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俺の知ってる異世界と違う  作者: オッド
第五章 それぞれの想い Part2
34/73

33 大食い魔王シャルノ

「なんだか元気がないですね、どうかしたのですか?」


 そう言って、俺の顔を覗き込んでくるのは魔王シャルノ。

 そして、その真の正体は、魔法使いが開発した魔道兵器スライム。

 それを知ってしまうと、どうにも複雑な心境にもなるわけで。 


「いや、大したことじゃないよ。それよりも、本当にこれで良かったのか?」

「良いんですよ。私がスライムであるということもいずれ広まるでしょう。そうなればカラリア王国には居辛くなりますからね」


 そういって、少し寂しそうに笑うシャルノ。

 大食い魔王との異名を持つ彼女。

 あの事件以降、シャルノは幻想の町レジェンダに住むことになったのだ。

 毎日、料理が降るこの町ならば、食事に困ることはない。

 しかし、祭りを何よりも楽しみにしていたシャルノにとっては少し物足りない生活になるはずだ。

 それでも、シャルノは文句を言うこともなくレジェンダに住むことを快諾したのだった。




 俺たちは今、シャルノと一緒にビッツェの家の地下にある魔道研究所にやってきている。

 魔道兵器のことをもっと良く調べるため、そしてシャルノを救うために――。

 当然、家主であるビッツェも同行している。

 

「こんなところがあったなんて全然知らなかったなー」


 などと言って、不思議そうに研究施設を調べているビッツェ。

 どうやら、魔道兵器のクリスタルドラゴンやスライムはビッツェが開発したものではないらしい。

 今から数百年、数千年も前にビッツェの先祖が作ったものなのだ。


「つまり、シャルノを完全に元の人間に戻すことはできないのか?」

「どうだろうね。現段階では難しいんじゃないかな。もうちょっと調べてみないと何とも言えないよ。長年使われていなかったせいか機械が壊れちゃってるみたいなんだ」


 その機械は、勇者クレアが殴り壊しました。

 とは言えずに、なんとも申し訳ない気持ちになる俺。


「えへへ、大丈夫ですよ。スライムになってもこの『神秘のレモン』があればすぐに元に戻れますから」


 レモンを片手に、無理やり作り笑いを浮かべるシャルノ。

 テレビ雑誌の表紙でも狙っているのかと思ってしまったよ。




「シャルノはここで助手をしていたんだって?」

「そうです。おそらく今から数百年も前のことでしょう」


 シャルノ、お前は一体今何歳なんだ。

 見た目は子ども頭脳は大人、その名も大食い魔王シャルノってか。


「私、幼いころの記憶はほとんどなかったんです。でも、この前ここに来た時に思い出したんです。自分が魔道兵器であることを――」

「それで、突然いなくなったのか」

「そうです。私はビッツェさんの後を追い、一足先にカラリア王国へと戻ったのです。途中でスライムに変身してしまい、身動きが取れなくなってしまいましたけどね」

「ああ、城の中でぎゅうぎゅうに詰まってたもんな。あれって自分で変身したわけじゃなかったんだ」

「そりゃそうですよ。記憶は戻っても、一度スライムの姿へと変わってしまったら制御できなくなりますからね」


 その割には、あの時のスライムはやけに大人しかった気がするけど。

 話の途中で、徐々に俯いて声が小さくなっていくシャルノ。

 どうかしたのだろうか。


「本当は、私不安なんですよ。自覚していなかったとはいえ多くの人の命を奪った魔道兵器である私が生きていていいのかって」

「だ、大丈夫だよ。クレアだってライアンだって、みんな理解してくれたじゃないか」

「そう、ですね……。でも、心の中では私のことをどう思ってるかなんてわからないじゃないですか。カラリア王国の人々は皆、私のことを恨んでるでしょうし」

「そ、そんなことは……」


 珍しく、弱音を吐く魔王シャルノ。

 いつもいつも強がっていたシャルノの目にはうっすらと涙が見え隠れしている。


「私ね、レジェンダに住むことに決めたのは、ただ逃げたかったからなんですよ。食べ物のため、なんていうのは言い訳です。怖いんです、人から嫌われたり、避けられたりするのが。あのレミエルだって、私から離れてしまうんじゃないかって、そう思うと怖くて怖くてたまらないんです」

「大丈夫だって、言ってるだろう? 少なくとも、俺は、シャルノを嫌ったりなんかしない。魔道兵器だとかスライムだとかなんて関係ないね、シャルノはシャルノ、俺のかけがえのない仲間だ。そうだろ?」


 今にも泣きそうになるシャルノの頭をぽんぽんと叩きながらそう言った。


 俺には、クレアやドバイさんのように人を守るような力はない。

 けど、こうやって、不安を軽減させるくらいならできる。

 

 だから、俺は自分にできることをしたい――。

 シャルノが、また、楽しそうに食事をするところが見たいから――。




「えへへ、仲間ですか。それも良いですね。本当は恋人のほうが良かったんですけど……あ、なんでもないです」


 そう言って、シャルノは少し照れたように笑ったのだった。

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