56 結婚の理由
「ナイト、一体どんな魔法を使ったのですか?」
式に戻った後、シャルノが小声でそんなことを聞いてくる。
何のことか分からず聞き返す。
「クレアさんですよ、突然、あんなに機嫌が良くなるなんて、ちょっと怖いくらいです」
「あ、あー、なんでだろうな? 俺にもよくわからん……」
殴られたから機嫌が悪いのかと思いきや、そういうわけでもないらしい。
こういうときにスフィアのように心が読めれば、クレアが何を考えているのかわかるのにな。
「ニャハハ、ナイトはまだまだお子ちゃまだニャア!」
「どういう意味だそれ」
レミエルがよく分からないことを口走りながら、料理を頬張ってる。
「ワハハハ、さすがナイト殿だ。クレア殿もすっかり元気を取り戻しましたな」
「え、えっと、俺は特に何もしてませんけど……」
ドバイさんが笑いながら俺に話しかけてきた。
いつもはクールなドバイさんのイメージとは大違いなのは、酒のせいだろうか。
「ささ、ナイト殿もどうぞ、お飲みください」
「え、えっと、俺はまだ未成年なんですけど……」
「おお、なんと嘆かわしい! 私の酒が飲めないと言うのですか!」
「あ、いや、そ、そういうわけではないのですが……」
やたらと酒を進めてくるドバイさん。
俺が困っていると、ライアンが割って入ってくる。
「フフ、ナイトの代わりに僕が飲みましょう」
「お、おい、お前も未成年だろうが」
「何を言ってるんだい? 僕はもう立派な成人だよ」
またライアンの嘘かと思ったら、どうやら本当らしい。
この世界では十五歳で成人なのだ。
言われてみれば、十五歳のビッツェが結婚だもんなあ。
それにしても、俺と同い年なのに結婚を即決できるなんて凄いよなあ……。
結婚を急ぐ理由でもあるのだろうか。
よし、後でそれとなく聞いてみるか。
「おーい、ビッツェー」
「はにゃ、どちら様でしょうか? ぬへへへ」
だ、だめだこりゃ。
完全に出来上がってるな。
でも一応聞いてみるか。
「ビッツェさんはどうして結婚しようと思ったんですか?」
「んー? そんなの決まってるだろう! 子作りするためさ」
酔っぱらってるせいか、ストレートにそう言い放つビッツェ。
良いのか、そんなので。
「オレが天候を司る魔法使いなのは知ってるだろう? だから、早いうちに子孫を残しておく必要があるんだよ」
と思ったら、いきなり真面目な顔をしてそんなことを言う。
「つまり、どういうことですか?」
「料理を降らす魔法は、勇者のテレポートと同じく遺伝で継承されていくスキルなのさ。もしオレが死んでしまった場合、誰も料理を降らせることができなくなってしまうんだよ、そうなったら困るだろう?」
「な、なるほど……それでこんなに早くに結婚を決めた、というわけですか」
「まあ、そうだな。数年前の事故で、俺の両親も兄弟もみんな死んでしまったからね」
そうだったのか。
ビッツェのことを軽蔑しかけた俺が恥ずかしい。
この世界のことを考えて、与えられた責務を必死に果たそうとしていたなんて。
「そのことはミルフィさんも知ってるのですか?」
「ああ、もちろんだよ」
もしかして、ミルフィさんが結婚を決めたのって、この世界を救うため?
本当は、ビッツェのことが好きなわけではなかったりして。
さすがにそれはないか。
いくらなんでも嫌いな人と結婚しようなんて思わないよな。
それに俺が知る限り、二人はかなり仲が良いはずだ。
「つまり、つまりだ、勇者も早く子孫を残さないといけないわけだ、わかるかな~?」
「えっ?」
「次は、お前の番だってことだよ。まあ頑張れよ! ハッハッハ!」
ビッツェが笑いながら俺の肩をバンバン叩いてくる。
いきなり、結婚だ、子孫だ、言われてもなあ。
「た、大変だっ! 誰か、誰か早く来てくれっ!」
突然、誰かの叫び声が響き渡る。
急いで、声のするほうへと向かうと、誰かが倒れている。
なんだ、飲み過ぎでぶっ倒れたのか?
よく見ると、倒れているのはミルフィさんだった。
「ど、どうかしたんですか?」
「わからない、突然、意識を失って倒れたんだよ」
「おい、ミルフィ、どうした、しっかりしろ! 何があったんだ!」
ビッツェがミルフィさんの肩を揺らし必死に呼びかける。
しかし、反応はなかった。
あれ、この症状、どこかで見たような?
「ちょっと失礼……、こ、これはもしや……!?」
「なんだ、何が起きたというのだ」
「どうやら眠ってるだけのようです」
「へ?」
何度も見てるこの症状、俺が見間違えるはずがない。
「なんだ寝てるだけかよ、驚かすなよな」
「でもこれ、永久睡眠ですよ」
「なん、だと!? 一体、どういうことだ」
「さあ、俺に言われてもわかりませんよ」
とりあえずミルフィさんを起こして、何があったかを聞いてみるか。
……。
あれ?
永久睡眠を解除できるのって、ミルフィさんだけなんじゃ――?




