67 前に進む力
ライアンの放った突風により、なんとか迫りくる壁からの危機を脱した。
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俺は後ろを振り返る。
漆黒の闇が広がり、不気味なくらい静かだ。
心臓が激しく鼓動する。
手足がガクガクと震える。
怖い――。
死ぬかもしれないという恐怖心。
一人ぼっちの絶望感。
今にも頭がどうにかなってしまいそうだ。
――でもここで、立ち止まるわけには行かない。
頼れる仲間たちが俺を前へと導いてくれたのだから。
勇気を振り絞り、前を向く。
そして、一歩。
また一歩と前に進み続ける。
この先に何が待ち受けているのかわからない。
それでも、前に進むしかないのだ。
やがて、奥の部屋から赤い光りが見え始める。
その光を頼りに進んでいく。
すると、細い道が一気に開け地下とは思えないほどの広い空間に出た。
そして、そこには赤い炎に焼かれて転がる無数の巨大モンスターの死骸。
「……!」
勇者クレアが部屋の中心に倒れていた。
俺は急いで駆け寄り、クレアを抱きかかえる。
「おい、大丈夫か! クレア、しっかりしろ!」
「ナイト……、ごめん、ごめんね……私が、魔王をいつまでも放置してたから、こんなことに……げほっ、ごほっ」
今にも消えてしまいそうな弱々しい声。
「どうして、こんな無茶をしたんだ。ずっと一緒にいるって約束したじゃないか!」
「魔王を倒すのは、勇者の役目……。誰も巻き込みたくは、なかった……」
「バカヤロウ! 俺はお前の壁だッ! 誰が何と言おうと、俺はお前を守る。例え何があっても――だ!」
「だ、ダメ……だよ。もう、私、これ以上、誰も失いたくない――」
勇者ファルスを失ったクレアは、誰かを失うことを極度に恐れている。
「ふっ、大丈夫だ! 俺は、そう簡単にやられたりしないっ! あのスライムの攻撃からも無事に生還したんだぜ? ちょっとは俺を頼ってくれてもいいじゃねえか」
奥で目を閉じ微動だにしない魔王シャルノのほうへ向かう。
シャルノの身体から魔力のオーラが溢れ出ている。
「シャルノ……、聞こえるか? ごめんな、お前がこんなにも苦しんでいたのに、俺は何もしてやれなかった。ありきたりな言葉だけで、励ましたつもりになっていた……」
「……ナイ、ト…………良かった、最後にあなたに会えて…………、もう、時間が、ありません……。早く私を、倒してください……。手遅れになる前に――」
もう、迷わない――。
もう、逃げない――。
クレアだけに、この重荷を背負わせたりしない。
覚悟を決めよう。
誰かが犠牲にならなければ、この世界を救えないのなら――。
「勇者ファルスよ、再び俺に力をッ!」
大丈夫、俺は一人じゃない。
みんなが、俺を助けてくれた。
だから、今度は――。
「ライトソードッ!」
光の剣が魔王シャルノの身体を貫いた。
その瞬間、光が闇に包まれる。
「なっ、なに!?」
そして、部屋が闇にのまれていく。
「シャル……ノ?」
禍々しい黒いドラゴンが姿を現した。
こ、これが……魔王シャルノの真の姿だというのか!?
「ギャオオオオオオンッ!」
ドラゴンの声が響き渡る。
それと同時に、大気が震えるかのように振動する。
俺は弾き飛ばされ、地面に叩きつけられた。
直接攻撃されたわけでもないのに、この威力……。
桁が違いすぎるッ!
ハハハ、デススコーピオンが可愛く思えるぜ。
もはやこれまでだ。
さすがに、こんな相手に勝ち目はない。
近寄ることすらできやしないじゃないか。
「フレイムバーストォッ!」
後ろから、巨大な炎が放たれる。
しかし、当たる前に闇のオーラに吸い込まれ炎は消えてしまう。
「ハァハァ、何やってるの! 早く、早くアイツを止めなきゃ!」
「そんな、ボロボロの身体で何を言ってるんだ。今のアイツの攻撃を見ただろう? レベルが違いすぎる……。俺たちが敵う相手じゃないッ!」
「だから何? それで諦めるの? 私は勇者よ! この命に代えても、この世界を守るわ!」
クレアは、まっすぐと前を向いて力強く言った。
そうか、そうだよな。
例え、敵わないと分かっていても、諦めたらそこでなにかも終わりだ。
クレアは一人でも、諦めずに戦い続けていたのだ。
それなのに、俺が諦めてどうする?
戦うべき時は今なのだ!
「分かった、何としてもアイツを――、シャルノを止めるぞ!」
今ならファルスの気持ちがよく分かる。
俺には守るべきものがある!
諦めてたまるかッ!




