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勇者あいだ  作者: カイザ
10/12

第3話 VS都市伝説編 第三夜『追跡者』

復活第二段です!

まだまだ続きますよ~!


「…うーん」

 依頼主が相田君のところに来ないって事で、妖怪の暗躍がこれまでの依頼でもはっきりしてきている事が浮き彫りになってきた。

 署長が言うには、その妖怪の正体は僕らで調べるつもりだけど…ぬらりひょん関連なら、きっと、お爺さんに対する挑戦の意味合いもあるかもしれないな。怪談伝説で語られるようになった噂話から派生した、『現代妖怪』を…それと同じような条件を持つ怨霊を利用して、本物の妖怪化させて送り込む。新しい手口だ……ぬらりひょんに仕える仲間か、海外から呼び出した奴か…カラクリこそはっきりしない、でもそれをやってる奴が居る。

 今回相田君の所に来た依頼も…今までの事件も、そいつの仕業として、今依頼主が来ないって事は……この事を、相田君に伝えるべきか…いや、直情的な彼だ、絶対に許さないだろうな。だからこそ、ジョーにさえその事は話さなかったのは正解だけど、正解に辿りつく様にはしといた。

 たぶん、相田君もそう言った人物に行き着く筈だけど、かなり雲を掴むような話だし…そそっかしい、ジョーも居るし…。

「……まずいなぁ」

 やっぱり、僕も動かないとだめかもしれないな…まずはお爺さんと合流して、今回の依頼の状況とギルティ隊で相田君にやった達成した依頼と照らし合わせてみるか。


……

………


「お、お前…明美か?」

 俺達の前に現れた少女…彼女もまた俺の顔を見て驚いたような表情をしていた。

「りょ、亮?」

「知り合いっすか?」

 ジョーが横から聞いてくる…知り合いも何も、俺が知ってる人間だった。

「本当に亮なの?」

「ああ…お前も久しぶりだな」

「え、ええぇぇ~~~~!!!」

 彼女は俺を指刺して、大きい驚きの声を上げた。


 勇者あいだ

第3話 VS都市伝説編 第三夜『追跡者』

……

………


「本当、久しぶりねぇ~亮ちゃん元気してた?」

 ここは、本当偶然再会した幼馴染の家で、テーブルの目の前にはその子の母親が座って、俺とジョーにお茶を出している。

 そういや、思い出した…この町ってば…俺の地元だった。いろんな依頼の事で頭いっぱいで忘れちまったんだ。

 ちなみにさっきの子は、寺内明美てらうちあけみ。小学生の時からの幼馴染で、高校まで一緒に通っていたが、俺が高校中退して東京に出たことで連絡が取れなくなっていた。

「高校中退して、東京に出てった時はどうしたかとおもったよ」

「おう、連絡入れなくてわりぃな」

「おばさんからは、バイトを転々としてるって聞いたけど…その度に住居を変えてるから、連絡がつかないって聞いた」

「明美ったら、亮ちゃんの事とーっても心配してたのよぉ~」

 からかうように、おばさんが言うと明美は顔を真っ赤にしてだんっと机をたたき…

「ばっ!何言ってんのよ、お母さん!亮程タフな人なら、ちょっとやそっとじゃ死なないと思っただけよ!」

 亮…ってのは、明美がずっと俺を呼ぶ時に使ってるあだ名だ…

「そか、心配かけてわりぃな」

 ちなみに目の前にあるのは、明美がさっき買ってきたフライドチキンだ。一つとってぱくっと口に運ぶ…今はそれよりも、イタ電の依頼主の事が気になるんだけどなぁ。

「……む、こりゃ難関ね。ここまでだと鈍感の域を超えてるわ」

「お母さん!!」

「所で、亮ちゃん今どんなお仕事してるの?今日はそれで来たんでしょ、この子坊主君と一緒に…」

「ういっす!」

「ああ、俺…今な、ギル…」

「まったっす!」

 ぐいっと、ジョーに引っ張られ言おうとした事を阻まれる。

