第1話『勇者誕生』
こんばんは、始めましての人は始めまして・・・
今回から本編突入です、こっから週一で更新できたらいいかな~とか考えてます。
無駄に長いくせに展開が速かったりと、色々荒いかと思いますが生あったかーい目で見てください。否、読んでください。それでは!
……
妙な夢を見るのは…慣れてる……
慣れてるってのは変な感じだが、俺はそうだ。…寝ているのに寝ていない、リアルな感覚がする夢だ。そんな夢を見たことある奴は大抵居るんじゃないだろうか?
白昼夢だとか……
偉い学者さんが言っていたが、夢ってのは自分が覚えている記憶のフラッシュバックとか言う…まあ、その言葉…俺は信じてもいい。
実際…俺がガキの頃、そんな出来事ばかりあったからだ。
俺が住んでいた、東京の街が燃えている。街をぶち壊す巨大な化け物…あの頃は、世界中に『ああいうの』がいたが、特にあれは別格だった。まるで、『怒り』って単語がでっかい手足を持って、目の前にある物を破壊しながら歩いているような…奴は全てを破壊して、焼き尽くして…街は一晩で跡形も無くなっていた。
あれが通った所、そしてその跡を…俺の目は頭は覚えている…あの『怒り』を…覚えてる。
その焼け野原となった街の跡に俺は立っていて、手にはおかしな剣を持っている…この夢は子供の記憶のフラッシュバックかと思ったら、ちょっと違う…夢ってのは、記憶に色んな脚色がされて今の『夢』になってる。正夢とか、予知夢とかその手のオカルトっぽい話だとそう言うのかな…だってそうだろう、実際この夢はガキじゃなくて今の俺なんだから…
……東京の街をこうした奴、あの巨大な『怒り』を前に、立ち尽くしていた頃と、この夢の俺は違う。
あの頃…誓った小さな思い、俺は『いつか、あの怒りを超える』と……それくらい、強くなると…
俺は、手に持った剣を振り上げ走り出した。
真正面から、あの『怒り』をぶっ倒す為に…
…
……
………
ドサッ
「あいでっ!」
こ、ここは? 視界がはっきりとし始めた…でも、見えにくい。メガネ…って、メガネのある枕元が遠い。それに…なんか、視界が反転してるような。その上、首が妙に痛い…
ここは自分のマンションのベッドで、今俺はベッドから転落しているんだ…とりあえず、起き上がって寝違えた首を治す。
コキャ!
「いでぇ…」
窓の外から覗く東京の街……あー、いつものごちゃっとした東京の街だ…火の海でもなければ『あいつ』もいねぇ、平和そのものだ。
本当、最近の夢見が悪いと思う今日この頃だ…そのせいで寝相が悪く、しょっちゅうベッドから転落する。運が悪いと言うか…でも、それがただの夢で片付けられなくなって、まあ、人生何が起こるか、わかんねぇって事だ。
ただの夢で終わってくれりゃ…本当に良かった。…今日、この日までは…
…
……
………
勇者あいだ
第1話『勇者誕生』
まずは自己紹介だな……おっす!オラ…っていうのも何か取って付けたようだな…俺の名は相田亮太、17歳のフリーで彼女は居ない…自分で言ってて空しくなるから聞かなかった事にしてくれ。去年、ちょっとしたことで高校中退して、都内に出てきたのはいいが、一人暮らしでバイトを点々とするフリーターだ。
高校時代、俺は竹刀一つで番長グループを全滅させた事がある程の不良だった。んで成績も悪く、サボり魔と、そんな訳で高校を中退して家を出て今この状態って訳だ…だろ、ちょっとした事で今この様だ…
今、前のバイトを辞めて次の仕事をさがしているところだ。結構このバイト生活が楽しくて、都内で色んな資格を取れるし中々生活に困らない。
ちなみに前の仕事は、都内を中心とした自転車の速達便だ。他色々やったが、保育園の保父さんのバイトが意外に高評価だった。それ程子供好きって訳じゃないけど、やってて楽しかったし、ガキ共と混じって昼寝してたら怒られたが…結構収入も良かったし、長続きしていた。だけど、「これで良いのか!?俺!」って感覚が頭を過ぎった。天職かと思ったが、そんな理由で保父さんのバイトをやめた。
で…また色々バイトをやってきてはやめを繰り返し、現在新たな職を探してはいるが、これと言った仕事が見つからずに、今求人広告片手にぶらついてるわけだが……
「…全然、仕事ねぇじゃん」
ここ最近は、コンビニのバイト求人すら雇ってくれない。世知辛い世の中だ…ああ、保育園の園長先生が「困ったらまた来て下さいね」って言ってたし…またお世話になるかな…
「ん?」
ぶらぶら仕事を探しながら歩いているうちに何故か足が止まった。
「あ?…なんだ?ここ」
下町にある商店街の店と店の間…路地裏に通じてる。入らない方が身の為だと思いつつもそこに入っていった。
下町商店街の路地裏に木で囲まれた、化け屋敷みたいな家があった。看板は少し腐りかけていた為か、崩れ落ちそうになっているし…気味が悪いさっさと退散した方が身のためだ。と思ったものの、俺の好奇心がその考えを打ち消し…、俺はその建物に引き寄せられるように近づいて行った。
「なっなんだ、『木野…解決…事務所』?」
腐りかけの看板の文字を何とか解読する。所々かすれて読めない部分もあるが、名前からして、いきなり怪しい……ネーミングセンスも悪い…なんかのオタクの集会か、宗教団体か?!あ、事務所って書いてある以上、なにかの事務所か。それだったら俺なんて、門前払いだろう…いいや、それでなくとも命の危険って奴を感じる。
でも、こんな「ここは化け屋敷だー!」って言ってるような場所はとっとと…
「は、入ってみるか」
で…そこで好奇心が出てしまうのが俺の悲しいさだ…
「……おじゃまー…」
ギーッと、古びたドアを開けて中に恐る恐る入ってみるとやけに暗い、明かりって言う明かりは…今時珍しい裸電球。不気味さに更に拍車をかけて不気味だが…更に俺が驚いたのがその明かりに照らされていたのが、受付の所に頭がつるつるの坊主頭の爺さん…だろうが…この暗い雰囲気で妖怪じじいかと思った。
その爺さんは首を俺のほうに向けて…俺を見るなり…
「お若いの、仕事の依頼かの?それともを働き口をお探しで?」
…なんだか気持ちの悪い爺さんだな……ん?働き口って言ったか、この爺さん…
「あの~、俺…いいえ…わ、わたくし……仕事探しているんですが…」
ばか、俺のバカ!働き口って言葉に、何こんな怪しい所に反応し召してんだよ!みるからに、怪しいだろ…
「ふむ、働き口を探しておるのかの?…この事務所は、履歴書なんてそんなかたっくるしいことはせん、わしの質問に答えてくれるだけで結構じゃ」
「は、いいんすか?」
随分簡単…ってことは、やっぱ怪しい宗教団体か何かだ!?
