68 ブラックドラゴン
魔王シャルノの魔力が暴走し、ついに真の姿『ブラックドラゴン』へと変化する。
その強さは予想をはるかに超えていたのだった。
---
しかし、ブラックドラゴンには弱点があった。
まだ目覚めて間もないからか、動きがかなり鈍いのだ。
たまに強力な衝撃波を出してくるが、それ以外の攻撃は俺でも避けることができる。
どんなに強い攻撃でも当たらなければどうということはない。
とにかくここはヒットアンドアウェーだ。
俺たちはかなり遠くからでも魔法で攻撃が可能!
対するドラゴンのブレスや引っ掻きは近寄らなければ当たることはない。
衝撃波だけ気を付けていれば良いというわけだ。
クレアの言うとおりだ。
諦めちゃいけない!
実力で遠く及ばない相手でも、戦い方次第で勝機はあるのだッ!
「サンダーボルトォ!」
「ねえ?」
「ん、どうかしたか?」
「なんで、あんたがさっきから普通に魔法撃ってんの?」
戦い始めてから数十分、地道にコツコツ遠距離から魔法を撃つ俺たち。
クレアが、戦闘中にも関わらず質問を投げかけてきた。
「ああ、死にかけた時に受けた攻撃スキルを自分のものにできるみたいなんだ。俺はいつもお前に殺されかけてたからなッ! ハッハッハ!」
まあ、コピーの能力を知ったのはついさっきだけどな。
過去にコピーしたスキルは、そのまま自分のスキルとして使うことも可能らしい。
それでも、すぐに使いこなせるわけではないため、ある程度練習が必要だったが。
「なるほどね~、じゃあ、まだ覚えてないスキルも覚えさせてあげるわッ!」
「おいバカ、やめろ。今はそんなことしてる場合じゃないからッ!」
俺に向かって魔法を撃とうとするクレアを制止する。
さっきまで絶望的な状況だったはずなのに、クレアと一緒だと不安が吹き飛んでしまうな。
良いことなのか悪いことなのか。
まあ、悲観してるよりはずっとマシか。
俺たちの攻撃が効いてるかどうかもわからない。
おそらくかなりの長期戦になってしまうはずだ。
そういう状況の中で、何よりも大事なのは精神を安定させることだ。
一度のミスが致命的になる状況において、それが何よりも難しい。
「うわっとっと」
「もう戦闘中にぼーっと突っ立ってるんじゃないわよ! 危ないじゃないの!」
ドラゴンの攻撃を危うく食らいそうになる俺。
クレアが、そんな俺をたしなめる。
ぐぬぬ、俺に魔法を使おうとしたやつに言われるとは……。
「ハァハァ、ねぇ、ナイト、私たちの魔法効いてないんじゃない?」
「ゼェゼェ、ど、どうかな? ちょっと不安になってきた……」
長期戦を覚悟していたとはいえ、ブラックドラゴンは平然としている。
ダメージを受けた様子は全くなかった。
むしろ、攻撃速度が徐々にあがってきてるようにさえ思える。
魔道兵器と同じく、特殊なバリアが張られているのではなかろうか。
もしそうだとしたら、俺たちがやってることは無意味に近い。
ダメージが通らない相手に魔法を撃ち続けても倒すことはできないのだから。
しかし、俺にバリアを剥がすことはできない。
クリスタルドラゴンのバリアを剥がしたのは、ブラックドラゴンとなってしまったシャルノだ。
作戦変更しようにも、ブラックドラゴンに不用意に近づくことはできない。
ドラゴンブレスに焼かれ炭になるか、鋭い爪に引き裂かれるのがオチだ。
だが、このままでは俺たちの体力がもたない。
一体、どうすれば……。
「ギャオオオオンッ!」
突然、ドラゴンが大きな叫び声上げ、空に浮かびあがった。
「ま、マジかよ、あの巨体で空を飛ぶっていうのか!?」
「え、ちょ、ちょっと待って! 空を飛ばれたら、距離を取りにくくなるじゃない! どうするのよっ!?」
「どうするって、言われても……。一先ず、岩陰にでも隠れてだな……うわっと」
空から容赦なくドラゴンが炎と氷のブレスを吐いてきた。
攻撃パターンが変わった……?
これじゃあヒットアンドアウェーどころじゃない。
「サンダーボルトォッ!」
「ギャオオオンッ!」
俺がダメ元で、ブラックドラゴンの羽に向かって魔法を放つ。
すると、地響きとともにドラゴンは地に落ちた。
「よっしゃあ! クレア、羽だ! 羽を狙うんだ!」
「分かったわ!」
ドラゴンの硬い鱗と違って羽ならば、ダメージを与えられるのかもしれない。
今がチャンスとばかりに、全力で魔法を撃ち続ける。
「ハァハァ、やったか!?」
「……ねえ、どういうことよ。弱るどころか、どんどん魔力が増えていってるわ!」
「そんなバカな! これだけの量の魔法を撃ったんだぜ? さすがにこれで起き上がれたら……」
「……危ないッ!」
次の瞬間、俺を庇ったクレアがドラゴンの爪に引き裂かれる。
「く、クレアッ!」
「う、ガハッ……」
クレアがそのまま力無く倒れる。
「おい、しっかりしろ!!」
「……ナイト、私は、勇者失格ね……魔王を倒すことが、できなかった……。この世界を、守れな……かった……」
「もういい、もうしゃべるな!」
そして、クレアを抱きかかえる俺のすぐ後ろにはドラゴンが迫っていた。




