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俺の知ってる異世界と違う  作者: オッド
第七章 平凡な日常
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59 今こそ目覚めの時

 アイゼン博士のダメージを肩代わりした勇者ファルスは、満身創痍になりながらもスライムと戦い続けていた。

 激しい戦いを繰り広げるファルスとスライム。


 どうして、そこまでして戦うんだ?

 もう立っていることもできないはずなのに、何故――?


 それでもついに力尽きて勇者ファルスが倒れる。

 スライムが奇妙な音を立てながら、ファルスに近付いていく。


「あ、危ないっ!」


 俺が急いでファルスのもとへと駆け寄ろうとするも、見えない壁に阻まれる。

 そこに、ミルフィさんがやってきて勇者を庇うように前に立った。


「ミルフィ、どうしてここに……」

「ごめんなさい、私、どうしてもあなたを死なせたくなかった――」


 スライムがミルフィさんに向かって強力な炎を吐いた。

 

「ハァハァ、まだ、だ……、まだ僕は、倒れるわけには……いかないっ! 守るべきものが、あるのだからっ!」


 勇者ファルスが立ち上がり、炎の中へと突き進んでいく。


「我が魔力を全て解放し、この一撃に賭けるっ! ライトソードッ!」


 光り輝く勇者ファルスが、スライムの身体を突き破った。

 そして、そのままファルスは地面へと叩きつけられる。




「ファルスッ! しっかりして! お願い、目を開けて!」


 倒れた勇者ファルスに回復魔法を使いながら必死に叫び続ける。

 すると、ファルスがミルフィさんの手を握りしめた。


「ミル……フィ…………」

「ファルス、良かった! 大丈夫、私がどんな傷でも治して見せるわッ!」

「今まで、ありがとう……、クレアを……よろしく、頼む……」

「ファルス? ウソでしょ……? 起きて! 起きてよ! ねえ! 約束したじゃない、私と結婚してくれるって……これからずっと一緒だって、そう……言ったじゃない…………お願いだから、私を一人にしないで……」


 勇者ファルスの手を握りながら、ミルフィさんは泣き崩れたのだった。

 その瞬間、世界が歪み始める。





 何もない、真っ白な空間へと変わる。

 俺とミルフィさんだけになっていた。


「ミルフィさん……」

「どうして、どうしてこうなってしまったの? 私のせいで……ファルスは死んだ……?」

「違う、違うよ」

「ナイト君……? どうしてここに? ここは私が作り出した夢の世界よ。この世界なら、ファルスと幸せに暮らせると思ったのに――でも、ダメね……。私には、夢の世界でもファルスと共に生きることを許されてはいないみたい」


 ミルフィさんは打ちひしがれたように、下を向いたまま動こうとしない。


「……こんなところにいちゃダメだ。ここはミルフィさんの居るべき場所じゃない。今こそ目覚めの時なんだッ!」

「イヤよ。もういい、もういいの。私のことは放っておいて、ね?」

「……」


 俺の必死の説得も虚しく、ミルフィさんは頑なに起き上がろうとすらしない。


「ビッツェも心配してますよ? ほら、早く立って帰りましょう? 元の世界へ!」

「う、うう……ダメ、ダメよ。彼に合わせる顔なんてない。私は、私は……、ファルスを忘れるために――、そのためだけに結婚を決めた酷い女なの。それなのに、ビッツェさんはいつもいつも私に優しくしてくれた。だから、これ以上彼を傷つけたくないッ!」


 くそ、ダメだ。

 俺なんかじゃミルフィさんの心を動かすことはできない――。

 こんな時に、ファルスがいてくれたら――。

 いや、今のミルフィさんに必要な人は……。


「いつまでそうやってるつもりだい?」

「えっ? び、ビッツェさん? どうして……こんなところに……」

「ミルフィを起こすために決まってるだろ? 辛いことも悲しいことも、一緒に乗り越えていこう。これから、楽しい思い出を一緒に作っていこうぜ、な?」

「でも、私――」

「知ってるよ。勇者ファルスが好きだったことも、その面影があるナイトが好きだったことも、全部。ファルスのことを忘れろなんて言わない。なんなら心の整理ができるまで結婚を延期しても良い。だから、だからさ、戻ってきてくれないか? もう一度、もう一度だけ、オレにチャンスをくれないか?」


 ビッツェがミルフィさんの手を優しく握りしめる。

 ミルフィさんは、優しく微笑み立ち上がろうと……。


「ミールーフィー、見つけたわよー!」

「あら? く、クレアちゃん?」


 何故か、全身傷だらけの状態のクレアが怒りのオーラをまとって現れた。


「さっさと、起きなさーいっ! サンダーボルトォッ!!」

「おい、バカ、やめ……」


 物凄い雷鳴と共に、世界が歪んでいく。

 







「し、死ぬ、死ぬうううっ! ハッ!」

「ニャニャ! ナイトが起きたニャ!」

「おお、他のみんなも起きたぞー、ばんざーい!」


 俺が目を覚ますと、そこは結婚式を挙げていた部屋の片隅。

 どうやら、無事に元の世界へ戻ってこれたようだ。


「ふふっ! 私の手にかかればミルフィを起こすことくらい造作もないわ!」

「こ、このバカッ! 戻ってこれたから良いものの、あんなことしてもし、夢の世界へ閉じ込められたらどうするんだよ! ほんとにお前は、後先考えずに……」

「うふふ、アハハハハ!」


 ミルフィさんが突然笑い出した。


「ふふ、ごめんなさい。私は、本当にバカね……。こんなにも、私のことを心配してくれてる人がいるのに……」

「じゃあ、やっぱり、自分で自分に睡眠魔法を……」

「ええ、どうしてかしら、急に怖くなってしまったの。これから、本当にビッツェさんを愛していけるのかどうか……」


 マリッジブルーというやつか。


「ビッツェさん、ビッツェさんどうしたの!?」

「う、うにゃあ、か、雷、雷が……」

「よっしゃあ、今すぐ治療してやっから、大人しくしとけよ? ほらほら、動くんじゃねーよ、治療できねーだろうが!」

「う、うわああああ」


 何故か、夢の中のダメージを継続しているビッツェに慌てて回復魔法を使うミルフィさん。

 その形相は相変わらず怖かった。


 でも、これならもう何も心配しなくて大丈夫だろう。

 二人は、今まで以上に深い絆で結ばれたはずだから――。

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