37 ライアンと魔法のゲーム機
「カラリア王国もすっかり元通りだな」
「建物ならいくら破壊されても魔法ですぐに直せるからね」
ライアンが得意げに答える。
別にライアンが何かをしたわけではないのに。
「エビル村だって、とっくに直ってるんだろう?」
「なんだいその言い方。まるで僕がここにいたら迷惑みたいじゃないか」
俺とライアンは、カラリア王国に住んでいる。
俺が住む場所に困っていたら、クレアが用意してくれたのだ。
それは十二分にありがたいのだが、なぜかその家にライアンが転がり込んできたというわけだ。
「ところで、さっきから変な仮面つけて何をやってるんだ?」
「イヤだなー、これは仮面じゃないよ。最新のゲーム機さ!」
趣味の悪いゴーグルのようなものを外しながらライアンが言う。
「ゲーム機? それが?」
「ああ、そうさ。バーチャン・リアリティとかなんとかっていうやつらしいよ」
「それを言うなら、バーチャル・リアリティだろ?」
「おお、それだそれだ」
なんでも、幻想の町レジェンダにいる発明家が作ったものらしい。
あの町は、かなり文明が進んでいて魔法と科学を融合した独自の生活スタイルを築きあげている。
「ナイトもやってみる? すごい面白いよ」
「お、おう」
ライアンにやり方を教わりながら、俺も最新のゲームとやらをやってみることにした。
日本にいた頃は、ゲーマーのナイトさんと呼ばれるくらいのゲーム好きだった俺は、ゲームと聞いて黙っているわけにもいかない。
意気揚々とヘンテコなゴーグルをつけて、ゲームのスイッチを入れる。
やってみると、予想以上にハイテクなゲームだった。
ロールプレイングゲームらしいんだが、本当にその世界を冒険している気分になる。
地面を踏みしめる感覚まで実にリアルに再現されていて、ゲームの世界だという感じが全くしない。
強力なスキルを使って敵を倒していく爽快感は癖になりそうだ。
だが、残念なことがあった。
「いててて、なんだよこれ。痛みまでリアルになってるじゃねえか」
「そうだよ、五感全てを完全再現しているらしいからね」
「なにそれ怖い。ゲーム内で死んだら、こっちでも死ぬとかないよな?」
「どうだろう? 試してみてよ」
「アホか。こんな危険なゲームやってられるかっ!」
痛みまで再現する必要ないから!
そんな機能付けて誰が喜ぶんだよ。
モンスターの攻撃があまりにもリアルすぎて途中で挫折してしまう。
「んー、じゃあ他のもやってみる? レーシングとかシューティングもあるよ」
「イヤだ。それも事故ったり攻撃されたら痛いんだろ? そんなの絶対イヤだ!」
なんでゲームで痛い思いをしないといけないんだよ。
このゲーム機の作者はアホなのか。
「なら、これはどう?」
「恋愛ゲームか、まあこれなら大丈夫か」
女の子と仲良くなって好感度を上げていくと、デートしたり色々できるゲームらしい。
リアルなだけに物凄い画期的じゃないか。
これだよ、こういうのがやりたかったんだよ!
「うわあっ! 死ぬうううう、殺されるううう」
「騒がしいなあ、一体どうしたのさ」
「恋愛ゲームをやっていたはずなのに、気付いたら包丁を持った女の子に追いかけまわされていたんだ」
「ああ、あまりに複数の子に手を出そうとすると、ヒロインの子がヤンデレ化するらしいよ?」
こんなヤンデレ要素いらねえよ。
普通のゲームにしろよ、普通の。
「こんなクソゲーやってられるかあああ!」
「僕の大事なゲーム機がああああっ!」
俺はヘンテコなゴーグルを床に叩きつける。
ライアンが慌てて、ゲーム機を拾い上げていた。
「すまん、ついカッとなってやった。後悔はしていない」
「謝るならもっと反省してよ」
このゲームを作ったのはきっとろくでもないやつに違いない。
「ナイトー、良いものを持ってきたよー!」
「物凄い嫌な予感しかしないぞ」
クレアが、ニコニコしながらやってきた。
手には、何やらヘンテコなゴーグルを持っている。
「なんだよお前も最新のゲーム機買ったのか」
「あれー、ナイトにもやってもらおうと思って持ってきたのに」
「もうすでに体験済みだ、こんなのを作ったやつの顔が見たいと思ってたところだ」
「ふふ、そんなに気に入った? そりゃそうよね。なんたってこの私が博士に頼んで作ってもらったんだからっ!」
な、なんですとー!?
「え、じゃあ痛みがやけにリアルなのは……」
「私がそうしてもらうように頼んだのよ。やっぱり細部にまでこだわらないとね! リアルさを極限まで追求したのよ! 凄いでしょう?」
自信満々な顔をして、誇らしげにゲーム機の凄さを語り始めるクレア。
俺はクレアが持っていたゴーグルを奪うと無言で窓から放り投げてやった。
「あ、ちょっと何てことすんのよ!」
涙目になりながら、クレアが言う。
「……ナイトが、ゲームがやりたいって言ってたから……だから私、内緒で博士に作ってもらったのに、それなのにっ! ナイトのバカァ! もう知らないッ!」
「お、おい、クレア!」
クレアがそう言い残して、家から出て行ってしまったのだった。




