表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者あいだ  作者: カイザ
12/12

第3話 VS都市伝説編 最終夜『恐怖の夜の終わり』

どうも、勇者あいだの新しい駆け出し第二弾にして、都市伝説編最終話です。


勝手な補足ですが…

都市伝説での現代妖怪と、昔からいる妖怪とは全く別物と考えています。

それでも、本質はやっぱり同じ人が生み出した物じゃないかと思いますね…



「て・め・え・るぁぁぁぁーーーーーーっ!!!」

 明美の部屋に俺の叫び声が木霊する。妖怪ども、そして襲い掛かろうとしていた亡霊で作られた現代妖怪の2体『ひきこさん』に『ベッドの下男』もたじろぐ…

 堪忍袋の緒が完璧に切れた…ここまで怒ったのは、久しぶりだった。こんな怒りを例えるなら、あいつのような…俺がガキの頃に、怪獣が都市を闊歩していたあの時…巨大な黒い『怒り』の塊…いや、あれには遠い。

 だが、負けねぇくらいの怒りだ、奴らをぶっ飛ばすだけの怒りはこれくらいあれば十分……いや、有り余るくらいだ。だが全部ぶつけてやる、出し惜しみをせずに全部だ!


「っ!!なんなのよ…この男…どんな人間のものと違う…サトリ?如何したのよ…」

「なななななっ…なんじゃこいつ…馬鹿か?いや、馬鹿だ…頭の中身は僕達に対する『怒り』のみだ…いやそれが、どんな人間の物よりも…桁違いすぎる!殺意のようだが、殺意が無い…純粋すぎる巨大な怒り…こいつが勇者なのか?!」

 目の前の妖怪達は何か話し合ってる。目玉の奴は俺のことを『馬鹿』と言ってやがる、ますます気にいらねぇ、散々人の事を玩具にして…今度は馬鹿にしてるのか…

「ほお…馬鹿?てめぇ、今俺を馬鹿っつったか!?一つ目ぇぇーーーー!!」

「ひぃぃっ!!」

『……』

『…ぐうぅ』

「部が悪いかもしれないわね、霊魂まで震える程の『恐怖』を与える人間なんて…どんだけなのよ…サトリも、混乱させるほどの馬鹿って…」

「こ、こんな直情的な感情は人の中の『馬鹿』の中でも『大馬鹿』を越えてやがる!僕は一旦ぬらりひょんとこに戻る、話しと全然ちげ…って…」

「…るぁぁぁーーーーっ!!」

ズバァァーーーーッ!!!

 俺の剣が目玉の野郎を捕らえるが、間一髪で避けた奴が明美の部屋の壁から床までを一気に斬りつける。

「げぇぇーーッ!あ、あっぶねぇ!こ、こ、殺すきかぁ!」

「殺す気だぁ!てめぇら、何処まで人を馬鹿にすりゃ気が済む……俺は、怒りと共に炎のように燃え上がり、火山の如く爆発する男!勇者あいだだっ!俺を怒らせた代償に覚えて置きやがれ!」




 勇者あいだ

第3話 VS都市伝説編・最終夜『恐怖の夜の終わり』



「うらーーーっ!!」

「ぎゃーーーっ!殺る気満々だ、ぼかぁ逃げるよ!」

バッ!

 明美の部屋の窓から目玉野郎は飛び出して、逃げようとする。

「逃がすかぁ!!まっちやがれぇい!」

 奴が逃げようとするのに、俺は剣を振り上げて斬りつけようとする。だがその前に青女が作り上げた現代妖怪の2体が立ち塞がる。

「あんたの相手はあたいだよっ!お前達、やっちまいな!」

「どきゃぁぁがれぇぇーーい!」

『!!』

『!!!』

ガシャァァーーンッ!

