前を入力してください』
「機体名か…レッドブル…レッドレンジャー…アカレンジャイ…」
『き、機体の色で名前を決めるのですか?』
「これ以上目立つ特徴がねぇ…レッドハリケーン…うーん、どれもこれも駄目だな…最後のは特に、二股しそうな名前だ…」
『……赤から離れませんか?』
色々候補を出してみたがどれもぱっとしない…
「お、そいえばお前もそんな長い名前じゃ呼びづらいだろ…簡単に『ハナコ』でいいか?」
『ええ!?そんな簡単に…』
「頭文字から取ってつけた…」
『コネクターのスペルの頭文字は『C』なのに…』
とりあえず、この『自称新型』の呼び名を決めたが、機体名はどうするか…
「…んー、それより機体名は…よし!決めたぞ、『勇者』の乗るBRだから、『ブレイバー』でいいか?」
『それも簡単ですねぇ…』
「お前が色で決めるなって言うからだろ…他よりいいだろ?」
ハナコは何か納得していないようだがしぶしぶ了解して、機体名登録を完了させた。この辺、何か感情ある人間みたいだ。
『ぶ~れ~い~ば~っと…』
画面内でメモを取るハナコ…なんか可愛い…
「人間臭いことするのな、最近の人工知能は…」
『防衛軍の人達は、最前線でのメンタル面を考慮して、BRの人工知能は『話し相手』としても役に立てるようにしているのです』
「へ~…ペットかよ」
『むぅ~、最新型の人工知能をペットとは!?』
「悪い悪い、怒るなって…」
喜怒哀楽もインプットされてるって…人間大のロボットがあればこいつ入れたら面白いだろうな。
『む?むむ!?内通回線が入ってます、トラックの運ちゃんさんからです』
「それ、昔懐かしい黒電話じゃねぇか!」
『ふるきをしりあたらしきを……』
「ああ、いいよ!繋いでくれ…」
黒電話の受話器を取って耳に当てるハナコ、凝ってるCGだな…すると、スピーカーからトラックの運ちゃんの声が聞こえてくる。
『あんちゃん、そろそろ着くぜ。準備しな』
「ほーい、すぐ行く」
通信を切ると同時に、ハナコが黒電話の受話器を戻す。
「それじゃあ、俺は行くな」
『はーい、またのご利用お待ちしております~』
ハナコは大きな頭を深々と下げて、終了画面を映った。そしてBRのシステムをシャットダウンして止まる。
「細かいな動きが、流石最新式」
俺はコックピットから出て、運転室へと戻ることにした。
「あれが目的地か…」
トラックの窓から巨大なタワーマンションが見える、街の中に目立ち過ぎるほどに自己主張する塔。圧倒的な巨大感に身が震えるようだ…
「要塞じゃねぇか…なんかすげぇ依頼受けたもんだ」
「命がいくつあってもたりねぇってか?」
「まあね…」
「まあ、気落とすなって。よっしゃ、この仕事まだ慣れてないならこのBRの行きの運送料は俺がおごるよ」
「ええ、いいのかよ!」
「かまわねぇって、ご隠居には世話になってるしな」
気のいい運ちゃんでよかったよ…報酬から引かれるBRの運送料はこれでただになったわけだが…
実際街を取り戻すので、どれくらい入るんだ?…いきなり億越えか?
