41 無言のソニア
「何やってるんだ?」
「……」
俺たちとは少し離れ、一人で体育座りしているソニアに話しかけてみた。
俺のほうをチラッと見たが、すぐにまた天井のほうを見上げ指をくるくると回し始める。
「あ、あのあの、ソニアと会話するのは難しいと思いますよ?」
「え、どうして?」
「あ、あのあの、昔、好きな女の子が自分の陰口を言ってるのを『地獄耳』で聞いてしまったみたいなんです。それ以来、人と会話するのを極度に恐れるようになってしまったらしくて……。あ、ごめんなさい。私ったらついまた余計なことを話してしまって、ごめんなさいごめんなさい」
ソニアの代わりに話し始めたスフィアが途中でペコペコと頭を下げて何度も謝っている。
ま、まあ誰にでも人に聞かれたくない話はあるよな。
「あ、あのあの、すみません。聞かれたくないことを全部聞いてしまって。ごめんなさいごめんなさい」
「そんなに謝らなくてもいいよ。別にスフィアが悪いわけじゃないんだし」
自分の意思とは関係なく相手の気持ちが分かってしまうというのは案外不便なものかもしれない。
聞かれたくないことを聞かれてしまうというのは、聞きたくないことを聞いてしまうということなのだから。
それは、地獄耳のソニアにしても同じだろう。
「……」
「あ、あのあの、ソニアは放っておいてくれって言ってますよ?」
「そ、そっか。うん、一人になりたいときだってあるよな。ごめんな、急に話しかけたりして」
そう言って、ソニアからまた少し距離を取る。
ソニアは相変わらず天井を見上げ指をくるくると回している。
電波でも受信してるのだろうか。
指を回すことによって、遠くの声を聞いてるとか?
「あ、あのあの、別に指を回すのと地獄耳は関係ないですよ?」
「あ、そうなの」
俺が疑問に思ったことはなんでもスフィアが答えてくれる。
良い人なんだろうけど……。
おっと、これもまた読まれちゃうな。
「あ、あのあの、私のことなら気にしなくて良いですよ? 慣れてますから」
「あ、ああ、ごめんな、気を使わせちゃって」
しかし、聞けば聞くほど、悪の秘密組織の謎は深まるばかり。
なぜ、善良な彼女らがカラリア王国の滅亡を企んだりしたのだろうか。
「あ、あのあの、復讐なんです。私たち、カラリア王国に見捨てられたって言いましたよね? だから、見返してやりたかったんです。私たちを、裏切った勇者を……」
「勇者……? クレアが何かしたのか?」
「あ、あのあの、今のは忘れてください。私ったらついまた余計なことを、ごめんなさいごめんなさい」
「お、おい」
それからは、何を聞いても思っても、スフィアは答えてくれなかった。
一体、オリバーとカラリア王国との間に何があったというのだろうか。
「……!」
突然、回していた指を止め立ち上がるソニア。
そして、そのまま部屋の中をぐるぐると歩き回り始めた。
なんだ、今度は何の儀式だ!?
「あ、あのあの、大変です。大量の兵士たちがここへやってくるみたいですっ!」
「へ? なんでそんなことが分かるの?」
「ソニアが教えてくれました。『地獄耳』のスキルでそう聞いたって」
遠くの声を聞けるというやつか。
「あ、あのあの、ナイトさんだけでも逃げてください。これは私たちとカラリア王国の問題ですから」
「よーし、今度こそ決着をつけようじゃないのよさ! これ以上逃げるわけにはいかない、そうだろう? あたいたちの、オリバーの恐ろしさを思い知らせてやろうじゃないのよさ!」
「フフッ、そうだとも、ぼぼぼ僕たちの、おお恐ろしさをだな……」
ゴーグル型ゲーム機に夢中になっていた二人が立ち上がる。
戦う気満々のジェミンに対して、ニースはガタガタと震えている。
「お、おい、ちょっと待てよ。なんで戦う必要があるんだよ。お前らがカラリア王国と争う原因は一体何なんだよ!」
と、そこで雷鳴が響き渡る。
「パンパカパーン、お待たせしましたー。勇者様の登場ですよー」
「クレア、お前何やってんだ」
「ふふふー、ナイトを助けに来たに決まってんじゃん! よくも私の壁を連れ去ってくれたわね! 覚悟しなさい……うっぷ、何すんのよ!」
「落ち着け、お前が来ると話がややこしくなるんだよ」
移動魔法で颯爽と現れたクレアを羽交い絞めにして取り押さえる。
「ちょっと、放しなさいよね! こいつらは、私たちの敵なのよ、敵! 敵を討つのが勇者である私の仕事でしょう!」
「だから、ちょっと落ち着けって。こいつらは、悪の秘密組織を名乗ってるが根は良いやつらなんだってば」
「なんですってえええ、ジェミンね? ジェミンに操られてるのね? 大丈夫、すぐ私が救い出してあげるからっ!」
クレアが俺の手から離れ、両手を前にかざしジェミンたちに狙いを定める。
「全てを灰に! フレイムバーストッ!」
「や、やめろおおおおっ!」
クレアが形振り構わず魔法を唱えようとする。
そして、ジェミンたちを庇おうとした俺はクレアの魔法の直撃を受けるのだった。