 現代妖怪達と一緒に青女も連れて、明美の部屋の窓をぶち破って外へと出た。


「わ、私の部屋が…めちゃくちゃ」

「明美さんはここに居てくださいっす、おいらも相田さんを援護しに行くっすよ」


『おぉぉーーんっ!』

「うらぁ!」

ガキィンッ!

 外に躍り出たと同時に斧男が持っている手斧で俺を斬りつけてきて、剣でそれを受け止めた。

『ぐぐぐ…』

「…よえーよ!」

ガキィン!…

 斧男の手斧を弾き返して、体を回転させた反動で奴の腹を切り付けた。霊の体を切り付けたのか白い血のようなどろっとした液体が出る。

『ひょぉぉーーーっ!!』

ずるっ!

「なっ!がっ!」

『あひゃひゃひゃっ!』

 いきなり両足を何かに掴まれたかと思うと、地面に転ばされた。見ると両足をもう一人の現代妖怪の白女…ひきこさんって言ったか…そいつが両足を掴んで、俺を地面に引きずり始めた。

ザザザザッ

「な、てめぇ」

 前髪で表情を伺えなかったが、耳まで裂けた口で気持ち悪い笑いを上げて俺を地面に引きずりまわす。

「刃札!」

シャッ!

 ホルダーから刃札を出して、ひきこの顔面に投げつけると奴の目に命中する。

『ぎゃぁぁぁーーーっ!!』

 ひきこさんは俺を放して目を押さえて叫び声を上げる。

「てっめぇ…!!」

『……!?』

ブォンッ!

「っ!」

 ひきこの頭を剣で叩き割ろうと振り下ろすも、何故かそこで止まってしまった。

「…ちぃっ!」

「隙だらけじゃないのさっ!」

ジャッ!

 青女が俺の背中に爪を立てて、俺はそれを避けるが、服に爪できりつけたような傷が出来る。

「のやろ!」

ジャキッ!

 青女に剣を向けるが、その前にひきこさんと回復した斧男が立ち塞がる。

「ちっ!どきやがれっ!ぶった切るぞ!」

 言ってみたが、やっぱやり難いぜ…こいつら元々ひきこさんやら斧男とはまったく違う霊だった筈だからだ。そいつをあの青女が操っているんだからたちが悪い。

「やっぱり人の霊相手だって解ったら、戦い憎いのかしら…」

「てめぇ…死んだ人間まで、弄びやがって……」

「何言ってんの…この現代妖怪を生み出したのは人間のエゴや風潮…人ってのは古来より、こう言った異形を忌み嫌い、その反面そいつ等が居る事を望んだ…だからあたしは、人間の望む『恐怖』を与えてやったのさ…『わたし…メリーさん…今、貴方の後ろにいるの…』ってなふうに…ねぇ~」

……カチン

「うぐあぁぁぁぁーーーーーーーーーーっ!!」

ドォォーーンッ!

「きゃぁ!」

ザッ!…がしっ!

『!?』

バシュッ!

 俺の手が斧男の頭を掴む、そのまま俺は奴の体に刃を入れて一気に引き下ろした。

『おぉぉーーーーっ!!』

 白い体液を撒き散らしながら、斧男は地面に伏せる…そのままひきこの足を、回し蹴りで払ってから、剣をその胸に突き刺した。

ザグッ!

『くあぁぁぁーーーーーーっ!!!』

「あ、あんた…そいつ等を斬る事ができるのか…そいつらが如何なってもいいのか…うあぁっ!」

「てめぇだけは、絶対…ぜってぇ……ぜえええってえぇぇ!ゆるさねぇぇぇぇーー!!」


……


「へぇっ…じょ、冗談じゃない…あんな奴、人間じゃねぇ!」

 明美の部屋から一人逃走し、ぬらりひょんの所へと戻ろうとする一つ目の妖怪『サトリ』は目の当たりにした、人とは思えぬ巨大な怒りを前に困惑していた。

 人の心を読める能力ゆえに、対峙した『勇者』に…恐怖を抱いていた。

「あれが『スサノオ』の後継者だと?スサノオの方がまだ可愛い!…」

 直情的な感情…人の持つ怒りの感情……それでも、普通の人間ならその怒りには『悲しみ』や『憎しみ』等の感情が入り混じるのだが、奴にはそのどれも無くただ『怒り』のみだ。しかもそれを爆発的に増幅させるとは…それが出来るのは、人間でも…ましては妖怪でも無理なのだ。