でも、俺ってぶっちゃければ、履歴書とか書くのが苦手で、結構下手になっちまう時があるし…簡単な面接をしてくれるなら…って思ってしまう。
「わしは少々腰をやっておってのぉ…では質問じゃ、お主は…20世紀以前に流行った、心霊現象、妖怪、未確認飛行物体、未確認生物、超能力、オーパーツ、その他いろいろ超常現象を信じているかね」
「へっ?まあ一応……」
俺はお化けとか幽霊とかそういう関係の話は結構好きだし、20世紀の時に流行っていたって言う、『超常現象』って言うカテゴリー、オカルトっての?結構面白くてはまった…
今は、そんなの余り話さない時代になった…ガキの頃…オカルト話とかひっくるめて、もっと『すげぇもん』が、世界中を闊歩いていた時代に生まれてきた俺だから、もう多少の事じゃ驚かなくなってる。
それは、勿論俺だけじゃなく、世界全体でも同じだと思うからこそ、超常現象のカテゴリーは廃れつつあった。
……まてまて、俺は何真面目に答えて、真面目に考えてんだ!オカルト的な事聞かれてるって事は、ますます怪しいじゃねぇか。逃げるなら今のうちだぞ…
「簡単な乗り物の資格は取っておるかの?」
オカルトの話から一転して、何かまともな質問が来た…
「ん?あ、ああ…一応、バイクの免許と…バイトやるにあたって、義務でBR検定とかとって」
ここで説明しておく…
BR…『Battle Robot』の略、この世界じゃ、もう当たり前になっている人型ロボットの事だ。ああ、アニメにあるような奴と同じように人型二足歩行で歩くロボット兵器であり、今の世界の防衛軍『世界防衛機構』の主力兵器として世界中に浸透している。
でも、一般企業が車を買う値段でBRが提供された為か、近年、防衛法が定めた防衛義務で、一定の職種に就く者は、義務として『BR検定』を受けなきゃならない。まあ、今は普通の乗り物を操れりゃBRなんて簡単に動かせる世の中だから、そういう検定があっても仕方ない。
だが、その防衛基準法があるお陰で今まで、間違いと言う間違いが起きてない……まあ、重機を動かす為に必要な物だって事だ…バイトやる為に必要だった。よほどやばい仕事をしてる奴以外はな…
俺にとっちゃ、BRも高嶺の花みたいなもんだが……
「うむ、BRか…丁度いい…もひとつ質問じゃ、お主は何か武道を心得ておるかのぉ?」
「剣道を一応…一応って言っても、我流だけど」
「我流?ふーむ、実力は?」
「道場にはいってないし、部活には入ってなかったし…まあ、人並み…学校行ってたときは、2つの番長グループ全滅させた経験がある」
「剣道でか?」
「長い話になるけど…他校のグループ同士の抗争に、丁度真ん中にあった俺の学校が巻き込まれたんだけど」
別々の二つの学校の番長グループ同士の抗争が、俺が通っていた学校まで飛び火してきて、関係ない俺らの学校の奴にも被害が出る始末で…先生達じゃどうにも収拾がつかなくなり、いよいよ警察が出るとかって話まで出るが、当時は警察が当てになるか解らない時だったから…剣道部の竹刀を借りて、何とか俺の学校の連中を守ってやってる内に、全滅させちまった。
当然俺は後でようやく来た警察に、番長グループ諸共御用…学校側が何とか庇って、前科にはならなかったが、停学処分。実際、それで俺が中退した大きな要因になっちまったが…
「おお~ならぴったりじゃ!」
その何がぴったりなのか…いよいよ、やばい感じがしてきたぜ。
「そして最期の質問じゃ、お主は霊感の類とか持ち合わせておるか?」
やばい、こんな質問がでたってことは…俺が考える『やばい仕事』だ…適当な答えを出して、帰ろう。
「…うーん、あんまり気にした事は無いけど……見えないもんは見えない」
「…うむ!…霊感の有無はさておき、合格じゃ!君をこの事務所に採用する!」
あ~…適当に言ったのに採用されちゃったよ。さておきって、質問の意味はないじゃん!…仕事見つかったにも拘らず…この敗北感は一体…爺さんは爺さんでなんか勝手に話を進めてるし…
「ああ、やっと条件の合う人間がやって来てくれて安心したぞい…わしだけではどうにもならんからのぅ、さっきも言ったように腰痛じゃからのぉ」
俺の経歴も、そんなに聞かないで速採用なんて…しかもオカルト的なことまで聞いて…一体何のつもりだろう…まあ、変な事吹き込まれる前に穏便に、その弱点の腰に一発で済まして…
ひょい
「さて早速じゃが…」
「はい?」
そーっと、腰に手刀を食らわそうと思ったが、爺さんは老人らしからぬ、身のこなしで避ける。って腰いってんじゃないのか、この爺さん…
「ん?どうしたのじゃ?」
「ああ…すんません」
腰をやってて、この身のこなし…やっぱり、只者じゃないってか…ああ、これで俺も怪しい団体の仲間入りって訳か…。
「早速じゃが、わしの変わりに頼んではくれないかね。仕事の依頼を…」
「いっ、いきなりですか?で、何をするんすかこの仕事」
「扉に書いてなかったかのう?この仕事はのう、心霊現象だとか妖怪だとか…巷を震撼している超常現象の専門の調査事務所でな、依頼された非科学的な現象、つまり幽霊や妖怪騒ぎを……解決して報酬を貰う、言って見るなら…退治屋かのう。それが『木野何でも相談解決事務所』じゃ」
「書いてねぇし…ってか看板って、これの事?」
事務所の前に落ちていた古びた板を手渡す…なんかの文字っぽいのが書かれているが、とてもじゃないが、その内容が書いてあるように見えない。
