69 守るべきもの
ブラックドラゴンの鋭い爪に引き裂かれた勇者クレアは倒れてしまう。
そして、追い打ちをかけようとブラックドラゴンが氷のブレスを吐いた。
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「うおおおおッ!」
氷のブレスを衝撃波で弾き飛ばす。
ブラックドラゴンが使っていたスキルを模写したのだ。
「シャルノ、俺は心のどこかでお前を倒したくないって思っていたのかもしれない……。その気持ちが、俺の攻撃を鈍らせた。だが、俺はもう迷わない。愛する人を守るために、俺は戦うッ! そのためならば、この命さえ惜しくはないッ!」
覚悟を決めるんだッ!
これ以上、誰も苦しませたくない……。
「うおおおお、サンダーボルトォッ!!」
近距離からの、特大の魔法を放つ。
しかし、ドラゴンはひるむことなく俺の身体を切り裂いた。
「ぐ、まだだ、まだ倒れるわけにはいかないッ! なんとしてでも、ここで、お前を倒すッ!」
俺は、まだ諦めるわけには行かないッ!
クレアは、俺が守るッ!!
「勇者ファルス、もう一度、俺に力を貸してくれッ! ライトソードッ!!」
光の剣を手に、俺は捨て身で走り出す。
そして、全身全霊の一撃。
全ての魔力を使い、ドラゴンの身体を切り裂いた。
ブラックドラゴンと共に、俺はその場に倒れ込む。
うぐ、身体が動かない……。
残された力を全部使ってしまったようだ。
だが、それでいい。
俺の命と引き換えにブラックドラゴンを倒すことができたのだ。
それで十分じゃないか。
俺は元々、一度死んだ人間だ。
もう、思い残すことは、何もない。
さようなら、魔法の世界。
さようなら、クレア。
俺は、静かに目を閉じた――。
「――ッ!」
な、なんだ?
誰かの声が聞こえる。
「ナイトさんッ!」
だ、誰だ、俺の名前を呼ぶのは――。
「ナイトさん、起きてください。私です、スフィアですよ!」
「うぇいうぇーい、なんだいなんだい、ひどい怪我じゃないのよさ! まさか死んでるんじゃないだろうねえ?」
スフィア?
それにジェミンも……。
どうしてここに……。
「えへへ、ソニアがね、ナイトさんを助けに行くって言い出したんですよ。心の中じゃなく、自分の声で」
「そうそう、あれには驚いたよ。急に、こんなところで死を待つくらいなら、せめて最後くらい僕も戦いたいって城から飛び出していくんだもんなあ」
「……も、もうその話はやめようよぉ」
そうか、助けに来てくれたのか。
でも、俺はもうこれ以上は動けない。
だから、せめて……クレアだけでも助けてやってくれないか?
「弱気になってはダメですよ! 私だって、ナイトさんやクレアさんからいっぱいいーっぱい勇気をもらったんですからね!」
「クク、そうだとも。君にはまだ私の実験に付き合ってもらわないと困るよ? 未知のスキル『コピー』をぜひとも研究させてもらわないといけないからね!」
アイゼン博士もいたのか。
今でも研究熱心なのは変わらないんだな。
「クク、それにしても、せっかく魔王の魔法結界を消す魔法道具まで持ってきたというのに、無駄になってしまったようだね。まさか、魔法結界がある状態で倒すなんて、一体どういう魔法を使えばそんなことになるのやら……」
あ、ああ、やけに魔法が効かないと思ったらやっぱり魔法結界が張られていたのか。
「まあ、何かあったら僕が時間を戻してやろうと思ってたけど、その必要もなかったようだね」
ニースがフンと鼻を鳴らす。
「縁起でもないことを言うなよ……、バッドエンドはゴメンだぜ?」
「ハハハ、冗談だよ、冗談! さあ、カラリア城に帰ろう! 英雄様の御帰還だッ!」
そう言って、ニースが俺に肩を貸してくれる。
クレアのほうもジェミンがお姫様抱っこで軽々と持ち上げていた。
そして、アイゼン博士が用意したワープゲートに入ろうとしたその時――。
「……! みんな伏せるんだッ!」
アイゼン博士が突然叫ぶ。
そして、視界が真っ赤に染まる。
「博士ッ!!」
宙を舞う博士。
俺が見つめるその先には――。
「あ、ああ…………、ブラックドラゴンが……生きていた……」
倒したと思っていた、ブラックドラゴンがこちらを睨み付けていた。
「そ、ソニア、ダメです! 近付いたら殺されてしまいますよっ!」
「……言っただろ? 最後くらい、僕も戦いたいって……」
俺たちを守るかのように、飛び出していくソニア。
しかし、瞬時にドラゴンの炎のブレスに焼かれてしまう。
「あ、ああ……うわああああああっ!」
ニースが頭を抱え叫ぶ。
もしかして、これは……。
――タイムリセットッ?
そう期待した次の瞬間、ドラゴンの放つ衝撃波で吹き飛ばされてしまう。
ニースと共に飛ばされた俺は地面に叩きつけられ、意識を失ってしまったのだった。