「な、何者なんだ!!…奴は……ん、殺気!?」

 別の方向から迫ってくる人の物の殺気をサトリは敏感に感じ取ってそれが来る方向に身構えた。

「でぇいっ!!」

「見えてるぞっ…馬鹿め!」

シュッ!

「勇者と一緒に居た坊主か…」

 サトリに振るわれた拳が空を切る…そこにはサトリを追って来た丸坊主の少年が居た。

「花城ジョーっす!お前だけを逃がすわけには行かないっすよ…サトリ!」

ジャッ…ジャッ!

 右手に鉄のトンファー、左手にはヌンチャクを持ちサトリと対峙するジョー。

「は、貴様なら僕の敵じゃないってんだよ!貴様の頭の中身ならお見通しなんだよ!」

「自分をあまり舐めないでくださいっすよっ!」

ブンブンブンッ!

 ヌンチャクとトンファーを不規則に動きまわしながら…距離をとりつつトリッキーに動いて、サトリの思考を読むのを翻弄する。

「…なるほど、不規則に武器を振り回して思考と行動をかく乱するつもりだね……考えたか?」

「いいえ、何も考えない方が…お前と対等に戦えそうっす!」

「……人間めっ!……(頭で考えない人間が一番とっつきにくいが…)」

ザッ!ザザッ!

「はあっ!ちょぉっ!」

ヒュンッ!ビュッ!

「この僕の敵じゃない!」

 ヌンチャクをサトリに攻撃するが不規則に動かす物のその動きはサトリの目に見えて、それを避ける。

 ジョーは間髪入れず、トンファーを振るいキックでの連続攻撃をするがそれらは全てサトリの目により回避されてしまった。

「まだまだっ!」

「馬鹿の一つ覚えで殴るだけか…しゃぁ!」

バシッ!

「…ぐっ」

 サトリの拳がジョーの腹を捉えて、そして距離をとった所で大きな一つ目をかっと見開いて…その目から妖力波を放った。

バッ!

「うあっ!」

 その妖力波を持っていた武器で防御するも、二つの武器は砕けて散ってしまう。

「キケケケケケッ!威力は低いが…これでも十分お前は倒せる、いや…お前は絶対に勝てない…思考が読めるんだからな!」

「そっすね、大体理解したっす……」

 武器を失ったジョーは何処からか長い布を引っ張り出して、それを自分の両目に巻きつけた。

「……な、何?なんだ、それは…」

 突然サトリは困惑し始める。目隠しをしたジョーの行動が理解しがたいのだが、理解しがたいのは、それだけじゃない。

「み、見えない?!だと…思考が見えない?目を隠しただけで…」

「あんたは、自分が思ってるほど自分の能力を解っていないみたいっすね……あんたの目は自分の目を通して、思考を読み取っていたんすよ…妖怪なら霊魂も見える…あんたは自身の能力に過信して使い道をまちがったっす」

「…あ、ありえん…僕の能力をそこまで把握して…!!」

「生憎っす…対妖怪の為に古来より研究を繰り返してきて、弱点を見つけ、己が拳にて攻略する…それが、『覇魔拳はまけん』っす!」

シャッ!ザザッ!ぎりぎり…

 武器を無くしても、目隠しをしていても…ジョーはサトリの位置を把握してるかのように身構える。

タンッ!

「だ、だがお前も目を隠して…僕の位置が解るわけ…ぐあ!」

 サトリの巨大な目の視界がジョーを見失って…その後、ジョーの強烈な一撃がサトリの顎を捉えた。

ドガッ!