「ああ、古びてしまってるのぉ、新しくする必要があるわい」
「あー、いよいよ騙された感がでてきたぞ」
しかも相手が、無自覚だってのが一番痛い。
「騙してるつもりはないぞ、それにお主の能力の評価はこの仕事向きじゃと思うんだが…霊感は育てれば何とかなるが、剣を得意とするだけで十分じゃ…それに、お主は余り目上の者へ媚びるというのは生に合わんじゃろ?…」
「……あー、ああ…」
確かに、そんなんであまり…上司とのそりが合わなかった時がある。今の会話で、この爺さんは見極めたってのか…
「わしもじゃ、若い頃は兄弟達の中じゃ一番の不良じゃった…お主にも同じ物を感じる」
「……」
この歳になって、妖怪爺さんと同類にされるとは…類は友を呼ぶとか…そう言う物か?いや、そんな類にされたくはない…
「ともかく、お主はわしと通ずる物が多い。それ程の事を教えんでも、仕事をやってる内に覚えるじゃろ…」
なんか、勝手に話を進めているけど…そんな仕事聞いた事ねぇし…
「むっ、無理言うなよ爺さん、良くわかんねぇ仕事を押し付けて…俺にそんなことできるわけないだろ!」
「その威勢さえあれば良い、それにお主は目下の『欲』もあると見る。今回の、依頼の報酬は100万円じゃぞ」
「ひゃ、100万かよ…」
それ程の大金を見た事が無い俺は喉から手が出そうなくらいだ…。…これは、やらなきゃ大損じゃないのか。
「金に対する欲望は人それぞれじゃ…悪に走る者もいるが、お主は善のまま欲する…それならば、この仕事に最適じゃ…」
「…煽てるんじゃねえよ、俺みたいな奴ならだれでも100万に飛びつく…」
「それも、わしは望む所じゃ……」
にっと、笑みを浮かべる爺さんは嘘も騙してる気もしないように見えた。俺は正直乗る気じゃないけど…爺さんの言う事は、一理も万理もありそうだ。
「解った…で、仕事って?」
「話が早くて助かる、あるラジオ番組の噂を耳にするじゃろう?」
「いんや?なんだそれ…」
「新聞とか読まんのか…まあ良い、ラジオ局Tのラジオ番組にスタッフ、出演者とも全く別の笑い声が入っていたという噂話じゃ。しかも一つのラジオ番組、特定の時間に聞こえると言うのじゃ…以前に録音したデータがあるが聞くか?」
「お…おう…」
爺さんは棚から取り出したミニウォークマン(何て現代的な爺さんだ)を貸してくれて、俺に聞かせてくれた。
「おお、この番組俺も良く聞く番組だぜ!…」
このラジオ番組は確か、国民アイドルグループの一人がMCやってるんだ。
「番組を知っておって、この噂を知らんとは…少し飛ばすぞい」
爺さんは呆れながらそう言った。
「問題の部分はここじゃ…よく聞いておれ…」
ラジオの音に敏感に耳を澄ませていると…確かにそこには『イヒヒ』と言う笑い声や、不気味な叫びのような声が微かに混じって聞こえてきた。
ん…こういうの、最近じゃ誰でも作れるような気もするが…
「他にも、誰も居ないスタジオに時々妙な人影が飛んでいるとか、備品が勝手に動いたりとの騒霊現象が報告されておる」
なんか良く解らないけど、人の仕業じゃないって事は確かなようだ。ぽるたーがいすと…って何だろう。
「なあ、ぽる…」
「たぶん、悪霊の仕業じゃろうと、わしは踏んでいる。それも強い悪霊じゃ…」
一人で勝手に話を進めてる…
「この手の奴は、『心霊ストーカー』じゃな」
「心霊ストーカー…」
「うむ…悪霊にもな、特定のレベルを超えるととても厄介な存在になる。それこそ人間の魂、霊体じゃからのぉ…この世に深い怨念とか未練とか、負の感情等を残して死んだ者や、過去の殺人犯等の悪霊なんかは……」
そのまま30分位、俺は爺さんの抗議をあらかた聞いた、とてもじゃないが訳の分からない単語がずらり並ぶ。これは授業中に眠くなるタイプだ…
「ま、待て…待ってくれ爺さん。報酬が100万だって事はわかった。悪霊がどれだけの強敵なのかも十分わかった。けど、その悪霊ストーカーってのを倒すって、どうすりゃいいんだよ……まさかお経を唱えろとか、何て言うんじゃないだろうな」
「案ずるな、わし等はそこいらの、寺の住職とは違うぞい!そして、このわしも坊さんとかイタコでもない。むしろ、あやつらよりはアウトローな存在じゃ」
「アウトローって…それはもっとやばい奴って事じゃねぇか…」
「そう言うでない、むしろお主にはそっちがやりやすいじゃろ?」
と言って、じいさんは奥の戸棚にあった長い棒のような物とベルトにくくり付ける小さなホルダーを手渡した…ホルダーを開けると、キョンシーとかの頭にくっついているお札のような紙がぎっしり入ってる。
札は赤・青・茶・白の四種類の模様があり、表面には手書きのような訳のわからない呪文のような物が書かれていた。
「…で、こっちは…」
棒と思ったら、鞘に入った一振りの片刃の剣が入っている。
「し、真剣じゃねぇか!?…重てぇ…」
「うむ、この剣は『クロスソード』と言う剣でわしの傑作じゃ。自身の霊力に反応し、刃に伝える有難いご神木の柄とヒヒイロカネと呼ばれる、金属とわしの霊気で練りこんだ合金で作り上げた、霊や悪霊を斬る剣じゃ」
「…あー…」
爺さんに手渡された剣を抜いてまじまじと見る。確かに手から力が漲って、剣に伝わってるような気がする。持ってたら持ってるだけ、軽く手に馴染んでるようで…
まさか、本当に天職……なのか?妖怪とか悪霊とかを倒す、相当やばい仕事が…
