始まり
改めました。
今読むと変なとこが多すぎる…
桜がひらひらと舞う。
この道路は道に沿って桜がソメイヨシノが植えてあり“桜ロード”と言うらしい。名前つけた奴は適当すぎると思う。
花吹雪とでも言うべきその中の一枚がフロントガラスにぺたり、と貼りつく。
花びらは少し抵抗しつつも、自動車が生みだす人工の風に引き剥がされ飛んでいった。
俺はそれをガラス越しに目で追う。
視線を向けた先には制服を着た学生が歩いているのがちらほら見えた。
見たことのない制服。
当たり前だ。
かなり幼い頃は来たことがあるようだが、物心ついてからこの影宮町に来たのは初めてだ。
そして今日から俺、御堂麒里はこの町に住むことになる。
事の始まりはちょうど2ヶ月前くらいだ。
親父が死んだ、らしい。
らしい、というのは死体がないから。
なんというか、山に入ってそのまま行方不明。遭難してそのまま死体も見つからない、ってことらしい。
もともと単身赴任していた父だ。
いつもふらりと出て行ってふらりと帰ってくる。
だから帰ってこなくてもしばらくは全く心配していなかった。
俺は親父と2人で暮らしていた。
まぁ実際は、親父はよく仕事で家を開けていたため、隣の家にもお世話になり、最終的に一人暮らしに落ち着いた。
まあ、とにかく親父が死んだと連絡を受け、俺は慌ただしい形ばかりの葬式が終わってから困った。
親父は自分に多額の保険金をかけていたからそこそこの財産を残してくれたのだがこれ幸いとばかりに寄り集まって来た親戚にほとんど巻き上げられてしまった。
母親は幼い頃死んでしまったから保護者もなし。
「中卒で就職とか難そうだな。
うぬぬぬぬ…」
と1人ごちていると救いの電話が一本かかってきた。
それは親父の実家、じっちゃんばあちゃんのお誘いで
「いっしょに住まないか。」
という内容だった。
高校も行かせてくれると聞いて俺は二つ返事で賛成した。
家を売り払って、荷物をまとめて、御近所さんに挨拶して…
そして今に至る。
隣にいるのはわざわざ迎えに来てくれたじっちゃんだ。
「なぁ、じっちゃん。
あの黒い学ランって俺が行く高校の?」
「む?」
じっちゃんはちらりと目だけ動かすと歩いている学生を見た。
「どうだったかのー…忘れたわ!」
「さいですか…。」
はっはっはと豪快に笑うじっちゃんを見てると明らかに親父はじっちゃんの血が流れてるなと思う。
俺はそこまで豪快じゃない。
きっと母親に似たんだ。
そんなことを考えているとキキッとブレーキが踏まれた。
思わず前のめりになる。
「わっ!」
「ほい、着いたぞぉ。」
俺は顔をあげた。
俺がこれから住むことになる…
「まじですか…?」
豪邸だった。
バタンッ
少し勢いよく車のドアを閉める。
じっちゃんはすでに車の裏を開けて両手に荷物を持っていた。
「あ、いいってじっちゃん!
自分でやるから!」
俺は駆け寄ろうとして…
立ち止まった。
いま、なんか視線を感じたような…
あたりを見渡しても特に何もいない。
でも、確かに背中がぞくりとした。
「おい、どうした?
置いてくぞ?」
玄関の前でじっちゃんが振り返っている。
「あ、うん。」
俺は残りの荷物をトランクから引っ張りだすと慌てて駆けよった。
「うっわー、何コレ。」
木造のこの豪邸の内部はとりあえず外見のイメージ通りだった。
畳に襖、障子、おまけに日本庭園が見れる縁側までついている。
「よく来たねぇ、麒里。」
どっかの襖から(もう判別不明)出てきたばあちゃんはにっこり笑いかけてくれた。
じっちゃんとは反対にばあちゃんはいわゆる、現在絶滅危惧種の大和撫子って感じだ。
茶道、生花、舞踊、なんでもござれみたいな。
いや、実際にやってるのかは知らないが見た目が。
「久しぶり、ばあちゃん。」
「じゃぁ、とりあえず麒里の部屋に案内してあげようか。」
「そうだなぁ、この荷物置いてこにゃならんし。」
そういうとじっちゃんはあっという間にスタスタと歩いて行ってしまった。
「あらあら、お早いこと。
私たちも行きましょうか。」
ばあちゃんはしずしずと歩き、俺はきょろきょろしながらついていった。
「麒里の部屋は2階ですよ。」
そういってばあちゃんは2階へ上がって行く。
「よかった、1階だったらわかんなくなってたし。」
ほっとしながら言うとばあちゃんは階段を上がりながらクスクス笑った。
「ほら、ここですよ。」
階段上がってすぐってのもわかりやすい。
俺は襖をさっと引いた。
「あれ…?」
「どうしたの?」
部屋の中にはすでにじっちゃんがきた後らしく、荷物が置いてあった。
でも、そこじゃなくて。
「畳じゃない…。」
このいつの時代の武家屋敷ですか、見たいな所にフローリングの床と窓硝子とどでかいテレビとパソコンとベットがあっていいのだろうか、いやよくない。
「あぁ、麒里はあんまり畳に慣れてないと思ってね、業者さんに頼んで作り変えて頂いたの。」
「は?俺が入るから!?」
「もちろん。」
孫の為に一室リフォームですか。
しかも、他の部屋からみてボロい部屋だったって訳でもないのだろう。
まぁ、畳に30分正座したら余裕で足痺れる俺としては、正直洋間はありがたかった。
「ありがとう。」
歓迎されているのが伝わって来て素直にお礼を言うといえいえ、とばあちゃんは口元に手を当ててお上品に微笑んだ。