「あまりこういう情報を言ったらまずいっす…」

「なんでだよ」

「公的には警察にはギルティ隊という部隊は存在していないっすし…それに、事件の筋を話すとこの人たちにも危険が及ぶことになるっす」

「そ、そうか…わりぃ」

 ギルティ隊ってそんな世間様に知られちゃいけないような部隊だったのか…んまあ、そうでなきゃ自由に動けないだろうしな。

「探偵みたいなもんさ」

「あ、相田さんの事務所のことは言ってもかまわないっすよ」

「最初に言え!」

 というわけで、俺が今ここにいる理由を教えられるだけ明美とおばさんに打ち明けた。

「そう依頼でここに来たのに、依頼主の人が来なくて困っていたってわけね」

「ああ、そんな時にお前と会ったわけよ」

「それじゃあ、彼は?」

 明美がジョーの事を聞いてくる…そういえば、連れてきてなんだが紹介がまだだったな。

「こいつは、花城ジョー。俺のとこの事務所の研修って事で来たやつさ」

「はじめましてっす」

「あら、どうもご丁寧に~…そっかぁ、言ってみるなら助手みたいなものなのね…」

 とりあえず、明美にジョーがギルティ隊に所属している事ははぐらかしたけど、まあ、明美達を巻き込まんでもいいようにしねぇとな。

「それで、その依頼って?」

「それなんだが、依頼主の嶋 朱美…って、この依頼主も『あけみ』だな」

「ん?」

 ここに居る明美も反応する。同じあけみだからか、反応するのは当然だろうな…

「この人も同じ『あけみ』さんっすね」

「って、俺も言ったよ。しかし偶然だなぁ…この世には同じ名前を持つ人が二人いるって…それ、なんか違ったか」

 どっちかと言うと、ドッペルゲンガーって奴だろうな。

「ねえ、亮…この子、亮のとこに依頼して来ないって本当?」

「どうした、うかねぇ顔して」

「この嶋 朱美って私の学校の子に実際居るんだよ…」

「まじか!?知り合いか?」

 明美は浮かない顔をして首を振る。同じ名前の知り合いなんて早々居ないから、明美もあけみ繋がりで友達と思ってたが…

「ってー事は、俺が通ってた高校の生徒だったのか」

「そうなるかもね…」

「どうしたんすか?」

「亮の依頼って、イタズラ電話のような奴でしょ?」

「ああ、そうだが…って何で知ってんだ?!」

「明美…」

 確かにイタズラ電話の依頼でここに来たんだが、その事をまだ言ってねぇ。明美の様子がおかしいのをおばさんも何か知ってそうだし、何だ嫌な予感がするぜ。


……

………


「ふむ、それで佐倉君自ら出向いたとな?」

 事務所に一時戻った木野の元には既に、ギルティ隊から佐倉雪菜がやってきていた。

「…ええ、二人にばかり任せて置けませんしね。ここに来た依頼内容をもう一度確認したいです」

「うむ、解った」

 木野は雪菜に今回相田が受けた依頼と、現在の状況を教えた。その上で、ギルティ隊からここ木野が不在時に送った数々の依頼とも照らし合わせ始めた。

 木野が居なかった時、ギルティ隊は相田に怪談伝説に合わせたような…妙な妖怪の捜査だった…怪談伝説の妖怪…所謂『現代妖怪』というのは、噂話からの派生により様々な形や姿に変貌を遂げ、日本各地に点在している。

 その為、本来の『妖怪』とはかけ離れ、派生された『現代妖怪』は実在するかは、とても曖昧な存在なのだ。

 ただ実際、それに関する事件が増加しているのは事実である。

「うむ、首無しライダーの時といい…『現代妖怪』が現実に妖怪として実在させる、新たな手口じゃな」

「ぬらりひょんの仲間でそのような力を使う事ができるのでしょうか?」

「霊体を、上手くそれと同じように『現代妖怪』に仕立て上げる事のできる妖怪…恐らくは、かなりの神通力に長けた奴の仕業じゃろう…しかし、それに合わせた亡霊を探さん事には始まらん」

