始まり
それから2時間後…
窓の外がオレンジに染まり始めたころ…
「おわっ、た…。」
荷ほどきが終わり、俺は力尽きてベットに倒れ伏した。
「うっわ、ふっかふか。」
ベットまで上等だ。
俺は貰えるものは貰っとくタイプだから容赦無くごろごろする。
起き上がって部屋を見渡すと達成感に包まれる。
「さて、これが何日続くかね…。」
俺はキレイ好きな方ではまったくない。
え?一人暮らしの時はって?
親父が帰ってくる前に大掃除で誤魔化してましたが何か?
そのせいで正月は押入れに触れなかった。
雪崩注意報が発令されるからね。
「…そこら辺散歩するか。」
とりあえずちょっとした地理を覚えた方がいいだろう。
俺は階段を降りると野生の勘を頼りになんとか玄関に辿り着き、スニーカーをつっかけると
「ちょっとそこら辺歩いて来る!」
と声をかけ、外に出た。
全く知らない街をぶらぶらする。
周りは住宅街でときどき、
コンビニやら、夕方タイムセールでおばさんが群がるスーパーやらがある。
もうちょい先に行くと駅とかあるらしいからそっちの方が栄えてるんだろう。
すべてが見慣れない風景だ。
「なんかこれからここに住むって実感わいてこないなぁ…」
俺は呟くと、高速で振り向いた。
夕暮れの中サラリーマンやら、買い物がえりのおばさまのチャリやらが道を行きかう。
道の端で立ち止まった1人の少年を見ている奴なんて誰1人としていなかった。
「っかしいなー?」
独り言を呟きたくなるほどおかしい。
この街に来て、どっかから視線を感じるのだ。
もしかして…
「ストーカー…?」
呟いてから俺はぶんぶん首を振った。
ないっ!ないない!
俺にはストーカーされるような要素がないぞ!
平凡ですよ、平凡。
てか、ストーカーとかいう思考回路にいたった自分がキモい。ナルシストっぽくて。
と、1人自己嫌悪に陥ってると、傍から呻き声が聞こえた。
「ぐぁっ!」
ドサッ
「え…?」
横向くとそこは公園。
公園ってもブランコと滑り台と砂場と不良数人しかないが。
え、不良…?
「てめ、よくもヒロちゃんをぉ!」
「は…?てめぇらがイキナリ殴りかかってきたんだろうがよ。」
灰色のどっかの制服をきた不良3人と白いパーカーを着たこれまた不良が向かい合って睨み合いの図。
ちなみに制服3人組のうち1人は頬を押さえて倒れている。
つまりあいつがヒロちゃんか。
「目障りなんだよ!」
そういってのこり2人が一気に殴りかかる。
あ、やべ。こんな冷静に観察してる場合じゃなかった。
喧嘩とか好きじゃないし、逃げ…
「がっ!」
ゴッ ドッ
「ぐふっ!」
鈍い音と呻き声と共に2人とも地に崩れ落ちた。
それを見下ろして白パーカーはポケットに手を突っ込んだ。
「今度は相手見てから喧嘩売るんだな。」
げっ、瞬殺!?
…これは下手に関わるとヤバい。
そう思った瞬間、白パーカーの彼と目があってしまった。
気が立っている不良と目が合う。
其れ即ち、
『何見とんじゃごらぁっ!?』
的展開。
「おい。」
白パーカーが話しかけてくる。
…ここは聞こえないふりだ。
俺は早足で歩き出した。
「聞いてんのか、そこの。」
ええ、聞こえませんとも…
ってあれ?
ちっとも前に進まない。
何かに引っかかって…
後ろを振り返ると不良さんが袖を掴んでいらした。
「…どわっ!?」
思わず変な声を挙げて後ずさった俺に不良さんは眉間にきっちりシワをよせ睨みつけてきた。
近くでみるとあれだけの大柄な不良達を瞬殺したわりに少し男子高校生にしては小さめな俺と同じくらいの背丈だ。
黒い短髪に白いメッシュをところどころ入れている。
その不良さんは俺の手首を握った。
「…お前、何者だ…?」
「何者って…?」
質問の意味がわからない。
ただ、答えないのはよくない。
無視したら彼の怒りを買いそうで怖い。
「…極々一般などこにでもいる平凡高校生ですけど。」
結構勇気振り絞って答えると不良さんは怪訝そうな顔をした。
えー⁉どんな反応?
むしろなんて答えればよかったんだよ!
こういうときほとほと自分が嫌になる。
一つは親父と同じ。
頼まれたら断れないお人好しだってこと。
もう一つはコレ。
トラブル巻き込まれ体質だってこと。
本当に勘弁してくれ。
「平凡?な訳ねぇだろ。
さっさと吐けよ。あぁ?」
白パーカーは目からビームが出そうなほど睨んでる。
とりあえず、これ以上分からない展開になるのは困る。
そう思った俺は咄嗟に夕焼けを指差し、
「あ、UFO!」
と叫んだ。
…言ってからかなり後悔。
どんな古い手だよっ!
案の定不良さんは微動だにしない。ですよね、わかります。
「…は?」
アレ…?
手の力が強くなってるヨ…?
きっとあれですね、この後に及んでふざけてんのかこの野郎みたいな。
火に油そそいでしまった。
万事休す。
でも本当にわかんないよ、この人の攻略法。
その時、白パーカーにとっても、俺にとっても予想外の出来事が起きた。
最初に殴られた不良…たしかヒロちゃん…が復活して追いかけてきたのだ。
しかも、どっから持ってきたのか鉄パイプ持参。
「いつまでも調子乗ってんじゃねぇっ!
振りかぶられた鉄パイプが勢いよく目の前の白パーカーの頭に落ちる。
俺は咄嗟に白パーカーの手を振りほどいていた。
パシッ
パイプを振り下ろされる前に掴むと俺はその不良の腕を掴んで懐に入り込んで背負い投げした。
ドサリ
「ぐぁっ‼」
腰から落ちた鈍い音と、ヒロちゃんの苦鳴に俺は我に帰った。
なんで不良から不良助けちゃってんだよ、俺ー‼
余計に事を大きくしてどうする!
でも、白パーカーはこの事態がまだよくつかめていないらしく、唖然としている。
つまり、逃げるには十分な隙だ。
俺は死ぬ気でダッシュした。
「…あ、おいっ!待てって…!」
後ろでなんか聞こえるが、振り向いている余裕なんてない。
俺は玄関をくぐるまで久々の全力疾走した。
この街にきて初日そうそう変なのに絡まれたもんだ。
道歩く時は会わない様に気をつけよう。
とくに、ヒロちゃんにあったら間違いなく殺られる、俺。
次はあんなこと出来ないだろうし。
俺は玄関でぜぇはぁしながらつくづく思った。
その願いが虚しく終わるのはそう遠くない未来だった…。