「こんなんで悪霊を斬る事ができるんだな」
ブンブンッ…
振ってみる、回してみる…自分の体に馴染んでる、手足の一部になったように動かせる。
「そしてこの札じゃが……」
シャッ…カチャ
ひとしきり、振り回した後そして腰の鞘に、刃を収納する。すっと入る、出し入れもしやすい。
「お~…」
刃の切れ味もありそうだが、刃の無い峰の部分も使えそうだ…
「聞いておるか?…この札を使う時は、裏面の…」
「よっし、俺に任せておけっ!悪霊だろうが何だろうが、何でもぶった斬ってやる!」
「うお!いきなりやる気になったのぉ」
「あ……」
そして、結局俺は担架を切ってしまって、このなんたら事務所に就職は決定してしまったのだった。
その後、俺は爺さんに言われたラジオ局へと向かうことにした。爺さんはなにやら準備があるとかで、後から来るらしいく…初仕事ながら俺は一人で現場へと向かうこととなった。
某ラジオ局T
「ちわーっす、えっと木野さんの…何でも相談、えーっと長ったらしい!木野さんって爺さんの事務所からお化け退治に来ました!」
半ばヤケクソでカウンターに言ったら、一瞬奇異の目でカウンターのお姉さんに見られたが『しばらくお待ちくださいませ』と言って電話の受話器を耳に当てる。
そんな目で見ないでくれ、言ってる俺だって恥かしい……。
「いやー、待ってましたよ。あなたですか木野のご隠居様の言ってた、新入りさんと言うのは……」
暫く変な目で見られながら待っていたら、なんかスタッフのようなおっさんがやってくる。胡散臭い感じたらたらだが、よく見ると…結構偉い人だ。
「はっ、はい…一応」
木野のご隠居って、あの爺さんの事だよな、そういや自己紹介せずにこっち着たからな。っていうか、隠居してたのか?
「ご要望どおりの依頼の報酬金は用意してございます。何分その番組も人気番組ですので…この噂が、酷くなれば、他のラジオ番組にも影響して…局の視聴者は減り…悪ければ…」
「悪ければ…?」
「このラジオ局の存続が危ぶまれるのですっ!!!おそろしや…」
「うおっ!」
「…お願いします!何とかしてください!」
両肩を掴まれてぶんぶん振り回される。正直このおっさんが一番怖い…
「それどころか、MCの子の所属するグループにも影響してしまいます…」
確か、MCやってる子って国民的アイドルグループの一人の、『鍋嶋由真』ちゃんだ。グループに入ってから、人気が鰻上りに上がって…総選挙では一昨年が4位と今年で2位と人気は高く、グループの枠だけでなくソロで活動する事も多くなり、今年に入ってからこう言ったラジオや、TVでの看板番組を持つようになった。
このラジオ番組も、今年から始まったんだ……。
「あ、ああそうっすかぁ、じゃ…悪霊に会わせてください…ちゃちゃっと片付けますんで」
「いえ…それを探すのも、あなたのお仕事では?」
おっさんは何を素っ頓狂な事をいってるんだ?俺がそんな霊感があるとでも思ったのか?
「ほう、自分では見つける事ができませんか…では、直に聞きますか?」
と言うとおっさんはスタジオに俺を案内して行った。
「ここが番組の収録スタジオです。この場所で番組をやっている内に不気味な笑い声とか…叫び声とか…物が勝手に動いたりとか、その他もろもろ」
「へー、ラジオ番組のスタジオって始めてみるぜ…こんなんなってんのな」
「関心してる場合じゃありませんよ……そこのマイクで声のようなのを拾うんですが、当時は彼女以外誰も居なくて…」
「うーん手の込んだ悪戯かなんかじゃ…例えば電波ジャックとか」
改めて考えて、現実的な意見をぶつけて見た。あの手の悪戯はよくある物だ、特に今のご時世だ…ケータイとかで簡単に出来るらしいってニュースで言ってたような気がする。
「その線もあたって警察の方で調べてみたんですが…結局駄目で…それで、あなた方の事務所のチラシを見まして…」
少なくとも俺はそんなチラシはこの東京の都内に来てから一度も見ていない。
「それで、事務所に連絡したってか?」
「はい…警察の人も、木野のご隠居さんの所でならこういった案件に精通しているとの事でしたので…」
「……公認かよ」
「ああ、そろそろつく頃ですよ、番組が始まるのは11時ですので…」
「って…なべゆまが来るのか?!」
良く考えてみたら、ここで断ってはせっかく鍋嶋由真さんに会える機会が無くなってしまう。つまり生『なべゆま』(←公認のあだ名)はその時点でバイバイなのだ。
しかも悪霊の声は紛れも無く最後の歌のコーナーで出てきていた。何時も聞いてたけど…なんで聞き落としていたんだろうかと、疑問に思ってしまうが…まあそんな事はどうでもいい。
「一応、ゆまちゃんは木野様には一度お目通りしておりますので…あなたも一度」
あの爺さん一度会ってたんだな………
「畜生…」
「どうかなされたのですか?」
「いや…なんでもないっす。行きましょう!すぐ行きましょう!」
兎も角話をしない事には何も始まらない…というより、生のゆまちゃんと対面できる事で心躍ってる自分が居るわけだ。
「ゆまちゃん、お化け対峙の事務所の人ですよ~」
おっさんに待合室に連れられて、俺は中に入るとそこには本物の鍋嶋由真がそこに居た。
「ディレクターさん、あら?先日のお爺ちゃんじゃないんですね」
少し釣り目がちだけど、可愛い顔立ちにすらっとした体系…それにこの可愛い声は間違いない本物の生ゆまだ!