「がごっ!」

「しゅっ…はっ!」

 腕を引いて、横に回転を加えてがら空きの腹に肘鉄を食らわせた。

ドスッ!

「ふぐっ!」

 目玉が飛び出んばかりの苦悶の表情になるサトリ…修行によりジョーは五感が強化され、視界を遮ったとしても聴覚や触覚を使い相手の位置を把握する事ができるのだ。

「が、がふ…ぐふ…かぁぁぁーーーっ!!」

ビュッ!!

 血走った目からジョーに向けて強力な妖力波を放ったが、ジョーはそれを避ける間もなく、両手をクロスさせ…

「渇ッ!!!」

バァァァンッ!!

 クロスさせた両腕を気合の一声とともに妖力波を弾き消した。

「な、何っ、人を殺せるくらいの妖気を放ったのに…!!」

「思考が読めないサトリなんて…敵じゃないっすよ」

「じょ、冗談じゃない!…」

 最初はジョーだけならば自分でも倒せると踏んでいた…だが、これほど相性の悪い、いや天敵とも言ってもいい相手に出会ったのは初めてだ。

「相田さんじゃないっすけど、人の弱みに付け入るお前は許しちゃおけないっす!ここで成敗するっす!」

「ッ!」

ザッ!ザザッ!

 変則的に移動をして、サトリの動きをかく乱しながら…接近して、サトリの目の前に現れると腹を蹴り上げて、空中に吹き飛ばすとそれと同じ高さまで飛び上がる。

「ダーダダダダダダダダダダダダッ!!」

ババババババババババババッ!

 空中で拳を目にも止まらぬスピードでサトリに撃ち付ける。空中で繰り出される連続の拳は何百発、何千発と放たれ、サトリの体が歪むまで殴りつける。

「が…はっ…」

 雨のような連撃をやめ、体をぐるっと回転させるとそのまま全体重をかけた右足をサトリに食らわした。そして…そのまま地面へと急降下する。

「雷剛烈脚!」

 落下速度に更に加速を加え、雷のような猛烈な速さでサトリごとジョーは落下する。

「落雷!」

ドォォーーンッ!!!

「ぐぎゃぁぁぁーーーっ!!」

 稲妻のような轟音と共にサトリは地面に落下。地面が陥没する程の衝撃を放ちその中心で…

「……あ、がぁ」

がく

 巨大な目玉が飛び出んばかりに膨張した後、サトリはぐったりとしてしまう。

「大丈夫っす、この程度なら妖怪なら死なないっすよ。あんたの身柄を拘束するっす!」


……

 相田亮太達と妖怪が外に出てってから、明美は唖然としていたが…すぐに立って、自分の机の引き出しを開けてみる。

 それは薄いノート、表紙はロゴも無く青いが市販の物じゃない。開くとページには鳥居と五十音が並べてある。俗に『こっくりさん』と言われる、狐の霊を呼び出して占いをする近代に発祥した降霊術の一種だが…怪談伝説の1つとなるように、この儀式もまた失敗をすれば狐の霊に取り憑かれる事もある。

 サトリに言われたような『能力』を自分が持っている事なんて、当の本人は知らなかった。霊感が強くなったのもごく最近の事だったし、勘が鋭いってだけの話だ…このノートも、片隅にあった物だがどういうわけだが、この力は的中率の高い占いができると言う事であり、何度かその占いが自分の助けになったのも覚えてる。そして、このノートの真の能力はそれだけじゃなかった……。

 今戦っている現代妖怪達は、不幸な人の魂を青行燈の能力で実体を持たせて、操られているに過ぎないのだ…生前どんな罪を重ねたからとしても、そんな哀れな魂を決して利用して、罪を重ねさせてはならないんだ。