「……それに、ひとの『恐怖心』に付け込む奴…ということですね」

 雪菜は手をぎゅっと握り締める。怪談伝説というのは、人が生み出した『恐怖心の具現』…人は死への恐怖を抱えながらも、その裏ではそう言ったネガティブな事を求めてしまう。それが、取り返しのつかない物を呼び寄せる…というのは、彼の…雪菜の経験上分かりきっている。

「その後、相田君から連絡は?」

「今は無い…おそらくは君の指示通り動いてる事じゃろうて…」

 そう言うと、雪菜は手に持っていた資料を木野に渡す。木野はそれを手にして目を通す。

「む?警視庁の行方不明の捜索願かの?」

「……本局から、とある事件に関する資料です。署長から取り寄せてもらいましたよ。本庁は僕らを噂程度でしか知らないし、あくまでこれは『行方不明事件』ですから」

「ふむふむ…む!?」

 それに眼を通すと、木野は強張った表情になり雪菜に向き直る。

「どう、思います?」

 雪菜が聞くと、木野は刀を仕込んでいる杖を持って…立ち上がる。

「……罠…でしょうか?」

「じゃろうな、ここまで共通点をさらけ出してくるとすれば…しかし、この名前の子が危ないというのも事実じゃ、それに時間差もあるらしいから、敵の本拠地を探しとる余裕はないぞい」

「だとしたら、この最後の行方不明者が居なくなった時期を考えると…この依頼主は…」

「……うむ。亮太へ連絡せんとなぁ…」

 警察の資料から、見つけ出した一つの名前…それは今回の事件の最大の共通項とも言えるだろう。しかも行方不明者は一定の期間を置いて発生している為、今…相田の元に来ていない、本来の依頼主は…この期間内を置いているとすると既に……


………

……



「メリーさん?」

 浮かない表情の明美は俺たちにぽつりぽつりと、話してくれた。メリーさんの電話…それが、以前からそんな噂が流れていたらしい。

 俺が中退してバイト生活を始めてから数ヵ月後、メリーさんなる人物から謎の電話が来るようになった。噂では当初その電話を貰った人間には必ず幸福が訪れるという物で、女の子の間では相当流行ったらしい。

 怪談伝説には、昔、流行した女の子の形をした玩具の人形から来る電話で、徐々に近づいてきてそして最後に自分の後ろに居るという落ちで終わる物がある。

 確かそれは、玩具の販売元の電話サービスが元となっているという物らしいけど、色々バージョンが変わり、その人形の足が三本あって『わたし、呪われてるの…』と言った物やら…あるらしい。携帯の時代になってからはあまり話されなくなったが、その噂のバリエーションの一つに実際『メリーさん』と言うのがあるみたいだ。

 だが、ここの『メリーさん』は流行し始めた時は、幸福の電話をよこすらしく…何でか自分の悩みを言い当てて、正しく導いたり…はたまた、将来どんな男の子と結婚できるか教えたりと…幸福を与えるだけじゃないみたいだ。

 でも実際その電話を受けた人間はいなく、ただの噂だと思ったが…実際その噂の電話を受け取った人物がいたのだが、その電話は幸福を与えるとか、悩みを解決するとかそういう電話ではなく、妙な物だ。

「メリーさんが徐々に近づいてくる?どういうこった…それじゃあ、人形の話とかぶるじゃねぇか」

「うん、そのメリーさんの電話を受け取った子の家や携帯電話に、そのメリーさんが今どこにいるのかって言う電話が1日1回掛かってくるの…そして、その電話を受けた子は2週間後に失踪して行方不明になるの」

「……」

 俺も…もちろんジョーも息を飲んだ。ただ、明美の表情は何かに恐れているようだった。

「それと、お前と…どう関係あるんだよ」

「亮、ちょっと前にね私の所にその『メリーさん』から電話が届いたんだよ」

「ま、まじかよ…だけど、噂だろ?」

「だったら、良かったんだけど……学校じゃ、もう実際何人も女の子が登校拒否か行方不明になってるんだよ」

 ちょっと待て、嶋 朱美って依頼を送った奴も妙なイタズラ電話に悩まされて、学校じゃ同じ名前の奴が登校拒否やら行方不明とかになってるって…俺らの元に来なかった。

「あけみ…まさか、関係ないよな…」

「ううん、その行方不明になってる子みんな…私と同じ『あけみ』なの」

「マジか……」

 その電話がこっちの明美に来てるって事は、まさか…嶋 朱美はもう…そして、こっちの明美が次のターゲットだって言うのか?