「んじゃあ、入り口から入って…受付に行くんだぞ、俺たちゃBRを建物の格納庫へと運ぶからな」
「おお、サンキュー」
「いいって事よ、何せそれが俺達『運び屋』としての仕事なんだからよ」
にかっといい笑顔でグーと親指を立てる運ちゃん。そだな…俺も見習わないとな…俺は助手席から降りて、運ちゃんに手を振ると、トラックは向こうにある格納庫と書かれた場所へと向かった。このタワーの中にもBR格納庫があるのか…
にしても、不気味なくらいにでかいぜ…
正面玄関の自動ドアから俺はビル(要塞)の中へと入った。
「…すいません~、えーっと…」
「はい」
受付の可愛いお姉さんに声をかけるが、なんて言ったらいいか…
「あーえと…」
「??」
やばい、妖しい奴を見る目になってきたぞ。
「もしかして、護衛依頼で来られた方ですか?」
「…え?何で?」
「はい、BR運送会社の方からご連絡が届きましたので…」
運ちゃん、本当いい人だぜ!名前無いけど…でもこれで話が通じた。
「しばらくお待ちくださいませ」
「おう…」
受付の人は内線電話を使って、どこかに連絡をする。これで潜入はできたってわけか…
「はい、解りました。最上階の手前の廊下を後ろから2番目の部屋が待合室でのことです」
「うい、了解したぜ」
最上階は34階…って、そんなに高いのかここ。
「そこのエレベーターをご利用ください」
受付の人に言われて俺は、上へいく為のエレベーターに乗った。
「………3人目…」
…
……
「…何々、20階は展望室…か…おお、ジムやプールつきかよ!」
上に上がっていくエレベーターの中で広告を見ながら暇を潰す。間取りはこんなもんか…しかし、何か不気味だな…マンションだってのに人っ子一人見ない。
「ここか…」
エレベーターが34階で到着する…
「たっけぇ!」
展望室があるって書いてあったが、最上階の窓から見下ろす…地上があんなに遠い。だめだ、前回の悪霊にしがみ付いて空中浮遊した時といい、高いところが駄目になりそうだ。
「……はぁ」
兎に角、待合室は…この廊下を行って…ん?
すーっと通路を誰かが通ったような気がした、見えたまではいいがありゃ完全に気配を消して足音を立てずに歩けるなんて…
誰だ?あいつは…と、その前に…
「お、おい!」
俺はその後姿を追いかけて声をかける。
「…ん?」
俺の呼びかけに、そいつはくるりと首をこちらに向けた。一瞬ドキッとしてしまった、女の子か?頭が俺の肩の所までしかない程背が低くて…ショートカットのどこかぽやんとした感じのする…
と思ったら…
「僕に何か用かな?」
にこっと笑ってそう言った…。顔や声こそ女だが…
「僕…ってことは、男か?」
「何だと思ったのさ?」
むすっとして、そいつは頬を膨らませる。良く見たら服装的に男に見える。でも声変わりもしてないっぽい、少し高めの声だから、全然わかんなかった。
「すまねぇ、いや待合室を探してたら、お前を見つけてさ、それでどこか聞こうかと」
「ふーん、奇遇だね。僕もそこに行こうと思ってたんだ、ついてきて。あ~あと…ボーイッシュな女の子でもなくて、男だからね」
「……念を押されてもな」
「これくらい言わないと初めての人は大抵信じないからね…」
そいつは俺の前をさっきとは違い足音を立てて歩いた。何か変な奴だな…
「お前、雇われた用心棒の一人か?」
「人が通りそうな所で、あまりそう言う事は口にしないもんだよ……でも、ここに来たなら君もそうなんだね~、早くしないと遅刻だよ」
「ちゅ、注意するよ…」
見た目はこれだが、こいつはかなりベテランな気がする。俺と同じように『勇者』をしてて長いのか?見た目で判断しちゃいけないって言う言葉を体言してるようだ…