 この能力はそんな哀れな魂を浄化する為の力…彼女に眠る、もう一人の彼女が起してる奇跡だ。

「行こう…」

 ノートを取って、彼女は部屋から走る。救う為だ……



「じょ、冗談じゃないよ!」

「だぁ!…せあぁ!」

 何度も襲ってくる、二つの現代妖怪達を俺は切り倒しながら、それを操ってる青女に前進する。何度倒しても、斧男やひきこさんは蘇りその前を通せんぼしてくる。

「れ、れれ…霊体は実体じゃ…殲滅不可能だよ…何度切り倒したって蘇らせてやる!」

 青女の顔に焦りが見え始めている。赤い札を出してそれを構えた……。

「邪魔すんな、お前ら…消し炭にすんぞ!」

ボッ

 赤い札に火を灯して、青女に向けるが再びエクトプラズムから形を作った奴等が前に立ちはだかる。

「俺は遠慮しねぇーーーぞ!」

ドォォーーンッ!

 俺の怒りに呼応するように火の鳥『朱雀』が燃え上がり、巨大な鳥となっていく。

「や、やばすぎる…!逃げ…」

「にがさねぇぞ!もっと燃え上がれ!!!」

ズゥゥーーーンッ…ぴぁぁぁーーーーっ!!!

「逃げるってんなら、全部吹っ飛ばしてやらぁ!」

 手が焼けるほどの炎が溜まってくる…これ以上の炎をやったら町もふっ飛ばしちまうかもしれない。だが、俺の怒りはそれで収まらないんだよ!

「ふっとびやがれぇぇーーー!!」

 燃え上がる朱雀を放とうとした……

「待って、亮っ!!」

「なっ!何っ!」

 誰かが俺の手を止めて、それと同時に巨大な火の鳥になっていた朱雀が掻き消えていく。何だ、こりゃ…今まで燃え上がるほどの怒りが収まってく。

 見ると、俺の札を持っていた腕を、明美が押さえていた。明美…なのか?一瞬別人に見えた…

「…亮、落ち着いて……その人たちを殺しちゃ駄目だよ」

「お前、明美か?」

 元の明美に戻ってた…あれは見間違えだったのか?いや、そんな事より…

「何してんだ、ここはあぶねぇって!」

「うん、でも亮の力じゃ全部ふっ飛ばしちゃうから。あの人達を救う事は出来ない…」

「あの人達って…ひきこさんと、斧男か!?」

「うん…」

 頷く明美の手には何か本のような物が握られていた。ノートなのか…でもあまり見ない奴だぞ…

「そ、それは!?」

 その本のようなのを見て、青女は目を丸くさせる。別人のようにキリッと青女を睨みつける明美は俺の前に出て…

「ええ、貴方達が恐れていた力よ!」

ヒュォォーーーッ!

「うっ!…なんじゃこりゃ」

 明美の周りにとても冷たい風が吹く…俺が近づくことすら出来ないくらいのでかい気配だ。風に舞い上がるように明美のノートがふわりとぱらぱらとページを捲りながら浮かび上がってる。

 ってか、明美ってこんな力を持ってやがったのか!?

「こっくりさん…こっくりさん…おいでくださいましたら、鳥居からおいでください」

 目を閉じて何か呪文のようなのを唱え始めると、ノートがあるページで止まる。大きな鳥居のような紋章が、ノートのページ一面に赤い文字で描かれている。

「!!!」

「何だってのさ!!」

 俺も何が起きてるのかさっぱりわからない…妖怪達が恐れていた、明美の力があのノートから出現するって言うのか?

「…あ、あいつは…?」

 あの子は明美なのか…、明美だったのは別の少女になっていた。さっき見た、巫女服を着た銀色の綺麗な髪の少女。

「明美…じゃねぇのか?」

「……」

 短髪だった明美の髪が長くなり、頭には狐の耳のようなのが生えている。神々しくも見える、この子は俺の知ってる明美じゃねぇのか?