「ど…ども、こんちわ…」
「こんにちは、鍋嶋由真です…ってもう知ってますね…」
「ええー、そりゃもう国民的なアイドルグループっすから…俺、相田亮太と申します」
「相田亮太さんですか、よろしくお願いしますね」
「番組何時も楽しく聞いています!俺、グループの中じゃ一番の推しメンなんで、会えて本当にうれしいです」
「あ、ありがとう~。こっちも番組に変な噂ばっかり出てる中で、楽しく聞いてくれる人が居て…有難いです~」
「一応、サインお願いまっす!」
「はい、いいですよ~」
ゆまさんは笑顔でサインしてくれてしかも握手してくれた。手があったけぇ…しかも想像以上にすっげえいい人だし…初めての人間でも媚びたりせず、気さくな人で良かった。
「相田さんも、遠い事務所から態々番組のために…ご苦労様です」
「いえ、全然遠くなかったっすよ!近いって言えば、下町からすぐだし…それに生のゆまさんに会えたんですから!」
親指をぐって突き立てる。
「嬉しいな…本番まで、時間ありますしどうぞお茶でも」
「え、いいんすか?」
「あ…私入れますねぇ~」
マネージャーさんかなんか知らないが、黒スーツのキャリアウーマンみたいな人がポットでお茶を沸かし始めた。メガネをかけて一見地味に見えるが大人の女性って感じの美人な人だ…
「あの?マネージャーさん?」
「ええ、有賀さんっていいます…」
「どうも……ゆまちゃんがお世話になります」
頭を下げる有賀さん…やっぱ、こうしてみると美人だ。本気でこの仕事悪くないかもな。
「じゃあ、僕も貰いましょうか」
おっさん、居たのかよ……気使えよ…
その後、ゆまさんの待合室で有賀さんも交えて、談笑をしていた。彼女はメンバーの中じゃ、見た目よりもすこしおっちょこちょいな所とか、ここじゃないと聞けないメンバーの話や他の仕事とか、オフレコで次の新曲の話とかも聞けた。うん、ここまで聞いて本気でマジでこの仕事が悪くないと思っている。いつしか、気の合う友達のような感じになっていた。まあ、何事も「友達から」って言うだろ?
…結局、おっさんは出て行かなかった…ったく気を使えよ、おっさん!
「ははは、でも……どうしてかな」
ゆまさんは少し顔を伏せた。悲しげな表情が…なんだか痛々しい…そこで思い出した。
俺は元よりこの為に来たんだった…
「…話して、俺はその為に来たんです…」
「は、はい…聞いてくれますか…」
この番組が始まって少し経ってからかな? 私の家に変な手紙が来たのは…最初はファンレターかなんかと思ったんです。『好きです!』『愛してる!』とか書いてあったんだけど、ファンレターって言えばありふれてるし、同じ様な内容の物も色々あったし、最初は気にしてなかったんですよ。私って、ファンレターには結構返信するんだけど、それだけは何か変に不気味で、返信できなかったの……うん…なんて言うか、不気味なの…だって、差出人の名前がないんだもん。
その内、番組中にも変な声が勝手にどっかから入って来たって言う話や、噂も増えてきて…気味が悪くなってきたの。一度だけ、私はその声を直接聞いたことがあったしスタジオじゃ何度か物が勝手に動くとか、そんな話が出て…世間じゃ『呪われてる』って言われるようになったの。
そんな時だけど、その日も仕事を終えて家に帰る途中だったんだけど……誰かが後ろからついて来るような、気配を感じた…だんだんと私に近づいてくるようで、暗がりを避けて通るんだけど…それはずっと私を追っかけてくるの。振り返って「あんた誰!?」って叫びたいけど、怖さが先に来て…一刻も早く逃げようと思ったけど…それは早く走っても私に追いついてこようとするの。思い切って止まって振り返ると……誰も居ないの…でも気配だけはして…怖くて、最近は一寸眠れない日が続いています…
まさに典型的なストーカー野朗だな…
「そうか…」
やっぱり、幽霊か悪霊かどうかはわかんねぇけど、ゆまさんに纏わりつく奴が事件に関わっていたって事になるな。
「お願いします、相田さん私を助けてください。このままだと…」
切実にゆまさんは俺に助けを求めてくる。このままだと絶対そのストーカー野郎が何か仕出かしてくるに違いない。爺さんの言うとおり幽霊なのかはっきりしねぇし、俺もこの依頼が初仕事だが…こうして、助けを求めている人を放って置けるか!?
ここは男として決める時だ…その時…
「ゆまちゃん?リハ、行きますよ~」
スタッフの一人が、リハーサルをすると言う知らせが入りゆまさんは我に帰って…
「あ、はーい。じゃあ、相田さん、私行かないと」
「ああ…仕事、がんばって…あっと!」
「はい?」
ゆまさんを呼び止めると…
「何があっても俺が絶対守ってやる。安心して番組をやっててよ…今晩の録音予約しておくからさ」
ゆまさんにそう言ってやるとにこりと微笑んで何も言わずに待合室を後にした。俺は手を振って見送ってやった。なんだかせつねぇー…色々な意味で…
「相田さん、どうぞ…あの子を宜しくお願いします…」
「……有賀さん…解った」
有賀さんもゆまさんの身や今後を案じているんだ…アイドルのマネージャーをやってるんだし…当然といえばそうだ。
「あ、プロデューサー!こんな所に居たんですかぁ!?さっさときてくださいよー」
話にこそ触れなかったが、ずっと待合室に居たおっさんもようやく連れて行かれるか……一応俺もリハ室に行ってみるか…
『…ふふふ、ゆま…はぁ…はぁ』
「ん?おっさん、なんか言ったか?」
「いえ、何も…どうしたんですか?」
さっきそこで、声がしたと思ったんだけど…気のせいか…
スタジオ・リハーサル(PM9:10)
「やっぱり来れないんですか…氷室さん(今日のゲスト)」
「仕方ないよ、そこら辺はカバーするから、ゆまちゃんはそのままやってて」
ゲストも急な腹痛これなくなったって言ってたな、これもなんか引っ掛かりを覚えるぜ。
そんな事にもめげず、ゆまさんはいつもの通り元気で、番組のリハに入った。リハーサルでも本格的で驚いてしまったが、ゆまさんは変な噂とか幽霊の事なんか気にせずに番組を進行していく。ラジオドラマじゃ台詞を一回も噛まなかったし…うん、生のリハーサルに立ち会えた事を幸運に思わなきゃな!