「まあ、最後に来るのがルーキーさんって聞いてるしね、そんな気にしないでいいよ」
「お、おう…」
なんにしても、悪い奴じゃ無さそうだ…こんな奴まで、吸血鬼の護衛をするのか…いや、依頼人が吸血鬼なんて、知らないから仕方ない…うん。
「ここが待合室だよ、あ…中に居る『御堂』って奴、口がかなり…かなーり悪いけどあんまし気にしない方がいいよ、悪い奴じゃないんだけど、相手してたらきり無いからね」
「へぇ…」
そいつが、俺を入れた3人のうちの1人って奴か…言われると何か不安になってきた。
まあ、クレーム処理のバイトもしてたし、口の悪い奴とかの対応は……
「堅物でプライドがお高い…いや、それは褒め言葉だね…口を開けば毒が出る…人の皮を被った…あく」
「聞こえているぞ…サクラセツナ」
待合室の扉を向こうから開けた誰かが…この少年「サクラセツナ」と言って、中から男がじとーっと睨みつけている。
「あ、聞こえてた?」
少し殺気だって睨み付けられてるにも関わらず、こいつは飄々とした表情で答えてる。
「……まったく、トイレかと思ってやけに遅いから、どこかでのたれ死んでいるかと思うたぞ…」
確かに、口悪ぃな…だが、何だろう、一寸だけ同情しちまう。
「帰りにこの人を案内していたのさ」
「ん?ああ…?む?ほお…気付かなかった」
サクラの周囲を見渡してるが、俺の方にはわざと視線を合わせようとしない。まるで俺の存在なんて完全無視してるかのように…
「……」
「ほぉ~そこに居るやつがそうか?」
そして、目が合った瞬間あからさまに嫌な顔をする。
「ち、ちぃ~っす」
「……見た感じじゃ、それほど力を感じないな…それに大方、道に迷ったのを連れて来た所か?」
じとっと見据えてから、何も遠慮もせず俺を蔑んだような目の前の男。
「………んだと」
こういう嫌な奴は何処にでも居る、色んなバイトをしてきて見下した態度を取るような上司とか先輩も何度も見てきている。こいつもそんな類だ…一発入れておくか……
「うん、そこで道に迷ってたのを僕が連れて来てやったんだ」
「って一寸はフォロー入れてくれてもいいだろ!」
俺を案内してくれたサクラって奴は、にっこりと屈託の無い無邪気な笑みを浮かべて言った。
「ん?ほんとのことじゃん、文句言えないよ」
「ぐぐぐ…」
確かに、俺はこの仕事を始めて間もないし、迷っていた事も本当だ…確かに文句言えた立場じゃない。
「ね?」
「……」
こんなににっこりと笑って言われたら、毒気が抜かれちまう。
「そだ、まだ自己紹介まだだったね…僕は佐倉雪菜…同じ仕事を受ける者同士、仲良くなろうよ」
「見ての通り、顔も名前も女っぽいが、正真正銘の男だ」
「む…で、ここにいる奴が毒しか吐かない、似非陰陽師だよ」
「え、えせ!?…このガキ…み、御堂耕哉だ…正真正銘の陰陽師だ、せいぜい足を引っ張ってくれるなよ…」
ぴくぴくと、額に青筋を立てて御堂と言う男は俺と佐倉を待合室に招きいれた。何だろう、佐倉がいなきゃ…殴り合いになりそうな雰囲気だったが、こうして二人して毒気を抜かれてる感じになってしまってる。
それで、待合室で俺と佐倉と…御堂が待っていると、スーツ姿のおっさんが秘書っぽいの女の人と一緒に入ってきて、ソファーで寛いでいる俺達の向かい側の椅子に座った。
「いやいや、お待たせ致しました。本日はお忙しい中、お三方には遠い所からお越しくださって…まことにありがとうございます。我がプログデック社の社長の護衛係を勤めさせていただきます、あなた方には深く感謝いたします」
