34 魔王の側近レミエル
「ニャアアアア! 魔王様ァ! 魔王様ァアアア!」
「うぐぁっ!」
感動の場面を台無しにするかのごとく、研究所を破壊しながら現れるレミエル。
「てめぇ、またか! もっと控えめに登場しろや! ここは大事な大事な魔道研究所なんだぞッ!」
「ニャニャ! ごめんなさいニャ! だって、魔王様が、魔王様がうちを置いていくから捨てられたのかと思ったのニャア!」
シャルノに頭を摺り寄せながら泣きじゃくるレミエル。
「ほらな、誰もお前のことを嫌ってなんかいないよ。シャルノはシャルノなんだからな」
「ふふ、そう、ですね。そうなのですね」
「ニャニャ? 魔王様どうして泣いてるニャ? ナイトに酷いこと言われたニャ?」
「違うのです。私が、ちょっと弱気になっていただけなのです。でももう大丈夫、ナイトに元気を分けてもらいましたから」
シャルノに頭を撫でられてゴロゴロと喉を鳴らすレミエル。
シャルノも元気になったみたいで一安心だ。
「久しぶりにサカナが食べたいニャ!」
俺の腕をちょいちょいと引っ張りながらレミエルが言う。
チビドラゴンの風に乗り空飛ぶ魚のいる場所へと向かうことにした。
シャルノはまだ研究所に用があるというので、俺とレミエルの二人きりだ。
「ナイトっち、まだ着地方法をマスターしてなかったのニャ? ピューっとしてポンって感じなのニャア」
「いてててて、前と言ってること違くないか?」
当然、飛び慣れていない俺は頭から地面に叩きつけられるわけで。
いや、慣れたところでレミエルのように綺麗に着地できるとは思えないけど。
「にゃんにゃんにゃーん、サカナ、サカナ、サカニャア!」
「レミエルは本当に魚が大好きなんだな」
「にゃい! 大好きニャ! でも、魔王様のほうがもっと好きニャ!」
レミエルが目を輝かせながら、空飛ぶ魚を次々と鷲掴みしていく。
「ポイズンフィッシュを食べて食中毒で死にかけていたうちを助けてくれたのが魔王様なのニャ!」
「へぇ、そうなのか。でもなんでポイズンフィッシュなんて食べようと思ったんだよ。毒なんだぞ? 魔王が助けてくれなきゃ死んでたかもしれないじゃないか」
俺がそう言うといつも元気なレミエルが押し黙ってしまう。
何かおかしなことでも言ったのだろうか。
「……うち、人間に虐められてたのニャ。祭りに参加することもできずに餓死寸前だったのニャ。そんな時に、空を飛んでいたお魚さんたちがごちそうのように見えてニャア……」
「わ、分かったよもう分かったから! そんな遠い目をしながら悲しいトーンで語らないでくれ。こっちまで泣けてくるわっ!」
いつも元気いっぱいのレミエルが虐められていたなんて信じられないけどなあ。
「ニャフフ、懐かしいニャア! そのあとも、魔王様はうちのことを心配してくれて、祭りにも連れて行ってくれるようになったニャ! 魔王様と一緒だと、人間もうちに手を出さなくなったニャ。魔王様は強くて格好良くて最高に頼れる御主人様なのニャア!」
いつの間にか、元気いっぱいのレミエルに戻っていた。
「だから決めたのニャ! 魔王様はうちが死んでも守るのニャア!」
そうか、それであの時、研究所で俺たちを足止めしていたのか。
レミエルはレミエルなりに健気に魔王に恩返しをしようとしていたのかもしれないな。
まさしく、猫の恩返しってやつだな、うん。
「レミエルはシャルノと付き合い長いのか?」
「そうだニャ。ざっと五百年くらいになるニャ!」
「ご、五百年ッ!? お前ら一体何歳なんだよ!」
「女の子に年齢を聞くなんて、ナイトっちはダメダメさんニャア!」
上手くはぐらかされた。
年下かと思っていたのに。
「空間圧縮魔法? なんだいそれ?」
「うちのスキルニャ! 空間を自在に操り、どこにでも瞬時に移動することができるのニャ!」
「なにそれ凄い。でも勇者のテレポートと何か違うのか?」
「移動できるのはうちだけニャ。それに移動先の建物が破壊されてしまうから使い勝手が悪いニャア!」
「なにそれ不便」
派手な登場はわざとじゃなくてスキルの特性上の問題らしい。
「でも、魔法結界が張られていても問答無用で移動できるニャ! 勇者の移動魔法とは格が違うのニャ! こっちのほうが優秀なのニャア!」
やたらと勇者に張り合おうとするレミエル。
さっき自分で使い勝手が悪いと言ったくせに。
「レミエルもレジェンダで暮らすつもりなのか?」
「当たり前ニャ! うちは魔王様と一心同体。これからもずっと、いつまでも魔王様の傍に居るニャ!」
「そうか。寂しくなるにゃ。おっと、俺まで語尾がにゃになってしまったぜ」
「にゃははっ! ナイトっちもレジェンダに住めばいいニャ! そうすればいつでも一緒にお魚獲りにいけるニャ! そうするニャ!」
そうか、考えたこともなかったな。
ユウナもレジェンダに住んでるし、毎日、食料が降る町のほうが何かと便利だろう。
でも――。
「悪いけど、レジェンダに住むことはできないよ」
「ニャア、どうしてニャ? ナイトっちがいれば魔王様も喜ぶのにニャア」
「んー、カラリア王国に放っておけない人がいるんだ。我がままだし傲慢だし強がりだけど、本当はすっごく正義感が強い優しい子がさ」
「ニャア、残念ニャ。ナイトっちと一緒に暮らしたかったのにニャ……」
背中を丸めて寂しそうなレミエル。
「ハハハ、この世界は便利な魔法や道具がたくさんあるからね。会おうと思えばいつでも会えるさ」
「そうだニャ! うちも毎日ナイトのところへ遊びに行くニャ!」
気持ちはありがたいが、毎日家を壊されたらたまったもんじゃないのでやんわりお断りしておいた。