終わりが近づいてきた…何時もならここで終わるはず、エンディングがきて……曲が終わる直前…
『終わらせない…終わらせないよ、僕のゆま…』
急に耳鳴りみたいに俺の耳に声がしたと思った…瞬間…
「ど、どうしたんだ…急に音響機器が…誤作動を!?」
「な、なんだこりゃ!」
「解りません、ただ……え?何?これ…声!?」
女のADのスピーカーに、只ならぬ声が流れ…
「あ、ああ…あああああっ!!」
女のADさんは失神して倒れこんでしまった。
「おい!」
ADは白目むいて泡吹いている……見てみると他の連中も、同じ様に倒れていく…俺も何だか頭ん中を耳鳴りのような物が止まないし…
その後、スタジオの機材が地震でもないのに勝手に揺れだした。
がたがたがた
「これって、ポルター…えっと、まあなんでもいい!…」
ついにお出ましってか、悪霊さんの…こんな事映画でしかなかったと思ったけど…マジなんだな!
「ゆ、ゆまちゃん!!」
有賀さんの声に我に返るとガラスの向こうでゆまさんが怯えて助けを求めていた。中はこっちより異常な現象が起きているようだ…
「た、助けて!…有賀さ…おねえ…」
「ち…っくしょぉーー!」
バリーーーン!!
俺は、破れかぶれでガラスに飛び込んだ…ガラスが割れて俺はスタジオに侵入できた。
「く…」
床を転がった時受身を取りそこない背中を強打する…。
「あでっ!ああ…かっこわりぃ…」
「相田さん!助けてぇぇーー!」
スタジオ内に入り、ゆまさんの声に我を取り戻し…見上げると……。
「んだ…これ…」
俺は頭上に丁度2mほどの半透明の物体がゆまさんの首をしめているのが見て取れた。でっでかい、これが悪霊ストーカーの正体か!?始めてみるもんにしちゃ、物凄すぎるじゃねぇか!
ああ…幽霊ってこんな風になんだ…
「……冗談じゃねぇ、てめぇ!彼女を離しやがれ!」
ゆまさんを助け出そうと俺は悪霊に素手で向かおうとする。
スカッ!
「なにっ!?」
拳はかっこ悪く悪霊の体をすり抜けて向こう側の壁にかっこ悪く激突してしまう。
「あがっ!…なんでこーなんだよ…」
『煩い…邪魔するな!』
ブォンッ!
巨大な悪霊の腕が俺を叩きつけて、吹き飛ばされる。
「あぐぁ!」
番長のパンチとか食らってもこんな衝撃はねぇ、まるで…車にぶつかった様な衝撃だ。ぶつかったことねぇけど、そんな感じだろう。
「相田さん!」
壁に叩きつけられて、俺はメガネを落としてしまう。
「やべ、メガネが……」
元々視力があまり良くないから、メガネをしていたがこれじゃあ前が余り見えない…そこら辺を手探りで探す。
『いきなり現れて、ゆまを横取りしようとした罰だよ…そら!』
ずにゅうぅぅ…
悪霊ストーカーの巨大な腕が俺の背中から体に入り込んできた。何だ…この寒気と凄まじい吐き気…頭の中身が全部持ってかれるような、不快な感覚…
これが、魂を抜かれる感覚ってか?駄目だ…体の力が抜けてくる…もう、駄目だ。
シャ!!
『ぎゃぁぁーーー!』
「むん…」
体の寒気が一気に抜けたかと思うと、一気に力が抜けた。
「大丈夫か少年!わしが来ればもう安心じゃ!」
声からして、あの爺さんだ…何かで悪霊の腕を切って、俺を助けてくれたらしい。
「ほれ、少年!お主のメガネじゃ!」
「じいさん、すまねー」
爺さんから、メガネを手渡されてそれを目にかけて、目が見えるようになった。爺さんが仕込み杖の入った剣で悪霊の腕を斬って…俺を助けてくれたらしいな。
「まったく、近眼だと言う事を聞いておくんだったわい!…しかし、その気迫はよし!」
「ほ、褒めてんのかよ…ったく、そっちもこんなデカイの相手だって、言わなかったじゃねぇか…」
「文句は倒しきってから聞いてやるわい!剣を使え、わしがあげた剣なら霊体を撃退できるぞい!」
シャッ!ブンブン…パシッ!
「…ああ、やってやらぁ!!」
腰に下げていた剣を鞘から引き抜いて指で二回転させてからしっかりと握り締める。やっぱりしっくり来るぜ、この剣…
「さあ、悪霊野郎!彼女を放して俺と勝負しやがれ!」
悪霊相手にビシッと指差して担架を切る…今度はさっきのようにいかねぇ。爺さんに切られた腕を拾ってまた体にくっつけて元に戻して…
『くぅぅ…ふざけるな、ゆまと僕の間を邪魔しやがって…』
「お前もファンなら、一線を越えるような事してんじゃねぇよ!!死んでたら尚更だろが!」
『五月蝿い!おれとゆまはずっと愛し合ってたんだ!!今までもこれからも……おォォォォォォォーーーーーー!』
バキバキッ…ギリギリ…
「な、何だ!?建物が…」
「なんと言う『執着』による怨念じゃ!…ポルターガイストで建物ごとわし等を葬ろうというのか!?」
「ゆまちゃんっ!」
「……んちくしょうめぇ!」
ブォンッ!ジャッ!
