入学式
今日は入学式だ。
昨日の今日でなかなか慌ただしいが俺は結構うきうきしていた。
「よしっ、と。」
俺は紺のブレザーに腕を通して鏡の前に仁王立ちする。
ネクタイもキチッと…はせず、少し緩める。
俺、平凡だけど優等生じゃないし。
髪は癖っ毛であっちこっちに跳ねてるけどこれは直し様がない。
10分で諦めた。
「おおっ、高校生っぽい。」
俺は鏡に映った自分を見て大いに満足した。
昨日の晩、新品の段ボールを開けた瞬間、灰色じゃなくて心底ほっとした。
鉄パイプ持って襲ってくるような奴らが同じ学校だなんて最悪。
…白パーカーの君も違う学校だとなお良し。
と考えつつふと時計をみると、デジタル時計がキッパリと、
8:27
と表示していた。
やっべ、入学早々遅刻じゃん!
とかベタな展開にはならない。
学校には歩いて20分のハズだ。
今から家を出て道に迷わなければなんの問題もなく9時の入学式に間に合う。
「じゃ、行ってきます!」
「1番最初だ、しっかりやってこい!」
「いってらっしゃい。」
どっかの襖の奥から聞こえたじっちゃんの大きな声を背中でききながら、にこにこ笑って立っているばあちゃんに小さく手を振ると俺は家から出た。
昨日通った道を抜け、同じ制服の男子学生や、女子学生を見ながら歩いていると意外にも早く学校に着くことができた。
今日から俺が通うここ、
私立青葉高校は第一印象なかなか良い学校だ。
いろいろ慌ただしくって何もこの高校の予備知識もなく来てしまったが、グラウンドも広いし体育館大きいし校舎自体も随分キレイだ。流石私立。
学力は中の上と言った所だ。
後は友達が出来るか、だな。
入学式をやる体育館には俺みたいなぴっちぴちの新入生がひしめいているがその中には、中学校でいっしょだったのか、すでにグループになって談笑してる奴らもちらほらいる。
ま、クラス分ってからだな。
とりあえず、席はどこでもいいらしいので後ろの方のパイプイスに座ると携帯を取り出す。
ヒマな残り10分このまますごすか、と携帯を見ていると、
「隣いいー?」
と声が聞こえた。
「どうぞー。」
顔をあげないまま了承するとギシッとパイプイスらしい軋み音がして誰かが座った気配がした。
「入学式めんどいよねー。」
「え、まぁ。」
話しかけられて初めて顔を上げた。
顔をあげると男子学生がにこにこしながらこっちを向いていた。
俺より着崩した制服に赤毛をワックスでちらしている。
外見を一言で形容するなら、チャラ男。
「キミって見たことない顔だねぇ、この街の人じゃないよね?」
会話になりそうなのでパタンと携帯を閉じる。
「一応この街に住んでる。てか昨日越してきた。」
「昨日ー!?昨日の今日で入学式ってなかなかハードだねぇー?」
「まぁね、俺もかなりハードだと思う。疲れるわー。」
わざとらしくため息をついて見せると、チャラ男は楽しげに笑った。
「面白いねぇ、キミ。俺は、飛鳥井焔 って名前ー。ホムラってよんでぇ?キミの名前は?」
「俺は、御堂 麒里。」
「え、マジ?御堂って苗字!?」
何故か俺の苗字を聞いて焔が目を見開く。
え、何その反応。
「そうだけど…。御堂ってそこまで変わった名前か?」
聞きかえしたときには、焔は元のにやけた表情に一瞬にして戻っていた。
「いやー、何となくねー。じゃあさぁ、キリってよんでいい?」
「え?ああ。いいよそれで。」
何となくごまかされたような気もするが入学早々名前呼びのできる友だちができたのはよかった。
「同じクラスだといいな。」
「そーだねー。キリと同じクラスだとこれから楽しそーだし。」
司会進行の『一同起立!』の掛け声で俺らは口を噤んだ。
「俺は1組か…」
クラスの黒板に貼ってある紙に書いてある窓際の席におとなしくつく。
きょろきょろと周りを見ると一番廊下側の席でどっかで見たような赤髪が大げさに手を振ってきた。
焔だ。
「同じクラスじゃん。」
ふりかえそうした時、ガラガラととびらが開く音がしてピタッと周りが静かになった。
入って来たのはガタイのいいおっさんだ。
きっと、体育教師…
「あー、みんな席つけー。」
立っている奴が居なくなるとおっさんはぐるりと教室を見渡して
「五十嵐だ。この1年1組の担任。担当教科は国語だ。」
と、簡単に自己紹介をした。
国語、だと…?