 それを考えていると、明美は泣きそうな顔でガラにもなく震えている。こんな明美見た事ねぇ。

「明美さん…」

 ジョーが明美を心配そうにしてみていると、おばさんが俺に話しかける。

「亮ちゃん、家は亮ちゃんを雇えるくらいのお金は払えないけど…」

「おばさん、その必要ねぇよ…ここまで教えられて、黙っていられる程…馬鹿じゃねぇ」

 俺は拳を握り締める。ここまで舐められた真似をされちまって…頭に来てんだ。それはジョーも同じ気持ちだろう。

「もしかしたら俺のとこに来た依頼主はもう…いないかもしんねぇ。メリーさんってのが殺しに来るってんなら、俺達がお前を守ってやるよ!な、ジョー」

「ういっす!そういう事なら、明美さんを絶対死守してみせるっす!」

 ガシッと拳を握るジョー。こいつも少しは頼りになるよな、ギルティ隊からの研修生なら、佐倉クラスにつえー筈だし。

「任せとけ、ここでメリーさんって奴の化けの皮をはいでやるよ」

「亮…ジョー君」

 泣きそうな顔で俺とジョーを見る明美。

「あら、かっこいい事言うようになったじゃない亮ちゃん!ジョー君も頼もしいわぁ、でも何もお礼無しじゃかっこがつかないでしょ?なら、捜査の拠点としてこの家を使っていいわよー」

「まじっすか!?って…ここって、俺の地元だし実家があったような…そこを使いたかったんだけど」

 そう、この街はさっきも言ったとおり俺の地元だ。当然俺の実家もある、明美の家の近くにある筈だ。

「ああ、お母さんはまた取材だって…どっか行ってるし、遠慮することは無いわよ」

 そういえば、俺のお袋はフリーライターでどっかの新聞社に売るためのネタを年がら年中集めているんだったな。そう今、地球のどこら辺にいるんだってレベルである。

 で、親父は俺が小さい頃に死んだ。漁師だったらしいけど、ある理由で海で死んだってお袋から聞いたが、子供の頃だったし…気にはしてなかった。お袋もああだったし…

「んじゃあ、お願いしま…」

「よろしくお願いしまっす!」

 こうして、俺とジョーは明美の家にしばらく厄介になる事になった。


……

………


「え?相田?誰だっけ…」

「あれだよ、不良グループ百人斬りの?」

「いいや、小学生リレーで一人走りした…」

「めがね落としてメガネギャグやってた気もする…」

「あれ古いよねぇ」


「……俺の存在意義ってなんだぁ!」

 中退した母校のグランドにうな垂れる俺…。その背中に手を置いてまあまあと言うジョー…呆れた表情の明美。

「…小学生リレー一人走りって、どこの印象覚えてんだよ」

「仕方ないよ、亮ってサボり魔じゃない…それに、小学生の運動会だけは張り切ってたじゃない…クラスのリレーの準決めで…『俺以外にメンバーはいらねぇ!』って言って、最終的にばてて、最後感動の24時間耐久マラソンゴールみたいになってたし」

 俺らは一応情報を集める為に、中退した母校に足を運んだ。当然サボり魔の俺の事の印象は極めて薄かった。いや、薄すぎた…小学生リレーって何だよ。

「俺はこの学校を守ったんだぞ!」

「そういえば、あの不良グループ達から学校を守ったのって亮だったね」

 確か、前も話した事はあるだろうがこの学校とは別の二つの学校の番長グループ同士の抗争が丁度挟んでいたこの学校で最終決戦とまで行って、関係ない俺らの学校の生徒に被害が及んで、俺が剣道部の竹刀を借りて奴らを両成敗…

