部活勧誘
「サッカー部マネージャー募集ー‼かわゆい女子come on!」
「吹奏楽部で、私たちと音を楽しみませんかー⁇」
「甲子園目指そうぜ‼」
只今昼休み。
順々にクラスを回っている先輩方は新入生GETの為の宣伝にいとまが無い。
一年の教室はこうした勧誘でいっぱいになっていた。
「すっご…。」
俺はコンビニのエビフライ弁当を食べながらポカーンとしていた。
「まぁ、今、仮入期間だからねぇ。俺も、かっわいいマネさんにあいにいこっかなー。」
焔はコロッケパンをもふもふと食べながらチャラさ全開のコメントをくりだす。
その時、廊下でなにやら騒ぎがおきた。
教室の窓側で昼飯を食っているため確認のしようがないが、女子の黄色い悲鳴が廊下に響いている。
「あー…、きたかも。」
目の前で焔が口のまわりについたソースを舐めながら言った。
どうやら、騒ぎの原因の見当はついているらしい。
「何が来たんだ⁇」
「んー、部活勧誘、みたいな?」
焔が何故か疑問系で答えた途端、ガラガラと音を立て、閉まっていた前の戸が開いた。
その途端、教室が廊下と同じ現象がおこった。
「見てっ‼碓氷様っ‼」
「「かっこいいー!」」
「なんでこのクラスにっ!?」
キャーキャー女子が盛り上がる理由がやっと分かった。
生徒会長様のお出ましだからだ。
さらりとした黒髪に銀縁メガネ、制服をきっちり着こなした生徒会長様は男の俺からみてもかなりイケメンだ。
そして猛烈に女子に人気がある。
入学式で挨拶する為に壇上に上がった瞬間も、女子の歓声が上がった。
おかげでうとうとしていた俺も一気に目が覚めたほどだ。
焔はガチで寝てたけど。
そんな生徒会長様は教室内を一瞥すると、スタスタと中に入ってきた。
…んん?なんかこっちに向かってきてる?
あいにく教室はそこまで広くなく、すぐに生徒会長様は俺の目の前まできた。
「やほー、玄ちゃん。
今日は何の用ー⁇」
「部活勧誘だ。」
生徒会長様が端的に答える。
よかったぁ、焔の知り合いね。
俺は安心してさいごまでとっといたエビフライを口に咥えた。
「御堂麒里。」
「…む、むむ⁉」
いきなり聞こえた自分のフルネームに俺はエビフライを出しそうになった。危ねー。
生徒会長が座っている俺を見下ろした。
うっ、威圧感…
「お前をオカルト部員no.4に任命する。」
「…むむ?」
俺の口からからの弁当のトレーにポロリとエビの尻尾が落ちた。
クラスが静まり返った。
でも、俺には聞こえた。
日常がガラガラと音を立てて崩れていく音が。
「ふんふんふーん♫」
「はぁ…。」
「キリちゃーん⁇ため息なんかついちゃダメダメー。人生楽しく生きないと‼」
前を歩く鼻歌交じりの焔が楽しげに諭す。
反対に俺はげっそりしていた。
きっと体重減った。
あの謎の昼休みのあと、静まり返ったクラスを残したまま生徒会長様は去り、女子共に襲われ(碓氷様があんたになんの用だったの⁉的な。女子コワイ。)、5時間目の授業も頭に入らず、今こうして焔に部室に連行されているのだ。
てか、つっこんでいいですか?
任命って勧誘じゃないから!
誘うとかってレベルじゃないよ、言葉に強制力があったよ⁉
あの場でいうほどの勇気はなかったので今言っときました。
心の中で。
「こっこだよー!」
焔は一つの扉の前で立ち止まった。
扉の上には オカルト部 ってマジックで書いてある。
よく考えたらなんで新入生の焔が部室の場所知ってんだよ。
「おっじゃまー。」
焔が容赦無く扉を開ける。
ちなみに、ここのは横に引くガラガラ式な戸じゃなくて普通にドアノブがついているドアだ。
黒板消しのイタズラは出来ません。
「玄ちゃーん。連れてきたぁ!」
「御堂麒里か。」
うっわ、名前呼ばれちゃってるよ。入るしかねぇじゃん。
俺は意を決して入った。
「…ん?」
一回でて、廊下の文字を見る。
オカルト部
うん、書いてあるよな。
もう一回中に入った。
「…え?」
「なにやってんのー?キリは。」
「…ホントにここ、オカルト部の部室?」
「…そうだ。」
生徒会長様の端的な肯定は説得力がある。だがしかし。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇ⁉」
俺の反応は一般的だと思う。
普通さ、オカルト部の部室ってなんか薄暗くてカビ臭くて呪いの本が積み上げてあって蝋燭とか骸骨とかカエルの標本とか所狭しと並んでるとかそういうイメージ?
それは先入観だ、って言われたら否めないけど。
でも、これは想像を超えてる。
ホコリ一つない室内にテーブルを囲んで座り心地よさそうなソファがどっしり据えてある。その後ろにはでっかいコンピュータが三つ。
そのコンピュータの裏には黒い背もたれ付きの回転椅子に座って緑茶を飲みながらくつろいでいる碓氷生徒会長様。
どこの社長室ですかね、これ。
「ほらほら、座って座って!」
焔はもう自分の部屋のようにくつろいでいる。
座っていいものか迷うがこのまま立ちっぱなしというのも気まずい。
俺は大人しく右側の1人がけソファに座った。
「そこがお前の席か。」
生徒会長様が納得したように言った。
お前の席か、って。
俺なんかがソファ使っちゃって…ってそこじゃない!
「あのー…俺ってもうこの部に入ってるんですかね…?」
「そうだが?」
いや、何か文句でも?って感じに言われてもねぇ…
「あのー、なんで俺なんですかね?てか、オカルト部って?」
生徒会長様はメガネの奥で驚いたように目を少しだけ見開いた。
「焔。」
「なんでしょーかせんぱーい。
あ、キリ、これお茶ね。」
「お前、御堂麒里に説明してないのか。」
生徒会長様の鋭い視線にも焔はひるまない。
長ソファに靴を脱いで寝っ転がっている。
「だってぇ、確信なかったしぃ?
俺説明超ニガテぇ。」
「はぁ…」
呆れたと言わんばかりの生徒会長様。
「えーと?」
「すまない、この馬鹿が何も言ってなくて。」
生徒会長様は持っていた湯のみをトンと置いた。
「ここ、オカルト部は表の顔だ。
本当の顔はオニ対策本部だ。」
生徒会長様は真面目に言い切った。