71 今日もこの世界は平和です
最終回。
「ふああ、よく寝た。おーい、クレアー、クレアーッ!」
昼過ぎまで寝ていた俺は階段を下りていく。
「なーに、どうしたの? いつもこの時間は起こしても起きないのに」
「ハハハ、なんかおかしな夢を見てさ」
「へぇ、どんな夢?」
「んー、俺が世界を救う夢、かな?」
ありきたりな日常。
平和な日々。
そして、大切な人と、一緒にいるという充足した毎日。
ただただ、毎日同じように時間が過ぎ去っていくこの世界で、
俺は、ひと時の幸せを掴み取ったのだ。
「アハハ、それ、夢じゃないでしょ? 私たちが、救ったんだよ。世界を――!」
「そうか、そうだったな……」
未だに信じられない。
俺が世界を救ったなんて。
俺は、近いうちにクレアと結婚する。
別に、ビッツェのように子孫を残すとかそういう責任感からではない。
ただ単に、ずっと一緒にいたい。
そう思えたからだ。
「クレア、愛してるよ」
クレアにやさしくキスをする。
その瞬間、玄関の扉が勢いよく開いた。
「おっと、昼間っから仲がよろしいこって!」
「ライアンッ! またてめえはノックもせずに人の家に……!」
「まあまあ、そう怒るなって! もうじき祭りの時間だろ? 早くいこーぜ!」
「ああ、もうそんな時間か」
ここ最近は、ずっとこんな調子だ。
ライアンは、前より自信に満ち溢れた表情をしている。
あの時、ライアンが助けてくれていなければ俺がブラックドラゴンを倒すこともできなかった。
けど――。
「ふっふっふ、世界を救った英雄御一行様だ! 図が高いッ! この印籠が目に入らぬカアアア!」
たこ焼き祭りの町に着いた途端、ドヤ顔でそんなことを言うライアン。
俺は、ライアンの頭を思いっきりどついてやめさせる。
「別にそういうつもりで世界を救ったわけじゃないだろうが!」
「な、なんだよ、別にいいじゃないか。ほらほら、町のみんなも大歓迎だぜ~?」
そういう問題じゃないだろう。
なんていうか、英雄とかそういうのって照れくさいし。
「キャー、ナイト様ー!」
「うわっと」
たくさんの女の子たちが群がってくる。
……英雄ってのも悪くないかもしれない。
そう思ったのも束の間、背後から物凄い殺気を感じる。
「ナイトォ? 雷と炎、どっちがお好みなのかなー?」
「ど、どっちも好きじゃありません! だ、だから、やめ……うわあああああ」
文字通り嫉妬の炎に焼かれる俺。
「うぇいうぇーい、あんたらは相変わらずだねえ」
「ジェミン、こんなところで何をやってるんだよ」
「イッヒッヒ、英雄であるあんたたちの偉業を世界に広めながら旅をしてるのよさ!」
ライアンが英雄だなんだ騒ぐ前から、俺らが注目を浴びてたのはお前のせいか!
宴会芸で、操ったり洗脳したりしてるんじゃないだろうな?
「んー、それにしても、あのピエロみたいな格好はもうやめたのか?」
「イヒヒ、もう自分を偽る必要がないからねえ」
どういう意味だろうか。
まあ、ジェミンもまた今回のことで何か吹っ切れたことがあるんだろうな。
「このたこ焼きは全て私のものよ!」
「いや、それはさすがにどうかと思うぞ」
祭りで大量のたこ焼きをゲットした俺たち。
バケツ一杯のたこ焼きを抱えて嬉しそうにクレアが言う。
ああ、本当にたこ焼きが好きなんだな。
でも……。
「さあ、たこ焼きを配りに行くぞ!」
「ええー、まだ私、30個しか食べてないッ!」
「それだけ食えば十分だろうが!」
お前はどこの大食い魔王だ。
……。
大食い魔王……か。
シャルノは、どうなってしまったんだろう。
ブラックドラゴンは俺が倒してしまった。
どうしようもない状況だったとはいえ、胸が引き裂かれる思いだ。
魔道兵器スライムのことをもっとよく理解していればこんなことにならなかったかもしれない。
俺がもっと強ければ、何か別の方法で魔王を封印するなり元に戻すなりができたかもしれない。
俺のせいだ――。
「あーっ!!」
「うわ、びっくりしたなあもう、なんだよクレア急に叫んだりして」
ふと横を見ると、空っぽのバケツを手に涙目になっているクレア。
「ちょ、おま、それ全部食べちまったのかよ!」
「ち、違うの! 私じゃないよぉ、ちょっと目を放した隙に空っぽになってたんだから!」
「ハハ、まさか、そんな大量のたこ焼きを一瞬で食えるはずが……」
俺がすぐ横に目をやると、何やら怪しげなダンボールが置かれている。
もしや……。
「犯人確保ーっ!」
「ひぇぇぇ、ごめんなさい、ごめんなさい、お腹が空いてしまったので食べてしまいましたぁ」
「しゃ、シャルノ! 良かった生きて……」
ダンボールの中には、魔王シャルノが入っていた。
感動の再会――のはずなのだが……。
「この大食い魔王っ!! 今日という今日は許さないわあああ! よくも、よくも私の命より大事なたこ焼きを食べてくれたわね! フレイムバーストォ!」
「だって、しょうがないじゃないですかー。 ここ数日、ろくに食べてなかったんですよ? ストロベリープレッシャーッ!」
いきなり魔法を撃ち合い始めるクレアとシャルノ。
その流れ弾が当たってライアンが死にかけているが見なかったことにしよう。
「ニャハハ、二人は本当に仲が良いのニャ!」
「どこがだよ。あれは仲が悪いって言うんだ……ってレミエルじゃねえか! なんでお前がここにっ!」
「うちは魔王様を守るのが役目だからニャア。そんなことより、うちの分のたこ焼きはないのニャ?」
「お前はサカナでも食ってろっ!」
呆れた様子でくつろぐ猫耳のレミエル。
魔王たちを止める気はさらさらないようだ。
「って、ちょっと待てええ! 魔王が生きてたってことはまたいつかブラックドラゴンになっちまうんじゃないのか?」
「ニャハハ、心配ご無用! そん時はまたナイトっちがなんとかしてくれるニャ」
な、なんだってえええ。
どうやら俺の平凡な日常は、長く続かなそうです。
でも、それで良いのかもしれない。
俺の知ってる異世界とは違ったけど、俺にとって何よりも大切で素晴らしい世界なのだから――。
最後まで読んでいただきありがとうございました!




