51 神の力
「ククク、君のスキルが何なのかはわからないが、それでも私を倒すことは不可能なのだよ。私は負けない。負けるはずがないッ! 私には、神の力があるのだから!」
後ろに回り込んだアイゼンが白衣のポケットに手を入れる。
俺はその瞬間を見逃さなかった。
「やはりそうか、タネが分かってる手品はもう終わりにしよう。そんな力じゃ俺は倒せない」
「クク、そんなハッタリは通用せんぞ? 油断は一度きりだ。まずはそのおしゃべりな口を塞いでやろう」
「フ……おしゃべりなのはどっちかな?」
アイゼンが右手を俺の視界に繰り出す。
それと同時に俺はアイゼンがポケットにしまったままの左手を勢いよく掴んだ。
「な……!?」
「なるほどね、これが『神の力』の正体ってわけだ」
カランカランと音を立てて何かの装置が地面に落ちる。
そう、アイゼン博士は魔力のないただの発明家に過ぎない。
神の力とは、スキルの力を宿らせる魔法道具なのだ。
「ぐ……、しまったッ!」
慌てて地に落ちた装置を拾おうとするアイゼン。
その背後から、俺は拳を振り上げる。
「もらったッ!」
「……クク、言っただろう? 油断は一度きり、とな!」
「……!?」
か、身体が動かない……!
そうか、やつの所持スキルは少なくとも五つ以上。
まだ魔法道具を隠して持っていたというわけか。
「ククク、危ない危ない。私の力を見極めたところまでは良かったが、詰めが甘かったようだな」
「ぐあああッ!」
「ナイトッ!」
アイゼンが動けない俺の腹を思い切り蹴り飛ばした。
それを見たシャルノが駆け寄ってくる。
「その足をどけなさいッ! ストロベリープレッシャーッ!」
「うぎゃあああっ!」
「き、消えた!?」
アイゼンが空間移動で消える。
そのため、シャルノの魔法が俺に直撃した。
「だ、大丈夫ですか? 酷い傷! 今すぐに治療しますね」
「テメーがやったんだろうがああっ!」
わざとやってるんじゃないだろうな?
あの距離で魔法を撃てば、アイゼンが消えなくとも巻き込み確定だったじゃねえか。
「はひぃ……」
「……?」
治療をすると言ったはずのシャルノが突然変な声を出してその場に倒れる。
「おい、シャルノ、大丈夫か? おいッ! って、寝てるだけ?」
「クク、邪魔者には少々、眠ってもらうことにした」
シャルノとレミエルが眠ったまま目を覚まさない。
「へへ、本当に厄介なやつだぜ」
「クク、この状況で笑っていられるとはたいしたやつだ。諦めの境地というやつかな?」
アイゼンは、俺に何度も魔法を放つ。
全て魔法道具によるものだ。
特殊スキルだけではなく、ありとあらゆる魔法を使いこなせるなんて。
道具を使うだけなら、俺にも勝機があるかと思ってたが誤算だったか。
「……も、もうやめるんだ、アイゼン博士……。こんなことしても、三年前には、もう、戻れないッ! ニースの、時間制御は、魔法道具化できなかった……そうだろう?」
「クク、ククク……」
アイゼンは突然笑い出す。
時間を戻せるならとっくに戻してるはずだ。
それをしないということは、つまり――。
「クク、フフフ、フハハハハッ! 本当に恐ろしいやつだ。君のその目には何が見えているというのだ? まさか、君も、スフィアのように心が読めるとでもいうわけではあるまい」
「何も見えてはいないし、心だって読めるわけじゃあない。けどな、お前の苦しみは手に取るようにわかるぜ。本当は、後悔してるんだろう? 勇者ファルスを殺したことを――。だから、逃げ出した。心を読まれないためにッ! 自分の本音を誰にも知られたくなかったからッ!」
そう、アイゼン博士は、本当は心の優しい人。
勇者ファルスを殺したことをずっと悔やんでいたはずだ。
だからこそ、スフィアたちから離れ、幻想の町レジェンダでひっそりと研究を続けていたのだ。
三年前に、罪を犯す前に戻るために――。
「黙れッ! 貴様に、何がわかるというのだッ! 私は、時間を……戻す。例え、どんなことをしてもな! そのために、この場所へ来たッ!」
……アイゼン博士。
「クク、もう終わりだ……」
何かの魔法陣を書き上げ、両手をパンパンと二回ほど叩き手を合わせる。
すると、アイゼンが手に持っていた魔道書から、勢いよく何かが飛び出してきたのだった。