深々とお辞儀をするスーツ姿の男と秘書…成る程、ここの社長護衛が俺達の仕事って建前か…で、それが俺が狙うべき『吸血鬼』って事だな。
「はーい、プログデック社って余り聞かない会社だけど」
手を上げて先生に質問するように佐倉が俺の疑問をぶつけると…
「ええ、市庁にもなってるこのタワーマンションを設計し建設した会社です。まだ全国展開してはしていないのですが…」
「へぇ~…こんな立派なタワーたてるんだし、僕らみたいなの雇えるんだから相当…儲かってるんだね」
にやっと嫌な笑みを浮かべる佐倉に、何か後ろめたい物を隠してるような困惑した表情を見せるスーツ姿のおっさん…なんだ、確信を突かれたような…
「ってことは、僕らへの報酬も相当いいんだよねぇ~」
と思ったら、親指と人差し指で小銭の形にして聞いてくる佐倉。
「は、はぁ!勿論であります!」
「……」
佐倉って案外がめつい奴かな……ただ、報酬に関しては俺も聞いておきたいし。
「このような『勇者』の皆様が我々の警護に当たってくれると思うと、心強い。歴史に名高い陰陽師、安部晴明の子孫…御堂耕也。絶対零度の氷を操る、氷の魔術師…佐倉雪菜…そして、ルーキーでありながら実力の高いとされる勇者…相田亮太どの…」
と言って褒めちぎるスーツ姿のおっさん…。
「…御高説はいい、警護と言ったか?我らは何から何を警護すればよいのだ?」
「あなた方に警護していただくのは、我が社の社長であり、あなた方を雇った張本人です。敵は…具体的に何者かはまだ不明ですが、社長の命を狙う者が居るらしいのです」
「社長の命?それって、普通警察の仕事じゃないかな?」
「いまだ発展途上のこの会社を乗っ取ろうとする輩がいるやもしれない…社長は警察は信用できませんとの事で…あなた方を雇った次第です」
「警察不信といったやつか?」
「いや…これだけ目立つタワーマンションを建てて、地下にはBR格納庫まである…確かに、会社として怪しい所満載なこの会社が、裏で何かしらの事をしていると仮定して、社長の命を狙う人間が出ないとも限らない…警察を信用しない理由もそれだろう…」
「そこまでの詮索はなるべくしないで貰いたいのですが…」
御堂にも痛い所を突かれたのか、苦い表情を浮かべるスーツ姿のおっさん…
「ふっ…まあ、理由も…この会社の敵もなんであれ…報酬で『雇われ』である我らは、期待以上の仕事をするまでだ……」
「それもそーだね、僕ら『勇者』は余計な詮索はしない傭兵だしねぇ」
「……あ、ああ…」
と、この会社の怪しさやスーツのおっさんの言う事に怪しさ全開なんだが、依頼は『悪者から社長を守れ』って事だよな。でも、俺はこの会社がいう『敵』って奴から街を奪還を依頼されてこうして潜入しているわけだ。このおっさんも一皮剥けば吸血鬼だって可能性がある。
で、こいつ等…佐倉に御堂も俺からしてみれば敵になっちまうわけだ。俺の素性や目的がばれたら即排除ってなりかねない。
「社長自身が我らの前に来ないのも、そういった理由からか?」
「ええ、私達の社長は命を狙われている事を恐怖しておられますので…例え信用できるあなた方であろうとも……」
「…それって」
「相田君どしたの?」
「いや…なんでも…俺らを信用できないって事かよ」
「いんや、思ってみりゃ当然だよ。敵も僕らのような雇われ『勇者』を雇って…僕らのメンバーに上手く加えて潜入させるパターンも考えられる」
「それじゃあ、お互い信用できないじゃねぇか」
「…そだねぇ~」
なんだか急に佐倉の表情が冷やかになった。あ、俺…今変な事言ったか?じとーっと怪しいものを見る目で俺を見てくる佐倉…。やべ、ばれた?!
