39 悪の秘密組織オリバー
「ジェミンが捕まったようです」
「フフ、奴は幹部の中でも最弱……」
「……」
「おい、ちゃんとカラリア王国に捕まるとはオリバーの面汚しめって言えよ」
謎の扉の向こうでは、三人の男女が何やら会議をしていた。
全身黒づくめで長身でリーダー格のインテリメガネ男。
ラクダのぬいぐるみを抱えておどおどしている背の小さな女の子。
無言で指をくるくる回してる前髪で目が見えない不思議系男子、の合わせて三人だ。
こちらにはまだ気付いていないようだ。
「私が代わりに捕まれば良かったですね。役立たずでごめんなさい、生きててごめんなさい」
「フフ、スフィアは何も悪くない。捕まる奴が無能なのだよ。全く、悪の秘密組織の名折れだよ」
「……」
会話している三人のほうへとズンズンと歩み寄るジェミン。
ジェミンに気付いた他の三人は目を丸くして驚いている。
おそらく、捕まったのに自力で逃げ出してきたのが信じられなかったのだろう。
「あ、あのあの、どちら様でしょうか?」
「フフ、知らんな。恐らくセールスマンか何かだろう。ほら、優しい笑顔でコロッと騙す作戦なのだよ、スフィアも気を付けたまえ」
「あわわわ、そうなのですか。気付かずにうっかり騙されるところでした。本当にごめんなさい」
「ジェミンだよっ! ったくどいつもこいつもあたいの素顔を何だと思ってんのよさ」
三人が驚いてたのはジェミンの顔だったらしい。
普段からあの派手な格好しかしてないのかよ。
「無事で良かったです。皆で助けに行く相談をしてたんですよ」
「へぇ? そうは見えなかったけどねえ?」
「ほ、本当です。ニースも心の中ではジェミンのことを凄く心配してたんですよー」
「こ、この僕がジェミンの心配などするわけがないじゃないか!」
なんだこの和やかな空気は。
場所もオープンなところだし、悪の秘密組織って感じがしないぞ。
それに、ジェミンを入れても四人しかいないじゃないか。
「ところで、その冴えない男は誰なんだよ! また男を操って奴隷にしたのか?」
「うぇいうぇーい、あたいとしたことがすっかり忘れてたじゃないのよさ」
ジェミンに手招きされるが、俺は動かない。
何故なら、悪の組織に加入する気などないからだ。
「ほら、さっさと来いってば」
「えっ? あれっ? 身体が勝手に……ッ!」
俺は意地でも動かないつもりだったのに、何故か足がジェミンのほうへと動き出す。
何がどうなっているんだ?
「イヒヒ。あたいのスキルが心の綺麗な奴を操るだけだとでも思ってたのかい? これでもオリバーで一番の実力者なのよさ。甘く見てもらっちゃ困るってもんよ!」
さっき幹部の中でも最弱って言われてなかったか?
「おいおい、ナンバーワンは『タイムリセッター』の僕に決まってるじゃないか。このスキルがあれば、どんな相手だろうと、いずれ倒せるんだからねっ!」
「ニースがいくら時間を戻したところであたいには勝てないじゃないのよさ」
時間を、戻す?
なんかとんでもないチートスキルの気がするんだが。
俺の前でそんな易々と手の内を明かしちゃって良いのだろうか。
「何を突っ立ってるんだい、せっかく連れてきたんだから早く自己紹介しなって」
「え、えっと、ナイトです。どうぞよろしく」
俺はそう言って頭を下げる。
ここは仲間に入った振りをして、逃げるチャンスをうかがうのが得策だ。
ジェミンもまだ宴会芸以外の隠し玉を持っているみたいだしな。
それに、ここにいるのは悪の秘密組織の幹部たちだ。
俺みたいな小市民が立ち向かえる相手じゃない。
「……勇者の壁か」
ずっと、黙っていた暗い男がぼそっと言った。
「えっ!? 俺、名前を名乗っただけなのに、なぜそのことを……?」
「……」
しかし、そのまま何も言い返さないで、ニヤッと薄気味悪い笑いを浮かべるだけだった。
「あ、あのあの、ソニアはどんな遠くの声でも盗み聞きできる『地獄耳』のスキルを所持してますので、その、あの、ごめんなさい!」
「なんでお前が謝るんだよ」
おどおどしながらもあっさりと仲間のスキルをバラし始める少女。
確かスフィアとか呼ばれていたな。
こいつにはどんなスキルがあるんだろう?
「あ、あのあの、私は、心を読む程度の能力しかないです。ごめんなさい。役立たずでごめんなさい」
「えっ!?」
心を読む程度っておい。
まさか俺が逃げ出そうとしてることもバレてるのか?
「は、はい、バレバレです。ごめんなさい。心を読んでごめんなさい」
ぎゃああああっ!
「あ、あのあの、でも大丈夫です。ナイトさんが逃げ出そうとしてることは誰にも言いませんから」
「なんだいナイト、逃げる気だったのかい?」
普通に言ってるしいいいい!
「ああっ、ごめんなさい。本当ごめんなさい。私、隠し事とか苦手なんでごめんなさいっ!」
心を読んでおいて、勝手にバラしはじめるとか危険すぎるよ……。




