66 世界を救うために
ミルフィさんから魔道兵器スライムの新事実を聞いた俺は、砂漠の迷宮を突き進む。
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「いきなり走り出してどうしたんだよー」
「スフィアが地獄より魔王が蘇ったって言ってた。もし、ミルフィさんの話が本当なら……」
すでに、シャルノは真の魔王になってしまっているかもしれない――ッ!
「どういうことだ? 魔王は今でもスライム化によって魔力を発散させてるから真の姿に変化することはないのでは?」
「いや、『神秘のレモン』を使うことで強制的にスライムから元の姿に戻してたんだよ」
まさか、魔道兵器スライムが魔王の魔力を消費するために考案されたものだったなんて――。
それを無理やり元の姿に戻していたとなると……。
「際限なく増え続ける魔力が暴走し、やがて魔王を真の姿へと変化させてしまう――ッ!」
カラリア王国に現れたモンスターの数からしても、これは異常事態だ。
地獄より魔王が蘇りし時、世界は闇に飲み込まれる――。
まさに、今がその時なのだ。
「でも、どうしてそんな急に? 魔王ちゃんは、ついこの前まで普通にしてたわよ、ね?」
「おそらくオレたちの結婚式で大量の料理を食べたせいだな」
ビッツェが降らす料理には、魔力が豊富に含まれている。
その料理を大量に食べたシャルノの魔力は爆発的に増加したというわけだ。
おそらく、クレアは誰よりも早くそのことを察知したのだ。
だから一人でこの慟哭の砂漠へとやってきたのだろう。
待ってろよ、クレア。
シャルノを食い止める方法があるのかどうかはわからない。
でも俺が必ず、なんとかしてみせるッ!
物凄い轟音と共に、迷宮の壁が崩れる。
「な、なんだ!? またモンスターか?」
「……ここから先は一歩も通さないニャ」
死神の鎌を持ったレミエルが現れた。
「レミエル、そこを退け! 早くしないとシャルノが真の魔王になっちゃうんだぞ!」
「なら魔王様を殺すニャ? 真の姿になる前に――? そうはさせないニャ! 魔王様はうちが守るニャ。それが最後の役目だからニャ。ここを通りたければうちを倒してから行くニャア!」
ヤバイ、本気の目をしている。
魔王の側近レミエル、素早い身のこなしと空間制御によって攻撃を当てることは困難な相手だ。
「――エターナルスリープッ!」
「ニャッハ! 同じ手は通用しないニャッ!」
ミルフィさんがレミエルを眠らせようとするも、瞬時にかわされてしまう。
あの速度の魔法を避けれるってどうなってんだよ。
しかも、ほとんど不意打ちに近かったのにッ!
「フィッシュレインッ!」
「ニャ、サカナニャア! サカナが降ってきたニャアアア!」
ビッツェがサカナの雨を降らす。
それに釣られるレミエル。
「ハッ、しまったニャア! 放してニャ! うちが魔王様を守るのニャ! 誰もここを通さないのニャアアア!」
「今のうちだ、オレはこいつをここで足止めしておく。お前たちは、早く先に進むんだ! 魔王が真の姿になるのをなんとしてでも食い止めるんだッ!」
ビッツェがレミエルを取り押さえている。
俺はコクリと頷き先を急ぐことにした。
今は、一刻の猶予も許されない。
できるだけ早く、魔王のところへ行かなければ――。
「……じ、地震?」
迷宮が大きく揺れる。
「ち、違う、これは――」
超巨大なドラゴンゾンビが現れた。
「ミルフィさん、危ないですよ!」
「うふふ、大丈夫です。これでも私は勇者クレアちゃんにも認めらてるんですよ?」
ミルフィさんが、すっと前に出て身構える。
「ここは、私に任せてください。ナイト君たちは早く魔王ちゃんを――」
「で、でも――」
こんな巨大なモンスター相手に一人なんて無謀すぎる!
「聖なる力よ、我に力を与えん。『ホーリーガード』ッ!」
光に包まれるミルフィさん。
それと同時にドラゴンゾンビに向かって走り出した。
「さあ、今のうちに行くのです。大丈夫、僧侶である私がアンデッドに負けたりなんてしませんから、ね?」
俺が迷ってるとライアンが俺の手を掴んで無理やり引っ張り走り出す。
「おい、ライアン放せよ。ミルフィさん一人に戦わせるわけには――」
「今は、シャルノちゃんを止めることが最優先、そうだろう?」
ライアンが、柄にもなく真面目な顔をして言う。
分かってる、俺だって分かってるよ。
今為すべきことが何なのか――。
一刻も早く、シャルノの魔力が暴走するのを食い止める。
真の魔王の姿となってしまったら最後、誰にも止められなくなってしまう。
突然、背後にあった壁が迫ってくる。
「な、なんだこれは、何かのトラップか!?」
「と、とにかく急いで逃げよう!」
壁には特大の針。
追いつかれたら一巻の終わりだ。
「ぐ、このままだと追いつかれる……ッ!」
「ふー、ちょっとこれ、貸してもらうね」
「ん? な、何をする気だ?」
ライアンが俺からアイゼン博士の発明品が入った袋を奪い立ち止まる。
「いつも助けてもらってばっかりだったからね。今度は僕がナイトを助ける番さ」
「おい、無茶だライアン。あの壁は魔法道具じゃ止められないッ!」
「大丈夫、僕は正義の味方だから――」
ライアンが微笑む、それと同時に物凄い突風で俺の身体は宙を舞ったのだった。