「……んなわけないよね」
「は?」
「相田君まだ『ルーキー』だし、そんな危険に態々首を突っ込む程度胸座っちゃ居ないだろうしねぇ~」
にまっと笑う佐倉…なんか疑いが晴れたようで安心していいのか悪いのか…
「…うおっほん、確かに直接我らとの面会で命を取られたのであれば洒落にならん」
「ええ、社長が排他的になるのは仕方ありません…ですがご容赦ください」
そう言っておっさんと秘書がまた深々と頭を下げる。
「あなた方には社長の警護として、24時間体制で建物内での護衛活動をやっていただきます。その間はこのタワーの各施設を無料で使用していただいて構いませんので」
「ま、マジでか!?」
「ええ、この社員IDを使用していただければ、無料で提供できます。ですが、社長室のある階への行き来はしないようにしてください」
「ほう……計らいに感謝しよう。警護の任務は了解した」
「これで色々できんだ、んじゃ僕は一階のレストランにいこっかな?」
御堂と佐倉もそれぞれIDカードを手に取り、俺もそれを手にする。
「って、もう使う気かよ…ここで俺らで警護するんじゃねぇのか?」
「別に私一人でも構わんぞ…お前らがいても足を引っ張るだろうからな」
「あんだと…!?」
「まあまあ…ああ言ってるし。僕らは楽させてもらおうよ~」
「……って、いいのかそれで!?」
何か佐倉に言いくるめられたような感じだけど、今日の所は解散となった。
「ずず~」
で、俺はと言うと1Fまで降りてカフェで早速IDを使い無料のコーヒーを飲んでいる所だ。さっきから人が行きかってるこの会社の社員だろう、同じようなIDカードを引っさげてるのがわかる。爺さんの話じゃ、街が一つ支配されてるって聞いてる訳だが…見た目は本当人間とかわらねぇな。
だとしても、太陽の光が入らないようにブラインドを下ろしてる点とかは怪しいと思うな。
「……あまり詮索するなって言われたけど」
佐倉達の目が離れた今こそ、俺の本命の仕事をするチャンスだ。でなけりゃこんな所に潜入しないからな。
「こっちが俺の本当の仕事ってね…」
「何が?」
「うぇえ!!?」
「もきゅもきゅ…どしたん?」
突然隣の席に佐倉がサンドイッチを食ってるから素で驚いてしまった。
「…本当のお仕事?」
「あ、ああ…やっぱ俺も真面目に仕事しねぇとなって…」
「うん…別に真面目でなくても、仕事量が多かろうと…そうでなかろうと僕らへの報酬は変わらないと思うよ」
「そういうもんなのか?」
「御堂はあれでも本当に、安部清明の子孫だし…実力もあるから大きな口できるんだ…別に本当に僕らが楽しててもいいわけだよ」
「お前も、『氷の魔術師』だっけか?長いのかよ、この仕事…」
「少なくとも君よりはね……3年ぐらい前からやってるよ…」
ってことは、少なくとも中学生ぐらいから魔術師やってるわけだな。
「ほいっ」
「…っ冷てぇ…さっきまでホットコーヒーがアイスになってやがる」
「これが、魔術って奴さ…コーヒーシャーベットもできるよ…」
得意げにニヤニヤと笑みを浮かべる佐倉…確かに俺より実力も経験も上ってわけか。
「魔術師もほんとにいるんだよ~、あまり一般社会に浸透してないだけで…御堂の陰陽術も似たようなもんだし、相田君もその剣だけじゃないよね」
「あ…ああ…まあな」
とは言う物の…最初の戦いじゃ『朱雀』をやけっぱちで使っただけで、後の札はまだ使った事無いんだよな。来る前に爺さんから貰った新しい札もあるし…
「いつか見せてやるよ、俺の実力」
「楽しみにしてるよ。あ、楽しみついでに…地下の格納庫見に行かない?」
「はぁ?何で」
「僕のBRも、みせたげるから~」
子供が玩具をねだるように佐倉は俺の手を引っぱる。な、なんだこいつの腕力、ずるずると抵抗無く引っ張られる。
「うが、何通力だ!」
「鍛え方が違うんだよ、早く来てよー」
鍛え方が違うってレベルじゃねぇだろ、この馬鹿力!