 そんで、警察沙汰にされそうになったが、学校側を守った事で何とか庇ってもらったんだけど、結局は退学しちまったわけだ。

 で、一人暮らしを始めたわけだ…

「す、すげぇっす!」

「亮はいつの間にか学校からいなくなったからね…印象もそんなでも無かったから、誰も気にしなかったのよ」

「ひ、ひでぇ…そんで…お袋も仕事でいないし…親父は知らぬ間に死んでたし、高校中退してまで一人暮らし、バイト生活始めたんだがよ…結構なんでもやってみるもんだぜ」

 色んな職でバイトやって、経験は色々積んでみるもんだ…BRも操縦できるし。そんな時この事務所を見つけて、成り行きで勇者なんてもんにやっちまった…

「ここまで、色んなのをやったぜ…」

「そうなんすかぁ、相田さんの勇者としての強さも、高校の時の喧嘩やバイト生活が繋がってるんすねぇ~」

「亮って相変わらずだね。なんか安心した」

 変な事言う明美…、まあこの場所に戻ってくるのは久々なんだ…懐かしいって言わなかったら嘘だ。ここに来てそれがかなり実感できるな…まあ、故郷っていうのかな。

「人ってもんは色んなもんを積み重ねて成長すんだけど…本質はかわんねぇもんなの」

「亮らしくない、まともな事を言った…」

「どういう意味だ…」


「そういえば、亮…この仕事始める前…大丈夫だった?」

「何がだよ、俺がこの仕事始める前って…」

「ほら、ちょっと前に…『大洪水』が世界を襲ったじゃない。…東京も相当被害にあったから…」

「!!」

 ジョーがなんか異様に驚いているようだがこの際無視しとく。

「ああ、あったな…なんか」

「のん気に言ってるけど、大変だったのよ」


 明美の言う、大洪水って言うのは…1年前辺り、世界的な異常気象で季節をまったく無視した天変地異が多発した時があった。最も酷かったのじゃ、台風が日本に5個も立て続けに直撃するのを始めとして、世界で同時多発的に巨大な台風がいくつも発生して猛威を振るった。後々で、それが一週間も続いた為、『世界を洗った一週間』と言う事になった。

 しかも、東京は大洪水で街中を洗い流した。あの災害は怪獣の時と同じくらいの騒動になったもんだが、被害や犠牲者は防衛軍の迅速な対応で何とか最小限に食い止められた。防衛軍様々だ…怪獣と戦ってきただけはある。

「あー…あれか、丁度その頃…一つの仕事辞めて、マンション追い出されてた時だったな」

 その時の事は良く覚えている。余り思い出したくもないが…

「木の上にいた…でっかい木の上…」

「木!?」

「ほら、丁度あれくらいのだ」

 学校の校庭の端っこにある雑木の中で一番大きい…と言える程度の木を指差した。高さは大体5メートルくらいか。

「あ、あれっぽっちの木の上にいたの?」

「馬鹿、木の耐久力ってとんでもねぇぞ…俺が台風や洪水で道が冠水した時とか、耐えてたんだぞ」

「水が引くのに一週間くらいかかったじゃない…」

「だ、大丈夫だったんすか?」

 あの時の一週間はただ、木の上で魚釣って食ってた。丁度いい枝と糸があったから、それで流れてくる物を色々釣ってたな。それを話してやるとジョーと明美の二人はぽかんっとして呆れてしまっているが…強いて辛かった事は…

「魚の…小骨が口に刺さって、痛かった…」

「そ、それだけ…」

「……凄い生命力っす、おいら尊敬するっす…」

「…まあ、『怪獣』が居た時よりは幾分かマシだろ?」

 大雨が降ろうが…隕石が降ろうが、街をあのでっかいのが好き勝手に闊歩する様…今でも、目に焼きついてる。

 1年前の洪水や異常気象なんかよりも、そいつらが居た頃の方がよっぽど異常だった。BRっていう人型ロボットが実用になった切欠も『怪獣』が居たからだ。

 怪獣事態は、5年前に絶滅したって話で今は何処にも居ないがその時の記憶は当時のガキだった俺や明美にとっちゃ鮮明に覚えている。

「う…うん…」

「……」

 赤い炎に包まれた街に倒壊するビル、当時子供だった俺は映画を抜けたそいつらを目の当たりにして、無力だった。俺の脳裏に黒い『怒り』の塊が街を焼き払う所が思い出される。あいつだけは…俺の手で……