大きくジャンプして、落下を利用して悪霊の体を袈裟に斬り付ける。
『がぁぁぁーーーっ!!!』
半透明の悪霊の体が今の一撃でぱかっと割れてる…。血とか無いがかなり痛そうな叫び声を上げている。
「おお、効いてる…破れかぶれだったけど…」
「感心しておる場合じゃないぞ!彼女を助けるのじゃ!」
「お、おう!」
今はあいつに捕まっているゆまさんを助けないとな…
『ぐがぁ…こ、こんな所で諦めてたまるか…』
「なっ!?え?」
ダメージを追っているからか、悪霊の体を掴む事ができた…そう思った瞬間体が宙に浮くような感じを覚える。
バリーンッ!!
窓ガラスを破って外に出るが異様に地上が遠い…よーく状況を考えてみると…
「な、何!?俺…飛んでる?!」
『重っ!?ってお前、何掴まってんだ、放しやがれ!!』
今の俺はゆまさんを助ける為に、悪霊にしがみ付いて…その悪霊が空中に飛び出して、今俺は空中浮遊中だ。
「てめぇこそ、ゆまさんを放せ!あ、ちがった…放すな!落ちる!落ちる!」
自分でもわけの解らない事を言って、正直パニクってる…兎に角悪霊にしがみ付いて、落ちないようにしていた。
「少年!!奴は高いところから、彼女を落として殺そうとしておる!なんとかするのじゃ!」
「んなのわかってらぁ、ってか落ちたら俺も死ぬわ!」
遠くから爺さんの声が聞こえるが、今はしがみ付いてるのがやっとな所だ。剣を振ろうにも、この高さだと落ちる。
『この…いい加減にしろっ!』
ガシッ!
「うおっ!」
後ろから奴の巨大な手に掴まれて、引っぺがされたと思ったら、俺の体を野球ボールのように振りかぶる。
「のぁぁっ!!」
『お前みたいな奴に、俺とゆまの仲を邪魔を…!』
「…っ…てめぇ!」
シャッ!バシュッゥッ!!
投げられそうになったが、その瞬間に悪霊の体と腕を斬り付ける。同時に俺の体も悪霊から放されて、空に落とされる。
「てめぇこそ…いい加減に、しやがれぇぇ!!」
ザシャァァッ!
空中でゆまさんを抱えている腕も切り落として、ゆまさんを引き放す…
『うがぁぁぁぁぁ!!!』
「よっしゃ、キャッチ!って、感情的になりすぎた!落ちるっ!」
空中に放り出されたゆまさんを俺はキャッチするも、そのまま地面に向けて落下していく。
「おーい、しょうねーん!」
下から爺さんの声が聞こえてくる。よく見ると、直下の道路では軽トラックを止めている爺さんの姿が見える。
「受身をとれっ!」
軽トラックの荷台には、マットが敷かれていて、受身を取ってそのマットの上に落ちる。
「ぐっ!」
何とか受身を取るも、背中に衝撃が加わる。
「大丈夫か?」
「あ…ああ…何とかな……死ぬとこだったよ、ゆまさんは?」
「奴の影響で、霊症で気絶しておる…あいつを何とかせねば…」
悪霊を何とかしないと、このまま気絶したままだって事か?
『おのれぇぇ…腕を斬った挙句に…ゆまに触れて、もう許さないぞ!死ねぇぇーー!!』
と言ってる内に、向こうから腕を斬られて激怒した悪霊が後を追って俺に落下してくる。
「ストーカー野郎、いい加減にしやがれ」
爺さんの軽トラにゆまさんを寝かせると、ベルトのホルダーに爺さんから貰った札を引き抜く…
「俺に喧嘩売ったこと、二度死んで後悔しやがれ!」
ボッ!
赤い札に火がついて、一気に大きな炎になって燃え上がる。自然と熱いと感じない、こいつを使えば…
「ぶっ飛ばせ!」
燃え上がった赤い札を落下してくる奴に向かって投げつける。
ビィィィッ!!
投げつけた札はより大きな炎となり、その炎は翼を広げて大きな火の鳥となって悪霊に突っ込んでいく。
『な、炎?!がぁぁっ!!』
ドゴォォォーーーンッ!
奴に命中した火の鳥は、炎上する。
「何て奴じゃ、始めてで『朱雀』を使いこなすとは!!」
「いや、まだだ!」
炎の中で悪霊の奴がまだしぶとく、俺に向かってくる。
「死んでも尚、間違いなんて悲しい事しやがってよ…」
チャキッ!
両手で剣の柄を持ち、下段に構えてから飛び上がる。
「これで、本当の終わりだぁ!」
悪霊の頭上まで高く飛んで上段に構えた剣を一気に縦に思いっきり、悪霊の脳天を目掛けて振り下ろした。
「メェンッ!」
バシュゥゥーーーーーっ!!!