『どんな罪を犯そうと、どんな未練を残そうと、哀れな人の魂を弄ぶ事は赦されない…』

「な、何だって?」

「ななななっ…じょーだんじゃないよ!こいつ、こいつは…伝説の大妖怪!『葛ノ葉』じゃないか!あいつは…人との子を産み落とした後死んだ筈…そんな奴が、何故、人間の小娘如きに…ぎゃ、ぎゃー!霊が、あたしの霊がぁ!」

 青女の情けない叫び声と共に、俺達を襲っていた斧男とひきこさんがエクトプラズムに戻りそれが更に気体になるように霊体に戻る。

『鳥居を潜り……お逝きなさい…人の魂よ…』

ヒュォォーーーーッ!!ビュオォーーーッ!

 明美の頭上にあった、ノートの鳥居が大きくなったと思ったら…そこに霊体が吸い込まれていく。明美の姿が変わったと思ったら、こんな力を持っていたのかよ。これが、あいつ等が恐れていた力か…

ビュオォォーーーーーーーーーーッ!

 鳥居から入った霊体は、光の粒子みたいな姿となり空へと上っていく。斧男やひきこの霊が浄化される。

「う、がぁぁぁーーーっ…か、体が…体から…違う、体自体が吸い取られる、この力は…」

『元人間の貴方なら、分かるだろう…貴方の体もまた、霊体に還元され浄化される…』

 青女の体が煙状になっていくのが分かる。その煙もまた鳥居の中に吸い込まれていく、その度に青女の体が薄くなって行く。

「すげぇ、妖怪が…霊体に戻っていく」

「ぎゃぁぁぁーーーーっ、あたしの…あたしの体が…ちくしょぉぉーーっ!」

 自棄になったのか、青女は明美に向かって爪を立てて襲い掛かってくる。

『狐火・焼兎』

ボォッ!

「ぎにゃぁーーっ!あっちゃぁ!」

 明美が放った青色の火の玉が、青女に命中して燃え上がる。

「…おお~」

「ぐぁぁーーー…あちぃぃーーーっ!」

 明美がこんな力を持ってるだなんて知る由も無く、俺はその強さに唖然としていたら…

『亮……亮っ!さっきの技を…この妖怪、大きすぎて一気に浄化しきれない』

 狐耳の明美が俺にそう言ってくる。突然で驚いたが『亮』ってあだ名で呼んだからやっぱり明美なんだって思い、俺は朱雀の札を出す。

「ああ、分かった!ようは、ばらばらにしろってんだろ?」

シャッ

 ホルダーから朱雀の札を取り出す。火種が点いてるって事は、あの狐火の炎が火種になってるって訳か!

「ぶっとばせっ、朱雀!」

『クァァァーーーーーッ!!』

ボォォーーーッ!

 手の上で燃え上がる朱雀を、青女に向かって投げつけた。

ドォォーーン!!

「ぎゃぁぁぁーーーーーっ!!」

 朱雀の直撃を受けて、青女は爆散すると白い煙のようになって空中へと漂っていく。かなり大きな霊体だ…何百年経てばこんだけ巨大な霊になるんだ?

『様々な人の霊を吸収して、自らの力も相まって『妖怪』としての体を形成していたのでしょう。肉体を破壊した事で形成していた無数の霊を解放したのです……ありがとう。亮…これで、彼らの苦しみを解放する事が出来る…』

 明美は目を閉じて俺にお礼を言ってから、頭上の鳥居に吸収されて行った。

『お逝きなさい……封・印・刷!』

 全ての白い煙が、鳥居を通って浄化されて行く。煙が徐々に光となって、天の川みたいに夜の空に消えて行った。

「おお……」

 妖怪、青女(青行燈)を霊体にして完全に除霊してしまった明美に俺の口は空いたまんまだ。そして、鳥居がノートの中に消えると明美は目を閉じる。

『……』

シュゥゥ~~

 明美は狐の巫女のような姿から徐々に人間の姿に戻っていく。

「戻った…お、おい…明美」

「……ふぅ…」

 いつもの明美に戻った明美は、ページを閉じて落ちてきたノートを受けとめると一息ついた。

「…お前、明美か?」

「う、うん…一応明美だけど…」

 照れたように笑う明美…今の状態だった頃を忘れてるのか?