「あの、ちょっといいですか?」

「あ?誰だ?」

 振り返ると、明美と同じ制服を着た女生徒が俺たちの所に来ていた。

「『メリーさんの電話』の事で、調べてるんですよね」

「おお、そうだが…なんか知ってんのか?」


………

……


 一方、相田達が情報を集めている中…木野と雪菜はとある街の一角にある一軒家に足を踏み入れていた。

「……ほう、良くここがわかったのぉ…短時間で…」

 居間のような所で、一人の老人がお茶を啜っていた。その老人は人とは思えないほど後頭部がいびつな形をしている。

 彼は人ではない…人の形をした別の者なのだ。この老人は…妖怪と呼ばれる存在の、事実上トップとされる存在、全ての妖怪事件の黒幕とされる『ぬらりひょん』と呼ばれる妖怪だ。

「貴方の使う『雲外鏡』…それに、映像を映し出すには周囲20k四方に霊力結界と、カメラ役の妖怪『馬の目』を設置する必要がある……周りの状況を外から観察するにはその範囲で受信する必要がある…だから、貴方はこの街のその範囲の霊地に居る…一つずつ潰して行ったら、辿りついたってわけです」

 雪菜は何時もの飄々とした調子とは打って変わって、冷たく凍て付くような殺気を老人の放っていた。

「あなたはそうして、高い所から人の苦しむ様を楽しんで…」

「わし等は、お主ら人間の『負の感情』が好物な連中が多いからのぉ…ひょひょ」

ぶわっ!

 雪菜の視線は老人を凍て付かせる程の冷気を放つ…老人と雪菜との因縁の深さ…

「ほうほう、ちと冷えるのぉ…久しぶりじゃ『無限』の魔術師よ、あれより腕を上げたようじゃ」

「ええ、貴方を今度は逃がしたりはしませんから、そのつもりで…」

「ひょひょ、勇ましいのぉ…若造…」

「くっ!」

 杖を握り締め、その老人に攻撃を仕掛けようとするが、それを木野が制して…

「ぬらりひょん、今度のお前の目的はなんじゃ…わしへの挑戦や、佐倉君を狙っての事じゃない…現代妖怪を作り出して何を企んでおる」

「そうさな……亡霊を使って形を成した者どもは所詮、『人の心』の生み出した偶像じゃ…その所はお主も十分承知じゃろう?幾千の人間が抱える『死への恐怖』そして、反比例するようにある『怖い物見たさ』…」

「うむ…歴史と言う物じゃろうな。数千年を生きたわしにとって、利便性を求め人が歩んだ道は…同じようにそのような『負』を生み出す」

「その通りじゃ、スサノオ。無限の魔術師も理解できるじゃろう…負が生み出す、底知れぬ『無限の闇』をなぁ」

 雪菜の心を抉る様な言い方をするぬらりひょんに、一層冷たい殺気を放って睨みつける。

「何が言いたいんですか……貴方は…」

「お主らが相手をしているものは、表面上ではないが『人』であるのに変わりがない。どう戦うかのぉ、同じ同属と…お前達が…そしてその『人』も…自らが知らず知らずの内に生み出した『負』により、滅ぶのじゃ!」

 狂気に満ちた不気味な笑い声を上げるぬらりひょん。

「言っとくけど、貴方の思い道理にはならない……僕や、ギルティが居る限り、何度だって貴方達の野望を阻止してやる…」

「……ふふふ、最初に会った時も言ったじゃろう?お前の頭にあるそれは、わしを始めとする世界中の妖怪を引き寄せるだけではない。その『無限』を欲っする輩はそれこそ『無限』に居るのじゃぞ…そう、無限の『負』が集まるのだ」

「このっ!」

ジャッ!