焼き尽くされた悪霊の体はその一撃で、真っ二つに切り裂かれる。
『が、がぁ…からだ…再生…できない…』
ジュゥゥ…
真っ二つにされた悪霊は、地面に落っこちる。さっきみたいに体をくっ付けて再生しようとするも、その体は煙のように蒸発して行く。
そんな奴に向けて俺は剣を突きつけて…言い放った。
「覚えときやがれ!そんな一方通行な思いじゃ、相手も自分も滅ぼすってな!」
『お…お、まえ…は…何者だ…』
「俺か?…あっ、相田亮太……勇者、相田亮太だ!冥途の土産に覚えておけ!」
『ゆ…ゆ……勇者…あいだぁ…だぁぁぁぁ………』
じゅぅぅ…
悪霊は断末魔のように最後の『だ』を伸ばして、煙のように消えていった。
「だ、ダサかったか?」
何か最後だけ、すべったような感じだった。何者だって聞かれて、考え付いたのがこれだったし…。
「勇者あいだ、か……ともかく、よっしゃぁ!勝ったぜ!…つかれたー」
ドサッ
勢いでやって、何とか悪霊を倒す事ができたけど…そのせいか、疲れがどっと押し寄せて座り込んでしまう。
「おお…なんと言う奴じゃ、悪霊を『消滅』させおった…」
「お?爺さん…ゆまさんは?」
何故か驚いた表情で俺に近づいてきた爺さんに、ゆまさんの事を聞いてみる。
「彼女は、荷台のマットの上で何とか悪霊の影響から解放されたわい、安心せい」
「良かった…で?…どうよ、俺…破れかぶれでこの仕事やってみたけど…」
「うむ、想像以上じゃ…まさか、霊体を完全消滅させる人間がいようとはな…」
「何言ってんだ?」
「気迫や勢いは良し!まあ、ちと無鉄砲すぎる所とか改善の余地はあるがの…十分採用に値するぞい!」
ぐっと親指をあげる爺さん。確かに、最初こそ妙で妖しい仕事で、悪霊と戦ってる時も命の危機を何度か感じたが、なんかこれが…俺には合ってるような気がした。
「ゆまちゃんっ!!」
「……有賀さん?」
遠くから有賀さんが軽トラックにいるゆまさんの所に駆け寄ってくるのが見えた。
「大丈夫、気絶しておるだけじゃ…今悪霊も退治して、霊症からも解放された」
「良かった…ありがとうございます。お爺さん、相田さん」
「いいって事っすよ!守るって約束したからな!」
「所で、あの悪霊の異常なまでの『執着』…彼奴は生前でも…」
彼とはたった今倒した悪霊が、生きていた時だろう。一気に表情を曇らせる有賀さん…
「生前の彼から執拗なストーキングを受けていたゆまちゃんを何とか守ろうとして、彼とわかるような贈り物や手紙は彼女の手に届く前に防いでいたのですが、どんどんエスカレートして行き…」
それこそ、ファンレターにはカミソリが入っていたりとかがあって、そこからかゆまさんに届く前に有賀さんが止めていた訳だ…
「……挙句に…」
爺さんに一本のデータスティックを渡す。何が入ってんだそれに…
「言わずとも良い…彼奴は自分の自殺した所を映したのじゃな」
「ええ……彼はこれで、あの子の近くに行けると言って自殺しました……それから後は、知っての通りです」
奴が自殺した後数ヶ月はそれこそ何も無かったが、この番組が始まって暫くしてから死んだ筈の奴が再び現れたってわけだ。
「…調べたら、彼の死亡も確認していますし…信じられなかったのですが」
「一度死んだ人間が霊体として力を持つには期間がある…霊症を及ぼしたり、ポルターガイストを起こすまでに至るにもそこから更に期間を有する。自身が最も動きやすい時に、彼女が一人でやる仕事ができて…絶好の機会となったようじゃ」
「そのようです…奴がどんどん見えない所で、ゆまちゃんに近づいてくるようで…怖くなってきたんです…彼女を守りきれるかどうか…」
それで、爺さんの事務所に助けを求めてきたって訳か…
「このデータに、動画と一緒にあの男から受けとった物が全て入っております…」
「よし、少年」
「おうさ!」
有賀さんから受け取ったデータスティックを爺さんは放り投げて、剣で真っ二つにして使えないようにした。
これで、ゆまさんも、悪霊の奴もまた救われるか…
「……この度は、本当に有難うございます。スタジオはめちゃくちゃで番組は今週お休みですけど…来週には何とか…」
「有賀さん、ずっと聞きたかったけど…そこまでして、ゆまさんを守りたかったのは…あんたは…」
「私はあの子の専属のマネージャーですから…」
「おっと少年、これ以上はオフレコじゃ」
「そうだな、解ってるって…」
有賀さんの表情は眠っているゆまさんを案ずる肉親のような物のように見えた。まあ、どんな関係かはこっから先は聞かないで考えないで置こう…
「……ん、有賀さん?」
そうこうしていると、荷台の上で目を覚ました。
「ゆまちゃん、良かった」
安堵の表情を浮かべる有賀さん……。これで一件落着だ。
一夜明けて、ゆまさんと有賀さんそして番組プロデューサーのおっさん等ラジオ局の人たちに見送られる事となった。
「相田さん、改めましてありがとうございます。すいません助けてくださったのに御礼も何もできなくて…」
「いやや、ファンの俺にとってゆまさんの無事が何よりの礼になります!まあ、来週も番組楽しみにしてるぜ」
「ええっ、楽しみにしてくださいっ」
一晩明けて、ゆまさんが元気になってくれて本当安心した。スタジオの方も、めちゃめちゃにはなったが何とか修理をしてくれるらしい。何人かのスタッフも霊症を受けたが、爺さんがちゃんと処置をしてくれたらしく、明日には復帰できるみたいだ。
「それじゃあ、私らはこれで…」
「はい、ご隠居さんもありがとうございます」
プロデューサーのおっさんと爺さんが軽く会釈を交わした後、爺さんが乗ってきた軽トラックで俺たちは事務所で帰る事となった。
名残惜しいが、あのアイドルを助けてやったって言う貴重な体験をしたんだ、それに報酬もいいし、この仕事も悪くない…
「ああ、言っておらんかったが…今回、悪霊に壊されたスタジオの修理費に報酬の殆どを引かれちまったのじゃ……他にも色々な費用をマイナスして、手元にはほれ…」
「は?何って…これ…」
福沢諭吉が一枚手渡される…これだけ、あれだけ頑張って命張ってやったのに手元に残るのは、一万円ぽっきりって事か!?
「まあ、この仕事はこんなもんじゃ…この程度の仕事じゃな…しかし、お前は線もいいし、これからもしっかりと働いてもらうぞ相田亮太よ」
「だ…だまされた……」
一気に疲れがどーんと圧し掛かってくるようで、軽トラックの助手席でうな垂れる。ああ、あの事務所が相当ぼろっちい訳がここではっきりした…
これが、俺の『勇者』としての初仕事だ……だけど、世の中そんなに甘くない。例えその仕事が天職だとしても、儲かるとは限らないって事だ。
…もう一度言おう。何度でも言おう…
「だーまされたぁぁぁーーー!!」
次回に続く
どうも、色々急展開に進めた1話でしたがいかがでしょうか。
次回からも、こんな展開で行くような感じです。
予定では来週更新予定……。
今回出てきた、アイドルの鍋島由真ちゃんですが元ネタは、某KBのあの人ですが、最初は名前がまた別の名前でした。この小説が修正される度に時代のニーズに合わせて名前が変っていって今に至ります。
それでは、ご意見ご感想や、誤字脱字などもありましたらお寄せください。