その筋肉で国語教師は詐欺だろ。
漢字を教えるのにその力瘤は必要あるのか。
そんな俺をよそに五十嵐は勝手に出席をとっていく。
「玉城、玉城…ちっ、入学早々いねぇのか。」
珍しい欠席に俺の目はただ一つ空いた机へ向いた。
入学式休みって…熱でも出たんだろうか。
じゃなきゃ、なかなかないよな、入学式に休みとか…
「三浦…御堂…御堂!」
「ふぁい!?」
おっと、思わず奇声が。
俺の反応に周りがクスクス笑っている。
うわ、恥ずかしい…。
俺は机に突っ伏した。
春って風は冷たいけど陽射しはあったかい。
状況が状況なのに突っ伏していた俺はその恩恵を十分に受ける席でそのまま寝てしまった。
「…リぃ。キリー。キーリーさーんってば!」
「うえっ!?」
顔をあげると焔の顔が目の前にあった。
「おっはよー。最初から寝るなんてキリってば意外とやるぅ!」
「寝た…って、え?」
よくよく周りを見ると五十嵐も居ないし、がやがやと騒がしい。
「もうホームルーム終わったよぉ。帰る時間だよー。」
「マジ!?」
「ってことで一緒に帰りましょーよ。」
「あ、うん。」
俺はまだぼんやりしている頭をひとつ振るとカバンを掴んだ。
「とっころでさぁ、部活なに入るー?」
真昼間、早すぎる学校帰り。
さっきの昼寝の余韻の欠伸をした俺は焔を見上げた。
「部活?はやすぎねぇ?
今日入学式だったってのに。」
「そんな事ないよぉ。明日から仮入部始まるよー?」
あ、キリは寝てたから聞いてないかぁと焔はクスクス笑った。
「部活、ねぇ。俺やったことないんだよね。」
「え、マジー?中学校の時はー?」
やってない、って意味で横に首を振る。
中学校の頃完璧に一人暮らし状態だった俺は料理、洗濯家事全般自分でやらなきゃいけなかったから部活とかめんどくさくて入ってなかった。
休日はゲームしたりとか。
よくよく考えたらなんか不健全な中学生だったな、俺。
「まぁ、高校は部活はいってもいいかな…焔は?」
と、逆に聞き返す。
「俺はー、帰宅部とオカルト部兼部って感じぃ?」
いやいや、帰宅部は兼部するもんじゃない。
部活やってない奴を帰宅部、もしくは青空クラブと言うのだよ。
いや、それ以前に。
「オカルト部ぅ!?」
チャラ男である(俺認定)こいつの口から出てくるなんて驚き。
「中学校からの続き?みたいなー。ま、オカルト部っつっても呪いとかそーゆーことする訳じゃないよ?」
だからってオカルト部とか意味わかんなすぎる。
驚きすぎて言う事も見つからないでいると、
「あ、俺の家あっちだわ。」
「そっか、じゃあここでさいなら、だねぇ。」
いうが早いか焔は手を振って行ってしまった。
と、思いきや、
「あ、そこのキミぃ、ちょっと遊ばなーい?」
と、女の子をひっかけているのが見えた。
チャラ男はあくまでチャラ男だな。
オカルト部は…忘れよう。
なんかあいつのキャラが崩壊する。
「ふぁ…ねみ…。」
俺はもう一つ欠伸をするとだらだらすべく家に真っ直ぐ帰った。