 杖に氷の刃を出し、氷の鎖鎌をぬらりひょんに振るう。

「なっ!!」

ガシッ!

 振るわれた氷の鎖鎌を、どこからか表れた白く長い布が巻きついて…それはしゅるしゅると全身を白い包帯のような布でぐるぐる巻きにしたような人型へと変形し、その腕に鎖鎌を巻きつけて、がっしりと掴む。

 まるでミイラ男のようなその白い布は顔の部分まで覆われて、表情は伺えられない…

「…貴様!」

「ほう、我慢できなくなったのか?『一反木綿』…」

『……』

 一反木綿の腕の布が包帯が解けるように解ける。その中は空っぽでただ、解けた白い布が不気味に浮遊する。

「…この力…」

 一反木綿の腕から離れた氷の鎖鎌をリバースさせて、杖に引き戻す。

「どこぞのミイラ男を引っ張り出したかと思ったら……」

「…むん!」

シャッ!

『……』

 隙を突いて、木野も仕込み杖の刀で居合い構えで突進するが、一反木綿は瞬時に木野の前に現れて、その刀をその身で受け止める。

ギィン!

 まるで、金属の盾に防がれたような音。鉄をも切り裂く程の霊気を剣に込めて振ったにも拘らず…一反木綿の体には傷もついていない。

「むぅ、なんて奴じゃ…」

「一反木綿は強いぞ、スサノオ…お主が以前相手にした時よりも力を増しておるぞ」

「妖気を高める事で、本来布である体を鋼鉄の如く硬貨させたり、布状に戻す事で攻撃を受け流したりもする……更に妖気を制御する事で、人型の状態を保つ事も可能か…」

『……』

しゅるしゅるしゅる…

 二人の目の前で、人の形を解き…一枚の布状の形態へと変形する。そして、彼らの後ろまで回りこむと再び人型へと戻り二人の進路を絶つ。

「…くっ!」

 更に自分らの周りを取り囲むように、無数の気配が影から現れる。

「雪菜君、囲まれたぞい!」

「じゃが、来てくれたのがお主らで良かったわい。無限の魔術師は、その力を欲する輩に高く売れる。スサノオ…貴様も生かしては帰さぬぞ」

 既に数体の妖怪によって、取り囲まれてる二人…後方には一反木綿…

「お爺さん!下がって!!」

「うお!?」

キュィィーーーーーーン!!!

 氷の鎌を消し、杖に凍て付く魔力を集中する雪菜…その氷の魔力を一気に暴発させた。


ドォォォーーーーーン!