「今の、お前だよな…あの狐のような人のような…あー、妖怪のような…ってか、おぼえてるか!?あー俺何言ってんだ!?」

「亮、落ち着いて…あの姿の時も私なのよ…ビックリしただろうけど」

「驚いたっていうか、あれの時の事憶えてんのか?」

「まあ、なんて言ったらいいか…あの時の私は『こっくりさん』に頼んでなってる姿だから…」


 明美の話だと、この街で頻繁に怪談伝説型の妖怪が頻発するようになった時に明美の部屋に、例のノートがありそれが切欠であの姿になって霊を浄化して行ったらしい。最初こそは、無意識だったが明美だが、『こっくりさん』と呼ぶ存在があいつの意識を取り留めてくれたらしい。

 こっくりさんとの会話は、それこそ『こっくりさん』の要領で最初のページの文字の羅列と10円玉で会話して今の状態を知ったのだと言う。

「色んな怪談伝説型の敵は人の霊で象った物だった…でもそれを作り出してるのが何者かまでは分からずじまいで…でも、同じ『あけみ』って言う名前が攫われてるって知ったから…もしかしたら、私のせいで他の『あけみ』さんも巻き込まれたのなら」

「……お前のせいじゃ」

「心配ないっすよ!他のあけみさんの居場所は、こいつが吐いたっす!」

 威勢のいい声で俺達の所にジョーが戻ってくる。ジョーの腕にはぐったりとした、あの目玉妖怪が抱えられていた。

「うー…青行燈が敗れたなんて……」

「こいつらが根城にしていた、この街の小学校の旧校舎に監禁されてるっすよ。既に佐倉先輩に連絡して救助隊を向かわせたっすよ」

「旧校舎?…お前らが、トイレの花子さんとやらを何とかしろと言ってたあの場所か?」

「そうっす、まさかあそこが根城だったとは…」

 ギルティ隊から送られた細かい依頼の中にトイレの花子さんの事があって、街にある旧校舎の残る小学校に行った事があった。

「そんな所に…無事なの?」

「全員、生きてて無事っすよ!…」

「良かった…」

 攫われた他の『あけみ』の無事を知って明美は心底ホッとしたように胸を撫で下ろす。



小学校・旧校舎

「行方不明者のリストに載ってた『あけみ』全員を確認しました」

「うむ…この旧校舎自体が結界になっておったようじゃな」

「以前、ここの依頼をした相田君が迷ったって言うのも裏づけますね…」

 雪菜と木野がギルティ隊の救助隊を引き連れて、街にある小学校の旧校舎に縛られていた『あけみ』全員の身柄を保護し終わっていた。

「しかし、何で生かしていたのでしょうか…精神力でも一人ずつ食っていると期間的にはもう死んでてもいいはず……彼女達を生かしても、妖怪達にとっては意味が無い」

「現代妖怪のイメージを彼女達からの脳から抽出するのに必要とした。イメージを形にするには彼奴らが持つ古いイメージよりも、彼女達の新しいイメージの方が、効率が良い足りない霊力を補うのにも彼女達の霊気を試用したのじゃろうて…」

「……そうですか、表面上じゃないが今回の敵は『人』…人が作り出すイメージが形作る」

「人が人である限り、それらの『負』のイメージは消しさる事はできんさ…それがどんな悲劇を産もうとも…じゃが、人はそんな物より負けん物を持っておる」

「負に負けない物…」

「左様、この永劫の時代の中で人が生きながらえてきた理由、どんな脅威に晒されようと、打ち勝てる『力』となる」

「……僕は…」

 雪菜は自分の手を見る…人の持つ『負』にどれだけの犠牲を出せばいいのだろうか…その犠牲の基に自分の『これ』があるのだろう。

「大丈夫じゃ、お主が気にする事ではない、それに…彼女らも助かったのじゃから」

「……そうですね…相田君にまた助けられましたね」

 そして、ギルティ隊により『あけみ』達全員が保護された。霊力の著しい低下により意識は失っていたが全員、数日の療養で助かるようだ。小学校の旧校舎は妖怪の根城になっていた為、浄化の為取り壊しが決まる。

