63 砂漠の迷宮とデススコーピオン
巨大モンスターの群れを一掃し安堵したのも束の間、流砂によって地面に飲み込まれてしまう。
俺たち四人が辿り着いたのは、自然にできた洞窟ではなく遺跡のような場所だった。
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「んもう~、ビッツェったらこんな場所でそんなところを触っちゃダメよ~、ね?」
「ミルフィ、どこか怪我とかしてないかい? あんなに高いところから落ちたんだ。膝や腰を痛めてないか心配で……」
俺は、微かに太陽の光が降り注ぐ天井を見上げながら溜息をついた。
あんなところから落ちてきてよく無事だったなあ。
それにしても、こんな時に目の前でイチャついてるバカップルはどうにかならないものか。
リア充、爆発してしまえ。
そんなことを考えていたら、ミルフィさんと目が合う。
こちらに近付いてきて、何やら辺りの壁を調べ始めた。
「あらあら、すごいわ~。慟哭の砂漠の地下にこんな場所があるなんて~、ね?」
「一体、ここは何なんでしょう。秘密基地というわけでもなさそうですし……」
俺とライアンは、散らばったアイゼン博士の発明品を再び回収し袋に入れていく。
ワープゲートの魔法道具は壊れて使い物にならないようだ。
「ここは、古代遺跡か何かかしら? 不思議ね~」
そんなことを呟きながら、一人でズンズンと突き進んでいくミルフィさん。
そのすぐ後をビッツェが慌てて追いかけていく。
俺もついていこうとするが、全く動こうとしない男が一人。
「ライアンはこんなモノをつけて、一体何をやってるのかなー?」
「あ、アハハ……、博士の発明品の袋にコレも入ってたから、つい」
ゴーグル型ゲーム機をつけて、一人ゲームをやり始めていたライアンの首根っこを掴む。
「ついじゃねえよ! この非常事態にゲームなんかやってる場合かっ!」
「い、いやあ、現実から目を背けたかったというかなんというか」
気持ちは分かる。
冷静になると、死の恐怖で押しつぶされそうになるのだ。
だからといって現実逃避してる場合じゃない!
俺は強引にライアンからゴーグル型ゲーム機を奪い取って袋に入れる。
「ねえ、ナイト」
「なんだよ。何と言われようが、このゲームは没収だからな?」
「ううん、違うんだ。なんか変な音が聞こえない?」
「ん? 気のせいじゃないか? 別に何も聞こえ……あれ? 本当だ。何の音だろう?」
何かを地面にこすりつけるような音。
さらに、液体が滴り落ちるような音が遠くのほうから聞こえてきた。
その音は、ゆっくりと、そして着実に俺たちのほうへと近付いてくる。
「な、何かな? ミルフィさんたちかな?」
「音からして違うだろう、もっと巨大な……って、俺の後ろに隠れるなよ」
俺の背中に身を隠し怯えた様子のライアン。
一般市民を盾にする正義の味方がどこにいるんだ。
「音が……消えた?」
近付いてきたはずの音が突然、鳴りやむ。
ゴクリと唾を飲みこみ、目を凝らしてみるが何かがいる様子はない。
古い遺跡だから、風か何かの音を聞き間違えたのだろうか?
しばらく、様子を見てみるが何も起こらない。
「ぷはー、なんだ気のせいかー。また巨大モンスターが現れたのかと思ったよー」
ライアンが、そんなことを言いながらペタンと座り込んだ。
「おい、安心するのはまだ早いぞ」
「大丈夫だって、ナイトは心配性だなあ! さあ、急いでミルフィさんたちを追いかけよう!」
ライアンがそう言って立ち上がる。
ピチャリ、と再び水が滴り落ちるような音がした。
「ん? なんだこれ?」
何かが上から降ってきたのだ。
謎の液体が俺の右手に付着する。
見てみると、緑色のどろっとした液体だった。
手にこびりついて離れない。
その液体は酷い異臭を放っている。
なんでこんなものが空から……?
俺が液体が落ちてきた場所を見上げる。
するとそこには――!
「きょ、巨大サソリィイイ!」
サソリの尻尾の先端からポタポタと緑の液体が滴り落ちている。
「げげっ! もしかして、これサソリの毒なんじゃね?」
「ちょ、ちょっとナイト、僕の服で毒を拭わないでよー」
巨大サソリを前にして、涙目になる俺たち。
「ら、ライアン、正義の味方だろ? さっきの牛みたいにパパッとやっつけちゃってくれよ」
「そそそ、そんなこと言われても、て、手が震えて……ナイトこそ、スライムの力を解放してなんとかしてよ!」
スライムの力ってなんだよ!
こんなときに分けの分からないことを言いやがって。
「よし、良いことを思いついたぞ。名付けてライアンを囮にしよう大作戦!」
「冗談でもそういうこと言わないでくれよー」
「いや、俺は割と本気だ」
「なにそれ酷い」
このまま二人で死ぬよりはマシだろうに。
「なら、死ぬ気でついてこい!」
そう言って走り出そうとする俺。
しかし、足が絡まり派手に転倒する。
いつから俺はこんなドジッ子になってしまったんだ。
「い、いってええ」
「な、ナイト、大丈夫?」
まずい、今ので足を痛めてしまった。
このままでは二人ともお陀仏だ。
「ライアン、俺のことは気にせず早く逃げるんだ!」
「うん、わかった!」
ライアンが頷きそのまま走り去ってしまう。
残された俺の背後から、ずるずると尻尾を引きずりながらゆっくりと近付いてくる巨大サソリ。
俺は、再び死を覚悟したのだった――。