 ガチガチガチガチ………


 建物の全ての窓から冷気を帯びた閃光が走り…建物が徐々に凍結し最後には完全に建物全体が凍りついた。

 その建物の窓ガラスから白く長い一枚の布が飛び出して、空中で浮遊する。その上にはぬらりひょんが部屋に居た時と同じように正座していた。

「ふう、危なかったわい…この程度で、捕まえられる程甘い存在じゃなかったのぉ」

 凍りついた建物を見下ろす、割れた窓から力無く上半身を露出している毛むくじゃらの妖怪…その妖怪はずるっと窓から落下して…凍りついた。

 同じようにぬらりひょんが伏兵としてよこした狸系の魍魎や毛羽毛現が、数十体置いていたが、この凍りついた建物を見ると全滅してるだろう。

 そして、凍ったままの建物は、倒壊して瓦礫の山と化した。

「まあよい、一反木綿…また別の場所でこの余興を楽しむかのぉ」

『……』

 至って自分の兵力が全滅した事も気に掛けぬように、自分を乗せている布に話しかける。どちらかと言えば、今回の事件を楽しむかのようだった。

 そして、ぬらりひょんを乗せた一反木綿は今度は見つかり難い霊地へ向けて夜空へと飛び去っていった。


「……無茶をするのぉ、雪菜君…」

「ああでもしなきゃ、脱出できませんでしたよ…」

 倒壊した建物の中から雪菜と木野が這い出してくる。

「でもどうする、黒幕はわかったとしても…今回の件を行っている実行犯はわからず仕舞いじゃ…」

 ぬらりひょんが今回の事件を握っている事は今回分かった事だが、実行犯となりうる妖怪はその場に居なかった。

「一緒に居ると思ったんだけど……一反木綿は実行犯と言うより戦闘要員…魍魎や毛羽毛現は雑魚兵だし…」

「現代妖怪を亡霊から作り出すほどの神通力を持ちながら、それを誤魔化して潜伏するのは力を持つ人間でも、悪霊でも、ぬらりひょんクラスの妖怪でも無理じゃ」

 雪菜は顎に手を当てて考える。この街で活動中の相田も今どこに居るのかわかるくらいなんだ…それでも実行犯が見つからない…

「人の心が作り出す、現代妖怪……何だろう、ぬらりひょんの言葉がやけに引っかかる…」


……


時間は戻り…



「メリーさんの電話が掛かってきた子の事を知ってると?」

 その女生徒は明美と同じく、そのメリーさんの電話とやらが掛かってきた、別の『アケミ』の知り合いらしい。

「はい、メリーさんの幸せを運ぶ電話を貰った友達のアケミちゃんが、突然行方不明になって…」

「その人って、嶋 朱美って名前っすか?」

「いえ、私の同級生の松本暁美…って言う子なんです」

「まつもとあけみ?嶋 朱美と違うアケミ…」

「は、はい…嶋さんって…?」

 別のアケミの友達と言う女の子に、簡単に今調査している事を教えてやった。ジョーの言ったように、関係のない一般市民を巻き込む訳には行かないだろう。

「アケミって名前の人が、そのメリーさんの電話を受けるみたいなんすよ」

「そうなんだ、やっぱり…」

 この子の友達の松本暁美も、行方不明になったわけだ。隣に居る明美が不安そうにその子の話に聞き入っている。

「暁美ちゃんからメリーさんの電話を受けたって事を聞いたときは、信じられなかったんですが…貴方達の事を聞いたら、これが作り物じゃないって…思えて」

「何だこりゃ……カメラか?」

 RDハンディーカム、次世代の映像規格で掌サイズなのがお得なのだと言う。このカメラは家庭用のハンディーカムだ…

「これ、暁美ちゃんが行方不明になった後、私のところに郵送されてきたビデオなんです。警察に押収されないように、隠しておいたんですが…メリーさんの電話が掛かって2週間目の日を撮ったそうです」

「ってことは、行方不明になる直前が写されてるってことか!?」

 とすれば、敵の姿や…どんな手で『アケミ』を連れ去るのか…そして、どうなるのかが記録されてる。これはとても貴重な情報源だぜ…

「すまねぇ、あり難く貰うぜ」

「お願いします、暁美ちゃんを助けてください」

「わかったっす。任せといてくださいっす」

 彼女は深くお辞儀をすると学園の方へと引き返していった。

「……」

 明美は俺の手にあるカメラを見つめながら無言になる。やっぱ、抵抗あるか…自分と同じ名前を持つ人間が、行方不明になる直前の映像なんだ。

 不安になるの当然といえばそうか…

「どした、明美…大丈夫だ、俺達がついてる。これは俺らで見るからよ」

「う、うん…」

 何とか、明美をなだめてこのビデオを見るために一度、明美の家に引き返そうとした。

「んじゃあ、ジョー。帰るか」

「ういっす!」

 と、明美とジョーを連れて歩き出したら……

「ん!?」

 ゾクリ……と背中を突き刺すような視線を感じて、俺は振り返る。誰も居ない…何だ、誰かが俺を見ていたような気配を感じた。

 今はもうしない…気のせいかな。

「どうしたの?」

「相田さん?」

「お、おう…帰るぞ…」

 気味悪りぃ…だけどここで騒ぎを起こしたら明美やここの生徒達に迷惑が掛かる、ここは帰ろう…。

なんかいけすかねぇ…



……


つづく




復活第二段!

妖怪の黒幕と言ったらこの人しかいないでしょ。

ぬらりひょんは家に勝手に入ってきてお茶を飲む…ってだけの妖怪なんですけど、いつからこの立場になってしまったのでしょうねぇ~

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