「へぇ~すごいね、軍基地レベルの格納庫だよ」
「ぜぇ…はぁ…本当だな…」
強引に佐倉に連れられて、地下のBR格納庫に行く…爺さんの事務所の格納庫より広めに設定されている。今は俺のを入れて3機が格納されている。
「おら、メットかぶれ…あぶねぇな」
「わわ、ありがとっ」
二人して安全第一のヘルメットをかぶって(佐倉にはかぶせてやって)、格納庫のエレベーターを使って下まで降りる。
「俺のは…あれだ!あったあった」
「あの赤いの?」
異なる二脚型BRの真ん中に赤く塗られて目立ちやすい俺のBRがズーンと立っていた。
「へぇ、なかなかいいの買ったねぇ~」
「そんな費用があれば、事務所の外装をなんとかしろっての…地下ばっかに金掛けやがって…」
「苦しいと見たね、相田君とこの事務所は…」
苦笑いを浮かべる、俺と佐倉…そして俺の横のBRに目をやった、ずんぐりむっくりの体と重火器を装備、背中には2本の異なるキャノン砲を搭載した、青い重量級二脚BRがズーンと置かれていた。
「あれ軍用の『イクシード』じゃねぇか…」
イクシード…世界防衛機構の主戦力にもなってる奴で、見ての通りずんぐりとした重装甲と各部に武装スロットがあり、今見てる青い奴のように重武装が可能なBRだ。
「そだよ、僕の『アイスコマンド』さ」
「おまえのか?」
「うんそうだよ~、片手持用ギガバズーカに、30mガトリングマシンガンを両手に持って、3連続S型ミサイルランチャー腰に、M型多弾頭ミサイルランチャーを肩に装備、背面にグレネードキャノンとオートチェーンガンの2砲門を装備。一応、格闘白兵戦用にレーザーサーベルもあるけどね」
「なんちゅう重武装だ、機動力が失われないか?そんな重武装で…」
「うん、そこの所は腕前でしかカバーしきれないね。固定砲台にはもってこいだけどね…」
にしても、あんな武装が一気に吐きかけられたらここら一体は灰燼に帰するに間違いない。それにしても…
「よくもまあ、揃えたよな…こんな重装備…」
軍用装備は取り寄せるだけでかなり金が掛かるらしい…
「最近の魔術師も陰陽師も近代化の波がきてるのさ…ほら」
「ん?あれか…」
俺のBRを佐倉の奴と挟むように並んでる、二脚方のBRがある…何だか、俺達のBRとは違い何だか趣味の入ったようなBRだな。背中には大きな丸いシールドのようなのを背負ってる。
「レーザーコーティングした、メガシールド。すっごいお金掛かったんだって…」
「…これ、御堂のか?」
「うん、いい趣味してるよねぇ」
「それって褒めてるのか?」
「ぜんぜーん」
御堂の奴も佐倉のBRを見たら絶対に言われたくないだろうな……
「相田君のはしんぷるいずざべすと?」
「は?」
「まだ装備も何もないじゃん」
そうだ、この中じゃブレイバーが一番シンプルに見える。佐倉が重装備すぎるから余計そう見える。
「……き、聞いちゃいけなかった?」
「いいや、お前の装備ちょっと貸してもらえねぇか?」
「いいけど、この装備のレンタルもタダじゃないんだよ…レンタルにも武器の提供先に僕からアポを取って、書類とか色々書いて審査が必要だし…直に持ってくるより面倒だよ」
「……聞いた俺が馬鹿だった」
「でも、ラビッツ系は軍用イクシードと同じ武装を換装できるって言うから、軍の規則が厳しいんだよ」
「……なるほどなぁ、でも近いうちに届く事を祈るよ」
持つべき物は友達って言うが、爺さんがいずれブレイバーの装備を持ってくるって事を今の所は待つ事にしよう。
先が思いやられる…ばかりだけどな……こんなんで大丈夫なのか?
って…俺、潜入してるんだったよな!ここでのんびりしてる場合でも無いんじゃないか!?
……
…
……ごぽ…ごぽ…
『ふぅ…ふぅ……』
「ご安心ください…護衛に3人の『勇者』を着けました。勘の鋭い連中で…だ、大丈夫です、金に物を言わせれば奴等も使える……例え、『ギルティ隊』と言えど…あの傷では満足に戦えませんでしょう…」
…ごぽ…ごぽごぽ…
『はぁぁぁ…血を…にんげんの…血を…』
「お待ちください……今晩は格別な逸品を取り揃えております」
…ごぽごぽごぽっ!……
続く
今回の話から登場するBRはどっちかと言えばアーマー○コアをモチーフにしてます。BR戦…ロボット戦シーンや人同士の白兵戦シーンはまったく別物ですが上手く使い分けが出来ればいい名と思ってます。
では次回をお楽しみにしてください!