『首無しライダーの殺人』『メリーさん誘拐事件』を初めとする数々の事件を、ギルティ隊が総まとめにして『現代妖怪事件』と後に呼ばれるこの連続怪事件は、主犯格の妖怪『サトリ』の逮捕、そして実行犯の『青行燈』の殲滅によりこの事件は、一応の終決した。


次の日

「本当にありがとう、亮ちゃんにジョー君」

 事件解決の次の日、明美の家を出る俺とジョーをおばさんと明美が見送ってくれた。

「亮ちゃんも、お母さんが取材から帰ってきたら連絡入れるから、その時は遊びに来てね」

「あー…いっすよ、お袋殆ど家に帰ってこないから…」

 またこの街が俺の地元だって事を忘れてたぜ…ってか、俺んち母ちゃんフリージャーナリストで世界飛び回ってるからか、家に帰ってくる事は稀だし、居たとしてもあまりあいたくねぇな。

「寺内さん、ありがとうっす!事件解決までお世話になったお礼は後でするっす!あと、めちゃくちゃにしてしまった、あけみさんの部屋の弁償は…」

「まだ子供なのにそんな気にしちゃ駄目よ、ジョー君」

「うー、それだと先輩達にしかられちゃうっすよー」

 ジョーの奴とおばさんが話してる横で、明美が俺をちょいちょいと呼び出すと、恥かしそうに畏まって…

「おう、どした?」

「ねぇ、亮…あの、助けてくれてありがとうね」

「ああ…良いって事よ。でも、あの姿には驚いたぜ」

「あの格好の事は、あまり言わないでよぉ!私も気がついたら、結構恥かしいんだから」

「そか?狐の巫女さん姿も、割かし可愛かったぞ。いつか、その姿でデートさせろよな」

 冗談交じりに言ってやると、明美は顔を真っ赤にしてモジモジしながら…

「わ、分かった…考えておくよ」

 と小声でそう言った。

「あ…ああ…頼むわ…」

 いざそういう反応されると、俺のほうも照れるっつーか…何か変な感じだ。


少し離れた場所では…

「何ていうか、相田君は相田君で大変そうですね」

「亮太にも一足も二足も遅い春が来ても良い頃じゃろうて…じゃが…」

「結果的に、今回の相田君の働きって…『タダ働き』になるんだよねぇ~。だって、相田君の本来の依頼主って、今病院だし…妖怪の事後処理はギルティ隊がするし…」

「…しかも、青行燈を浄化したのもあの『明美』のおかげじゃからな…」

 結局、今回の依頼も勇者あいだには損をする羽目になる為、二人は苦笑いを浮かべる中、向こうではそれを知らぬ当の本人が照れ笑いを浮かべている。



 事件が終わり、明美にも笑顔が戻った。怪談伝説の事件で出てきた現代妖怪達は明美のお陰で全部浄化されて成仏して行った。あの格好でいずれ明美とデートを期待しながら俺とジョーは事務所へと帰って行った。



 ってーーー今回の依頼の報酬がまったく0だとぉぉーーーー!!!



「また、この落ちかぁーーーーー!!」


次回に続く


どうも、これで都市伝説編は終わりです。

明美ちゃんも、今後の話のどこかで登場する予定です。

葛葉狐は、安部晴明の母親という話ですので、子孫である御堂君とも絡ませる予定。


この都市伝説編は語り切れていない裏話が存在するので、それは後日…


次回、ついに相田君とギルティ隊が相対します。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